「墓前にて」
ザフト国・共同墓地。近隣諸国に対して戦争を仕掛けてから
圧倒的に墓の数が増えたこの場所で、毎日のように姿を見せる者が一人。
ザフト騎士団長・シグーであった。その面持ちはどこか険しく、体中にはまるで木乃伊のように包帯が巻かれている。
新しく出来上がった墓全ての花を取り替えて手を合わせ祈りを捧げる。
一通りの動作を終えた後、目の前の特に新しい3つの墓に向かって呟いた。
「何故死んだ…ミゲルジン、ディープアームズ…!」
かつて自分の教え子だった者達が眠る墓。もっとも、ミゲルジンが殉死した
ヘリオポリス神殿は原因不明の崩壊により入り口は崩れ死体の捜索は
不可能となり、ディープアームズも死体が見つからなかったため、墓の中には
彼らの遺品しか入っていない。それぞれの墓に向かって、シグーは優しく語り掛ける。
圧倒的に墓の数が増えたこの場所で、毎日のように姿を見せる者が一人。
ザフト騎士団長・シグーであった。その面持ちはどこか険しく、体中にはまるで木乃伊のように包帯が巻かれている。
新しく出来上がった墓全ての花を取り替えて手を合わせ祈りを捧げる。
一通りの動作を終えた後、目の前の特に新しい3つの墓に向かって呟いた。
「何故死んだ…ミゲルジン、ディープアームズ…!」
かつて自分の教え子だった者達が眠る墓。もっとも、ミゲルジンが殉死した
ヘリオポリス神殿は原因不明の崩壊により入り口は崩れ死体の捜索は
不可能となり、ディープアームズも死体が見つからなかったため、墓の中には
彼らの遺品しか入っていない。それぞれの墓に向かって、シグーは優しく語り掛ける。
「…お前の剣の腕は私をはるかに越えていた。人望もあった。
いつかは騎士団長の座を譲ろうとも思っていた。だが、今はまだ早いと経験を積ませるために様々な戦場に送り込んできたのは間違っていたのかもしれん…お前が手柄を焦って死んでしまったのは、私のせいだ。許してくれとはいわない。ただ、謝らせてくれ」
そして隣の墓に視線を移す。
「お前はまだまだ未熟者で思慮も浅く私をよく困らせたが、武芸に関しては光るものがあった。いつかはミゲルジンと共に、騎士団を…」
もう起こりえない未来を想像し、シグーは天を仰いだ。
さらに隣の墓―同期のよしみで作った超重闘士グランドザウートの墓の前に立つ。
「お前は戦う事しか考えない狂人ではあったが…戦場で死ねて少しは幸せだったのか?今はまだ死ねんが、いつか答えを聞かせてくれ」
そう言って花を添える。彼の生涯では関わりがなかったであろう、美しい花――ザフトの国花であるそれを抱え、墓地の中心にある墓へと向かった。
いつかは騎士団長の座を譲ろうとも思っていた。だが、今はまだ早いと経験を積ませるために様々な戦場に送り込んできたのは間違っていたのかもしれん…お前が手柄を焦って死んでしまったのは、私のせいだ。許してくれとはいわない。ただ、謝らせてくれ」
そして隣の墓に視線を移す。
「お前はまだまだ未熟者で思慮も浅く私をよく困らせたが、武芸に関しては光るものがあった。いつかはミゲルジンと共に、騎士団を…」
もう起こりえない未来を想像し、シグーは天を仰いだ。
さらに隣の墓―同期のよしみで作った超重闘士グランドザウートの墓の前に立つ。
「お前は戦う事しか考えない狂人ではあったが…戦場で死ねて少しは幸せだったのか?今はまだ死ねんが、いつか答えを聞かせてくれ」
そう言って花を添える。彼の生涯では関わりがなかったであろう、美しい花――ザフトの国花であるそれを抱え、墓地の中心にある墓へと向かった。
ザフト王妃の眠る墓。シグーはそこまで足を運ぶと時間をかけて丁寧に墓石を拭き、
花を取り替えた。それまでと同じように、手を合わせ祈りを捧げる。
(レノア様…今陛下がしておられることは正しいのでしょうか、それとも…どちらにせよ私は陛下のために戦う事しかできぬ愚か者です。貴女様がおられれば…)
数年前に病によって倒れ、治療の甲斐も空しく2年前この世を去った王妃。
王は王妃が病に倒れたのと時を同じくして現れた得体の知れない男――クルーゼに政治を任せきりで、現在ではほとんど顔も見せず、墓の手入れも自分の手でしなくなった。
「せめて殿下がおられれば…」
こんな時間に墓にいるのは自分だけだが、弱音にも等しい独白をシグーは恥ずかしく感じ慌てて思考の渦に意識を委ねる。
『自分を鍛え、見聞を広めるために旅に出る』とだけ書き残し突然行方をくらませた王子アスラン。
彼にしてはあまりに不自然なその行動に疑問を感じつつ、捜索隊を送ってはいるが一向に見つからない。何者かに誘拐されたのではという根も葉もない噂がたっているが真相はわからない。
黙祷を終え、ふと墓石を洗うのに使ったバケツの中の水面に映った自分の姿を目にする。
花を取り替えた。それまでと同じように、手を合わせ祈りを捧げる。
(レノア様…今陛下がしておられることは正しいのでしょうか、それとも…どちらにせよ私は陛下のために戦う事しかできぬ愚か者です。貴女様がおられれば…)
数年前に病によって倒れ、治療の甲斐も空しく2年前この世を去った王妃。
王は王妃が病に倒れたのと時を同じくして現れた得体の知れない男――クルーゼに政治を任せきりで、現在ではほとんど顔も見せず、墓の手入れも自分の手でしなくなった。
「せめて殿下がおられれば…」
こんな時間に墓にいるのは自分だけだが、弱音にも等しい独白をシグーは恥ずかしく感じ慌てて思考の渦に意識を委ねる。
『自分を鍛え、見聞を広めるために旅に出る』とだけ書き残し突然行方をくらませた王子アスラン。
彼にしてはあまりに不自然なその行動に疑問を感じつつ、捜索隊を送ってはいるが一向に見つからない。何者かに誘拐されたのではという根も葉もない噂がたっているが真相はわからない。
黙祷を終え、ふと墓石を洗うのに使ったバケツの中の水面に映った自分の姿を目にする。
そこに映る銀の騎士は、体中に巻いた包帯のせいもあって妙に情けなく見える。
「何が騎士団長だ、何が『銀色の風』だ!地位や名誉があっても何もできないではないか…!」
自分が何もできないから未来ある若者が死んだ、王妃の病気を治す秘薬も術師も探し出せなかった、
その上自分は傷を負い、くすぶっている。途方もない自責の念がのしかかり、墓の前で肩を落とし膝をつく。
自分はどうすればいいのか。クルーゼは信じられないが、陛下はクルーゼに全てを任せている。
どうすればいい?幾度となく続けてきた自問自答。未だに答えは出ない。しかし、墓前で悩んだとしても
それは一人で悩んでいるのと違いはないのだ。死んでいる者に出来る事はない。生きている者が、やらねばならぬのだ。
ようやく、シグーは心の底ではすでに出ていた結論まで達した。
自分は騎士だ。結局のところは戦うしかない。
ただ、クルーゼの言いなりではない、自分の意志で、戦場に出る。
ヤツの独断でまだ生き残っているイザークら未来ある若者達を死なせないためにも、
自分が積極的に前に出るしかない。
戦いの中で、何が正しいのかおのずと見えてくる――シグーは、そう信じたかった。
「何が騎士団長だ、何が『銀色の風』だ!地位や名誉があっても何もできないではないか…!」
自分が何もできないから未来ある若者が死んだ、王妃の病気を治す秘薬も術師も探し出せなかった、
その上自分は傷を負い、くすぶっている。途方もない自責の念がのしかかり、墓の前で肩を落とし膝をつく。
自分はどうすればいいのか。クルーゼは信じられないが、陛下はクルーゼに全てを任せている。
どうすればいい?幾度となく続けてきた自問自答。未だに答えは出ない。しかし、墓前で悩んだとしても
それは一人で悩んでいるのと違いはないのだ。死んでいる者に出来る事はない。生きている者が、やらねばならぬのだ。
ようやく、シグーは心の底ではすでに出ていた結論まで達した。
自分は騎士だ。結局のところは戦うしかない。
ただ、クルーゼの言いなりではない、自分の意志で、戦場に出る。
ヤツの独断でまだ生き残っているイザークら未来ある若者達を死なせないためにも、
自分が積極的に前に出るしかない。
戦いの中で、何が正しいのかおのずと見えてくる――シグーは、そう信じたかった。
「クルーゼめ、何を考えているのかは知らんが、いつか貴様の化けの皮を剥いでやる。その日までせいぜい好き勝手やっているがいい」
拳を握り締め決意を述べると、体中に巻かれた包帯を全て外す。
まだ少し残ってはいるが、傷はほぼ閉じたといっていい状態であった。
(もはや安らぎや休息など必要ない。真実を見つける日まで、私は修羅となろう)
新たな決意は、くすんだ鎧に輝きを取り戻す。
「ラクロアのフラガにも、この傷の借りを返す。私は生きよう。戦うために」
しかし目の前の墓からはそんなシグーの決意を嘆くかのような雰囲気が漂っていた。
例えどんなにあがこうとも、邪悪なる意志の手のひらの上で踊らされているに過ぎないという事を少しでも伝えようとするかのように。
拳を握り締め決意を述べると、体中に巻かれた包帯を全て外す。
まだ少し残ってはいるが、傷はほぼ閉じたといっていい状態であった。
(もはや安らぎや休息など必要ない。真実を見つける日まで、私は修羅となろう)
新たな決意は、くすんだ鎧に輝きを取り戻す。
「ラクロアのフラガにも、この傷の借りを返す。私は生きよう。戦うために」
しかし目の前の墓からはそんなシグーの決意を嘆くかのような雰囲気が漂っていた。
例えどんなにあがこうとも、邪悪なる意志の手のひらの上で踊らされているに過ぎないという事を少しでも伝えようとするかのように。