70-319『Cross Road』3

夜。寝付けずに佐々木は外を見た。
気持ちを吐露し、キョンを危険に遭わせる位なら諦めたほうがマシ。そして自分はその思いだけを抱えて生きるのだろうか。
またあの春の日のように。
「(気になって、様子を見に来たらこれかよ。こいつ、あいつと違うベクトルの馬鹿だな。)」
影は、佐々木を見て大仰に溜め息をついた。
「(女って生き物は、皆そうなんだよな。自分で勝手に結論出しちまう。男って生き物は、そいつに振り回される。
良くも悪くも、そんなもんなんだよなぁ。)」
そんなもんだけに、それに後悔しても後戻りしようとしない。何故なら結論を自分で出したから。
影は窓にいる佐々木に言った。

「本当に欲しいのものは自分の手で強引に掴み取れよ。お前の両手はそのためにあるんだぜ。」

それが聞こえたかどうか。そんなものは関係ない。
ただ待つだけの存在にチャンスがある程世の中は甘くないし、思いを理解して貰える程寛容でもない。

良くも悪くも、こいつは昔の自分に似すぎている。
世の中の全部を知ったような気になり、平々凡々と波風なく生きようとしていた、あの頃と。
目を開けば不思議なんて掃いて捨てる位転がってるし、そこを勝手にわかったつもりになっているだけだ。

「現に、今。お前は何一つとしてわからんガキだ。」

物分かりよく諦めるのが大人であるなら、弁護士なんて必要はない。そしてそうした抑圧された子どもなんて、いつか破裂する。
全て終わった後に、自分を見返して泣く羽目になるのだ。

影が去ろうとした時。
影に声をかけた存在がいた。それは、みくるであった。
「朝比奈さん。」
他人行儀の言い方。事が済むまで、区別をつける。そう言いたげな発言にみくるが顔をしかめる。
佐々木に言ったブラフ。それは。女としての嫉妬と言い換えてもいい。
ハルヒと結ばれた未来。そして『自分』がいる未来。佐々木が彼の中に欠片も存在しないはずの世界にも、影響があった。
彼が、欠片も存在しないはずの存在を救おうと奮闘している。彼女の願いでない行動で。
TPDDの私的濫用、情報統合思念体のインターフェースの協力に基づく事実改謬の実行犯。過去との接触により、一度は消されたとはいえ、違う未来を築く時空改変。

一歩間違えたら重犯罪だ。

320 名前:『Wanderin' Destiny』 [sage] 投稿日:2013/03/18(月) 17:15:36.32 ID:wPffOoWo [4/4]
その危険を共に背負うパートナーが、自分でない事実。それはみくるにとって、辛い現実だった。
思い止まらせる為に、前以て佐々木に釘を刺したまではよかったが、それでも彼は止まらない。
そんなにも彼女が大事か?自分と築く未来を棒に振ってでも?
「……―――くん。帰りましょう。逃げるのもまた勇気です。」
時間犯罪者となりお尋ね者になるより、ここで止めたほうが絶対にいい。彼が時間犯罪者として生きるのは、ハルヒにとっても本懐でないはずだ。
すがるように影を見るみくる。
「……俺が最期のジョン・スミスにならなければ、あなたが苦しむ。」
「…………」
この『自分達』が存在する未来を築く為には、キョンがハルヒと結ばれ、かつ佐々木の改変を成功させる必要がある。
未来とは不確定であり、不安定なものだ。この『自分達』がいる未来をαとするなら、ここからの分岐はβ。
αはβに『干渉出来ない』だけで、αが『消滅する』わけではない。
それだけにハルヒは、この分岐に自分達を送った。仮にみくるがαを佐々木に選択させた場合。
この次元のハルヒが、また願うだろう。『自分達』が存在し、過去を救う未来を。そして彼は、ジョン・スミスとして過去に向かうだろう。

「……それでも、私は…………涼宮さんが泣くのを見たくないです…………」

「知っています。」
影がみくるを抱き締める。
誰より優しく、愛情深いみくる。仲間を守る為ならば夜叉にでもなるだろう。深い母性と、深い『敵』への排除は表裏一体だ。
「みくる。」
「…………」
みくるが顔を上げる。
「俺が最期のジョン・スミスになるかは、俺が決める事ではない。」
全てはこの世界の皆が決める事だ。

「だからこそ。俺が最期のジョン・スミスになる。……あなたを幸せにする為に、『俺はここにいる。』」

「―――くん…………」
強く抱き合う二人。口唇を合わせようとした二人の前に無粋な乱入者があった。

「時間を越えて受精した赤子がどうなるか……興味深い。」
ゼロ距離にいたセーラー服の影と……
「痴話喧嘩は終わったか?姉さん、親友。」
呆れたように自分達を見ていた藤原であった。

「ひゃああああ!」
「どわああああ!」

佐々木の自宅、いや、御近所の家に一斉に電気がつく。
「迂闊。防音、不可視シールドを展開する。」
「ふえええ!――さん!みんな聞いていたんですか?!」
「――、お前怒ってないか?!目が凄いぞ!」
「怒っていない。」
「こいつらは、全く……!」
佐々木を見ると、佐々木は慌てふためいて窓を閉めている。
「(所詮痴話喧嘩だ。聞かれていても大した影響はなかろう。)」
藤原は佐々木を見ると、盛大に溜め息をついた。

To Be Continued 『Cross Road』4

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最終更新:2013年04月29日 13:49
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