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式典

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「式典」

その日はとても大切な日だった。ラクロアの、誰もが忘れられない日。
「よい朝だ…今日もいい一日になるだろう
ラクロア王国の城のバルコニーで体をほぐすように背筋を伸ばしているその人物、
国王シーゲル=クライン=レビルは誰に言うでもなく呟いた。
もちろんその背後には護衛の兵士や宰相ナタルたちが有事に備えて待機している。
「陛下、今日は式典とはいえ、十分ご注意ください」
宰相ナタルが椅子に座った王に段取りを伝えながら注意を促す。
「全く心配性だなナタルは。私は大丈夫だよ。君達がいるからね」
「ですが…!」
「ナタルや、二人の近衛騎士にラクロア騎士団がおるこの国を襲おうなんて輩は滅多におりゃせんよ」
ややのんきすぎる口調のシーゲルに意見しようとするナタルを老導師メビウスゼロがなだめる。
「ですが…万が一ということもありますので」
やや納得いかなさそうに引き下がるナタルに笑みを向けながらシーゲルは呟く。
「それに、今日はもう一人騎士が誕生するのだから」


シーゲルの脳裏に、懐かしい記憶が蘇る。王位継承の問題から遠ざけるために
自分の手で育てる事こそしなかったが、息子のような存在である『彼』が
ついに一人前になる日が来たのだ。とうとう両親は見つからなかったものの
『彼』とその兄も、もう一人の男として生きていける。そう考えただけで
シーゲルの口元からは優しい笑みがこぼれた。同時に、早朝から仕込みをしていた
ラクロア名物・バクゥ焼きの屋台の匂いが城の中まで漂ってくる。
「それにしても…いい匂いだな。どうだナタル、式はラクスに任せて私はお忍びで…」
「陛下!」
「ハハ、冗談だよ」
「おはようございます、陛下」
朗らかに笑うシーゲルの前に、騎士団長のフラガと副団長のマリューが現れ恭しく礼をする。
「ああ、おはよう」
「陛下、あの…ストライクの奴が、実はまだ…」
「なんだと!ならば私が叩き起こしてくる!」
「まぁまぁ、式典は昼前からだろう?多めに見てやろうじゃないか」
真面目過ぎるゆえに憤るナタルだったがシーゲルの発言でしぶしぶ黙る。
「おやおや…皆さんお集まりのようで」
次に現れたのは大臣のアズラエル。良い解釈をすれば笑みを絶やさず、
悪い解釈をすれば口元を歪めている印象を受ける表情を一同に向ける。
「今日は私、することがありませんので…のんびりさせてもらいましょうかねぇ?」
アズラエルが嫌味な発言でやや場をしらけさせフラガ達が式場の警備のために王の間を離れた頃、二人の人物が現れる。
王女ラクスと、護衛の騎士キラだった。ラクスは式典の日らしく、いつもより動きづらそうなドレスを身に纏っている。
「おはようございます、お父様」
「うむ、おはようラクス。今日は一段と気合が入っているな」
「えぇ…大事な日ですから」
胸に手を当て、穏やかな表情でラクスが言う。髪を覆う煌びやかなヴェールが揺れた。
「そうだな…」
「お父様?」
シーゲルが目を細める。玉座にもたれ、天を仰いだ。ラクスは黙ってその様子を見つめる。
シーゲルの脳裏に描かれるのは、幼い頃の我が娘。彼女を守るべく育てられた少年、初めは誰にも心を開かなかった兄弟がその二人とふれあい心を開いていく光景。
あぁ、いつだったか娘を連れて私に贈るための花を取りに行ってくれたこともあったな…後で老導師に怒られていたが。
剣の手合わせをしたこともあった。兄弟ともいい素質を持っていて
今は自分と、大事な民を守るためにその力を振るってくれている。
シーゲルが見ているのは過去、現在、そして未来。
未来には光が溢れていた。この国を担う、次の世代がいる。
自分はなんという幸せ者だろうか。シーゲルはいつの間にか閉じていた瞼を開く。
そこに近衛騎士デュエルとイージスが現れた。物音一つ立てずに入ってくる様に少々違和感を感じたものの
シーゲルは柔らかな眼差しで、その内の一人に優しい口調で語りかけた。
「やぁ、おはようデュエル…さっき昔のことを思い出していたんだ。
君達が、子供の頃のことをね…こんなに立派になってくれて、私は」
全てを言い終わる前に、シーゲルの瞳に映ったのは二人の騎士が振り下ろした鈍く輝く刃。
その日はとても大切な日だった。ラクロアの、誰もが忘れられない日―――。

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