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信じるもの

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「信じるもの」

  「待ちたまえ、イザーク」
アマルフィ村での戦闘についての報告書を提出し、部屋から
出ようとするイザークを呼び止める部屋の主。
「何か問題でも?クルーゼ殿」
イザークは立ち止まって振り返り、
少々キツめの瞳をさらに鋭くして部屋の主の方を向く。
クルーゼはその蒼い瞳を一瞥すると
「この報告書によると超重戦車部隊の敗北を確認後、森の外で倒れている
デュエルシュラウドを発見、回収して撤退、とあるが」
机に積まれている書類のうちひとつを取り出し
「これによれば同時に種子の適合者を発見するも、隊長の指示でデュエルシュラウド
回収を優先、適合者は放置・・・これはどういうことかね?」
イザークは顔をゆがめ、
「申し訳ありません、その事を記しておくのを忘れていました。自分のミスです」
その表情を隠すため頭を下げた。
「君も人間である以上、間違いを犯すのは仕方が無い。しかしそれはともかく
何故適合者を連れてこなかった?」
ここで初めてクルーゼの口調が怒りを込めたものに変わる。
「いくら君達でも戦闘後で消耗している適合者を連れてくる事ができただろう?
たとえ多少の犠牲を払ったとしても、だ」
「部下の命をそのように扱う事はできません。それに、」
「何かね?」
「我々の任務は後方からの監視です。我々だけではあれを力ずくで連れてくるのは
不可能でした。超重戦車ほどの戦力があれば話は別ですが」
イザークは直立不動のままクルーゼを見据えて答える。挑発ともとれるその態度に対しクルーゼは声を低くする。
「・・・まさかとは思うが」
「何か?」
「君は自分がメンデルの大森林攻略部隊の指揮から外された事や私の用意した超重戦車に対する不満からこんなことをしたのではあるまいな?」
「まさか」
仮面で隠れてはいるが明らかに憎悪が感じられるその雰囲気に圧倒されつつも平然と答えるイザーク。
「・・・まぁ、君がそんなささやかな抵抗をするような小物だとは思わん。しかし、
君がミスを犯したのは事実だ。相応の罰は受けてもらう。これからはしばらく前線を離れ、この城の守備につきたまえ」
イザークは何も答えなかった。
「我々も必死なのだよ・・・君のように前線に立つ者に勝手なことをされては困る。
我々を脅かす種子に関わる事なら尚更、だ。これから大きな戦いもあるのだから」
「大きな戦い?」
訝しがるイザーク。クルーゼはそんな彼を疎ましそうに睨む。
「君には関係の無い事だ。さぁ、話は終わりだ。下がりたまえ」
「・・・はい」
イザークは踵を返し部屋から出て行く。それを眺めていたクルーゼは扉が
閉まった後、静寂が支配する部屋で呟く。
「所詮人間か・・・それなりに期待していたのだが。やはりMS族の方が扱いやすいな」


 部屋を出て静かにため息をつくイザーク。やりきれない思いで廊下を歩いていると、デュエル・・いや、デュエルシュラウドと遭遇する。この鎧をつけてからすっかり人が変わってしまった。まるで別人だ。もう会話を交わすこともなくなった。
が、一応声をかける。
「おい、傷はもう大丈夫なのか」
するとそれまで黙って通り過ぎようとしていたデュエルシュラウドの様子が一変し、こちらを振り向き詰め寄ってくる。
「貴様・・・何故あの時俺を連れ帰ったりした!」
その威圧感に気おされながらも反論する。
「あのままではお前は危なかったのだぞ!そんな状態のヤツを放っておけるものか!」
「余計な事を!あの時俺はまだやれた!貴様が余計な事をしなければ今度こそ、
ストライクを・・・!」
「何を言う!お前はそこまで弟を殺したいというのか!血をわけた実の兄弟だろう!」
「殺したいとも!ヤツは殺さねばならんのだ、俺が俺であるためにな!」
「・・・もういい」
これ以上の会話は無意味と判断し、憎しみの表情しか見せないデュエルシュラウドを哀れむように睨んだあと、肩を掴む手を振り解き再び廊下を歩き出す。
「フン」
てっきり掴みかかってくるだろうと思っていたデュエルシュラウドは
面白くなさそうな顔をしてクルーゼの部屋へと向かった。


 「悩み事か、イザークよ」
城のバルコニーでまたもため息をつき空を眺めていると
後ろから声をかけられる。振り向くとそこにはザフト騎士団長・シグーが立っていた。
「師匠(せんせい)…!自分は、一体どうしたらよいのでしょうか」
イザークは先ほどの出来事を全て包み隠さずに話す。自分がクルーゼに関して不信感を抱いている事も。この人なら全てを打ち明けられる、それほどにイザークはこの男を慕い、尊敬していた。
「自分は、一体どうすればよいのでしょうか・・・」
イザークは不安げな表情でポツリともらす。その表情を見てシグーは腕を組み、
「ふむ・・・確かに私も彼には何か不審なものを感じるし、信用はしていない。だが、国を守る騎士がそんなことではいかんな」
意外にも厳しい口調で返答するシグーに驚いた表情を作るイザーク。
「しかし…!」
「イザークよ、お前は何のために戦う?私は、陛下と、この国の民を護るために戦っている。そして陛下は世界を統一し安定した世界を作るために努力しておられる。ならばそのためには何があっても迷わず剣を振るうべきだと私は考える」
イザークはその言葉に噛み付くように反論する。
「ですが、近頃の陛下の様子は明らかにおかしいではないですか!以前ならこんなことはなかった!それにアスラン王子も『見聞を広める旅に出る』とだけ書き残して行方知れず・・・これはおかしいとは思わないのですか!?」
「陛下には陛下の、王子には王子のお考えがあるのだ。我々が口出しすべき事ではない」
この男、シグーは無駄な殺生は望まないなど決して悪い男ではないのだが、意志が固く、かなり信念に凝り固まっている。結構な間ザフトに仕えてきたので王に対する忠誠は絶大であった。
逆にクルーゼに対する不信感もかなりのものだが、戦うことしか知らない彼はクルーゼにとっては道化でしかなかった。そんな事実も知らずに彼はイザークを諭す。
「とにかく今は戦うしかない。戦い続ければ、おのずと答えは出るだろう。お前は前線から外されてしまったようだが、その分私が戦う。だからお前は陛下と、民と、我々が帰ってくる場所を守ってくれ。頼んだぞ」
イザークの肩に手を置き、言いたい事を言ってシグーは城の中へと入っていってしまった。どこか強い決意のようなものを感じるその背中を見送ってイザークは考える。
確かに、ザフトの騎士として国のために戦う事は重要かもしれない。だがクルーゼの振る舞いや言動、ラクロアを裏切りやってきた二人の騎士の変貌ぶりを考えるとやはり得体の知れない不安を感じるのだ。一体自分はどうするべきなのか・・悩んでも答えは出そうにない。
気分転換にでも街を見回るか、そう考えて城を出る。すると城の前の立て札に貼られた紙がふと目に付く。その内容は更にクルーゼへの不信感を募らせるものであったが、
それはまた別の話。

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