SD STAR@Wiki

影の戦い

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集

「影の戦い」

 アマルフィ村での戦いを終え、全ての種子を手にしたストライク達。
ラクロアへの帰還の途中、マリューがふと呟く。
そういえば、バスターはアマルフィ村にいたけど、いつの間に
来たの?と。それを聞くとバスターは少々きまりが悪そうに
いや、まぁと言葉を濁す。するとフラガがもういいんじゃない?
とバスターの肩に手を置く。バスターはうむ・・と一呼吸おいて
今まで自分が何をしていたのかを話す。それを聞いてストライクは
何かに気づいたかのようにバスターの方を向き、何かを言おうとするが
その前にマリューがじゃあ、今ラクロアにいるバスターは一体?双子の兄弟でもいたの?
と質問を浴びせる。バスターは今度は即答する。。
「いや、アイツに影武者を頼んできたんだ。我が隊で一番頑固で信頼できるアイツに。」


 「ふえっくしょーい!」バスター、の格好をしたバスターダガーがくしゃみをする。
風邪ッスか、隊長と隊員の一人が尋ねるが、別の一人が隊長はひかないだろ、と言って
バスターダガーにどつかれる。そこまでやって自分も大分影武者に慣れたな、と感じる。
やっぱりアレが原因かな、と少し前に起きた出来事を思い出す。
その日、自分は夜遅く街の酒場で一人で酒を飲み明かしていた。まわりに人はあまりいない、が
こんな夜中でもこの仮面は外せない。正直言って自分にはこの任務は重すぎる。
自分と隊長では、あまりに性格が違う。それに、自分には闘士隊を率いるほどの度量はない。
先日の式典の時の襲撃騒ぎだって、本来ならば闘士隊もザフトの追撃に参加すべきだったのだが、
団長のフラガ殿が気を利かせて闘士隊は残って救出作業、との命令を出してくれた。が、
作業の途中で戦いに参加したかったらしい隊員の一人が不満を漏らし、そこから全員が自分に不満を
あらわにしてきた時はごまかすのが大変だった。そんな事を考えていると酒もまずくなる。
明日も早いしそろそろ勘定を済まそうか、と席を立とうとすると、不審な会話が聞こえてきた。


 「・・・決行は2日後、か・・・いや、早い方が・・・・・しかし・・・・」
最初は気に留めていなかったのだが、途中でラクス、という単語が何度も出てきたのが
気になって気づかれないように椅子を動かし、少し近づいてみる。親衛隊の打ち合わせだろうか。
「・・・やはり早いほうがいい。これは重要な任務だ。ラクス王女暗殺は、必ず成功させねば。」
暗殺、という言葉にびっくりして立ち上がりそうになるが、あちらの様子を見て、座り込んだ。
2~3人のマントで体を覆った男達。フードの中から光るモノアイが恐ろしい。モノアイのMS族自体は
移民してきた者や旅の商人にもいるので気にならない(そういえば忍びジン殿をさっぱり見なくなったな)が、
暗殺をもくろんでいるというのならザフトの者達だろう。どうしよう。誰かに知らせなければ。
団長のフラガ殿や導師様は旅に出ているし、ナタル殿・・・女性を巻き込むのは少々気が引ける。
やはり隊長に・・と考えて「隊長は、俺だったな・・・。」
頼れる者は誰もいない。とても怖い。足が震える。だが、自分がやらねば、王女が・・・王の代わりとして
毎日それまでとは比べ物にならないほど多忙な日々を送っているあのお方が危険にさらされるのだ。
そうだ、あの方は自分と一緒だ。誰かの代わりを演じて、自分を殺している。
阻止するしかない、自分の力だけで。男達の話に耳を傾け、頭の隅で対策を練り始めた。


 ヤツらは王女が毎日昼過ぎに城から出て街の広場で国民の前で歌を披露する時を狙うらしい。
しかしあんな人目につく場所でやるところでは成功しないだろう。恐らく行きか帰りの道でやるつもりだ。
だが大分痺れを切らしているようで、直接襲撃もありうる。常に王女の側にいなくては。
問題は相手がどれほどの使い手か、だ。自分は副隊長を任されて入るものの、選ばれた理由は
筆記の点数が一番で、面接で隊長が「お前みたいのが闘士隊に来るなんて珍しいな。
入ったら副隊長やってくれ。」と言われたから。実技はあまりよくなかったのに・・・
本当は間違えて入隊したという秘密は墓まで持っていくつもりだ。とにかく、あれから数年、一応鍛えてはきたがそんなに
強くなった実感がない。やっぱりかなり不安。男達はしばらく手順を何度も何度も確認していた。
すごい力の入れようだな・・・本当はただのバカなんじゃないのか。さらに2回くらい手順が説明された後、
リーダーらしき男がようやく配置などを語りだそうとした時、もう店じまいだよ、と店主が声をかける。
時計を見ると、もう日付が変わっていた。しぶしぶ出ようとする男達にあわせて自分も出ようとするが、
今の自分の格好を見て気づく。ここまでラクロアの事を調べているとなると、当然隊長の顔も知っているんじゃないろうか。
となるとここで気づかれるのはまずい。壁のほうを向いて顔を見せないようにトイレに逃げ込む。少し経って店を出る。
が、人影は見当たらない。しまった、見失ったか。おそらくどこかに潜伏しているのだろうが、
そう簡単には見つからないだろう。ヘタに騒ぎを起こすわけにも行かない。
とりあえず明日から早起きして王女の側についておこう。そう考えて、少し寄り道をして家に戻って休んだ。
朝。とっくに日は昇っていた。まずい、遅刻だ。昨日飲みすぎたんだ。5時にはおきようと思ったのに
いつもどおりに起きてしまった。隊長が起きる時間に体が慣れきっていたのかもしれない。
急いで宿舎を出て城に向かう。城の雰囲気に似つかわしくないほど慌しく階段を駆け上がり
王の間の扉を開ける。玉座には王女。良かった、まだ生きてた。側には護衛キラが。
「あら、おはようございます、バスター。」
「おはよう・ゼェ・・ございます・・・ゼェ・・・ゼェ。」あぁ、喉が痛い。
「どうかしましたの?そんなに息を切らせて。」
「いや・・・遅刻かな、って・・・・。」
「ふふ、心配しなくてもいつもどおりですわ。」走ってきたので結果オーライか。
とにかく良かった。これでやられていたら泣くに泣けない。王女に見えないように
自分の拳で自分を殴り気合を入れると、不思議そうな顔で自分を見る王女の側についた。


 「バスター、闘士隊の仕事はどうした。」宰相ナタルに声をかけられる。
「いや・・・今日は王女のお側につこうかな、と・・・。」そこまで言うと
ナタルに睨まれる。あぁ怖い暗殺者より怖い。
「心配などしなくても王女のお側には私がつく。お前はお前の仕事をしろ。」
「いや、しかし・・・。」うまい言い訳が見つからない。最大の敵は味方にいたか。
「あら、いいではありませんか。バスターが側にいてくれるならより安心ですわ。」
思わぬ助け舟。これならナタルも文句は言えない・・はず
「そうですか・・・バスター、王女の邪魔をしたら承知しないぞ。」こくこくと頷く自分。この人には勝てない。
そんなこんなで午前は特に事件もなく、いつもどおりだった。王女が昼食のために王の間を出る。
自分もついていく。昼食は夜中ディアッカに出前を頼んでおいた。これなら毒見をする必要もないだろう。
「あら?いつもと違いますわね。」王女が首を傾げる。
「たまにはディアッカのところのもどうかと思いまして。自分もご一緒させていただきます。」
「勝手なことを「まぁ、ディアッカさんの料理は久しぶりですわ。ありがとう、バスター。」
そんなこんなで昼食も終わり、王女は恐ろしいほどの仕事をこなし、ついに例の時間がやってきた。
「それでは、行ってきますわ。」ナタルに挨拶をして王の間を出る。もちろん護衛のキラも
・・・ん?キラ? 忘れてた・・・いつも王女と一緒にいるから空気と化してたよ。なんだ、キラが
いるなら安心だ。でも、一応後ろから様子を伺おう。


 城を出て国の中心にある広場へ向かう王女(とキラ)。忍びジン殿がストライクの
前祝いの時にニートダガー達にベラベラ喋っていた尾行術を使い、様子を伺う。
広場まで半分ほどといったところで、マントでつけフードをかぶった男が前に現れる。
「ラクロアの王女、ラクスだな。」「えぇ、私は確かにラクスですが・・あなたは?」
「名乗るほどの者ではない。貴様の命をもらいにきただけだ。」そう言うと男は
剣を抜き、王女に襲い掛かる。だが当然護衛のキラが前に出る。騎士団の一員ではないが
ラクロアではフラガ殿につぐ実力を持つ人間である。男の繰り出した斬撃を軽く受け流す。
しかしフードの中のモノアイはニヤリとした形を作る。突然、両脇の樽や木箱の中から
同じくマントとフードを装備した男達が現れ、キラの腕に鎖を投げつける。鎖はキラの
両腕に巻きつき、動きを封じる。「しまった!」一人しかいないから妙だとは思ったが奇襲とは。
ずっと隠れてたのか?とにかく、キラの動きが封じられ、最初に出てきた男が王女に近づく。
あの男、恐らく強い。しかし自分が出なければ王女が危ない。脚が震える。隊長・・・自分に
隊長の10分の1でいい、力と勇気を・・! 拳をぐっと握る。やるしかない。茂みから前に出る。
「待て!貴様の相手は、この俺だ!」


 「なんだ?貴様。」「バスター!」名乗ろうとすると王女が叫ぶ。
「ほう、貴様が・・・おもしろい、貴様を倒してから王女をやらせてもらうとしよう。」
男が襲い掛かってくる。威勢良く前には出たが、やっぱり怖い。武器で受け止めるが、
押されてしまう。そして右から蹴りが飛んでくる。踏ん張るが衝撃が体に走る。
続いて突きの嵐。手にした斧兼槌では捌ききれず、いくつか直撃を受ける。
「グ・・・!」つ、強い・・・やはり自分では無理なのか・・?
「バスター!」「フン、この程度か。ラクロアの闘士バスターもたいしたことはないな。」
それを聞いて、受けた傷で朦朧とした意識がハッキリとする。そうだ、今自分はラクロアの
闘士バスターなんだ。自分が、いや俺がこのまま負ければ隊長の顔に泥を塗る事になる。
コイツは、絶対にこの手で倒さねばならない。倒れようとする体に力を込め、男の前に立ち塞がる。
「まだやる気か?弱小闘士。」「弱小かどうか、見せてやんよ・・!。」
無視するように王女に襲い掛かろうとする男。その顔面に、今までとは比べ物に
ならない速さで思い切り拳を打ち込む。吹っ飛ばされた男は何が起きたのかわからない顔をしていた。
「ば、バカな・・・!」「オイ、無視してんじゃねぇぞモノアイヤロー。ぶっ殺す!」


 「ば、バスター・・?」明らかにいつもと違う雰囲気のバスターに驚くラクス。
「どうやらキレちゃったみたいですね。」いつの間にかキラが隣にいた。鎖を巻きつけていた
男達は見事にやられていた。吹っ飛ばされた男は剣を取りさっき繰り出した突きを放つ。
バスターダガーはそれをよけようともせずに全て体で受け止める。無論、体からは血が噴出している。
「なんだと・・貴様、そこまで体を張るとは、バカか?」最後の一撃で刺さった剣が抜こうとするが、
バスターダガーが剣を握っているために抜けずに慌てる。傷だらけになりながらバスターダガーは
「てめぇなんかに王女をやらせるわけにはいかねェんだよ。隊長として、国民としてな。
王 女 は 俺 た ち の 太 陽 な ん だ  !」そう叫んでもう一度拳を叩き込んだ。
吹っ飛ばされた男は盛大に血を撒き散らす。その間に武器を拾い上げたバスターダガーは男に武器を向ける。
「ヒィィ!」男は完全に怯えている。男に向かってバスターダガーは
「前言撤回しろ。ラクロアの闘士バスターは決して弱くなんかねェってな。」そう言って武器を近づけた後
倒れた。血を出しすぎたらしい。今度こそ意識が朦朧としている。隊長、俺やりましたよ・・・こりゃ、死んだかな・・・。


 目が覚めると、城の中にいた。ベッドの上で体中に包帯が巻かれている。頭がくらくらする。
確か王女を守ろうと前に出たはいいが、そのあとどうなったか記憶が曖昧だ。だが。側に座っていた
王女が俺に向かって微笑むのを見てどうにかなったことを確信する。しかし、自分の顔に仮面がついていないことに気づく。
慌てる自分を見て王女がにっこり微笑む。あぁ、ついにバレてしまったか・・・。
「急に倒れてしまうから、ビックリしましたのよ。だけど、命に別状はないみたいですわ。」
がっくりとうなだれる自分を見て、フォローするかのように喋る王女。窓の外を見ると陽は落ちかけていた。
今までずっと看病してくれていたのだろうか。申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「すいません、自分の力が至らないばかりに・・・あの男たちは、どうなりました・・?」
「騒ぎを聞いたナタルさんたちが駆けつけて、皆さんで城に連れて行ってしまいましたわ。
今頃はこってり絞られているでしょうね。」またも微笑む王女。とにかく、守れてよかった。
「これ、お返ししますわね。」王女が仮面を取り出す。
「あの・・・この事は」と言いかけて王女が自分の口元を手でふさぐ。
「大丈夫です。部屋に入るまで外していません。部屋の前にいるキラにも秘密ですわ。
何か事情があるのでしょう?」黙って頷く。王女は窓の外を見ると、自分に向かってこう言う。
「あらあら、もうこんな時間ですわね。今日は皆さんに唄を披露する事もできませんでしたし、
あなたを看病していたから午後の仕事もやっていませんわ。」微笑みながら言う。
すいませんと謝ろうとすると、
「ですから、お礼といっては何ですけれど、今日は貴方のために歌いますわ。ねぇ、バスター。」
「そんな、お礼なんて・・・当然のことをしたまでですよ。」 『バスター』は胸を張って答えた。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
人気記事ランキング
ウィキ募集バナー