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迷い

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匿名ユーザー

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「迷い」


二つ目の種子を手に入れ、最後の種子を求めるストライク一行はとある村に辿り着く。
情報と休息の場を確保するため宿を探す一行ではあったが、
「どうせなら村長の屋敷に行くといいよ。村の商業の一切を取り仕切る商人でもあるから、なんか知ってるだろうさ」
宿屋の主人の言葉に従い、村の奥にある森を背にした大きな屋敷へと向かう。
ゆるい傾斜の坂を上り、ふと振り返ると日が暮れるまで労働していた農民が腰を上げて伸びをしているのが見える。
村は、特有の果物や野菜の生産で知られる土地だった。
恐らくは毎日、こんな時間まで働いているのだろう。ストライクは他人事ながら気が重くなるのを感じた。
「旅の騎士様ですか…それはさぞお疲れのことでしょうな。ささ、どうぞこちらへ」
すでに日は落ちかけていたが、村長はラクロア王国の騎士である事を伝えると快く招き入れてくれた。
「狭い屋敷ですが、少しでも癒していただければ幸いですな」
野太い声とそれ以上に恰幅の良い身体をした長がやや寂しい頭とは対象的に、立派に整えられ天に向かって弧を描く髭を撫でて言う。
ストライク達が招かれた応接間の内装は、いかにも無駄な金がかけられたといった風情だった。
煌びやかなシャンデリアに何かの動物の毛皮でできた絨毯、棚に置かれた数々の調度品はどこか心を落ち着かなくさせる。
騎士団長フラガは、長に事情は伏せつつ自分達が種子なる秘宝を探して旅をしている事を説明し情報を求めた。
ストライクは浮き足立つ気分で沈むように柔らかいソファに腰を埋めながら、その様子を横目で眺めていた。
長はうんうん頷くばかりで特にそれらしい話をする事もないかと思えば、おもむろに神妙な顔になる。
「実は私…近頃、不埒な輩に命を狙われてましてな」
唐突に切り出された会話の内容に、出された茶を啜っていたフラガが噴出しそうになるのをこらえて咳き込む。
「食事に、毒が混ぜられていたんですな」
私産を象徴するかのごとく肥えた身を乗り出し、声をひそめて言った。
「たまたま銀の食器を使っていたので無事でしたが…いやはや、やはり何にでも金はかけるべきですな」
「そいつは…備えあれば何とやら、ですかな」
嫌味に聞こえなくも無い事を述べる長に、フラガは苦笑いを浮かべて応じた。
「…どういうことだ?」
「銀は毒に触れると色が変わるのよ」
怪訝そうな表情をあらわにして呟くストライクに、マリューが小声で返す。
「ふーん、そうなのか…」
ストライクは新たに得た知識を反芻すると、意識をそれに向けて黙り込む。
「しかし、この次はどうなる事やら…手っ取り早く済ませるため、暗殺者がやってくるやもしれませんな」
話はそこで終わらず、長は神妙な物言いで物騒な事を口にする。
どうも雲行きが怪しくなってきたと一行が顔をしかめた時、応接間の扉が開く。
長とは打って変わってすらりとした、むしろ痩せ気味の青年が現れる。話に割って入った事を詫びると気まずそうに切り出した。
「突然申し訳ございません…長。村の皆が税の取立てについてもう一度話し合いたいと…」
長は立ち上がると、扉を背に佇む青年にまるで別人のような態度で詰め寄る。
「バカモノ!今は旅の騎士様と大事な話の最中なんだ、そんな話はいつでも出来るだろう!」
怒鳴り返された青年は、どうにか話を続けるべく口を開こうとする。
「しかし父さん…」
「何だと?」
長は目の色を変えて自らを父と呼んだ息子らしき男を睨みつけ、吐き捨てるように言う。
「奴らはロクに働きもせずして税を軽くしろとしか言わん…長である私の苦労も知らずにな」
「…申し訳ございません、長」
男はうなだれると諦めた様子でストライク達に一礼すると下がっていく。
そのやりとりを怪訝な表情で見つめていた一同は、慌てて視線を扉の前から戻ってきた長に戻す。
「いやはやすみませんな、話の腰を折ってしまって」
長が再度ソファに腰掛けて息をつくとフラガがはぁ、と相槌を打つ。
「それで、先ほどの続きですが…そこで、あなた方に私の護衛をお願いしたいのです」
「護衛ならば、傭兵でも雇った方がよろしいのではないですかな」
老導師メビウスゼロがもっともな返答をして他の面々も頷いて同意する。少なくとも、自分達にそんな時間の余裕は無い。
「いえ、傭兵なんぞ駄目です。あいつらは所詮見栄ばかりで実力が伴っておりません」
以前他国へ商売に行く際、名うての傭兵に護衛を頼んで断られた事を思い出しながら長が鼻を鳴らす。
「その点、栄えあるラクロアの騎士どのは大いに信頼できる。どうか、お願いしたい」
「しかし我々も先を急ぐ身です、残念ですが…」
頭を下げる長に対しフラガは何度目かの苦笑いを添えて、やんわりとした口調で断ろうとする。
そもそも、旅の疲れを癒すという話はどこへ行ったのか。ストライクは顔を背けてげんなりする。
「もちろん、タダとは申しませんぞ」
「と、申しますと?」
長が再び身を乗り出して微笑み、フラガは表にこそ出さないが流石にうんざりしつつも一応耳を傾ける。
「我が家に伝わる秘宝をお渡ししましょう!これは相当古いモノでしてな。あなた方が探すモノに、関係があるやも…」
長の意味深な物言いを、どんな小さな情報でも見逃せないストライク達が無視できるはずもなかった。



フラガが、月を眺めて欠伸をする。空には雲ひとつなく、剥き出しの月光が大地を薄く白く染め上げていた。
月見酒にはもってこいであると同時に、闇に紛れて暗殺するには不向きな天候でもある。
しかし可能性は低くとも、確実に来ないとは限らない。
あの後、疲れはたまっていたが人命と種子の情報のためだと渋々了承した一行はすぐに暗殺者に備えた。
フラガとメビウスゼロが門の両脇を固め、ストライクは屋敷の中で待機。
さらに裏口にはマリューと天馬アークエンジェルが控えており、一応は侵入者に対応する形になっている。
フラガはふと、眼前の景色へと目を注いだ。
この屋敷から見える範囲は全て長のモノだという。
いつの間にか我々を乗せていたのを見ても、あの長はなかなかのやり手で食わせ物だという事がわかる。
「本当に来るのかねぇ…招かれざるお客さんは」
フラガはため息混じりに皮肉じみた笑みでぽつりと漏らす。
「来ぬならそれで何より…じゃが、何日も拘束されるのはちと困るのう」
メビスウゼロが顎から伸びた髭を撫でながら呟いた。フラガは同意しながら肩をすくめる。
「どちらにせよ、良い方向には転びませんな…せめて、ブツが本物である事を願いますか」



「すみません…父のわがままで、皆さんにご迷惑を」
待機予定の場所へ向かう途中の廊下で、申し訳なさげな声をかけられたストライクは立ち止まって振り返る。
長に怒鳴られていた息子が立っていた。心なしかやつれ気味で、疲れているように見える。
「いや、そのまぁ…気にしないでいいんじゃないスか」
突然話しかけられたために、ストライクは多少うわずった声で応じる。
「俺は別に、一宿一飯の恩だと思えばこれぐらい」
咄嗟に心にもない事を言ってしまいぎこちない気分で頬を掻いて誤魔化す。
その後沈黙と共に訪れるどこか重苦しく硬い空気が、さらにストライクを居た堪れなくさせる。
ストライクはさっさとこの場を切り抜けてしまいたいと心の内で祈った。
ふと、俯き気味だった男は顔を上げると遠い目で呟く。
「昔は私を大事にしてくれて、尊敬の対象でした…でも今は、ただの金の亡者に過ぎません」
男の意外な物言いに、ストライクが目を丸くする。
「果物が当たって財を得た今はただ私を商売の道具にしか思っていません。村の皆のことも」
男は静かに笑って見せたが、その笑顔はどこか乾いている。
最後のほうで僅かに震えた声が、男から滲み出た様々な感情を感じさせた。
ストライクはもの悲しそうな面持ちで男に投げかける。
「どうしてそんな事を…家族なのに」
「家族だからこそ、疎ましいと…許せない事もあるんです」
彼らの間に、一体何があったのかはわからない。だが、断片的な情報だけでもあの長は色々と問題を抱えていそうだ。
男に返す言葉が見つからなくなったストライクは、現在の役目を果たすため持ち場へと向かうしかなかった。




薄暗い部屋に風が吹き込む。しかし、侵入者の姿は全く見当たらない。傍から見ればひとりでに窓が開いたように見える。
様々な調度品が壁に敷き詰められた長の部屋は、しんとしていた。窓を通して月明かりに半分ほど照らし出されている。
(今日の依頼主は金払いがいい…さっさと済ませるか)
特殊な外套で身を包んだ、暗殺騎士ブリッツがそんな事を思いながら音も立てず寝台に忍び寄る。
中央に置かれた寝台は、掛け布団で全身を覆っているらしく山のような膨らみが見えた。
その膨らみから微かに漏れる標的の寝息だけが、部屋の中で響いている。
ブリッツは右手に装着した盾に仕込まれた刃を引き出すと、左手で布団を掴み右腕を引いて突きの体勢を作った。
「ここにはいないぜ」
素早く状況を理解して、ブリッツは飛び退く。
布団と寝台の隙間から青白い光が漏れると同時に、布団が上方へ向かって吹き飛ばされる。
大剣を携えた剣士ストライクが、素早く立ち上がり寝台の上に陣取っていた。
多少面食らいはしたものの、ブリッツは姿は消したまま己の仕事へは向かわなかった。
(こいつは…少し、遊んでみるか)
あの日の事は、それなりに記憶に留まっている。
惨敗の末、奈落の底へ消えた若者がザフトに対する脅威となりうる力を手に再び現われた。
そんな作り話のような存在は、例え目の当たりにしたとしても己の境遇と比べればブリッツは認めるわけにはいかなかった。
ここで倒せば、やはりまやかしに過ぎなかったと自らの手で証明できる。
やや黒い感情に衝き動かされながら、ブリッツはそれに抗わず赴くままに刃を構える。
一方ストライクは、全く姿の見えない敵を相手に息を詰めた。同じ力を持った相手と、一戦交えた経験がある。
奇しくもブリッツと同時に、自身にとって苦く辛い記憶を引き出してストライクは胸の奥が僅かに淀むのを感じた。
(でも今はあの時と違う…一対一で、何より俺には)
すぐさま心の靄を振り払い、腰を落とし大剣を構えて集中する。
(種子の力がある!)
旅立ったとほぼ同時に手に入れたこの力に対する不信感は、ストライクの中ではすでに薄れてきていた。
むしろ、どんな敵と相対しても負けはしないという妙な自信を与えてすらいる。
ほの暗い視界の中突然出現したナイフに対しても、種子のおかげで少なからず増幅された反射神経が働く。
ストライクは投げナイフを左腕に装着した鋏付きの小楯で叩き落すと目を走らせた。
敵は確かに、まだこの空間にいる。
小手調べとはいえ急所を狙ったナイフを回避したのを見てブリッツは意外と反応がいい、と判断を下した。
以前とは大きく違うことを確認し、ブリッツは次の攻撃のため移動を開始する。
「チックショ…出て来い!」
姿無き暗殺者に声を荒げて闇に呼びかけるものの、当然ながら返事はない。
ストライクは対抗策を搾り出すため、必要な時間を稼ぐ意味で敢えて見えない敵に呼びかけた。
「何故、こんなことを!」
「誰かを殺すのに、理由などいるのか」
ブリッツは悪びれることなく即答した。私情はさしはさまない事にしている。手元が狂ってしまうからだ。
ストライクはあまりにも普通に返してきた事に驚いて息を詰める。
「お前は、敵を倒す時にいちいちそんな事を考えているのだな」
感心するような言い草だが、攻撃の手が止む事は決してなかった。
地面を蹴って前上方へ跳躍し、すれ違い様にストライクを切りつけた。続いて壁を蹴って反転し、地面を別方向に蹴って斬る。
ブリッツはこれを繰り返して徐々に速度を上げ相手を切り刻んでいく。
白と蒼で彩られた鎧の随所がみるみる赤く染まっていくが、ストライクは衝撃と痛みを受け止め決して倒れようとはしない。
「だったら!人を守るのにも理由なんていらねえ!」
ストライクは声を張り上げると、改めて威嚇するように剣を構える。
「お前が守ろうとしている者は、お前が身体を張るだけの価値があるとも限らない」
「何を…!」
反論すべくストライクは言葉を探すが、現に長は村民とも争っている様子で実の息子にも蔑まされている。
ストライク自身もどこか嫌悪を抱いており、いきり立つ彼を押しとどめるには十分な言葉であった。
「いっそ殺してしまった方が喜ばしい。だからこそオレが此処にいる」
静かに言い放ち、ブリッツが無慈悲に右腕を突き上げる。
防御の合間を縫った一撃で胸鎧を削られながら、体勢を崩し剣の重量に引っ張られたストライクは棚に背中から激突する。
ストライクは顔を険しく歪ませるが、震えているのは痛みのせいだけではない。
よろめきながら立ち上がったストライクは一歩踏み出して床を強く踏み込んだ。
「ふざけるな…例え間違っていたとして、戦場と無関係の所で命を奪う必要なんて無い!」
トドメのつもりだった一撃を受けても、見えないはずの自分を見据える真っ直ぐな瞳にブリッツは不意に気圧される。
思えば、ここまで意見をぶつけ合った相手など生涯で初めてかもしれない。
静寂の中で、ブリッツの心の奥ではストライクに対する評価は徐々に変わりつつあった。
一方、剣を振り上げようとしたストライクは調度品に刃が当たる事に気づいて動きを止める。
障害物の多い部屋の中では大剣の威力を発揮するのは難しい。
それ以上に、力任せの剣で技量に優れた敵を捉えるのは困難を極めるのだ。
僅かな呼吸や闘気を察知し、探り出す。
それは本来の力の種子ならば可能な芸当だが、ストライクがその域まで達するにはまだ力量が足りていない。
(そうだ!水を被せれば、姿は見えなくても垂れた水滴という痕跡が残る!)
ストライクは思いつきを頼りに装飾過剰な花瓶を掴み、力任せに振り回す。
その勢いに乗せられて、中身は飛び出さなかった。
「空かよっ!」
怒りのあまり花瓶を叩きつけそうになるが、慌てて手を止めると床に置く。
床に散った花が造花であることに気づきストライクはやるせない気分になる。
(そもそも、どうやって水を当てるつもりだったのじゃお主…)
戦闘中でもどこか間の抜けたストライクにランチャーオウルが嘆息する。
「必ず当てられる瞬間はある…その覚悟も」
ストライクは一転して鋭い表情で自身の身体に視線を下ろして言う。
(ならば、我が種子を使うが良い。さすれば奴を倒す手段も見つかろう)
「どういう事だ…?」
冴え渡る精神で不利な状況を打破する知恵を生み出すのが知恵の種子の能力だが
身体能力は種子を用いない状態とさほど変わらず、全ては呪文に頼るしかない。
変わればわかる、とだけ言い残しランチャーオウルの声が消えていく。
意図を図りかねながらも、対処すべく頭を切り替える。
(どっちにしろ剣士じゃ不利だ…ここは、一か八かの賭けだな)
胸の宝石から各部に飛び散る淡い緑の光に包まれ、ストライクは法衣を纏った術士へと姿を変えた。
噂に聞いてはいたが、実際に姿を変える様を目の当たりにしたブリッツは身構えて攻撃を止める。
その僅かな時間、ほんの数秒を利用してストライクは思案をめぐらせた。すぐさま閃きが彼の中を駆け抜ける。
そして身をかがめた体勢で、防御の構えを取ったまま動かなくなった。
抵抗らしい素振りも見せない相手に、ブリッツが容赦なく右手の刃で突きを繰り出して防御の隙間に刺し込む。
ストライクはわき腹に深々と突き刺さった刃にも怯まず、左手で右肩鎧に幾重も重なって並ぶ羽根をいくつか無理やり引き抜くと同時に投げつける。
数本が矢の如く外套に突き刺さったものの、威力は全くない。
そしてそれらの羽も溶け込むようにたちまち姿を消してしまう。
「羽根…?こんなモノで、何ができる」
単なる足掻きに過ぎない行動を嘲るように、ブリッツは静かに言い捨ててストライクのわき腹から剣を引き抜く。
返り血を浴びる前に素早く身を引いて、出血でふらつくストライクの背後へと忍び寄ろうとする。
「その羽、フェザーマーカーはな…魔法を確実に当てるためのモノなんだよ」
ストライクは血を流しながらも掌を杖の先端―――梟の頭に向かって掌を被せ続けている。
掌から注がれた光が集まり、梟の目が妖しく輝きを放った。
彼は一方的に攻撃を受けていたわけではない。好機を作り出すために耐え続けていたのだ。
「それが刺さっている限り!姿を消そうが、どこまでも追い続ける!ムービルフィラァァッ!」
「ッ!?しまっ…」
刺さった何本かを指標として、雄叫びと共に杖から放たれた光条がブリッツ目掛け襲いかかる。
ブリッツは一歩後ろへ飛んで手探りで引き抜こうとするが、自身の身体もろとも完全に透明と化しているモノを判別する事は出来ない。
「ぐ…ぅ…ッ!」
瞬間、空中で無防備なブリッツの身体を眩い閃光が包み痺れるような激痛が襲う。
しかし潔く手傷を負い続ける事だけはブリッツの自尊心が許さず、
攻撃を受ける瞬間に意識を外套へ向けて呪文が拡散した場所を見分けると羽を掴んで引き抜いた。
「…やったか?」
何かが落下する音を認めてストライクが恐る恐る呟く。
注視するものの、依然として消えたままの相手の様子を確認する事は出来ない。
もしかしたらそのまま気絶しているのかもしれないとストライクは考えた。
しかし安易に気を緩めるわけにもいかず、杖を握り締めたままこわばった表情で何も無い空間に対し構えをとる。
事実、予想外の痛手は功を奏しブリッツに予想外の痛手を与えていた。
呪文を受けて生じた煙と匂いという材料がブリッツの隠蔽を無効にしつつあり、
外套にも損傷を与えその効力自体も薄まろうとしていたからだ。
「…ミディア!」
多量の出血を放置したままで、軽く眩暈を感じたストライクは慌てて傷口を覆うように掌を当て回復の呪文で傷を塞いだ。
「確かに、お前を見くびっていたようだな…」
ブリッツの言葉と共に窓が開き、突風が入り込む。ストライクは顔をしかめて、すぐに窓を見据えた。
ストライクの白とは対照的な、それ自体が暗闇に溶けてしまいそうな黒い騎士が姿を現す。
こいつは、少なくとも遊びで戦う相手ではない。ブリッツは完全に評価を改めた。
出会った障害は抹殺してきた自分にとって、初めての体験であり屈辱。それを味わわせた相手としてストライクを認めたのだ。
「だが、貴様を倒す依頼を受けた時は…その時は必ず仕留める」
「ま…待てっ!…くっ!?」
捨て台詞を聞き漏らさず、ストライクは逃がすまいと身体に命令を送る。
だが意思に反して、身体は耐えかねて片膝を突き崩れ落ちた。
杖に体重を預けて立ち上がろうとするが、力が入らず寄り掛かる形にしかならない。
「はー…はー…クソッ!もう、限界か…!」
息を切らしながら、ストライクは己の未熟さに悪態をつく。
だが、以前よりはまともに戦えた事がストライクに不思議な充足感を与えていた。



一方、轟音と光による異変に気づいたフラガは門前をメビウスゼロに任せると長の部屋へと駆け出していた。
すぐに、荒れた部屋と打ちひしがれたまま地面に座り込んだストライクを目にする。
大体の事情を察すると無言で肩を貸してやり、部屋を出るべく開いたままの扉へと身体を向けた。
「ひぎゅあっ!」
直後に庭から聞こえた微かで奇妙な悲鳴を聞きつけ、フラガはストライクにも促して足を早める。
巨大な銛に似た武器を打ち込まれ、長は間違いようもなく息絶えていた。
「何があろうと、依頼は完遂する」
樹上からの狙撃を終えたブリッツは囁くと、館から重い足取りで現われたストライクを一瞥し樹から樹へと飛び移って去っていった。
「手の施しようは、ありません…」
「むむ…やられたわ」
マリューが目の前の惨状に口をつぐみ、メビウスゼロが険しい顔つきで長の死体に目をやった。
「どうして外に出したんです」
フラガはストライクを放すと長と一緒にいたはずの長の息子に詰め寄る。
後味の悪さからか、その口調には責めるような響きがあった。
暗殺者を迎撃、少なくとも夜が明けるまでは果物の貯蔵庫に身を隠しておく手はずだった。
それがまんまと出てきてやられたのではこちらとしても守りようが無い。
「いえ、その…もう終わったのかと」
男の声は力が無く弱々しかったが、悪びれる様子もなかった。
フラガは長く息を吐いて平常心を取り戻すと、気乗りしない様子で尋ねる。
「…一応、お父上の仰っていたそちらの家宝についてお聞かせ願いたい」
「ただの指輪ですよ。あなた方の探しモノと関係があるとは思えませんが…何なら、お持ちになってもらっても」
「そうですか…いや、こんな事件の後に申し訳ない。察するべきでした」
男のどことなく投げやりな態度に、フラガ達を筆頭に三人は引き下がる。確かにこんな事があっては無理もないと思えた。
「葬儀は、参加せずとも構いません。今日はもうお休みになって、明日にお備えください…お急ぎの身なのでしょう?」
だが先ほどのやりとりを経たストライクだけは、その態度を違う角度から捉えていた。
男の表情、口調は暗に早く出て行けと言っている。
先ほどから特に取り乱す事もなく、不自然なぐらい事務的な態度の彼を見てストライクは何と無しに悟った。
恐らく、依頼したのは彼だ。当然、長をブリッツの狙いやすい場所へおびき寄せたのも。
だが責める事は出来ない。何一つ物証はないし、守る事を躊躇った自分にその資格などない。
例え一瞬でも、殺されようと仕方が無いかもしれないと思ってしまったのだから。
「くっそぉッ!」
ストライクがやるせない気持ちを拳に込めて大地にぶつける。
油断していた。一杯食わせてやったと、浮かれていた。
今はただ、悔しい。結局は反論できなかった事も、守りきれなかった事も。
いつだって、あと一歩及ばない。力の足りない自分が憎くて仕方がなかった。
逸る強さへの想いを絡めて、種子を巡る旅は続く…。

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