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覚悟

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「覚悟」

山の中を、一人の男が歩いていた。その体はマントで覆われ、顔はフードで覆われていてわからない。その男は周囲に気を配り、なるべく人目につかないよう歩く。もちろん足跡も残さずに進む。そしてたどり着いた先、巨大な崖の下、いわゆる行き止まりである
その場所で立ち止まる。
そこから西に1、2・・・4歩進んでまた立ち止まる。壁の方を向き、壁に向かって手を延ばす。壁は押し込まれ、カチッ、と何かが押されるような音がする。
するとその男が最初に立ち止まった場所の壁が動き、通路が開かれる男はもう一度まわりを確認する。誰もいない事を確認した後、開かれた通路へと入っていった。その通路は、男の手によって開かれてから10秒ほどして自動的に閉まり、再び何の変哲もない岩壁と化した。


 村があった。のどかで、平和な村。はしゃいで走り回る子供達、農作業に勤しむ農夫達。
そんな光景を穏やかな表情で見つめながら歩く人物がいた。精悍な顔立ちに、刻まれた皺、立派な髭が威厳を感じさせる初老の男性であった。農夫がその存在に気づき、挨拶をする。男性も挨拶を返し、会話を交わす。すると、先ほどのマントの男が歩いてくるのを確認する。
「ウズミ様、エムワンエースただいま戻りました」
「うむ、長旅ご苦労であったな」
ウズミと呼ばれた男性がエムワンエースと名のる男の肩に手を置く。
「いえ、これくらい。それよりも」
「?」
「あの話は本当のようです」
「・・そうか。それも含めて私の家で話を聞こう」
「はい」


ウズミの家、テーブルを挟んで向かい合う二人。
「・・・ということは、やはり」
「えぇ、種子が目覚めたのは伝承にある“アレ”の復活に関係しているかと」
「そして“アレ”は今ザフトに潜んでいるというのは確かなのか?」
「えぇ、一応両方の国に行ってみてそれぞれ感じた事は、ラクロアは襲撃された後にも関わらず人々にも活気があり、王は療養中との事でしたが、(かわいい)姫と(美人の)宰相がきちんと応対してくれました。一方のザフトは街中は静かで、城に行ったら門前払いを喰らいました。それに」
「それに?」
「ザフトから帰る途中、ザフトの兵が送り込まれているというアマルフィ村へと立ち寄ろうとしたのですが、ひどい有様でした。そして村を焼き払っていた巨大な戦車。古文書や石版でアレと似たようなものをいくつか見たことがあります。おそらく“アレ”が関与して作られたものかと」
「ふむ・・・“アレ”がどこまで入り込んでいるのかはわからないが、ザフトは敵とみなした方がよいな。そしてラクロアがいくつまで種子を集めているのかはわからないが、次に“アレ”が狙うのはここにある種子のはずだ」
ウズミが顎に手をやる。
「やはり、戦いですか」
エムワンエースがウズミの瞳をまっすぐ見つめる。
「もちろん話し合いで解決済むのが一番だが、“アレ”にはそういった観念は恐らく存在しない。力づくで奪いに来るだろう」
「ここが、戦場に・・・」
うなだれるエムワンエース。ウズミは立ち上がり、窓の外を見る。
「こういう時のために私は若いお前達を鍛え上げ、用意していたモノもある。自分たちの居場所は、自分たちの手で守るしかないのだ」
「そうですね・・・」
「まずはゆっくり休みなさい。私は他の首長達と話し合ってくる」
「はい、それではまた」
エムワンエースは一礼した後、家から出る。ふぅ、とため息をつくと
村の広場へと向かったのだった。


「エムワンエースだぁ!」
「おかえりなさい!」
「外はどうでした?」
エムワン三姉妹を筆頭に子供達や大勢の人々が集まってきた。
「大変だったろう。後でウチで飲んでくかい?」
「アンタの好きなマッシュグーンのシチュー、たくさん作っといたよ!」
「ねぇねぇ今度はどこへ行ったの?」
ひとつひとつにキチンと返事をしながら、エムワンエースはマントの中から袋を取り出す。
「まずはお土産だ。ラクロアのカードダスもあるぞ」
村の広場で出来たひとだかりを見て、一人のMS族の女性が歩いていく。
わぁいと駆け回る子供達を見て声をかける。
「あら、どうしたの?」
「ルージュお姉ちゃん!」
「エムワンエースが帰ってきたんだよ!これ、エムワンエースにもらったんだ!」
一人の少年がキラキラとしたカードダスを見せる。
「それは良かったわね。でも、転んだりしたら危ないからあまりはしゃぎすぎてはダメよ」
「うん!」
子供達を見送り、人だかりへと近づいていく。中心ではエムワンエースが手に入れた品々を人々に説明していた。


「・・・で、こんな調味料も手に入れたんだ」
「エムワンエース,おかえりなさい」
「ルージュ!」
エムワンエースが立ち上がる。
「お疲れ様。今回は東の道を使って帰ってきたのね」
「あぁ、一番近いのがそこだったからな。それより外の話、聞かないか」
「えぇ、そのつもりで迎えに来たのよ。マーナがお茶を淹れて待ってるわ」
「そうか、じゃあそうしよう。みんな、また夜の宴で」
あぁ、行って来いこの色男!などの野次を背に、
ルージュと肩を並べて歩くエムワンエース。何かを言いかけるが
「あ、あの・・」
「ちょっと待ったぁ!」
「何か忘れてるでしょ!」
「私達への」
「「「お土産はぁー!?」」」
エムワンエースがげ、と露骨にイヤそうな表情を作る。
その表情を見た三人は彼を取り囲むと
「いっつもいっつもエムワンエースばっかり」
「外に出るなんてずるいよぉ」
「私達は一度も出た事ないのに・・」
一気に言葉を浴びせかけて圧倒する。
「・・・で、何が欲しいんだお前ら」
「「「カードダス!」」」
「何だと?」
「なんか色々持ってたじゃん!」
「だから一枚ずつ」
「くださいな」
エムワンエースはため息をつく。
「はぁ・・お前ら、いい加減カードダスなんて卒業しろ。大体ほとんどチビ達にあげてしまったから無いよ」
「そんな事言っていいのかな?」
「あたいら見ちゃったんだよねぇ」
「エムワンエースの留守中に・・・」
「何を?」ニヤニヤと笑う三姉妹。首を傾げるエムワンエース。
「しらばっくれるつもりならいいんだけど」
「この事お姉さまに言っちゃうよ?」
「今のうちに渡しておいた方がいいですよ?」
「な、何を見たのかは知らんが無いものは無いんだ!諦めろ!」
「どうしたの?」
騒ぎ立てる三人にルージュが問いかける。
「あのねールージュさま!」
「エムワンエースの部屋にはえっちぃカードダ「待て待て待て!君達、どれがいいのかな?」
エムワンエースが懐からカードダスを取り出す。目にも止まらぬ早業だった。三人はそれぞれ気に入ったらしいものを選ぶ。
「クソッ、レアなやつばかり取っていきやがって・・交換用だったのに」
「なんか言った?」
「いえ何も」
そのやりとりを見ていたルージュは一言、
「エムワンエースは優しいのね」
「い、いやぁこれくらい」
照れるエムワンエースを突き飛ばし剣士M1が
「ねールージュさま見てー!この人カッコよくないですか?」
そう言ってキラキラとしたカードダスを見せる。青い、近衛騎士のカードが描かれていた。
その顔を見て何か懐かしいような感覚を覚える。だが、理由はわからない。
(一体何なのかしら・・・)
「えぇ、そうね・・とても威厳を感じるわ。さぞ立派な騎士なのでしょうね」
きっと気のせいだ、そう思うことにする。はしゃぐ三人と何故か首を傾げるルージュを見て、エムワンエースは何かを考えていた。


その後守備隊の詰め所へ行き、ルージュや三姉妹、それに大勢の兵士達に外で見てきたものの話をする。ラクロアにある食堂ではライスを使った珍しい、しかも大変うまい料理が食べられる、どこの町かは忘れたが情報を生業として生きる人々の集団がおり、色々な情報を“売って”いることなど、様々な話で盛り上がる。
途中で入ってきたカガリも含め、
まだ若いほとんどの者達はその話に目を輝かせていた。そして日が暮れ、夜になる。
エムワンエースが無事帰ってきた事を祝い、宴が始まる。主役であるエムワンエースは、すでに何度もした話を周りを囲む人々に話す。だんだん酒が入ってきていい加減な脚色がされていたりしたが。
宴も終わる頃、片付けが始まり酔いも冷めてきたエムワンエースは広場の外で夜風に当たろうと歩き回る。そこでルージュを発見する。まっすぐな瞳、凛とした表情。どんな事を思っているのかは知らないが、自分はこの表情が好きであり、嫌いでもある。この表情の時は大抵元気がないのだ。彼女がこんな表情をしないで済むにはどうすればいいのだろう。
立ち尽くしていた自分にルージュの方が先に気づく。
「あら、エムワンエース。どうしたの?」
「いや・・・ちょっと夜風に当たろうかなと」
「そう・・・」
イカン、ここは励まさないと。そう思ってエムワンエースは話を切り出そうとする。
「ルージュ。あのな・・・」
「こんなところにいたのか!お姉さま、エムワンエース。お父様が呼んでいるんです、
ちょっときてもらえませんか」
また寸止めか、と叫びそうになるが叫ぶわけにはいかない。
ウズミの家――つまりルージュとカガリも住んでいる家、の居間に到着する。ウズミは深刻そうな表情だ。


「おぉ、来てくれたか。すまないな。カガリは少し下がっていなさい」
カガリは少々不満げな顔を見せたが
「はい、わかりましたお父様」
しぶしぶ出て行った。
「さて・・ルージュにはまだ話していなかったが、おそらくもうすぐここへザフトの軍が
やってくる。できれば話し合いで解決したかったが、エムワンエースの話によればそれも不可能だ」
うろたえるエムワンエースと、全く動じないルージュ。
「それで、戦いですか」
「あぁ、そうだ」
「そうですか・・・仕方ありませんね」
「ルージュ!?君はここが戦場になってもいいというのか?」
慌てて口を挟むエムワンエース。それに対してもルージュは冷静そのもので、
「そういうわけではないわ。だけど、もうザフトが攻めてくるのは決定的なんでしょう?
なら、戦う覚悟は必要よ。」
「それは、そうだが・・・」
うなだれるエムワンエース。それを見てウズミが口を開く。
「うむ、誰かが皆を守るために立ち上がらなければならないのだ。そのためにお前達二人を呼んだのだからな」
「えぇ、お義父様に鍛えていただいた剣で、命をかけて戦います」
「そんな!ウズミ様はルージュを前線に出すというのですか!」
激昂するエムワンエース。
「私はそのつもりよ」
「危険すぎる!」
「危険すぎるからと言って私だけが引っ込むわけにはいかないわ」
「それは・・・」
「エムワンエースは私に黙って指をくわえて見ていろとでも言うの?」
「そういうわけじゃないが・・」
「ルージュ、少し落ち着きなさい」
興奮のあまり、いつの間にか椅子から立ち上がっていたルージュ。我に返り、落ち着きを取り戻す。
「エムワンエースの気持ちも察してやりなさい。彼は・・「ウズミ様!」あぁ、すまない。」
顔を真っ赤にするエムワンエース。少し落ち着いたルージュだが、
「それでは誰がここを守るのかしら?」
相変わらずキツイ質問を投げかける。今の自分に、とても俺が守ってやると言えるほどの力はない。黙るエムワンエース。それを見てウズミが口を開く。
「エムワンエースの気持ちもわからんではない。だが現状ではルージュにも頼るしかないのだ。私もそれは辛い。わかってくれ・・・」
結局戦闘の際はルージュとエムワンエースが前線で指揮をとり、地の利を生かして戦うこととなった。
敵の戦力はどれほどかはわからないがとにかく短期決戦の方向でいくらしい。
納得のいかないままウズミの家を出る。ルージュが玄関まで見送る。
「おやすみなさい、エムワンエース」
「あぁ、おやすみ」
「さっきはごめんなさいね。だけど、私にとってこれはまたとない機会なのよ」
「機会?」
「そう、私を拾って育ててくれた皆へ私ができる精一杯の恩返しができる機会」
その言葉を聞いて一瞬固まるエムワンエース。だが、すぐに気を取り直し
「だからって命を懸ける戦いに参加する必要は・・!」
「大丈夫よ、この日のために鍛えてきたんだもの。でも、もしもの時は」
「もしもの時は?」
「私を助けてくれるかしら?」
「・・あ、あぁ!もちろんだ!」
そして家を出て帰り道、神殿に立ち寄る。神殿の中には大昔の遺産の他に、
古文書や石版から発見されたものを再現しようと作られたものを保管している部屋がある。そこへ入り、真ん中の台に置かれている「あるモノ」を眺めるエムワンエース。
『こういう時のために私は若いお前達を鍛え上げ、用意していたモノもある。自分たちの居場所は、自分たちの手で守るしかないのだ。』
ウズミの言葉が響く。そうだ・・・今の俺に力はなくとも、これを使えば。
これを使えばルージュもみんなも守れる。
覚悟は十分、後は力だけなんだ・・どうか、力を貸してくれ・・・。
誰もいない部屋の中でエムワンエースは拳を握りしめた。
愛する人を、故郷を守る覚悟を胸に。
だが、彼が使おうとした『力』は皮肉にも彼が愛する者が使う事になる。
だが、それはまた別の話。

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