70-197『HIDE & SEEK』3

機関では古泉と橘がコーヒーをすすっていた。
「成る程。キョンさんの記憶を、佐々木さんが消す。猶予は明日一日ですか。」
森は盛大な溜め息をついた。
「私達としては願ったり叶ったりなのですが……あなたはそうはいかないんでしょう?」
「無論なのです。」
森と古泉が溜め息をつく。
「しかし、打つ手が現実にありませんからね……出来るのは対症療法位なもので。」
「それを考えるのが機関なのです!」
橘が、ビシッと指を差す。
「……あなたね、自分の立場を弁えなさい。」
「ぴいッ!」
森の殺人的な視線を浴び、橘は小さくなった。
「未来も、朝比奈さんは味方ですが……指令をする人間は、決してそうでない。こちらも骨ですよ。」
「……指令を叩こうにも、方法無しですか……」
佐々木に接触したであろう人物は、特定出来た。しかし。肝心な人物を叩く事は不可能。
重い溜め息をつく橘。

「でも、諦めるにはまだ早いのです!」

橘は立ち上がると、足早に駆け出した。
「どちらへ?」
古泉の声に、橘が叫んだ。
「佐々木さんの家なのです!」
……嵐のように去る橘。以前なら、それは冷笑で終わっていただろう。しかし。今は違う。
この子は、本気で佐々木が大事なのだ。自分達SOS団が、ハルヒを大切に思うように。

橘が去ったあと。森の私室に静寂が訪れる。
「…………」
「…………」
なんとなく気まずい沈黙。ここのところ、こんな話ばかりなので当てられてしまったのか。
「……コーヒー、おかわりはいかが?」
「あ、お、お願いします。」
森が立ち上がる。特に意識していなかったが、森の私室に入るなど久々だ。
こざっぱりとして、機能的な部屋。シンプルながらも所々にある人形や花などが、女性の部屋であると認識させられる。
「…………」
コーヒーを差し向かい、二人が座る。

もし仮に。ここで自分が相手に手を伸ばしたら。
果たして今までの関係に戻れるのだろうか。

相手の暖かさに触れたら。
自分は戻れるのだろうか。

「(思春期の娘みたい)。」
「(……いけませんね、こんな。)」

赤く染まったお互いに、お互いが吹き出す。……ゆっくりとお互いの顔が近付き……

ゆっくりと重なった。

「……森さん。」
「…………ん?」
古泉は、赤くなり俯く森に言った。
「今回の件が終わったら、映画にでも行きませんか?」
森は、少し笑うと……

「返事が聞きたいなら、ちゃんと帰って来なさい。」
と言い、部屋を出た。


佐々木の部屋。
影は佐々木の家に侵入していた。
「(防護シールドと、不可視フィールドと、消音フィールドは展開しているだろうな?)」
「(問題ない。)」
立派な犯罪。変質者の謗りは免れない事態だ。
「(勘弁してくれよな……)」
影は、セーラー服の影を睨む。もしみくるに見付かれば。いや、知られたら。

「(死ぬ。間違いなく死ぬ。殺される。)」

影がここにいる理由。それは。CTUのジャック・バウアーや、007のようなかっこいい理由からではない。
仮にこの部屋において、改変が行われた場合の警報の取り付けだ。
セーラー服の影のみが行っては、天蓋領域に発見された場合に交戦になるからだ。
交戦になったとしても負けないが、自分が戦うわけには絶対にいかない。重大なパラドックスが生じ、二人揃ってブタ箱だと言われては、影も従わざるを得ない。
「(何が悲しくて、こんな変態の真似事を……)」
そっとドアを開ける。佐々木はベッドに休んでいた。
「…………」

この子が、佐々木。
やはり覚えはない。

セーラー服の影は警報を取り付け、不可視フィールドを警報に展開させた。
「(長居は無用。)」
「(ああ。)」
もうこんな空間になど、一秒でもいたくない。
何が悲しくてこんな不幸を。ああ、不幸だと作品が違うような事を思いつつ、影はドアを開けようとした。
が。勢いよく開けられたドアに、影は強かに顔面を打ち付けた。

「佐々木さん!具合はどうなのですか?!」
「(テメェ橘!お詫びも無しか?!)」
「(落ち着いて。彼女達には私達が視認出来ない。速やかに帰投を。)」
ここでTPDDを作動は出来ない。それこそ天蓋領域に正面切って喧嘩を売る事になる。
足早に去ろうとした影達だが、橘がドアを閉めた。

「(こ、このクソバカ……)」
「(……ユニーク。)」

結果のみを見たら。未来人、しかも天蓋領域のインターフェースにとって有益な情報を沢山持った連中を捕獲した事になる。
だが。現実は。幸運な偶然。影達にしてみたら、たまたま不幸とエンカウントしただけだ。
「(さ、最悪じゃねぇか……!)」
「(落ち着いて。私達もまずは腹ごしらえを。橘京子が持っているお菓子に情報操作を……)」
「(お前こそが落ち着け!)」
佐々木が首を捻る。
「えらく騒がしい気がするよ。」
「そうですか?」
生涯最悪のかくれんぼ。影はそう思いつつ、適当な所に腰をかけた。
「(…………)」
不満そうに影を見つめる、セーラー服の影。
「(わかった。帰ったら好きなだけカレー食わせてやるから。)」
その言葉に、セーラー服の影は頷いた。

To Be Continued 『HIDE & SEEK』4

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2013年04月29日 13:41
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。