砕ける剣




遺跡の壁に無数の音が反響する。

踏み込みが石畳を割る破砕音。
超常の合金が激突し合う金属音。
幾重にも響く大気が切り裂かれる音。
一際大きい、剣を石に打ち込む音。

まずいな、既に殺し合いを始めている。
仲間を集めようとした矢先にこれか。

紙が引き抜かれるような音と、無機質だが力強い印象を与える電子音声。

『Slash』『Thunder』

『Lightning Slash』

雷撃が大気を灼く独特の破裂音。微かに匂う雷毒(オゾン)の異臭。

咆哮。

「ッヴェェェェェェェィッッッ!!」

怒声。

「キャストオフ!!」

そして聞き覚えのある電子音声。

『Cast Off』

恐らくパージされた装甲が激突したのだろう。遺跡の壁が崩れる振動が伝わってくる。

片方はライダー………しかしもう片方は何だ?
極秘に開発された新型………否、全く別のシステムか?

だが、少なくとも戦闘能力に優れている事は間違いない。
どんな方法を使っているかは知らないが、マスクドライダーシステムと互角に戦っているのだ。
味方となれば心強い。
―――ライダーは二人も要らない。
自分の言葉だ。だが、それは脱出を果たした後で充分。
無論不協和音であれば容赦なく排撃するが。
まずは呼び掛け反応を見よう。応えて自分と組むようなら良し。そうでなければそんなライダーは要らない。
よし、これならパーフェクトだ。
大きく息を吸い込み、

「止めろ!」

叫ぶ。戦闘の音が停止した。


銀の刺突に弾かれた刃を翻す。
二撃三撃四五六七、連撃はその悉くが防がれ、或いは逸らされた。
八撃目、渾身の逆袈裟は掠っただけ。完全に姿勢が崩れる。
直蹴り、鳩尾に入った。堪らず宙を舞い膝を付く。
膝立ちの姿勢から立ち上がり、顎を引き上げ全身に力を込めた。血管が脈動するそれに等しい感覚。
全身から放たれた幾条ものオレンジの鞭が銀の刃を拘束。
<ブラッドべセル>、本来ならそれこそ血管としての役割を果たすそれは、捕縛に特化した暗器でもある。
流石に手から引き剥がすのは無理だが刃の動きは封じた。全力で引き寄せる。
剣の峰を肩に背負うように。そして額の毒針から滴る毒液。
こちらが引き寄せるのに任せての突進なら斬って捨て、それを凌ぐならば毒針の一撃。
二段構えの必殺。更に自分にはまだ伏せ札がある。
キャストオフ、クロックアップ、そしてワームとしての能力。
と、銀の剣が石畳に突き立てられ抵抗が倍化。
だが状況は依然こちらに有利。こちらから近づけば良いだけの話だ。


この紫とオレンジの『ライダー』は、間違いなく難敵の部類に入る。
純粋な剣技では到底敵わない。猛攻を受け流すのが関の山。
逆袈裟を何とか避け、掠った衝撃を堪えながらも蹴りを打ち込み距離を取る。
相手が姿勢を戻す隙に気息を整える。呼吸まで読まれて勝てる筈が無い。
僅か二呼吸、肺に蓄えた大気を逃がさぬように喉を閉じたその瞬間、
奴の紫の装甲の上、規則的に脈打つ毒々しいオレンジのチューブが痙攣するように震えた。
危険を感じ、ラウザーを防御に構える。
直後、それが失策だったことを悟った。散開、夜に彩を添えた橙の鞭が刃を束縛する。
舌打ちしつつ後退、否、失敗した。強烈な牽引、剣先を石畳に突き立て辛うじて抵抗。
構えられる紫鋼の剣、額から伸びる毒の針、絶体絶命と言えるだろう状況。
だがそれでも、決して折れる訳にはいかない。
ただ、唯一無二の親友の為に。

音高くラウザーを展開。扇と開いた剣の後端から二枚のカードを引き抜く。
剣士が自らの得物を抜き放つように。
スペードの2、そして6。
即座に剣身のスリットへ叩き込んだ。

『Slash』

蜥蜴のレリーフが光を放つ。刃たる尾を振り上げて。

『Thunder』

大鹿のレリーフが光を放つ。その角に雷を纏わせて。

『Lightning Slash』

虚空に描き出された二つの紋章が剣に吸収される。
刃の煌きに映える雷光。橙の線を伝ったそれが敵の体を束の間痺れさせた。
僅かに残る束縛を切り払う。そして―――突貫だ。
喉を震わせる。

「ッヴェェェェェェェィッッッ!!」


――――――何だあれは!?
奴がカードを取り出し、それを剣に通したのは分かった。
だがその瞬間、妙な現象が起きたのだ。
空中に飛び出した光の板、それが奴の剣に吸い込まれた途端、電撃と思しきショックがブラッドべセルを伝って襲い掛かってきた。
僅かに麻痺し、再び膝を突きそうな体を必死で立直す。

「ッヴェェェェェェェィッッッ!!」

絶叫、青白い雷撃を纏って迫る刃。
判断、直撃を受ければ恐らく戦闘不能。動作を停止させられたブラッドベセルは不要。
結論、感覚が戻り始めた左手でゼクターを操作。

装甲が可動部から分割されていく。痺れが残る喉から声を搾り出す。

「キャストオフ!!」

ゼクターをもう一度操作、装甲の下で膨れ上がる力が臨界を迎えた。

『Cast Off』

装甲が弾け飛ぶようにパージされる。その衝突を狙ったが―――失敗。奴の剣が叩き落とす。
だが再び互角の状況にまで持ち込めた。剣を八双に構え

「止めろ!」

鋭い一声。思わず剣を降ろす。
………矢車だと!?
それ自体は驚くに値しない。名簿にはしっかりと名前が載っていた。
だが、自分の知る矢車はこんな男ではない。
両の瞳には煉獄を宿し、口から吐き出されるのは悉く呪詛。そして全身から放たれる生々しい地獄の気配。
この状況であれば漁夫の利を狙うか何も言わずに蹴りかかる。そんな男だった筈だ。
間違っても戦闘を止めさせるような性格はしていない。
………偽者、あるいは他人の空似か。
たとえ本物だとしても躊躇う理由は無いが。


まず、目に飛び込んできたのは二つの人影。
片方は紫の鋼で覆われたライダー。モチーフは蠍だろうか?
その考えを裏付けるように響く電子音声。

『Change Scorpion』

もう片方は………マスクドライダーシステム?否、自分が知るそれとは僅かに異なっている。
装甲は僅かにくすんだ銀であり、マスクドフォーム独特の重厚さやライン状の視覚素子が無い。
そして節足動物のモチーフも無し。バックルには黄金のスペードが彫られているだけだ。
デザインはむしろゼクトルーパーのそれに近い。
―――極秘開発の新型か。
だとすればこの殺し合いにも説明が付く。
恐らくは、新兵器の実戦テスト。それも模擬戦ではない。
なら、自身がやるべきことは一つだ。
―――最強である事を証明する。
それも単純な単体戦力としてではなく、全てを統括する指揮官として。
―――チームの勝利無くして、本当の勝利は無い。
自分の言葉だ。ここにシャドウは居ないが、ならばチームを組めば良い。

「俺と組む気は………」

咄嗟に地を蹴る。眼前を掠める銀の閃き。宙に留まった前髪が斬り飛ばされ、更に嫌な音を立てて焼け焦げた。
―――あの雷撃音はこいつの武器か!!
手を掲げ、戦意を呼び覚ます。大気を叩く羽撃きを掴み取り装着。
「―――変身!!」
六角形が全身を覆い装甲を構築。拳を放つ。
帯電した刃は危険。故に柄を殴って弾いた。
同時、紫の一刀。避し切れない。
「キャストオフ!」

『Cast Off』

吹き飛ぶ二体のライダー。
こいつらは不協和音だ。それもフォルテッシモ、どうしようもなく旋律の調和を破壊する。

―――なら、殺さなければな。
『Change Wasp』

「クロックアップ」
「―――クロックアップ!」

『『Clock Up』』

二重に響いた電子音声と共に通常の時間軸から離脱、追随する紫の影の斬撃を拳の針でいなす。
何やら剣の柄を展開している銀、しかし遅い。クロックアップが不完全なのか?ゼクトルーパーの発展型?
だとすれば敵たり得るのはこの蠍だけだ。先に仕留めておく。
中段の蹴りから上段の一打、本命の右へ繋ぐ格闘の連携。

入った。機を逃さず左、右、連打、連打、右左右左右左右連打連打連打――――!!

『Time』

だが、それは強制的に中断させられた。つい一瞬前までは何もなかった左の空間、そこに突如現れた銀。
………瞬間移動!?
違う、既に刃を大上段に振りかぶっている。単なる移動であれば動作は持続する筈だ。
響いた電子音声、タイム、時間、つまりこの不自然な移動は、
………自分以外の時間を止めたのか!
事実が思考によって連鎖する。
クロックアップが不完全なのではなく、極短時間、極限までの加速を行えるシステム。
だが欠点は多い。恐らく制限時間は数秒といったところか。
仰け反り回避、同時にゼクターを操作。
叫ぶ。

「――――ライダースティング!!」

緑光を放つ蜂の毒針、それを突き刺さんと拳を引き絞った。

『Rider Sting』


『『Clock Up』』

突如現れた蜂の様なライダーと、先程まで戦っていた蠍のライダーが加速した。
それも自分が持つカードによるような単純な加速ではなく、まるで時間の流れから切り離されたように。
加速した世界の中、自分だけが取り残される錯覚を振り払いカードを取り出す。
たとえその加速が時間に干渉したものであろうと恐れる道理は無い。
何故なら、時間を操る術ならば自分も持っている。
手首を返しラウズ。

『Time』

刹那を刻む世界。完全に停止した空間を移動し、向かって右から蜂の頭部へと刃を振りかぶった。
だが予想より遥かに早くラウズカードの効果が切れる。
相手の加速は持続している。スウェイバック。同時、奴が手首の針を操作した。

「――――ライダースティング!!」

その針から頭部へと駆け上がる禍々しい緑の雷光。それが再び針へと宿る。

『Rider Sting』

突き出される針。アレに触れれば胴体の一つや二つは貫かれると直感。だが避し切れない。
ラウズカードを使うか?しかし残るAP値は1600。『タイムスカラベ』は使えない。
否、それ以上に退くのはまずい。あの紫のライダーも復帰しつつある。
だから、前進だ。
あえて倒れ込む。迫る一撃は潜るように回避、だが返しの二撃は確実に直撃する。

―――――その運命をも、剣崎一真は覆す。

『Mach』

残ったAP全てを代償に得た強烈な加速。
踏み込みなど不要。さながら前方に落下するように加速した体は、崩れた姿勢を保ったまま飛翔した。

―――――そう、彼の判断は紛れも無い最善手。だが情報と、そして運が足りなかった。

突如バックルが自動的に引っ繰り返る。飛び出した燐光の板。
………何だと―――!?

―――――ひとつ、神崎士郎が科した制限。変身の制限時間に気付いていなかった。

強制的にアンデットとの融合が解除される。訓練によって体に叩き込まれた受身、バイクで転倒するに等しい衝撃。

―――――ふたつ、受身によって転がった先には、この遺跡に仕掛けられている罠、その内一つを動作させるスイッチがあった。

立ち上がろうと手を突いたそこに、かちり、と不吉な音。

――――彼ら三人が立っている石畳。それは石の一つを要石として組んだものであり、つまり地下室の上にある。

まるで歯車が噛み合うような震動が手に伝わり――――

――――崩落。


ザビーの連打を受け、地に伏せていた体をどうにか持ち上げようとしたその瞬間、

ぎちぎちぎちぎちぎちぎちぎち

サソードゼクターから異音。目をやると、その体を細かく震動させていた。
………何だ?!
直後、弾けるように剣から分離。体を覆っていた装甲が消えていく。
原因は不明。強烈なダメージを受けた直後ならともかく、何の脈絡も無く外れるなんてことは今までに無かった。
………神崎とやらの細工か。
思考を巡らせていると、足元から微かな震動。そして―――

――――崩落。

石畳が互いの結合を失い、地下へと崩れ落ちていく。
数百年もの間降り積もっていたのであろう埃が舞い上がり、視界を完全に塞いだ。

―――好機!!


―――抜けられた!!

振り返る。だが予想された反撃は無い。
と、青年が倒れていた。恐らくは銀の装着者。
―――動作時間にも制限があるのか。

好都合だ。仕留める。
踏み込む為に右足を上げたその瞬間―――

――――崩落。

石畳から押し返す感触が消失。
クロックアップしているというのに落下が速い。何故だ?
『クロックアップが不完全』違う、あの銀にはそんな機能自体無かったのだ。本来より遅かったのは自分達の方。
原因は不明。故に事実のみを記憶する。

『Clock Over』

通常の時間軸へ回帰、視界が加速する錯覚。
視界を埋め尽くす土埃、完全に視覚を奪われる。

「………っぐ、が、ッッッッ!」

押し殺した悲鳴。
十数秒後、開いた視界には、銀に変身していた青年の姿。

「剣崎………一真」

『BOARD』と書かれたジャケットを羽織ったその青年は、にやり、と邪悪な哂いを浮かべた。


背中の中心、脊髄を貫かれた。

「………っぐ、が、ッッッッ!」

口から漏れる苦痛の声を押し殺す。
下半身の感覚が消失、到底動けそうに無い。
消えていく鼓動を自覚する。死の冷たさに侵される思考を振り絞り、

―――すまない、始―――

最後の懺悔は声にならず、消えた。


地に脚が付いた事を確認、即座にワームへと変態する。
クロックアップ、変身が解けた銀へと肉薄し、右手の鉤爪を―――

―――躊躇、憎悪の自家中毒、信念を願望で踏み殺す刹那の間隙、そして―――

―――打ち込んだ。

「………っぐ、が、ッッッッ!」

奪い取る。記憶容姿経験肉体的特性、その全てを略奪。

クロックアップを解除、擬態。
収まる埃、その先に立つ矢車に対し、唇の端を吊り上げる笑みを見せる。
死体は土に覆われ、一見での判別は難しい。

「剣崎………一真」

狙い通り、こちらを剣崎だと誤解している。
準備は整った。恐らくザビーもあと僅かで変身が解けるだろう。
そこにオリハルコンエレメントを叩き付けて隙を作り、『ライトニングソニック』で止めを刺す。
これで二人、あと三十人も殺せば贖罪は叶うだろうか?



土埃の中に捉えた微かな紫の燐光。
幾多のワームと対峙した経験が警鐘を鳴らす。

―――奴はワームだ、と。

………逃げるか。
時間制限は奴だけではあるまい。恐らく自分の変身もあと僅かで解ける。
流石に素手でワームと渡り合える程の格闘能力は無い。

「………クロックアップ」

『Clock Up』

背後を振り返らず、遺跡の中を全力で駆ける。
―――市街地だ。

この状況、仲間が欲しければ、とりあえず自分の安全を確保するだろう。
罠も無く、隠れる場所の多い市街地はうってつけだ。

………仲間を集めなければ。

こいつは倒せない。ワームでありライダー、時間停止を扱い強力な雷撃を放つ。

………強い仲間を!!


空には、喉に開いた傷口じみた下弦の月。

天空の切傷から零れ落ちていく蒼い血液を浴び、神代剣は哂っている。

【剣崎一真 死亡】
残り46人



神代剣@仮面ライダーカブト】
【1日目 現時刻:深夜】
【現在地:G―3 遺跡】
[時間軸]スコルピオワームとして死んだ後。
[状態]健康。剣崎に擬態中。
[装備]サソードヤイバー。剣崎の装備一式。
[道具]陰陽環@響鬼(使い方は不明)
[思考・状況]
1 これで、一人。
2 この戦いに勝ち残り、贖罪を行う。
※神代は食パンを「パンに良く似た食べ物」だと思ってます。
 二時間の間、サソードとワームには変身できません。

矢車想@カブト】
【1日目 現時刻:深夜】
【現在地:G-2 遺跡から市街に移動中】
[時間軸]8話 ザビー資格者
[状態]健康。ザビーに変身中(数分と経たずに解ける)。
[装備]ザビーゼクター。
[道具]アドベントカード(サバイブ)
[思考・状況]
1 市街地で仲間を見つけなければ。そしてパーフェクトハーモニー。
2 カブト、そして剣崎の抹殺。それが俺の使命だ。
3 剣崎のジャケットにBOARDとあったな………
※矢車はBOARDという名前に嫌疑(ワームの組織では?)

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2018年03月22日 23:23