SD STAR@Wiki

ストーリー 知恵の試練編

最終更新:

Bot(ページ名リンク)

- view
だれでも歓迎! 編集

プロローグ


 ヘリオポリス神殿にて一つ目の種子を手に入れたストライク一行は、二つ目の種子を求め世界を巡る旅を続けていた。
旅の道中立ち寄ったとある村で、不可思議な現象が起こるという谷の話を聞いた一同は種子の隠し場所である可能性を見出す。
「霧に囲まれた渓谷ねぇ」
「同じ場所をぐるぐる回って先へ進めない場所があるらしいですよ」
「ふむ……何かある、な。ワシの勘がそう告げておる」
「とりあえず行ってみようぜ。何か手がかりがあるかもしれない」
かくして一行は村人から得た情報を元に、一路『アルテミス渓谷』へと歩を進めた。

霧の渓谷


 そうしてアルテミス渓谷に到着した一行を待ち受けていたのは
頑強な岩肌に挟まれた空間を、むせ返る程の濃霧が傘のように覆う渓谷。
光さえも遮り、外界と断絶する白靄の壁が生み出すこの谷特有の現象であった。
一同は老導師メビウスゼロの掌から発せられる魔法の灯を頼りに先へと進む。
「あーあ、早く抜けないと錆びちまうよ」
ストライクが肩をすくめて辺りを見渡した。幸いモンスターの気配はなく、
視界はなんとか確保できるものの急ぎつつ慎重に進まないと危険な事に変わりは無い。
はぐれないよう常に注意を払いながら移動した一行は、やがて村人に教えられた場所へと到達する。
茶色い岩壁を背にする一本の枯れた樹木を分岐点に、いくつかの道へと分かれているが霧のせいでその先は把握できない。
「さぁて、どれが正解かな」
何も考えず進めば自分達も彷徨う羽目に陥ってしまう。ストライクは首を鳴らして意気込んだ。
かといって妙案が出てくるはずもなく、そう経たずして途方に暮れたように黙り込でしまった。
仲間達も皆お手上げといった様子で額に手を当てている。ただし、ただ一人を除いては。
「これは……右、じゃな」
メビウスゼロが杖で右を指す。他の面々は疑念を抱きつつ、見えない道の先を注視する。
「やけに自信まんまんだなジイさん」
 飲み込めない様子のストライクにメビウスゼロは簡単な事じゃよ、と説明を始める。
「木の枝を見てみい。それがヒントじゃ」
それぞれが分かれ道に向かって伸びているが、右の枝だけが幾ばくか長かった。
「あっ……そういう事なのか?」
「なるほどね、言われてみりゃ納得だ」
「お見事です。導師様」
各々は導かれた答えに驚嘆しつつ、味わわされた自身の頭の回転の悪さを作り笑いで誤魔化す。
「おそらくは結界の一種じゃな。これより先は心して進んだ方がよかろう」
ジイさんがいて助かった―――ストライクは胸を撫で下ろすと、右に一歩を踏み出した。

結界を越えて


 メビウスゼロの教えに従って枝の長さに注意を払いつつ進んだ一行が
辿り着いたのは、谷の合間に広がる荒涼とした円形の平地だった。
そこだけ切り取ったように霧が薄く、差し込んだ薄日に照らされているため
ある程度の視界が確保できる。一見すると何もないように見えたが
「奥に建物のような影が見えます」
天馬アークエンジェルの指すとおり、石造りの大きな神殿が靄に包まれながらもその存在を主張していた。ストライクが指をパチンと鳴らす。
「っしゃ、どうやら当たりだな」
「調子に乗るな、まだわからんぞい」
一行は警戒を怠る事無く奥へと歩む。
近づくにつれ、その外観もはっきりと見えてくる。
ヘリオポリス神殿のものとよく似たそれは、背後の斜面と一体化しているため
まるで洞窟の入り口のようにも見え、内部の広大さを予感させた。
そして、入り口を目前にして巨大な影がストライク達の前に姿を現した。


知恵の試練-その一・なぞなぞ-


 神殿の入り口は、巨大な体躯を誇る岩の塊のようなモンスターにみっちりと塞がれてしまっていた。
「よーし、コイツを倒してとっとと神殿に……」
「お前達。知恵の試練の挑戦者であ~るか?」
馬鹿な。ストライクは顔を跳ね上げ、周囲を見渡した後に声の主へ驚きの視線を注ぐ。
「へぇ、言語を用いるモンスターがいるとはね」
フラガが口笛を吹き、茶化すように呟く。だがその手は鞘に収められた剣から離れない。
「我が名はスフィンクスレセップス。神殿の門番にして知恵の試練第一問の出題者であ~る」
モンスターは名乗り終えた後、ストライク達に再度挑戦者であるかどうかを尋ねた。
「おい、お前を倒せばいいんじゃないのか?」
困惑したストライクが叫ぶと、スフィンクスレセップスは呆れたような口調で返す。
「ここは知恵の試練の場、アルテミス神殿。暴力は一切通用しない。
 数々の難題を突破した知恵者のみが、知恵の種子を手にするに相応しいのであ~る」
「こいつは、一筋縄じゃいかなさそうだな…」
難題という言葉に、フラガがうんざりとした表情で髪を掻き回す。
「とにかくやるしかないんだろ?なら、選択肢は一つだ」
ストライクが意気込みをあらわにした表情で呼びかけ、仲間達が頷く。
スフィンクスは静かに、挑戦者達へ問いかけた。
「では、第一問……滝はどこ、であ~るか?」
滝はどこ―――文にしてみれば単純だ。だが、この近辺を含め谷の中に滝は存在しない。
ストライクは頭を抱え、フラガは天を仰ぎ、マリューが唇を噛む。
そして、それまで瞳を閉じ顎の髭を撫でながら黙りこくっていたメビウスゼロが
「南じゃな」
自信ありげに答えを述べた。静寂に支配された場に、一同が息を呑む音だけが響く。
「合格であ~る」
緊張を解く言葉に、メビウスゼロを除く一同が胸を撫で下ろす。
「が、これはまだまだ序の口。ここから先が本番であ~る」
スフィンクスは満足そうな様子でうっすらと風化していった。ストライクは、障害の消えた扉とメビウスゼロを見比べて尋ねる。
「でも、どういう事なんだ?一体……」
「タキ(滝)は、キタ(北)の逆だから南。そういう事じゃ」
ストライクはなるほど、と呟くとメビウスゼロを感嘆の表情で見つめる。
メビウスゼロは嘆息すると、間の抜けた表情を形作る頭を小突いた。
「こんなもん、落ち着いて考えりゃお前でもわかるぞい」
そうかなぁ、とストライクは首をかしげると扉に手をかける。
鈍く重い音を立てて、扉が開いた。


知恵の試練-その二・知恵の輪-


 扉の向こうに広がっていたのは、薄暗い小部屋だった。
足を踏み入れると同時に入り口が固く閉ざされる。
部屋に存在するのは奥の鍵穴も取っ手もない扉以外には
中央の台に置かれた、蝋燭に照らされ鈍い光を放つ金属製の物体のみ。
「今度は知恵の輪、か……」
フラガがそれを手に取りため息をつく。冷やりとした感触が、掌に伝わる。
「ようはこれを外せばいいんだろ?」
ストライクがフラガから知恵の輪を受け取ると、力いっぱい引っ張った。
金属同士がぶつかりあい音を立てるが、一向に外れる気配はない。
それどころか、ストライクが力を込める度に知恵の輪が複雑な形に変形していく。
「ど、どうなってんだこりゃ!?」
やがて諦めたのか、息を切らしたストライクは知恵の輪を投げ出すと仰向けに寝転ぶ。
「はぁ……はぁ……ダメだ、クソッ……」
「ダメよ、ストライク。知恵の輪は力で解くものではないわ」
「まずは落ち着いて深呼吸でもするんじゃな」
言われた通り大きく息を吸い吐く動作をするストライクを尻目に
メビウスゼロが知恵の輪を手に取る。複雑に屈曲していた形が元の形へと戻ったのを見て
「ふーむ……これは……」
マリューに知恵の輪を渡すと神妙な面持ちで顎髭を撫でる。
「形が……!?」
声を上げたマリューの手の中で、再び知恵の輪が形を変えた。
その形状は、ストライクのものよりは簡素な形だった。
飛び起きたストライクがマリューの手から知恵の輪を掴み取る。先ほどと同じく複雑な形に変わった。
「何だよこれ……こんなもん、解けるかよ!」
今にも知恵の輪を叩きつけそうなストライクを、メビウスゼロがなだめる。
「落ち着けと言っておろうが……ストライク、お前はこの知恵の輪について気付いたことはあるか?」
「んな事言われてもなぁ……難しそうだな、としか」
「それじゃよ。お前のその考え方こそがこの試練で最大の障害なのじゃ」
唐突な発言に、ストライクは顔をしかめる。なんだか自分が責められているのは、気のせいではないらしい。
「初めから無理だと決め付けていては、どんな簡単な問題も解く事はできんぞ」
「……人にはできる事と、できない事があるだろ」
「おそらく、種子を使えるのはお前だけじゃ。ワシが全てを解いたのでは意味がなかろう」
「俺だって楽しようと思ってるわけじゃない。だけど、無理なもんは無理だよ」
抗弁し終えたストライクが投げ出そうとした瞬間、メビウスゼロが杖でその頭を思い切り殴打した。
ストライクは額が押し出されそうな激痛に耐えながら後頭部を抱えると、しゃがみ込んで苦悶の呻きを漏らす。
「諦める前に、まずは状況を見極めろ。あらゆるものを見逃すな」
メビウスゼロの凄むような表情に気圧され、涙目になりつつも言われた通り手の中の知恵の輪を眺める。
何故持つ者によって形が変わるのか。自分とマリューとメビウスゼロの違いは何だ?
歳ではない、性別でもない。となれば残るのは。
「考え方……まさか、これは手にしたヤツの考え方で形が変わるのか?」
信じられない話だが、一応の辻褄は合う。自分は解けないものと決め付け、
マリューは必死に解こうとし、メビウスゼロは先入観を断って知恵の輪を手にしていた。
「ならばもう、答えはわかるはずじゃな」
ストライクは頷くと、手に収めた知恵の輪に想像図を送り込む。できるだけ簡素な、自分でも解ける形を。
次の瞬間には、ストライクの両手には分かれた知恵の輪がそれぞれ存在していた。
それを台の上に置くと、台が音を立てて沈むと共に扉が開いていく。
「解けた……俺にも」
「冷静な判断力、それこそがこの試練を解く鍵となろう」
目を細めて自分を見据えるメビウスゼロに真摯な表情を添えて頷くと、ストライクは誇らしげな気分で小部屋を後にした。


知恵の試練-その三・鏡の迷路-


 扉を潜り抜けた先に広がるのは、巨大な迷路だった。
壁は高く、天井のせいでアークエンジェルを飛ばす事もできない。
空間をなす面は床を除く全てが鏡張りで、どこからか漏れた光が反射してかなり眩く感じられる。
そして一行が足を踏み入れると同時に、複数の浮遊する黒いモンスターが出現した。
「こいつらっ!」
「待て、ここじゃ戦えない!逃げるぞ!」
遁走を始めるストライク達。しかしモンスター達もつかず離れず、同じ速度で追ってくる。
「ぜぇ、はぁっ……こりゃ、年寄りには、きつい……わい……アークエンジェル、乗せては、くれんかのう……」
「お断りします」
「導師様!私の背中に!」
無慈悲な天馬を無視してフラガがメビウスゼロをおぶった瞬間、彼はあるものを目撃する。
二体のモンスターが、一つに重なっていた。まるで一体がもう一体におぶさるように。
「なるほどな……皆止まれ、これは俺たちの影だ!」
フラガの叫びで一行が立ち止まると、モンスター達も動きを止めた。
「もし攻撃してたら、やばかったな?」
フラガがストライクをからかっている間にメビウスゼロは思考を巡らせる。
程なくして推理を終えた老導師は、ストライクの方に向き直り問い質した。
「これはどういう事かわかるか?」
ストライクは黙り込み、やや時間を置いて自信なさげに己の考えを述べた。
「う~ん……こいつらが影って事は、光が当たってるから発生するわけで…
 ならこいつらがいる間は光が当たってる…って事はこいつらがいる道を辿ればいい…のか?」
メビウスゼロは大きく目を見開き、他の二人も感心を通り越して驚愕の表情でストライクを注視する。
「だ、だいたいあってる……だろ?」
思い切って述べてみたものの、やはり間違っていたのだろうか?後悔の念がストライクに忍び寄る。
「上出来じゃ。やればできるではないか、お前も」
まっすぐ誉められるというのはなんだか照れくさい。
自身に集まる視線をかわそうと、ストライクは顔を背けた。


知恵の試練-最終問題・暗号-


  迷路を抜けた先は、行き止まりだった。正確には扉があるのだが硬く閉ざされている。
「何か書いてあるわね」
「どれどれ」
ストライクが確かめようと前に踏み出た瞬間、一同の頭の中に声が響き渡る。
「ホッホッホ……よくぞここまで辿り着きなすった。歓迎するよ、諸君」
声が意識の中に直接入り込む感覚には覚えがある。おそらくは、この人をくったような声の主が。
「知恵の種子の守護聖獣か!姿を現せ!」
「そうはいかないな。何故なら、私の姿を当てる事こそが最後の問題だ」
ストライクの探りをかわすと、声の主は流れを自分の思惑へと引き寄せる。
「手がかりは無しか?とんだ知恵の試練じゃな」
「まさか、きちんと用意してある。もっとも、知恵を使わねば解けぬのは一緒だが」
望むところだ、と全員が頷く。だが、告げられた言葉は意外なものだった。
「さて、この最終問題……挑戦の資格を有するのはストライク。君だけだ」
「どういう事だ?」
フラガが尋ね、声の主は即座に答える。
「種子を使えない君達が試練を受けても仕方がないだろう?最も、どちらにしろ解けぬと思うが」
どこか上から見るような物言いにフラガは不満げな表情に変わる。反論の口を開きかけるが、
「……他人に頼ってばかりじゃ仕方が無い。試練ってのは自分で乗り越えてこそ価値があるって事だな」
ストライクは周囲を片手で制し、そのまま前に出る。
「あのご老人がいないと不安かな?」
「なめるなよ。俺一人でも解いてみせる」
「それは頼もしい。では、私は扉の向こうで待っている」
静寂が訪れた扉の前で、ストライクは長く息を吐いた。
「ストライク……ワシはお前を信じておる。お前も己を信じるのじゃぞ」
ストライクは頷いて、扉に近づく。扉には石で出来た盾がかけられており、
そこには見慣れない文字で文章らしきものが書かれていた。仲間達も一応確認しようと目を向ける。
「何て読むのかしら……導師様、ご存知ですか?」
「いや、見たこともないのう。ラクロアの文献にもあったかどうか……」
「参ったな。導師様がわからんのなら、誰も解けないんじゃないか?」
長時間の頭脳労働の末、手詰まりに突き当たった一同からため息が漏れた。だが。
「読める……」
何故かはわからない。しかしおぼろげだがストライクには読めた。何故だか懐かしい気さえしてくる。
たどたどしくも、書かれている内容を読み上げた。

     ふさふさしていて
     くらやみがすきで
     ろっぽんあしではなくて
     うごきがはやい

「読めるじゃと……?ストライク、ならば内容を……」
言いかけたメビウスゼロに背を向けたまま、ストライクは首を振る。
「いや……これは俺が解かなきゃならないんだ、俺一人で」
ストライクの強い決意を汲み取ったメビウスゼロは押し黙り、他の仲間達も合わせて口を閉じる。
一方のストライクはすでに思考を目の前の文字のみに集中させていた。
わからない。考えれば考えるほど、底の無い深みにはまっていく感じがする。
文章を表面的になぞるだけでは答えが見えてこない。気を取り直し、メビウスゼロの教えを思い出す。
(まずは状況を見極めろ。あらゆるものを見逃すな、か……)
ストライクは腕を組み、盾を睨み据える。何故、盾に書かれているのか。
「盾……たて……縦……縦読みか!?」
そんなはずはないだろう、苦笑しながらも頭の隅で文章を解く。驚いた事に、一応形にはなっている。
こうなってしまうと不思議なもので、これが答えだ、という考えしか浮かばない。
(大丈夫だ……自分を信じろ)
ストライクは扉に向かって、差し迫る迷いを振り切るように叫ぶ。
「やい守護聖獣!お前の姿は――――!」


輝く英知


 試練を終えた一行は、自分たちが進んできた道を辿り神殿の入り口へと向かっていた。
「なんとか二つ目も手に入ったな」
「一時はどうなる事かと思ったけれど……」
「まぁ、ワシがいてこそじゃな」
フラガとマリューは頷いて素直に同意する。今回の試練は、戦うばかりが全てでない事を改めて思い知らされる結果となった。
「いやいや、最後の方は俺一人で解いたしイテ」
調子に乗るな、とメビウスゼロに小突かれたストライクは汗ばんだ掌を見つめる。
全身に充満する達成感を心地よく感じながら、逃さぬように静かに握り締めた。
「いや、実際見事だった。まさかあんなに早く気付くとは」
頭の中に知恵の守護聖獣・ランチャーオウルの声が木霊する。
「今思えばバカみたいな問題だよな、あれも」
皮肉った口調でストライクが返す。先ほどまでの重苦しい気分はすっかり晴れていた。
「どんな難題だって、解いてしまえばそんなもの……広い視野をもってそこにある答えに辿り着けるか否かだ。
 だが、この試練で培った冷静さと判断力は君の戦いにおいて大きく貢献する事になるだろう」
オウルの言葉にそんなものかとストライクは納得すると扉に手をかける。
扉の向こうに待ち受けていたのは、試練に時間をかけたせいか懐かしさすら感じる外の光だけではなく。
「ようやく出てきやがったか」
武器を構え、張り詰めるような殺気を漲らせながら神殿を整然と取り囲んでいた。
声をかけたのは真ん中に立つ青いMS族。両肩に取り付けられた矢筒と、両手に持った巨大な剣が目を引く。
左肩鎧には鮮やかな赤い花が貼り付けてあり、粗暴な風体の中でどこか浮いていた。
「オレの名は邪騎士ディープアームズ……ヘッ、このクソジジィが問題を解けないとか
 言い出しやがった時はどうなるかと思ったがわざわざ持ってきてくれるとはなァ」
自分以外の全てを嘲るようなディープアームズの隣で、術士らしきMS族の老人が不服そうに唸る。
「おい……お喋りしてる暇があったらとっとと片付けんか!」
「生憎だが、お前らに渡す気なんてないぜ」
ストライクが拳を鳴らしながら近づき、仲間達も武器を手に続く。
「ようやくフラガさん活躍の場面が来たよ」
「頭ばかり使って疲れましたね」
「ここらでストレス発散といくかのう」   
手ぐすねひいて待ち構えていた敵にも動じないストライク達に、数で勝っているはずの兵士達が恐れを抱く。
しかし浮き出し立つ者もいる一方で、ここまで来た手前引っ込みのつかない意地が彼らを縫い留めた。
「その人数でこれだけの軍勢を相手にできるものか!」
「受けてみよ、我が魔術!」
「おっと、俺はアンタらの相手をするつもりはないぜ!」
虚勢を張る雑兵どもは仲間達に任せ、襲い来る矢や魔法を掻い潜ったストライクは敵将に真っ向から攻め込んだ。
「ケッ……やっぱり痛い思いしねーといわからねーみてーだなァ……ジジィッ!」
「わかっておるわ!全く、若造がちょっと隊長に選ばれたからといって偉そうに……」
命令口調に不満を漏らしつつ、呪術師ファントムゾノがぶつくさと呪文を唱え始める。
すると、邪騎士と格闘を始めたストライクの身に唐突な激痛が走った。
内側を激しくまさぐられるような寒々しい痛みに動きを止め、格好の餌食となる。
「ぐぅっ……何だ、これ……」
「呪術師か……ならば、レルバンガ!」
すかさずメビウスゼロが放った光球がファントムゾノを襲い、詠唱を妨げる。
開放されたストライクは、額めがけて振り下ろされた刃を半身で避けると懐に潜り込み
弧を描くように拳を打ち込む。のけぞるディープアームズに、続けて腕を伸ばした一撃を見舞った。
「お前なんか、種子を使うまでもねえよ!」
「小賢しいッ!」
わかる。相手は力だけなら自分よりも上だが、攻撃は単調だ。僅かな動きで次の攻撃が予測できる。
素早く相手の力量を判じたストライクは、メビウスゼロやランチャーオウルに言われた事の一端が理解できた気がした。
(そうじゃ……落ち着いて相手の特徴を見極めろ)
メビウスゼロはストライクの成長した様子を横目で捉えながら満ち足りた気分で光球を操る。
そうしているうちに次々とザフト兵は倒れていき、ついに残されたのは。
「ジジィてめぇ!満足に援護もできねえのか!」
「なんじゃと!貴様こそあんなガキにてこずりおってからに!」
自らの置かれた状況にも気付かず仲間内で言い争う二人だけとなった。



禁断の呪文


 「観念すれば、今なら見逃さないこともない」 
「バカな…せっかくの地位を取り戻すチャンスが…!」
金髪の人間族の無慈悲な宣告が言い渡される。命をとるか、自尊心をとるかの瀬戸際に立たされたファントムゾノは焦っていた。
愚かで短絡的な邪騎士はふざけるな、とすでに勝ち目のない相手へと吼える。
(クルーゼめ……こうなったのも全てあ奴のせいじゃ……)
しかしこんな時でも彼は自分を今の地位へ追いやった男への妬みを忘れずにいた。
横目で自分達を運んできた大型モンスター・ナスカロックを見やる。
ラクロアの天馬の体当たりを受け負傷した身体は弱りきっており羽ばたけそうに無い。
万事休すか。諦めかけた瞬間に、彼は自分に授けられた切り札を思い出す。
『ファントムゾノ殿がいれば万が一にも敗北はないでしょう……ですが、
 何が起こるかわからないのが戦場の常。いざという時はこれをお使いください……フフ……』
出発直前、呪術師クルーゼに手渡された強化呪文。奴の手を借りるのは癪だが、今は何よりも生き残る事が先決だ。
「若造、時間を稼げ。お前に最強の力を与えてやる」
「あん?本当だろうなァ……嘘だったらぶっ殺すぞ」
邪騎士のざらついた声での脅しを流すと、すがるように呪文を唱えるファントムゾノの単眼は狂気の光で満ちていた。
自分は助かるのだ。このバカを踏み台に、再びかつての地位へ返り咲いてみせる。
この期に及んでも、彼はどこか考えが足りなかった。思考の網からすっかり抜け落ちていた。
自分に切り札を授けた人物によって、かつての地位を追われた事を。使い捨てられるその可能性を。
「ご苦労だったな若造……貴様はワシのために死ね!ハーネシム・スーデア……!」
呪文を唱えきった瞬間、液体のような黒い影がファントムゾノの掌から溢れ出す。
重油のごとくどろりとした影は、瞬く間に唱えた本人をも飲み込んでいく。
さらに手負いの怪鳥と、ストライクに蹴り飛ばされ片膝を突いていたディープアームズをも引きずり込む。
「ばっ……バカなぁぁぁああああ……」
「ジジィ!てめぇ一体何を……ぐぁぁああああああ!」
「なんだ……あれは!?」
飲み込まれた三つの影がぐちゃ、という生々しい音を繰り返しかき混ぜられていく光景にストライクは怖気を覚えた。
そして、漆黒の中から通常のモンスターとは比較にならない程巨大な、おぞましき魔獣が姿を現す。
随所に渡って飲み込まれた者達の面影がない交ぜにされており、畏怖の念を喚起させる風貌だった。
浅葱色の毒々しい体色の身体は異臭を放ち、吐息は軽く浴びせただけで岩を溶かす。
刃で飾られた全身と巨大な剣にも似た尾、そして額からそそり立つ角は全身凶器という印象を呼び起こさせた。
産声の如く咆哮を上げる魔獣だが、警戒しつつ一歩近づいたフラガへ即座に反応し襲い掛かる。
すかさず盾を構えたフラガだったが、軽々と弾き飛ばされてしまった。
受身を取ったものの、背部に伝わる衝撃は大きかった。フラガは苦悶の表情で起き上がりかける。
そんな彼をそのまま踏み潰そうとする魔獣の脇を、天馬に乗ったマリューがすり抜け救い出す。
同時に剣を突き立てて切り裂くが、深くはない傷口は瞬く間に塞がってしまった。
愕然となるマリューと天馬を、魔獣は大鉈のような尾で薙いで叩きつけるとせせら笑う。
(傷を与えてもすぐに再生だと……剣士の力は通用するのか……?)
咄嗟の判断に気をとられ動きが鈍くなったストライクが、攻撃対象に選ばれた事に反応するのがやや遅れた。
螺旋を描いて聳える角で繰り出される頭突きがストライクをとらえたかと思われた瞬間、滑り込んできた光球がそれを阻む。
メビウスゼロが残る魔力を全て注ぎ込んだレルバンガにより顔面を弾かれた魔獣は一瞬怯み、動きを止めた。
同時に、受けた傷が再生しなかったのをストライクは見逃さなかった。
(魔法が弱点なのか……?けどジイさんの魔力はもう……)
「どうやら出番のようだな。さぁ、君の知恵で我が法術を使いこなして見せろ!」
諦念がよぎりかけた瞬間、頭の中にランチャーオウルの声が響く。
やるしかない。言われるがまま精神を集中させたストライクの胸から現れた淡い緑の光が、全身を包みこむ。
直後に晒されし、布飾りや羽で彩られたその姿は武器を使って戦う戦士ではない。
数多の呪文で戦場を制する魔法の専門家――――法術士のものだった。
「これは……よし!ムービルフィラ!」
梟をかたどった杖を振るい、すかさず頭の中に浮かんだ呪文をぶつける。
それを可能としたのは外見以上の変化を及ぼされた内面であった。
変身の瞬間、魔法とこの姿に関するあらゆる情報がストライクの中に染み込んでいたのだ。
己の身体で戦うことを身上とする彼にとって、魔法というのは便利だが自分には関係のないものだった。。
しかし知恵の試練で先入観を捨て去ることを学んだ精神からは、魔法へ対する苦手意識はどこかへ失せていた。
強烈な閃光によって魔獣の上半身に爆発の花が咲くが、致命傷とはならない。
むしろ中途半端な火傷の痛みは魔獣の怒りを買い、余計に手がつけられない結果を招いてしまった。
「威力が足りないってのか……!」
魔方陣・アグニ。対策を求め、浮かび上がった響きは未聞だったが自ずと意味は伝わる。
どうやらこの姿の最大攻撃方法として、敵を杖で引いた魔法陣で囲む事により範囲内の敵に対する法術の威力を数十倍に引き上げる事が出来るらしい。
「だが、あれだけ巨大な敵だ。時間はかかるぞ」
「なら仲間の力を借りるまでだ!みんな、固まらずに散らばって魔法の援護を!」
オウルの進言を受け入れると、ストライクはすかさず仲間達に協力を呼びかける。
「こっちの方は苦手なんだけどね……」
「私は空から援護します!」
「搾り出せばルフィラぐらいはいけるかのう」
すぐさま仲間達は散り散りになり、各々が呪文の詠唱を始める。
目標を定められず雄叫びを上げ暴れまわる魔獣に、三方からの魔法攻撃が仕掛けられた。
やはり大きな傷は与えられないが、対処する頭脳を持たない魔獣の気を引くには十分だった。
その隙を見てストライクは杖の下端から伸びた刃で大地を抉る。
杖から発せられる魔力で、刃の通った跡に試練で出題されたモノとよく似た文字が描かれていく。
だが、やがて積み重なった苛立ちが爆発した魔獣は地団駄を踏み、不規則で波の大きな地震を引き起こす。
フラガ達の体勢を崩すと、初めてかつ巨大な魔法陣を描くのに苦戦するストライクの元へ迫っていく。
鈍重な歩みだが、魔獣は一歩ずつ着実に距離を縮める。それは動くに動けないストライクを焦らせ、恐怖を呼び覚ますには十分すぎた。
「あと少しのところをっ!」
しかし無防備なストライクを踏み潰す寸前、その動きが硬直する。
(ジジィ……テメェの思い通りにはさせねぇ……)
微かに残ったディープアームズの意思が反発を起こし、魔獣の自由を奪ったのだ。
我を取り戻したストライクはその隙を縫って走り出すと、大きく一周駆け抜け光の陣を完成させる。
そして息つく間もなく振り返ると杖の先端――――梟の頭を突きつけ、哀れむような視線で魔獣へ一瞥をよこした。
「たとえ形だけ結び付けようと、真の絆の前では無力なんだ……グリン・アグニッ!」
杖から放たれた熱波と呼応するように魔方陣が放つ輝きも強さを増し、地面から噴き上がった光壁が魔獣の下半身を遮る。
さらに杖から打ち上げられた後、陣の上空で増幅された呪文もあわさり灼熱の柱が形成された。
それは魔獣の全身をあまさず飲み込むと、莫大な熱量をもって異形の巨躯を跡形もなく消滅させた。
やがて、大地を深々と抉り悲痛な断末魔すらかき消す最大法術の引き起こした振動が鳴り止んでいく。
自分と仲間達以外に動く者のいなくなった戦場で、オウルとの融合を解いたストライクは疲労感にまみれて崩れ伏す。
大地に目を落としたまま、立ち込める焦げ臭い匂いに吐き気を覚えながら苦々しく呟いた。
「あんな恐ろしいヤツまで出てくるなんて、俺たちの戦いはどうなっちまうんだ」
残る最後の種子を求め、ストライク達の旅は続く……。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
人気記事ランキング
ウィキ募集バナー