「出陣」
「はぁ・・・この剣マジカッコイイ・・・」
ラクロア王国の中にある騎士団専用の宿舎。その中の一つ
闘士隊隊長の部屋で何かをいじりまわしている男が一人。
ラクロア騎士団闘士隊隊長、重闘士バスターその人であった。
本来ならばオーブへの援軍の先発隊の一員として同行しているはずの
彼であったが、やむを得ない事情により足止めをくらってしまい、することもないので
「この洗練されたフォルム・・素晴らしいなフフフ」
ザフトに潜入していた間ろくに手入れをしていなかった『コレクション』たちの
相手をしていたのだった。そしてその部屋には先ほどからドアを叩く音が
響いているのだが、バスターはそれに気付きもせずに『コレクション』達を弄り回している。
「あれ、いないのかな・・・っと」
ドアを叩いていたその人物はドアノブに手を回す。鍵をしていないそのドアは勢いよく開き、
「あぁ・・次は斧だ。コイツの名前は・・」
とても他人には見せられない光景が目の前に広がったのだった。
ラクロア王国の中にある騎士団専用の宿舎。その中の一つ
闘士隊隊長の部屋で何かをいじりまわしている男が一人。
ラクロア騎士団闘士隊隊長、重闘士バスターその人であった。
本来ならばオーブへの援軍の先発隊の一員として同行しているはずの
彼であったが、やむを得ない事情により足止めをくらってしまい、することもないので
「この洗練されたフォルム・・素晴らしいなフフフ」
ザフトに潜入していた間ろくに手入れをしていなかった『コレクション』たちの
相手をしていたのだった。そしてその部屋には先ほどからドアを叩く音が
響いているのだが、バスターはそれに気付きもせずに『コレクション』達を弄り回している。
「あれ、いないのかな・・・っと」
ドアを叩いていたその人物はドアノブに手を回す。鍵をしていないそのドアは勢いよく開き、
「あぁ・・次は斧だ。コイツの名前は・・」
とても他人には見せられない光景が目の前に広がったのだった。
「見たのか」
「見てません」
「聞いたな」
「聞いてません。断じて」
ドアが開いた後、物凄い物音が響いたかと思うと壁を背に仏頂面のバスターが立っていた。
足元や背中から色々はみ出しているのは指摘するだけ痛い目を見るだけなので言わないようにする。
「・・で、何の用だ」
バスターは部屋の入り口まで来客――同じ闘士隊の副隊長、バスターダガーを押し出す。
「あ、はい。これをお返ししようかと」
そう言うとバスターダガーはドアの脇に置いていたモノを差し出す。バスターが任務につく前に
バスターダガーに渡していた変装用の装備一式だった。
「なんだ、コレか。どうせ模造品だ、記念にとっておけ」
こんなモノが見つかったら変質者扱いされそうだし何より邪魔だから返しに来たんですと
喉まで出かかった言葉を押し込み
「・・はい、そうします」
しぶしぶ了承した。
「まぁ、仮面くらいは返してもらうか」
「え」
バスターダガーは困った顔をした。これこそ記念にとっておきたかったのに。
しかし考えてみれば自分の顔の仮面など持たれたままでは嫌か、と納得し仮面を差し出す。
「なんだ、コレは欲しいのか?」
「いえ、そんな事は・・・」
「長い付き合いだ。お前の考えてる事くらいわかる」
「はぁ・・」
「まぁ弾除け程度にはなるだろう、くれてやる」
バスターが茶化し、バスターダガーはどう反応していいのかわからず
「それでは、失礼いたします」
そう言って立ち去ろうとすると、
「もう身代わりをしなくて済むからせいせいする、ってところか?」
バスターが皮肉を言う。
「いえ、そんなことは決して!自分如きが隊長の代わりなど身に余る光栄でした!」
まっすぐと自分を見据える眼前の男の視線を受け止め、
「・・そんなこと言ってて恥ずかしくないのか」
まるでどうでもよさそうに呟いた。さっきの仕返しだ、とでも言いたげだった。
「見てません」
「聞いたな」
「聞いてません。断じて」
ドアが開いた後、物凄い物音が響いたかと思うと壁を背に仏頂面のバスターが立っていた。
足元や背中から色々はみ出しているのは指摘するだけ痛い目を見るだけなので言わないようにする。
「・・で、何の用だ」
バスターは部屋の入り口まで来客――同じ闘士隊の副隊長、バスターダガーを押し出す。
「あ、はい。これをお返ししようかと」
そう言うとバスターダガーはドアの脇に置いていたモノを差し出す。バスターが任務につく前に
バスターダガーに渡していた変装用の装備一式だった。
「なんだ、コレか。どうせ模造品だ、記念にとっておけ」
こんなモノが見つかったら変質者扱いされそうだし何より邪魔だから返しに来たんですと
喉まで出かかった言葉を押し込み
「・・はい、そうします」
しぶしぶ了承した。
「まぁ、仮面くらいは返してもらうか」
「え」
バスターダガーは困った顔をした。これこそ記念にとっておきたかったのに。
しかし考えてみれば自分の顔の仮面など持たれたままでは嫌か、と納得し仮面を差し出す。
「なんだ、コレは欲しいのか?」
「いえ、そんな事は・・・」
「長い付き合いだ。お前の考えてる事くらいわかる」
「はぁ・・」
「まぁ弾除け程度にはなるだろう、くれてやる」
バスターが茶化し、バスターダガーはどう反応していいのかわからず
「それでは、失礼いたします」
そう言って立ち去ろうとすると、
「もう身代わりをしなくて済むからせいせいする、ってところか?」
バスターが皮肉を言う。
「いえ、そんなことは決して!自分如きが隊長の代わりなど身に余る光栄でした!」
まっすぐと自分を見据える眼前の男の視線を受け止め、
「・・そんなこと言ってて恥ずかしくないのか」
まるでどうでもよさそうに呟いた。さっきの仕返しだ、とでも言いたげだった。
「へいらっしゃい!お、バスターか」
バスターダガーを追い返した後、部屋に篭りっ放しで何も口にしていなかったバスターは
友の経営するラクロアの大衆食堂へとやってきた。
夜も更けて閉店の時間に近いので人はほとんどいない。
「何でもいい、何か食わせろ」
ぶっきらぼうに言い放つバスターに対しディアッカはいつものことだからと特に気にする事もなく
「じゃあ練習中のメニュー試食してくれよ!」
威勢良く答える。バスターは何も言わないが文句も言わないので了承したということだ。
「へいっ!スープチャーハンお待ちっ!」
バスターの目の前に出されたそれは、ディアッカが最近凝っている炒め物の料理に
熱々のスープをかけたものだった。
しかし大量のスープを吸い込んでドロドロになったそれをバスターは
「・・ただの脂っこいリゾットじゃないか」
の一言で一蹴した。
「まぁいいか」
基本的に腹に入れば何でもいいタイプのバスターは気にせず口にする。半分ほど食べたところで
「おっ、いたいた」
バスターの目の前に煤で顔を汚した体格のいい中年の男性が現れた。
「マードックか。何してる。休む暇があるなら鎧打て」
「アンタ鬼だよ」
フラガ達がラクロアに期間してからずっと新装備を打ち続けてロクに休んでいない
マードックは眼の下の隈が目立つ顔を引きつらせて答える。
「何の用だ。わざわざ俺を探しに来たという事は、完成したのか?」
「いや、まだって睨むなよ!武器の方はまだだが・・・」
バスターに睨まれながらもマードックはもったいぶって言う。
「鎧はできたぜ、完璧だ」
「よし、もう時間がない。今回は鎧だけで我慢してやる。今から取りに行くぞ」
料理を平らげたバスターは水を飲むマードックを引っ張り上げる。
「へいへい、相変わらず容赦ないねぇ」
「優しくしても出来上がるわけでもあるまい・・ディアッカ、味は悪くなかったぞ」
「おう、また来いよ!」
バスターダガーを追い返した後、部屋に篭りっ放しで何も口にしていなかったバスターは
友の経営するラクロアの大衆食堂へとやってきた。
夜も更けて閉店の時間に近いので人はほとんどいない。
「何でもいい、何か食わせろ」
ぶっきらぼうに言い放つバスターに対しディアッカはいつものことだからと特に気にする事もなく
「じゃあ練習中のメニュー試食してくれよ!」
威勢良く答える。バスターは何も言わないが文句も言わないので了承したということだ。
「へいっ!スープチャーハンお待ちっ!」
バスターの目の前に出されたそれは、ディアッカが最近凝っている炒め物の料理に
熱々のスープをかけたものだった。
しかし大量のスープを吸い込んでドロドロになったそれをバスターは
「・・ただの脂っこいリゾットじゃないか」
の一言で一蹴した。
「まぁいいか」
基本的に腹に入れば何でもいいタイプのバスターは気にせず口にする。半分ほど食べたところで
「おっ、いたいた」
バスターの目の前に煤で顔を汚した体格のいい中年の男性が現れた。
「マードックか。何してる。休む暇があるなら鎧打て」
「アンタ鬼だよ」
フラガ達がラクロアに期間してからずっと新装備を打ち続けてロクに休んでいない
マードックは眼の下の隈が目立つ顔を引きつらせて答える。
「何の用だ。わざわざ俺を探しに来たという事は、完成したのか?」
「いや、まだって睨むなよ!武器の方はまだだが・・・」
バスターに睨まれながらもマードックはもったいぶって言う。
「鎧はできたぜ、完璧だ」
「よし、もう時間がない。今回は鎧だけで我慢してやる。今から取りに行くぞ」
料理を平らげたバスターは水を飲むマードックを引っ張り上げる。
「へいへい、相変わらず容赦ないねぇ」
「優しくしても出来上がるわけでもあるまい・・ディアッカ、味は悪くなかったぞ」
「おう、また来いよ!」
笑顔のディアッカに見送られマードックの店へ。出来上がった鎧は元のものと
ほとんど変わっていない。
「多少は重くなったか」
「そりゃ仕方ねえや。素材の都合ってもんもあるしな」
「しかしえらく時間を食ったな。武器はどうなんだ」
「コイツは加工するのも一苦労なんでさぁ、武器は三割方ってとこかねぇ」
「わかった。ザフトに乗り込むまでに間に合わせろ」
「へっ?もうこのままオーブ経由でザフトに向かうんじゃ?援軍の誰かに持たせるんですかい?」
「何を言っているんだ。あいつらも明日には出るだろうが」
「じゃあ、誰が・・・」
そこまで言って何かに気付いたように青くなったマードックにバスターは遠慮なしに言い放つ。
「お前が持ってくるに決まっているだろ」
「・・やっぱアンタ鬼だよ」
疲れの色が濃い顔をさらにひどくさせてマードックが答えた。
ほとんど変わっていない。
「多少は重くなったか」
「そりゃ仕方ねえや。素材の都合ってもんもあるしな」
「しかしえらく時間を食ったな。武器はどうなんだ」
「コイツは加工するのも一苦労なんでさぁ、武器は三割方ってとこかねぇ」
「わかった。ザフトに乗り込むまでに間に合わせろ」
「へっ?もうこのままオーブ経由でザフトに向かうんじゃ?援軍の誰かに持たせるんですかい?」
「何を言っているんだ。あいつらも明日には出るだろうが」
「じゃあ、誰が・・・」
そこまで言って何かに気付いたように青くなったマードックにバスターは遠慮なしに言い放つ。
「お前が持ってくるに決まっているだろ」
「・・やっぱアンタ鬼だよ」
疲れの色が濃い顔をさらにひどくさせてマードックが答えた。
そして、翌朝。遠征の準備で慌しい城内を
新しい鎧を纏いいくつかの武器を背負ったバスターが眺めて呟く。
「結局ストライク達の連絡前に出陣か・・・全く、この国の者はバカがつくぐらいのお人よしだな」
「あなたもね」
声に反応して振り向くと、そこには王女ラクスの姿。
「行くのでしょう?」
「えぇ、もう時間がありませんので。自分は先に行かせてもらいます」
「そうですか・・でも困りましたわね、それではオーブまで援軍を引っ張っていく方が・・・」
その言葉を聞いて、バスターは城の中を駆け回る人物の一人を見据えて
「あいつが適任ではないかと」
ラクロア騎士団闘士隊副隊長・バスターダガーを指した。
新しい鎧を纏いいくつかの武器を背負ったバスターが眺めて呟く。
「結局ストライク達の連絡前に出陣か・・・全く、この国の者はバカがつくぐらいのお人よしだな」
「あなたもね」
声に反応して振り向くと、そこには王女ラクスの姿。
「行くのでしょう?」
「えぇ、もう時間がありませんので。自分は先に行かせてもらいます」
「そうですか・・でも困りましたわね、それではオーブまで援軍を引っ張っていく方が・・・」
その言葉を聞いて、バスターは城の中を駆け回る人物の一人を見据えて
「あいつが適任ではないかと」
ラクロア騎士団闘士隊副隊長・バスターダガーを指した。
「あら、隊長自らご推薦ですか?」
「そんなところです。あいつなら問題はないでしょう」
「バスターが誉めるなんて珍しいですわね。
あなたの身代わりを立派に果たした彼なら、もっともですけれど。本人が聞いたら喜びますのに」
「どうもそういうのは苦手でしてね・・・では、そういうことで」
「えぇ。お気をつけて」
そしてバスターは城を出る。出る前に廊下ですれ違った自分が最も信頼できる部下に
心の中で、実はもしかしたら聞こえるかもしれない程度の声量で礼を呟いたが、
それが聞こえたがどうかは定かではない。
「そんなところです。あいつなら問題はないでしょう」
「バスターが誉めるなんて珍しいですわね。
あなたの身代わりを立派に果たした彼なら、もっともですけれど。本人が聞いたら喜びますのに」
「どうもそういうのは苦手でしてね・・・では、そういうことで」
「えぇ。お気をつけて」
そしてバスターは城を出る。出る前に廊下ですれ違った自分が最も信頼できる部下に
心の中で、実はもしかしたら聞こえるかもしれない程度の声量で礼を呟いたが、
それが聞こえたがどうかは定かではない。
番外
「こんなバカなことが・・・あってたまるか!」
オノゴロ砂漠まで辿りついたバスター。だが、その環境はバスターに
とって最悪のものだった。
気温だけでなく装備した鎧の重さが体力を奪うだけでなく、持ってきた武器の
せいで砂漠に足を踏み入れると足が沈み動けなくなるのだ。
バスターは二択を迫られる。諦めるか、それとも――もう一つの選択肢は、彼にはあまりに辛すぎた。
しかしここを越えなければオーブへはたどり着けない。彼はかなり悩んだ挙句
「・・置いていくか」
最低限必要な武器だけを選び、残りは置いていく。砂漠に入っても何度か名残惜しそうに振り向いたが、やがて砂嵐に包まれると諦めた。
(オーブに着いたら大暴れしてやる・・・この恨み、晴らさずに置くべきか・・!)
バスターは泣いた。かつて無いほど泣いた。
だがそれはすぐに汗とともに流れ落ち、砂の中に消えていく。
ちなみに置いて行った武器はどこかのジャンク屋に拾われた後売られたとか
そうでないとか。
「こんなバカなことが・・・あってたまるか!」
オノゴロ砂漠まで辿りついたバスター。だが、その環境はバスターに
とって最悪のものだった。
気温だけでなく装備した鎧の重さが体力を奪うだけでなく、持ってきた武器の
せいで砂漠に足を踏み入れると足が沈み動けなくなるのだ。
バスターは二択を迫られる。諦めるか、それとも――もう一つの選択肢は、彼にはあまりに辛すぎた。
しかしここを越えなければオーブへはたどり着けない。彼はかなり悩んだ挙句
「・・置いていくか」
最低限必要な武器だけを選び、残りは置いていく。砂漠に入っても何度か名残惜しそうに振り向いたが、やがて砂嵐に包まれると諦めた。
(オーブに着いたら大暴れしてやる・・・この恨み、晴らさずに置くべきか・・!)
バスターは泣いた。かつて無いほど泣いた。
だがそれはすぐに汗とともに流れ落ち、砂の中に消えていく。
ちなみに置いて行った武器はどこかのジャンク屋に拾われた後売られたとか
そうでないとか。