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黄昏の魔騎士

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「黄昏の魔騎士」

「では、そろそろ始めましょうか」
ザフト王国・ドゥーエ城の一室。多くは会議に使われるその場所で、重厚な鎧にその身を包んだ騎士の発言が響き渡る。
「待て。少々面子が足りていないようだが?」
空いた椅子を睨んで騎士団長シグーが異を唱えた。ザフト騎士団は騎士団長が直々に率いる本隊の他、実力を認められた隊長格が率いるいくつかの部隊で構成されている。
会議の席において、特に異常がない限り隊長格は揃うのが当然であった。
「ファントムゾノ殿は先ほど兵を向かわせましたが出てくる様子は一向にありませんな」
「やれやれ、いつもの事か…もう一人は?」
「グランドザウート殿には別の作戦の指揮を任せていてね。これで全員だよ」
静かに扉が開き、マントに身を包み仮面をつけた金髪の男が現れる。唯一露出した口元には、不敵な笑みが浮かんでいた。
「クルーゼ殿…勝手に我が騎士団の隊長格を動かされては困る」
「私もこの国を思ってやっていることだ。あまり責めないでもらいたい。それに」
不快感をあらわにするシグーにクルーゼと呼ばれた男は視線を背後に佇む、この中ではやや異質な顔つきの二人の騎士へと移す。
「我らには新たな仲間がいるでしょう」
「私はまだ信用したわけではない」
「相変わらずザフト騎士団長殿は固い意志をお持ちで…良いことです」
「…貴殿は少々、口に気をつけるべきだな」
「おや、失言でしたか?申し訳ない」
全く悪びれず口元では笑みを絶やさないクルーゼと、渋い面持ちのシグーの間に流れる空気が険悪なものへと大きく変わる。
「ンン…それでは、会議を始めたいと思います」
重厚な鎧に身を包んだ騎士が陰湿な空気を打ち切ろうと咳払いをし、会議の始まりを告げようとする。が、席に着こうとしたクルーゼの提案がそれを遮った。
「空いている席は彼らにあてがって構わないかね?」
「…えぇ、どうぞ」
「座りたまえ」
クルーゼに勧められ、二人の騎士は返事も挨拶もないまま無表情で静かに席へと着いた。
「…今度こそ、開始させていただく」
ようやく始まった会議の内容はラクロア近辺のヘリオポリス神殿に存在するという伝説の種子(シード)についてが主題であり、またそれを捜索する部隊の編成及び指揮官を隊長達から選出したいというものであった。
「一人は近衛騎士デュエル殿。地理に詳しい者が必要であろう」
クルーゼの推薦により一人が決定し後は兵士のためにも騎士団から、という事となる。
「…ラクロアまで行くのはしんどいのう」
「いや、騎士団一の年長者であらせられる僧正殿にそのような事は」
「私は城の守りを任されている身。そうそう動く事はできませぬ」
「ヘビーゲイツ…うむ、それもそうだな。お前はどうだ、ハーシュディン」
候補から二人が消え、騎士団長は残る候補の中から最も適任だと考える人物へと呼びかける。
だが、当の本人はぶつぶつと何かを呟くばかりで反応は返ってこない。
シグーは苛立ちをあらわにしながら、両方の拳を握り締めて机を叩いた。大きな衝撃音と共に、怒号が飛ぶ。
「おい!聞いているのかハーシュディン!」
「イマノジブンハハーシュディンデハアリマセン…タダノマケイヌデス」
「…また例の対決か、いい加減にしておけ」
「ハハ、天翔の狩人、なかなか良かったけどオレの称号にはかなわなかったな」
呆れ果てて首を振るシグーの隣で、橙色の騎士が嘲るように呟いた。
「ええい!大体、存在するかもわからん物の捜索などジュール隊にでもやらせればいいのです!」
「何を!」
橙色の騎士の発言に逆上したハーシュディンが吐いた暴言に隊長としてはかなり珍しい、人間の若者が反応する。顔を上げて睨みつける際に、滑らかに輝く銀髪が揺れた。
両者の間は一触即発、今にも立ち上がりそうな人間を橙色の騎士が片手で制し、ハーシュディンを挑発する。
「やだやだ、八つ当たりなんてセンスのない人は態度まで醜いねぇ」
「きっ・・・貴様ぁ!」
「これ以上醜態を晒すのはやめようぜ、ハーシュちゃん」
「ならば、お前に行ってもらおうか。ミゲルジン」
荒れる雰囲気を見かねたシグーの一言に、待ってましたと言わんばかりの表情でミゲルジンが威勢良く答える。
「えぇ、もちろんです。この『黄昏の魔騎士』の実力、お見せしますよ」


結局、近衛騎士デュエルと騎士ミゲルジンの二人が指揮をとるという事で決着がつき、会議は閉会される。
「それでは、期待しているよ」
妖しげな笑みを残し去っていくクルーゼ、そして彼に続きラクロアの騎士達が部屋を出る。
祖国を裏切りこちらについた余所者とはいえ微動だにせず一度も発言しなかったことが、他の者たちに不気味な印象を残した。
「いらぬ恥を…クソッ、覚えていろ」
ハーシュディンが次々と出て行く他の者に紛れて去り際に一言残すと部屋に残るのはたった三人。
ミゲルジンは大きく息をはくと、人間の若者に意地の悪い笑みを見せる。
「やれやれ、一時はどうなるかと思ったぜ」
「ミゲル…すまん」
「いいかイザーク、お前の良い点は後先考えずに突っ込める所だがそれは同時に悪い点でもある。覚えとけよ」
「そ、そんな事はわかっているっ!」
感情で動いたことをからかわれ、イザークと呼ばれた人間は怒鳴り声で返す。
騎士団への忠誠心とその有能さを買われ一部隊を任されている彼だが、まだまだ若い。
とはいえ、ミゲルジンも二つほどしか違わないのだが。
「ホントかねぇ?ま、ここは先輩のオレに任せておけ」
「そんなに変わらんだろう!…油断するなよ」
「イザークの言う通りだ。クルーゼもだがあの近衛騎士共、どこか怪しい。気を許してはならんぞ」
イザークとは違った意味で、シグーが厳格な面持ちを崩さずに忠告する。
ミゲルジンは飄々とした様子で肩をすくめた。
「イザークも団長も心配性だなぁ…オレはザフト一の高速剣の使い手、『黄昏の魔騎士』だぜ?」
(それは自称だろうが…ッ!)
踏み出した一歩。その先にあるのは栄光か、それとも―――。
若き騎士は、その事を知る由もない。

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