「滅びの序章」
ここは、ザフト王国。王パトリックが治める、平和な国。
だが、ここ最近父の様子がおかしい。王子アスランがそんなことを
感じ始めたのは兵士が街に出没する盗賊を捕らえた時であった。
王の間に連れてこられた盗賊。その正体はまだ若く、アスランと
同じくらいの年齢に見えた。しかしパトリックは
彼に対しては何も言わず、ただ一言
「殺せ」
と兵士に命じただけであった。
今までなら何か理由を聞き入れ、その理由次第では解放することもあった父が、
それすらもせず自分と同じくらいの年齢の子供を殺すことに何のためらいも
持たなくなってしまった。少年は明日死刑されることとなり、牢へ連れて行かれる。
その時少年は兵に連れて行かれながら
「お前が急に税を上げるからみんなが生活できないんだぞ!だから僕らからとった税でのうのうと暮らしている貴族から奪うしかないじゃないか!」
と涙ながらに抗議した。しかし、父の顔を見てもその表情に変化はなく、その眼からは光がないように見える。アスランは、背筋が凍りつくのを感じた。
だが、ここ最近父の様子がおかしい。王子アスランがそんなことを
感じ始めたのは兵士が街に出没する盗賊を捕らえた時であった。
王の間に連れてこられた盗賊。その正体はまだ若く、アスランと
同じくらいの年齢に見えた。しかしパトリックは
彼に対しては何も言わず、ただ一言
「殺せ」
と兵士に命じただけであった。
今までなら何か理由を聞き入れ、その理由次第では解放することもあった父が、
それすらもせず自分と同じくらいの年齢の子供を殺すことに何のためらいも
持たなくなってしまった。少年は明日死刑されることとなり、牢へ連れて行かれる。
その時少年は兵に連れて行かれながら
「お前が急に税を上げるからみんなが生活できないんだぞ!だから僕らからとった税でのうのうと暮らしている貴族から奪うしかないじゃないか!」
と涙ながらに抗議した。しかし、父の顔を見てもその表情に変化はなく、その眼からは光がないように見える。アスランは、背筋が凍りつくのを感じた。
「いつの間に税を上げたのですか、父上」
アスランは真剣な表情で父と向き合う。
「国を治めるにはとにかく金が必要なのですよ。王子であらせられるアスラン様は
国の運営がどれほど大変かわかっていませんね」
父が答えることはなく、代わりにクルーゼが答える。
彼は実質大臣のようなもので、父の補佐をしている。しかし、今までどおりの税でもやっていけていたはずだ。
何故こんなことになったのか。父の方を見る。やはり、その表情が動くことはない。
その日の夜、アスランは牢に忍び込んだ。
居眠りしている兵士の腰からカギを抜き取り、彼を逃がす。
「ありがとうございます、アスラン王子」
「もうこんなことはするなよ、君の命に関わる」
「でも、本当に税が高いのです。僕ら平民ではどうしようもありません」
「そんなに、酷いのか」
その言葉に少年は頷いた。とにかく、見つからないうちに少年に逃げるよう促す。
次の朝、少年が脱走したことで城の中は大騒ぎになっていた。
王は少年の指名手配を命じたが、
「もう、よいではないですか。父上」
アスランが抗議しそれを阻む。
「貴様、王子の分際で王である私に意見するのか。
・・・まさか貴様、あの子供を逃がしたのではあるまいな」
アスランはええそうです、と父に対峙して答える。
見かねた様子でクルーゼが口を開いた。
「困りますね、王子。勝手なことをされては。これで国に賊がはびこったらどうするのです」
「ならば税など上げなければいい!国民を苦しめるようなことをして、何が王だ!」
アスランは激昂する。
「…今回はその勇気に免じて許してやる。だが、次はないと思え」
興奮するアスランに、パトリックはどこまでも冷静だった。
確実になんらかの形で咎められると思っていたアスランは拍子抜けしたが、
クルーゼは少し不満そうな表情でそのやりとりを眺めていた。
アスランは真剣な表情で父と向き合う。
「国を治めるにはとにかく金が必要なのですよ。王子であらせられるアスラン様は
国の運営がどれほど大変かわかっていませんね」
父が答えることはなく、代わりにクルーゼが答える。
彼は実質大臣のようなもので、父の補佐をしている。しかし、今までどおりの税でもやっていけていたはずだ。
何故こんなことになったのか。父の方を見る。やはり、その表情が動くことはない。
その日の夜、アスランは牢に忍び込んだ。
居眠りしている兵士の腰からカギを抜き取り、彼を逃がす。
「ありがとうございます、アスラン王子」
「もうこんなことはするなよ、君の命に関わる」
「でも、本当に税が高いのです。僕ら平民ではどうしようもありません」
「そんなに、酷いのか」
その言葉に少年は頷いた。とにかく、見つからないうちに少年に逃げるよう促す。
次の朝、少年が脱走したことで城の中は大騒ぎになっていた。
王は少年の指名手配を命じたが、
「もう、よいではないですか。父上」
アスランが抗議しそれを阻む。
「貴様、王子の分際で王である私に意見するのか。
・・・まさか貴様、あの子供を逃がしたのではあるまいな」
アスランはええそうです、と父に対峙して答える。
見かねた様子でクルーゼが口を開いた。
「困りますね、王子。勝手なことをされては。これで国に賊がはびこったらどうするのです」
「ならば税など上げなければいい!国民を苦しめるようなことをして、何が王だ!」
アスランは激昂する。
「…今回はその勇気に免じて許してやる。だが、次はないと思え」
興奮するアスランに、パトリックはどこまでも冷静だった。
確実になんらかの形で咎められると思っていたアスランは拍子抜けしたが、
クルーゼは少し不満そうな表情でそのやりとりを眺めていた。
この間のやりとりからさらに数日後、アスランはやはり父がどんどんおかしくなっていることを実感した。
母が死んでから毎日欠かさなかった朝のお祈りをせずに、朝食をとっている。
「父上、いつものお祈りはどうしましたか」
アスランは父に問う。王はアスランの方を見ず
「食事中は話しかけるな」
まるでどうでいいという風に返答した。
アスランはそんな父に言葉も出ない、といった感じで睨み付けるように王を見ていた。
父上は本当にどうしてしまったのだろう。聞けば税金のほとんどを兵力の増強に使い、行政の方にはまわしていないらしい。なので、街の雰囲気もなんとなく悪くなった。
戦争でも始めるつもりだろうか、まさか父に限ってそんなことはないだろうと思い直す。
しかし、悪い予感ほどよく当たるというもので、それは的中してしまう。
王はザフトの兵士すべてを集めザフトによるスダドアカの統一、支配を宣言したのだった。
もう我慢しきれない、アスランは唇をかみしめた。
母が死んでから毎日欠かさなかった朝のお祈りをせずに、朝食をとっている。
「父上、いつものお祈りはどうしましたか」
アスランは父に問う。王はアスランの方を見ず
「食事中は話しかけるな」
まるでどうでいいという風に返答した。
アスランはそんな父に言葉も出ない、といった感じで睨み付けるように王を見ていた。
父上は本当にどうしてしまったのだろう。聞けば税金のほとんどを兵力の増強に使い、行政の方にはまわしていないらしい。なので、街の雰囲気もなんとなく悪くなった。
戦争でも始めるつもりだろうか、まさか父に限ってそんなことはないだろうと思い直す。
しかし、悪い予感ほどよく当たるというもので、それは的中してしまう。
王はザフトの兵士すべてを集めザフトによるスダドアカの統一、支配を宣言したのだった。
もう我慢しきれない、アスランは唇をかみしめた。
「何を考えているのです!父上!」
アスランは叫ぶ。丁度この前の、少年に対する父の行動に対する時のように。
しかし、この間のようにはいかなかった。王はそれを聞くと
「…うるさい」
ポツリとつぶやいた。それを聞いてアスランはえ、とだけ反応する。
「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさぁあいっ!
貴様は私にどれだけ反抗すれば気が済むのだ!」
これまでの不気味なまでの静かさとはうって変わって、まるで目の敵に対するような態度でアスランを
怒鳴りつける。この変貌ぶりにはさすがのアスランも驚いた。
「アスラン王子。少々図に乗りすぎましたな。どうです、王様。王子には少し頭を冷やしてもらうという事で」
「な…!」
「うむ、そうだな。クルーゼの言うとおりだ。兵を呼べ」
「はっ」
兵士に連れられ向かったのはこの国で特に重い罪を起こしたものを入れる地下牢。
一度入れば出る方法は入り口しかない。それほどまでに厳重な牢に、何故自分が。
アスランは全く理解できなかった。しばらくして、誰かが近づいてくる。クルーゼだ。
「アスラン王子、ごきげんはいかがかな?」
何故かその口元は微笑んでいる。
「…いいわけないだろう」
それを聞いて、クルーゼの口元がさらに変わる。とても邪悪な笑顔に。
「まぁ君には私の力も通用しないし、丁度いい。
弱りきるまでそのままいてもらおう。パトリックが使い物にならなくなったら、次は君だ」
アスランは彼の発言を聞いて、全てを理解した。
そうか、全てお前の仕業だったのか。アスランはクルーゼを睨み付ける。
その視線を相手にせず、クルーゼは高笑いしながら去っていく。
アスランは彼の背中を睨みながら叫ぶ。
「悪魔め・・・!貴様のその悪事は、いつか誰かが必ず打ち砕くぞ!
そうやって笑っていられるのも今のうちだ!」
それを聞いてさらにクルーゼの笑い声は大きくなり、やがて消えた。
アスランは叫ぶ。丁度この前の、少年に対する父の行動に対する時のように。
しかし、この間のようにはいかなかった。王はそれを聞くと
「…うるさい」
ポツリとつぶやいた。それを聞いてアスランはえ、とだけ反応する。
「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさぁあいっ!
貴様は私にどれだけ反抗すれば気が済むのだ!」
これまでの不気味なまでの静かさとはうって変わって、まるで目の敵に対するような態度でアスランを
怒鳴りつける。この変貌ぶりにはさすがのアスランも驚いた。
「アスラン王子。少々図に乗りすぎましたな。どうです、王様。王子には少し頭を冷やしてもらうという事で」
「な…!」
「うむ、そうだな。クルーゼの言うとおりだ。兵を呼べ」
「はっ」
兵士に連れられ向かったのはこの国で特に重い罪を起こしたものを入れる地下牢。
一度入れば出る方法は入り口しかない。それほどまでに厳重な牢に、何故自分が。
アスランは全く理解できなかった。しばらくして、誰かが近づいてくる。クルーゼだ。
「アスラン王子、ごきげんはいかがかな?」
何故かその口元は微笑んでいる。
「…いいわけないだろう」
それを聞いて、クルーゼの口元がさらに変わる。とても邪悪な笑顔に。
「まぁ君には私の力も通用しないし、丁度いい。
弱りきるまでそのままいてもらおう。パトリックが使い物にならなくなったら、次は君だ」
アスランは彼の発言を聞いて、全てを理解した。
そうか、全てお前の仕業だったのか。アスランはクルーゼを睨み付ける。
その視線を相手にせず、クルーゼは高笑いしながら去っていく。
アスランは彼の背中を睨みながら叫ぶ。
「悪魔め・・・!貴様のその悪事は、いつか誰かが必ず打ち砕くぞ!
そうやって笑っていられるのも今のうちだ!」
それを聞いてさらにクルーゼの笑い声は大きくなり、やがて消えた。