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求めるもの

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「求めるもの」

夜襲を受けたオーブからなんとかザフトの兵らしき者達を退けたストライク一行。
ストライクは破壊された家の瓦礫を片付けを手伝い一通りの作業が終わった後、
フラガやマリューが休んでいる間も拳を突き出したり樹に蹴りを打ち込んだり
必死の形相で身体を動かし続けていた。
しばらくそれを続けた後、一息ついて腰にしまってあるナイフを取り出す。
マードックが自分のために作ってくれたモノだ。ギラリとした刃の表面が自分の顔を映し出す。
「ちっ…」
つい目を逸らしてしまう。あの時、平和に暮らしていたであろう人々の平穏を奪い
村を焼き払った『あいつら』は、心底許せなかった。
だが、今もっとも許せないのは自分。『あいつら』に勝てなかった自分の弱さ。
オーブの人達のためにも、自分は勝たねばならなかったのだ。
しかし結果は無残な形で終わり、『あいつら』はまたやって来て誰かを傷つけるのだろう。
情けない。そんな思いから自分の顔など見たくなかった。
もちろん、自分とそっくりの顔をした彼女も。
(クソッ、つまらない事ばかり考えちまう)
胸の前で片方の掌に拳を当てる。ぱしっ、と乾いた音が響いた。


「こんなところにいたのか」
誰かの声。振り向いてみると、
「アンタは…」
武闘家エムワンエース。先ほどまで一緒に作業をしていたうちの一人だ。
「何してたんだ、こんなところで」
「何だっていいだろ」
やや棘のある口調で言い放つストライク。エムワンエースは気分を害した様子で
「まさか泣いてた、なんてことはないよな?」
舐められまいとからかうようなそぶりを見せる。
「そんなわけないだろッ!」
「ハッ、強がった振りしてうじうじしやがって」
「何を!」
「文句があるならかかってこい」
「言ったな!」
その言葉と同時に、ストライクの拳がエムワンエースの頬に伸びる。
が、エムワンエースはそれを片手で軽くいなすともう片方の拳を叩き込む。
「なんだなんだ、力の使い方がなっちゃいないな」
怒りをあらわにしたストライクはたった今自分の顔に衝突した拳を掴み
エムワンエースを引き寄せて左手で手刀を放つ。
しかしそれもかわされ、一歩踏み込んだエムワンエースはストライクの
わき腹にフックを叩き込んだ。
「がっ…!?」
崩れ落ちるストライク。エムワンエースは呆れた様子で
「やれやれだ」
独り言のように呟いた。


しばらく咳き込んで地面に伏していたストライクだが落ち着いたのか
「…強いな、あんた」
仰向けになってエムワンエースに視線を向ける。
「本当にそう思うか?」
「手も足も出なかったぜ」
「だが、あいつらに歯が立たなかった。お前は互角だった」
「それは種子の力さ。本当の俺は弱いんだ」
「そんなものは関係ない。自分の力に気付いていないのか」
ストライクは自分を少し憐れそうに見つめるこの男が何を言っているのかわからなかった。
「どういうことだよ、一体」
「お前、最後に種子を使わずに戦ったのはいつ頃だ?」
「え~と…種子を手に入れてからはずっと種子の力で戦ってたな」
一度ラクロアに帰ってからもキラやバスターと行った特訓は種子を使いこなすためのものだった。
「なんと言うか…もったいないな」
「あんたは何が言いたいんだ」
「俺はあの夜ずっとお前の戦いぶりを見ていた」
「それで?」
「見たところお前は戦い方が下手過ぎる。種子に認められる程だから力はあるんだろうがな」
反論しようと立ち上がるストライクを、エムワンエースは手で制する。
「待て。俺が言いたいのは、種子を使うのは構わないがそれを活かす戦い方をしろってことだ」
「種子を…活かす?」
「あぁ。種子の力は確かに絶大だ。だが常時使っていられるモノでもない。
だからここ一番で使え。それまでは自分の力だけで戦うんだ」
棒立ちのまま、ストライクはついつい聞き入ってしまう。
「ぎりぎりまで攻撃を引き付けて避けろ。相手だって体力は無限じゃない…口で説明するよりは」
一旦言葉を区切ったエムワンエースは拳を握ると
「身体に教えた方が早いな!」
ストライクの腹めがけて突く。いきなりではあったが回避に徹した事で避けるストライク。
「その調子だ!だが、油断するなよ!」
しばらくは実戦さながらのアドバイスが続き、ストライクはそれまでの疲れも忘れて動き回った。
そしてとうとう力を使い果たし、仰向けになる二人。
「ハァ…ハァ…どうだ、わかったか?」
「…なんとなく」
避け方と当て方のコツを掴んだストライクによって作られた
たんこぶを撫でながら笑うエムワンエース。すぐに痣になるだろう。
「弱い弱いと落ち込む前に、自分を見つめりゃいいのさ」
「あんた、何でこんな事を?」
「お前がルージュに似て…力はあるのにうじうじしてるお前を見てイラついたからな」
「何だよそれ!礼を言う気失せるなぁ」
「そうは言うがな…エムワン三姉妹を見ろ。あいつらなんてお前より弱いのに
姉妹で力を合わせて頑張ってんだぞ」
「そりゃそうだけど…あんたもそうなのか」
「あぁ、俺は弱いぞ。でも、戦い方ひとつでお前に勝てる」
「そうだな…それはよくわかった。これで何とかなりそうだ」
「まったく、戦うのはお前一人じゃないだろうに。
俺達は助けてくれとは言ったが守ってくれなんて言ってないぞ」
よくわからない、といった顔のストライクにエムワンエースはやや照れくさそうに言う。
「次は俺達も一緒に戦うってことだ」
ストライクの表情が憑き物が落ちたような顔に変わる。
一人で出来る事など、たかが知れている。そんな事はわかっていたはずなのに。
(何で俺、一人で全部背負ってたんだろう…種子があるんだから俺がやらなきゃ、と思ってたのか)
少しだけ、心が晴れた気がした。そう思うと急に空腹感が押し寄せてくる。
そういえばオーブに着いてから何も食べてなかった事を思い出す。
腹の虫が盛大に鳴り響き、静寂を打ち破った。
「何だ、腹減ってたなら言えよ」
「ハハ…」
「着いて来い。ウマイもん食わせてやるから」
「ホントか?」
「あぁ。ケバブと言ってな…」
歩きながら説明を終えたエムワンエースはぼそりと呟く。
「借りは返したぞ。全く、こんなのに助けられるなんて」
それは風に流され、ケバブに胸躍らせるストライクの耳には入らない。
一方、一見気楽そうに振舞うストライクであったが
(力の使い方…また一つ強くなった。でも、俺はもっと、もっと…)
心の奥に抱えた小さな闇を未だ消せずにいた。
彼が本当の強さを手にする時。それはまだまだ先の話。

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