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騎士ミゲルジン、そして近衛騎士デュエルとの激闘の末に一つ目の種子を手に入れたストライク一行。
勝利の余韻はなく、ただ戦いが終わった事に対する安堵が彼らを包んでいた。
「やれやれ、なんとか助かったな…」
誰もいなくなった神殿で、騎士団長フラガが首を左右に曲げて鳴らしたあと大きく息を吐く。
「全く、あともう少しストライクが遅かったらどうなっていた事やら」
「仰るとおりで」
老導師メビウスゼロが自身をも戒めるような険しい口調で言い、フラガが苦笑交じりに同意する。
一方、闘士ストライクは種子の力を使った反動で体力を消費して動けないため、副団長マリューに介抱を受けていた。
だがその表情は曇っており、疲れだけではない何かが渦巻いている。
「どうにか最初の種子が手に入って、安心したわ。ストライクのおかげね」
マリューが床に座り込みうなだれるストライクに穏やかな口調で語り掛けた。
しかしストライクは視線を落としたままで何も答えない。
「やはりデュエルの事、気にしているの?…あれは事故だったのよ。故意にやったわけではないんでしょう?」
慌てて慰めるマリューに対し、ストライクが消え入りそうな声で静かに呟く。
「事故なんかじゃない…俺は兄さんを、傷つけてしまった…この手で…」
ストライクが、自身の言葉で何かにはたと気づき表情を変えた。
何かを、忘れている。
いつかもこんな事があったような―――しかし、どれだけ探ろうと錆びついた記憶の扉が開く事はない。
俯いたまま沈黙するストライクを見かねたフラガが口を挟み、そのまま続ける。
「そいつは気にしなくてもいいだろ。それとも何か?ザフト兵は倒せても、デュエルを傷つけるのは嫌か?」
フラガの視線の先には、先ほど戦ったザフト兵達の遺体が並べられていた。当然その中にはストライクが種子の力で倒した、大口を叩きつつもそれに見合う確かな強さをもっていた橙色の鎧の騎士の姿もある。覆い隠してやる布がないため、むき出しの光景にフラガの表情はやや重々しいものとなった。
ストライクは、遺体には目を向けずに顔をゆがめて辛そうな口調で言う。
「当たり前だろ…兄さんはっ…!」
「どっちも敵だよ…今はな。あっち側についたってことは、俺達と戦う覚悟もできてたはずだ」
フラガとしてもいつかは剣を交え、こういう事が起きるのは十分予想の範囲内であった。
ただあまりに早すぎて、少々面食らいはしたが。
「俺はまだ、兄さんが裏切ったなんて信じたくない」
ストライクはいよいよ記憶の発掘を諦め、目の前のあくまで現実的な意見に難色を示す。
「そりゃあ俺だって、そうだけどさ…」
フラガが困った様子で頬を指で掻く。 断固認めまいと思っても、事実としてデュエルは刃を向けてきたのだ。自分達と違って、何の躊躇もせず。
だからといってこちらも遠慮なく仕掛けようとは思わない。手強い相手だから、という意味も含めてだが。
「それでも、貴方が戦わなければ私達がやられていたわ」
ストライクがゆっくりと視線を上げてマリューを見やる。 視線を合わせて、マリューは毅然とした表情で続けた。
「私達は、たった四人で戦わなければならないのよ…貴女の勇気が、必要なの」
「俺に、勇気なんて…」
「渓谷での事はフラガさんから聞きました。散々怒られただろうし、今はこうして生きてるのだから私としてはすごいの一言に尽きるわ」
「あれは、頭の中が熱くなって…ようするに何も考えてなかったんだ」
突然の賞賛に戸惑ってしどろもどろになるストライクに、マリューは目を細める。
「それでも、自分より強いモノに立ち向かっていくのに必要なのは勇気よ」
「無謀ともいうけどね」
フラガが飄々とした態度で茶化し、マリューが口を尖らせる。
「もう、フラガさんは黙ってください!」
「はいはい、申し訳ございません」
フラガとしてはちょっとした冗談のつもりだったのだが、逆効果だったようだ。 肩をすくめると、一転して口を尖らせて呟く。
「前を見ろよ…後ろを向いてちゃ、戦えないだろ?」
「フラガさんっ…ストライクはまだ実戦経験が多くはないんですよ」
「この旅に立場なんて関係ねぇよ。みんな厳しい戦いを覚悟をしたからこそ名乗りを上げた筈だ」
「それはそうですが…」
口論する二人を前にしても依然として暗い面持ちのストライクは、普段とはまるで別人のようだった。 だが無理もない。彼の心にのしかかる様々な重圧は、恐らく半端なものではないだろう。
マリューはため息をつくと、話題を変えようと提案を持ちかける。
「過ぎたことを悔やんでも仕方がありません…少し休んだら出発しましょう」
「うむ…次の種子も、ザフトより先に手に入れねばな」
沈黙を保っていたメビウスゼロが同意する。 マリューは頷き、ストライクの方へ向き直るとやや厳しい口調で言った。
「私達は、前に進まなければいけないの。どんな辛い事が待っていてもね」
こんな事を言っても、若い彼には理解できないだろう。自分でも無茶を言っていると思う。 だが、わだかまりを残したままでは戦うことなど出来ない。
無理にでも乗り越えてもらわねばならないのがマリューを筆頭とした三人の心情でもあった。
その後は誰が何を言うでもなく気まずい雰囲気のまま、四人は時を過ごした。


神殿内のモンスター達は種子の支配を逃れ戦意を喪失しているのか、戦闘が起こることはなかった。
難なく神殿を出た一行は、次の種子を目指すためとにかく街へ移動する事にする。
最も近い街へ行くために神殿を囲む湖を迂回せねばならないが、ほとりには物好きな釣り人が使っているらしきいくつかのボートが放置されており、そのうちの一つを使って湖を突っ切ることにする。
風もなく陽射しも弱い天候の中で、水面を緩やかに進んでいた一行だったが、
「…あれはッ!?」
ボートに入りきらない天馬アークエンジェルに跨り飛行していたマリューが前方の異変に気づく。
ボートの進行方向に渦ができ、その中からモンスターが出現する。
ゾノタートル、グーンマンタ、そして怪魚ボズゴロフだった。
「ちっ、神殿の外は通常営業ってか!」
フラガが皮肉交じりに兜を装着して剣を抜き、構える。 だが、ボートの上では湖を自在に動き回るモンスターに攻撃が届かない。
「とにかくワシの術で…ぬおっ!?」
さらにメビウスゼロが攻撃呪文を唱えようとするも、グーンマンタが襲い掛かって詠唱の邪魔をする。
「っく!私がなんとかします!フラガさんとストライクは導師様をお守りして!」
マリューがAAを空中のグーンマンタに向かわせて攻撃を仕掛ける。
「了解、気をつけろよ!さて…こっちはキツいぞ坊主…おい?」
フラガが呼びかけるが、ストライクはナイフも抜かず呆然と立ち尽くすのみだった。
「しっかりしろ!ぼやぼやしてっと、やられちまうぞ!」
「…ダメだ、俺には…」
腰に収めたナイフから、兄を傷つけた鈍く光る刃を連想し手が震える。フラガの喝も、ストライクには届かない。
閉ざされた過去が、それが何かわからない事への恐怖が、ストライクの心に一気に押し寄せ行動の自由を奪っていた。
「怖い、嫌だ…戦いたくない…どうして俺が?何故…剣を持つと震える?わからない…」
「嫌でも何でもやるしかないだろ!皆精一杯なんだ、戦わなきゃ終わりだぞ!」
モンスターをボートに近づけさせまいと剣を振りながら、フラガが力いっぱいに叫ぶ。
「きゃあぁっ!」
AAの身体にグーンマンタのヒレが掠り、マリューの体勢が崩れる。
彼女の叫びにフラガが気をとられた一瞬の隙をついて、怪魚ボズゴロフがボートの底に体当たりし、ボートが大きく軋み揺れた。
「おいおいこいつぁヤバイぞ!何とかしないとバラバラだ!」
隙を見てボートの縁を掴もうとするゾノタートルの爪をフラガが慌てて剣で振り払う。
全滅の危機を前にして、ストライクはようやく現実へと目を向ける。
(まさか…俺は今度こそ死ぬのか?…こんなところで?)
ここで死ねば全てが無駄に終わる。ラクロアの皆の願いも、あの日の覚悟も、先ほどの戦いも。
どうしてこんな簡単な事を忘れていたんだろう。大事なのは、思い出せない過去ではない。取り戻すと誓った平穏な未来だ。
そして現在、その未来が永劫に手に入らなくなろうとしている。
ストライクは、心の中が恐怖ではなく沸々とこみ上げてくるやりきれない思いで満たされていくのを感じていた。
(俺はまだ何も知らないんだ…兄さん達が裏切った理由だって…それにっ!)
戦わなければ、守れない。そして、皆を守れる力が今の自分にはある。
そうだ。これは誰かを傷つける恐ろしいだけの力じゃない、皆を守るための力だ。
自分に出来る事は、たった一つ 。ラクロアの皆のために命を懸けて戦う事。
やるしかない、それが自分に出来る事ならば。 迷っている時間など、立ち止まる暇などない。神殿でかけられた言葉が今になって染み渡るようだった。
そう思うと、どこからかわからないが力が沸いて来る。
目の前の闇を振り払うような、眩い光を放つ力。
「今、心の底から理解できた…恐怖に打ち勝つのは、いつだって自分自身の勇気だ!」
ストライクが意を決して右手をかざすと、胸から蒼い閃光が迸る。光は瞬く間に全身を覆い、鎧となってストライクの姿を変えた。
震える右手に収められた大剣・獅子の輝刃の柄を握り締め、振り下ろして両手で構える。
「こんなところで死んでたまるかっ!」
「種子…いけるのか!?」
フラガが息を呑み、ストライクの復活に他の仲間達の表情も幾分か明るくなる。
しかし依然として苦境に立たされているという事実は変わらない。いくら種子といえどあの装備では湖のモンスター達と戦うには適さないのではないかという懸念が一同の脳裏によぎる。ただ一人、ストライクを除いて。
「フラガさん、俺が飛んだらボートを思い切り右に漕いで離れてくれ!ジイさんはレルバンガの準備を!」
意図を読めず訝しがるフラガ達に背を向け、ストライクは硬い面持ちで湖面を睨む。
ほとんどのMS族は、人間とは違い泳ぐ事はできない。そのため水への恐怖は一際強い。
しかし、ストライクは不思議と恐怖を感じなかった。前へ進む意志。ただそれだけが彼を動かしていた。旋回してボートに向かって直進してくるグーンマンタに向かい一歩を踏み出し、ボートから跳躍する。格好の餌食と言わんばかりに正面からストライクへと襲い掛かるグーンマンタであったが、大剣の重量と落下の勢いを同時に受けいとも簡単に真っ二つに分かれる。
「やったか!」
「しかし一匹倒しただけでは―――」
「ここからが本番だぜ!」
ストライクは落下しながら再び獅子の輝刃を振りかぶり、湖面に思い切り叩きつける。
湖が、二つに割れた。剣圧で左右に水が押しやられ、隙間がこじ開けられる。飛び散った飛沫が陽の光を通して星のような輝きを見せた。
水中で自分を仕留めようと接近していたモンスター達もろとも裂け目の中、決して浅くはない湖底に着地したストライクが声を上げて叫ぶ。
「ジイさん今だ!」
「う、うむ!レルバンガ!」
ストライクの要求どおり呪文を用意していたメビウスゼロは、フラガが必死に漕ぐボートの末端に立ち、狙いを定めて光球を無防備となったモンスター達へと飛ばす。
水を失い、跳ね回るだけの怪魚ボズゴロフが光球の連続攻撃によって倒されるが陸上でも活動が可能なゾノタートルには回避されてしまう。
メビウスゼロが再び詠唱を始める間に、力で無理やりに割られた湖の水があるべき形に戻ろうと轟音を立て始める。
一方のストライクは重量のある大剣を持ち上げるのに苦労しているのか、はたまた再び種子を使った反動か動けずにいた。
マリューがAAを急がせるが、距離が遠くとても間に合わない。このままでは激流に飲まれゾノタートルにやられる。ストライク以外の誰もがそう思った時、
(―――いや、まだだ!)
ストライクは剣から右手を離して左肩の獅子の額から突き出た角を掴む。
力強く引き抜くと、角は持ち手となり獅子の頭部をかたどった装飾の斧が現れる。さらに引き抜いた勢いを利用してそれを投げつけた。
斧は回転しながらゾノタートルに見事命中し、頭部をかち割る。敵が体液を撒き散らして動かなくなるのを目の端で確認しながら、ストライクはソードレオとの融合を解いて倒れた。
同時に静止していた水が激流として容赦なく注ぎ、ストライクを飲み込む。
「ストライク!…えっ?おい!」
驚いたフラガが止める間もなく、マリューが飛び込む。AAの鞍には縄が結び付けられており、マリューの身体を繋いでいた。
暗く冷たい湖の底で目を凝らしたマリューは、力なく漂い浮き上がってきたストライクを発見しすぐさま抱えて縄を引き合図を送る。その後は、AAの牽引力と自身の推進力をもってどうにか息が続いているうちに湖面へと顔を出す事が出来た。
未だぐったりと気を失っているストライクを見て、マリューは呼吸を整えつつ呆れと感心の混じった心情で微笑む。
「一人で無茶をするんだから…だけど、ようやくいつもの貴方に戻ったみたいね」
まだ戦士と呼ぶには不釣合いな、年相応な顔がそこにはあった。



「―――それで?いつになれば私達は出発できるのかしら?」
「え、えーと…よく乾かさないとサビちゃうんで…」

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