はるかなる罪にかけて
薔薇を愛でる女性が自分に微笑む。
(駄目だ。逃げて! 姉さん!)
結末を知る自分が叫ぶ。しかし、それは遥かに起きた罪、変えようがないはずの過去。
姉の背後に蠍を模した怪物が現れ、刺す。結末を知っていたとはいえ、怒り、姉の仇をとるために迫る。
拳が虚しく空を切り、蠍の化け物が自分の頬へ衝撃を与える。
脳が激しく揺さぶられ、後頭部に致命的な損傷を与えられた。
遠のく意識に、自分の姿へと変える蠍の化け物と、薔薇と共に散った姉を見つめる。
脳裏に復讐の念を持ち、闇に呑まれることしか出来なかった。
「姉さん!!」
朝日が窓より射し込み、苦悶の顔を照らす。
周りの見慣れない壁と、じいやが起こしに来ないことに疑問を浮かべるが、すぐに思い直す。
(そういえばここは俺の屋敷じゃなかったな)
自嘲の笑みを浮かべ、彼にとって兎小屋のような建物で眠りに就いた経緯を思い出す。
剣崎の死体を埋め、剣崎への擬態から
神代剣の姿へと戻る。
胸の前で十字を切り、彼なりの供養を終えると、遺跡の石畳を踏みながら歩く。
ふと風を感じ、外に出られるかもしれないと期待しながら方向転換をする。
数十分もすると、神代の読み通り出口を発見し、外に出て闇に沈む街を見下ろす。
街灯は点いているものの、人の気配がせず不気味さを感じさせた。
だが心を己への吐き気で満たされた神代に、不気味さを感じる余裕などあるはずもなく、街へと降りる。
静寂に包まれた道を歩き、ふと目に付いた建物の窓からベットを見つけ、休憩することに決めた。
ベットに腰を掛け、盛大なため息をつく。
戦闘による疲労もあったが、擬態の際に自己のプライドを抑えた精神的疲労が大きかった。
そのままベットに身を委ねようとするが、変身への制限が気になり、再びサソードゼクターをサソードヤイバーにセットする。
右手に引っ掛けた剣より、金属片が精製と構成を繰り返し、サソード・マスクドフォームの姿を現す。
時計を取り出し、針が三時十三分を指していることを確認する。
(俺が変身が解けた時刻は正確に分からないが、大体二時間程度で再変身できるわけか……)
加えて、剣崎へと姿を変えれることにより、三つ目の変身、ブレイドという仮面を手に入れた。
この島では仮面の多い自分が有利であることは、先程の戦闘が示している。
(そうだ、俺は自分の意思でワームになったんだ)
擬態の感触を思い出す。剣崎へ突き立てた刃より記憶が流れ、他人を蹂躙する黒い快楽をもたらし、彼を化け物として攻め立てる刃と成った。
その上、他人の記憶が自己を崩壊させようと攻め立ててくる。彼が自分を保っていられるのは、皮肉にも姉を殺した記憶のおかげだ。
(俺は最低において頂点に立ってしまった。だが同時に償いにおいても頂点に立つ!)
贖罪、それは彼のプライドを、罪悪感を超越するただ一つの魔法の言葉だ。
(この戦いに頂点に立ち、ワームの存在を無かったことにする。そうすればじいやが俺や姉さんを喪って悲しむことも、カ・ガーミンが弟さんを亡くして悲しむことも、ミサキーヌが命を危険にさらすこともなくなる。
そのためにカ・ガーミンや天道には悪いが、少しの間死んでもらう。この戦いが終われば全て無かったことになるはずだ)
この戦いの頂点が、自分の望みを叶えると信じ、変身を解く。そのままベットへと身体を沈めると同時に、悪夢の中へと堕ちていった。
回想が終わり、続けて剣崎の記憶を整理する。彼は両親の死をきっかけに、多くの人を救う為、仮面ライダーに志願した。
アンデッドと激闘を繰り広げ、最後に親友を失いながらも世界を救った、まさに英雄と呼べる青年である。
(ノブレス・オブリージュを果たした男だったというわけか)
神代は剣崎に好意を持つ。剣崎とその親友
相川始の最後は、かつて目指した高貴な振る舞いそのものだったからだ。
客観的に見るなら、天道に自分の最後を委ね、ワームのほとんどを滅ばした彼の行いも剣崎たちに負けない活躍なのだが、ワームである自分を憎んでいる彼は自分自身の行いを認めようとはしなかった。
だからこそ剣崎の思い出を、剣崎の高貴な振る舞いを、殺し合いに利用しようと考えている自分が卑しくてしょうがない。
「今さら許しを乞うのか? 馬鹿なことだ」
呟き、立ち上がりながら刃を振るう。
「じいやが言っていた。男なら一度決めたことは最後まで貫けと。蠍のワーム、神に代わって剣を振るう男に付き合ってもらうぞ」
己の身に宣言しながら迷いを断ち切る。剣崎の記憶に浮かぶのは三人の男。
(睦月、橘、……始、名簿には彼らの名前もある。なら俺は剣崎の姿を利用する)
僅かな躊躇いが胸に生じるが、決意で無視をして建物を後にする。
汚れを知り素顔を忘れた蠍の貴族は、五つの仮面を持ちながら、贖罪の意思と殺意を乗せて街を進むのであった。
【神代剣@仮面ライダーカブト】
【1日目 現時刻:早朝】
【現在地:F-4 市街地】
[時間軸]スコルピオワームとして死んだ後。
[状態]健康。精神的に疲労。神代剣に戻っている。
[装備]サソードヤイバー。剣崎の装備一式。
[道具]陰陽環(使い方は不明) ラウズカードのスペード9&10
[思考・状況]
1自己嫌悪中。しかし迷いはない。
2この戦いに勝ち残り、ワームの存在を無かったことにすることで贖罪を行う。
[備考]神代は食パンを「パンに良く似た食べ物」だと思ってます。
また、剣崎と神代剣両方の姿に切り替えることができます。
剣崎の記憶にある人物と遭遇しそうなら、剣崎の姿に切り替えるつもりです。
最終更新:2018年03月22日 23:42