佐々木さん、仮面ライダー涼木の巻
第1話 戦わなければフラクラされちゃう!
きっかけは谷口のアホだった。だからこのばかげた世界の責任はヤツにある。
「あんま日常がつまらんというのなら、こういうアニメとかどうよ。
涼宮の好きそうな超能力とかそこらの燃えるバトルが楽しめるぜ」
ある日そんなことを言って、学校に持ってきた「フェ●ト」(レンタルをコピったらしい。買え。セコイヤツめ)
のDVDをハルヒに見せたのだ。
あのなあハルヒ。お前自身がどう認識しているか知らんが、俺らはすでにハル厨だのニコ厨だの
京アニ厨だのと、さんざん他所さまに迷惑をかけているんだ。この上月厨とまで関係してみろ。
同盟するにしろ喧嘩するにしろ、偉い迷惑になるのは火を見るよりも明らかだ。
頼むからこっち方面には食指を伸ばさんでくれ。
……という理由を説明しても絶対納得してくれないので、
「これ元々18禁だから。アニメとかハルヒには向いてないから」
と必死に説得して何とか興味を別方向にそらせたのだ。
その際に谷口が「そういやこれとよく似た設定の特撮とかあったよな」などと呟いて、
ハルヒがその後たまたまレンタル屋でそのDVDを見つけ、こっそり見ていたなどというのは、俺の責任じゃない。
強いてあげれば谷口が悪い。そうだ、ヤツのせいなんだ。
というわけで、自分のベッドで寝たはずが、目覚めてみると人っ子ひとりいない、
夜の街をはいかいする自分を見つけてしまい、しかもよく見ると、看板だのなんだのの文字が、
全て鏡に映したように逆転していることに気がついてしまった心境としては、
「責任者出て来い。俺の代わりに谷口をこういう目にあわせてくれ」
その一言に尽きた。
体にまとわり着くような霧というか、夜の気配というか、そうしたいわく言いがたい
濃密な気配にとりまかれ、妙に現実味が薄い。
しかも、夜中とはいえ、まったく人の気配がない街というのは、そうとうに不気味だ。
しばらくあてどなくふらついてみたが、やがて、公園の近くで人のものらしい声が聞こえた。
慌ててそちらに近づいたところで、俺はとんでもない光景に出くわすはめになった。
「くっくっ。朝比奈さんだったね。前から君のその巨大な脂肪の塊とは一度決着をつけるべきだと思っていたのだよ」
黒いカードケースのようなものを手に悠然とたたずむ佐々木と、
「わ、私も負けられません。生き残るためにも、アナタに勝ちましゅ」
ちょっと噛んでる朝比奈さん。その手には金色のカードケースが。
しかし何よりとんでもないのは、二人の間にあるのが、真剣な殺気だったということだ。
「変身!」
「へ、へんちん!」
また噛んだ。噛んだとはいえその発言は卑猥です朝比奈さん。いやそれどころじゃない。
二人の腰にベルトがどこからともなく現れ、二人が同時にカードケースを、独特のモーションでそれに差し込む。
すると、二人の周りをプリズムの乱反射のような光が取り巻き、そして、二人は「変身」した。
佐々木は、黒と群青の中間のような、騎士をイメージさせる鎧というかバトルスーツ姿。
マントを纏い、片手槍を持つ姿がやけに決まっている。宝塚か佐々木。
一方の朝比奈さんは、金色の全体に丸みを帯びた鎧姿だ。武器は左手のハサミか。カニ?
これはアレだな。もしかしなくても日曜朝からやっていた特撮もののバトルでイケメンライダーと
騒がれたアレだな。
っていうかそのまんまじゃねーかハルヒ。東映から文句が来るから少しひねりなさい。
などと錯乱したツッコミを独りいれかけた俺の眼前で、二人は互いに武器を振りかざし、猛然と走り出した。
「はぁっ!」
「はわわぁ!」
掛け声にかなりの差はあるものの、手にした武器を渾身の勢いで振り下ろす二人。
ちょっと、危ないからやめてくれ。怪我でもしたらどうする。
勢いでは佐々木が勝るようだが、一撃の重さは朝比奈さんが上らしい。押される佐々木。
「くっ、流石にその脂肪の塊で、重さでは負けるようだ。重さでは!」
「お、重くないです! 変なこといわないでくださいー」
真剣なんだかそうじゃないんだかよくわからんセリフだが、そうこうするうちに朝比奈さんが
佐々木を羽交い絞めにする。
「こ、これで終わりです」
「まだだよ。ダークキョウコ!」
そう叫ぶと、佐々木は腰のデッキから取り出したカードを槍のカード受けに差し込んだ。
すると、どこからともなく、……えーとなんだあれ。
翼の変わりにツインテイルでばっさばっさ飛ぶ、人面コウモリか? チョンチョン?
「なのです~~~~~~~!」
その変なのが奇声を発すると、思わず手を離し頭を抑える朝比奈さん。こっちまで頭痛くなりそうだなあの声。
その隙に槍で朝比奈さんの腰のあたりを強打して離れる佐々木。
容赦ないぞ佐々木。朝比奈さんのベルトが一部欠けたぞ今。
「ファイナルベント!」
「こ、こちらだって。ぼ、ボル上司ー! ファイナルベント!」
佐々木と同じように、朝比奈さんもカードをハサミに差し込むと、彼女の眼前に
金色の服の朝比奈さん(大)が! 正体ばらしていいんですか朝比奈さん(大)。
ああ、目に黒線入れてるからばれてないと主張するつもりですかそうですか。
ともかく、その朝比奈さん(大)じゃなくてボル上司が朝比奈さんを持ち上げ、
思い切り放り投げる。その先は、ダークキョウコを身にまとい、槍のような形状になって突き進む佐々木だ。
両者がぶつかり合った瞬間、生じる爆発。V3の頃に比べると火薬の量は減ったよね、じゃなくて
なんで火薬もつんでないのに爆発すんだろうな。可燃性のものが入っている感じでもないし。
炎の中から落ちてくる二人。両方ともダメージはでかそうだ。
特に佐々木は膝を突いたまま立ち上がれない。
「可哀想ですが、これで一人減ります」
そう言って、朝比奈さんがハサミを振りかぶる。
いかん、そろそろ本気で止めないと。
だが駆け出しかけた俺の眼前で、朝比奈さんのベルトが砕け散った。
「え?」
「何?」
驚く朝比奈さん。佐々木ですら、そのしぐさには驚きが混じっている。
次の瞬間、朝比奈さんが纏っていた金色のカニが粒子状になり消えうせた。
そして驚き、倒れ付す朝比奈さんに、朝比奈さん(大)じゃなくてボル上司が襲い掛かった!
「け、契約が。待ってください、私は絶対に生き残ってキョンくんを……」
「はいこれ既定事項だから」
朝比奈さんのセリフをさえぎって朝比奈さん(大)がにこやかにアナウンスし、二人の姿が消えうせた。
戦いが終わったということだろうか。ってか朝比奈さんはどうなったんだ。まさか死んだわけじゃあるまいな。
「これが戦いなんだ」
二人の消えうせた風景を凝視しながら、佐々木が低く呟いた。
肉体の苦痛と、それ以外の苦痛にみちた声で、まるで自分に言い聞かせるように。
「カードデッキは全部で13。倒すべきヒロインは、あと11人。
あなたをいれてね!」
突如背後を指差した佐々木。その先には、真紅の龍をモチーフにした鎧をまとった、ハルヒがいた。
仮面ライダー涼木 第1話 おしまい(注:続きません)
最終更新:2007年12月09日 22:35