心に刃、輝く毒杯
「……やっぱり、あっちの方が良かったかな? 」
独り言は空しい。水面の月を掬うようなものだ。
返されるものの無い善意と悪意。全く以って意味が無い。
子供の手を引き走り去ったあの男。その背中を追うこと一時間弱。
見つからないよう木の陰に隠れていたところに聞こえた爆発音。
それも、自分の背後方向から。
迷った。
このまま行くべきか、来た道を戻るべきか。
結局は、道を引き返した。
だが、
「……失敗だった、かな? 」
爆発音が聞こえただけで、それに続く音が無い。
あの場所で再び何かがあったとしても、既にそれは終わっている。
ただ、
「……今更戻っても、多分追いつけないね……」
口に出したところで事実は変わらない。自分の選択は樹海の奥へ。
それに従い木の根を踏みつけ、歩みを進める。
生き残る為に、ではない。
ただ、面白いものを見る為に、だ。
―――――彼は、どこまでも純粋だった。
◆
「くそっ……どうして、俺は……!! 」
独り言はどこまでも無為だ。喩えるならそれは不可視の絵画。
聞かれるという目的を喪った言葉の意義は、色の無い絵具のそれに近い。
上城君が負った火傷の手当てをした後、俺はただ悔やんでいた。
あの時、俺が逃げ切れていれば。
……上城君が傷つくことも無かったのに!
大火傷を負い倒れた彼に対して出来たのは、救急箱の中身で使えるものは全て使い、手当てをすることだけだった。
呼吸こそ穏やかになってはいるものの、意識が戻る様子は無い。
「……ねえ、何してるの? 」
どこか軽い声。振り返るとそこには、両手に指輪を嵌め、ピアスをした金髪の青年がいた。
「……君は? 」
こういった手合いは好かないが、努めて友好的に声を掛ける。
「ってそいつレンゲルじゃん!! こいつが倒れるなんて珍し~
……あ、僕は
キング。キングでいいよ」
上城君がレンゲルである事を知り、キングと名乗る金髪の青年。
つまり、こいつの正体は、
「キング……スペードのカテゴリーキングか!! 」
聞き出した情報を思い出す。
半自動的に出現する楯の防御、そして圧倒的な攻撃力を持つ大剣の斬撃。
……敵に回すのはまずい。
距離があればシュートベントで一方的に打ち勝てるだろうが、接近戦では不利。
そして、今の自分は変身する事すら出来ないのだ。
数時間前、樹海の中を走っていた時のこと。
走り出してからおよそ十分。突如変身が解除された。
ミラーワールドの中なら兎も角、現実側で変身が解けることは無い筈だった。
上城君も同様。大きなダメージを受けるか、自ら解除しない限りは変身が解けることは無い、と。
恐らくその原因は一つ。
……神崎の仕込み、ね。
まあ、ゲームの性質上は当然と言える処置だろう。
誰も彼もが変身し通しでは、一般人にとっては勝負にならない。
だが、それを注意書きに記しておかない所に奴の底意地の悪さが伺える。
戦闘中に突如変身が解ければ確実に死ぬだろうに。
……気付けてよかったよ、全く……
危険な要素を予め知れたというのもだが、これによって一つの推測が出来た。
……神崎の目的。
何故かは知らないが、以前のライダーバトルといい、奴は『公平な戦い』の終結を望んでいる。
自分に出来た推測はその程度。その先は全く予想できない。
そして変身の制限時間は、もう一つの重要な事実も教えてくれた。
……変身した後、ある程度の時間が経たなければ再度の変身はできない。
リュウガに遭遇した時刻からして長くとも二時間、それだけの間が必要だ。
確かに、即座に再変身出来てしまっては意味が無いが、今はそれが恨めしい。
だがそれは、武器が無いという事を意味しない。
自分にはまだ、一つの武器が―――この上も無く鋭い刃物が残されている。
舌先三寸口八丁。僅かな隙間に差し込まれ梃子の原理で切り崩す、言葉という名の無形の刃が。
「……へばってるのを見つけて、殺しに来たって訳かな? 」
にやり、と。
両眼を細め、唇の端を吊り上げて嗤う。
かかって来いと言わんばかりに。
或いは、獲物を狩る猛獣のように。
駄目押し。左の掌を前に掲げる。
無論、不可視の衝撃を叩き付けるような異能は持たない。
だが、奴にとってこちらは全く未知の存在。奴自身が持つような能力を、こちらが持っていないと断定することは出来まい。
「……ちょ、ちょっと待ってよ!! 別に闘う気は無いって!!
むしろ僕は助けに来たんだって!! 」
内心、冷や汗ものだったが助かった。奴は誤解してくれたらしい。
更に言葉を重ねる。
「……何で助けようとするのかな?そう言って油断させて、隙を見せたら殺す気なんだろう?
なら、こっちから先に……」
素直に信用しては演技の信憑性が薄れる。
左手の肘を右手で握り締めた。大口径の銃を構えるように。
◆
……最悪だ。
何が悪いって、何故か自分の事を知っているこの男。
こっちに向けて片腕を構えているそいつの横に、レンゲルが倒れている。
……嘘は言ってないんだけどなあ。
ここでレンゲルに死なれてはつまらない。折角撮った写真も、ギャレンを信頼する人間に見せなければ意味が無いのだから。
……まあ、ここで見せちゃってもいいかな?
「あ、そうだ。危険な人の情報あげるからさあ、信じてよ」
携帯を取り出し操作。あの写真を表示し投げ渡す。
右手だけで受け取る男。
「……へえ。で、これが君じゃないって証明は?
そうだね、コーカサスアンデットとしての姿になってくれる?
君が本当にキングかどうか、今ひとつ自信が無いんでね」
……うわ、そう来るか。
この島に来る前なら、念動で地面に叩き伏せていただろう。
だが、ここでは何故か幾つかの能力が制限されている。
念動は完全に使用不可。そして楯はどこか弱弱しい。
「……仕方ないなあ」
額に生えた角を掴む。
その瞬間、それは剣の柄へと歪み、引き抜かれるのは黒にくすんだ黄金の刃。
―――オールオーバー。
全てを超えしもの、と称された剣。
右手に提げたそれを軽く振り、全身へ力を込めた。
左手に生まれる漆黒の楯。異形と化した左腕をひらひらと振る。
「……これでいい? 」
駄目だと言ったら斬り殺してやると考えつつ、聞いた。
「ああ、信用しよう」
左腕を下ろし、右手をこちらへ差し出してくる。
握手を求めているらしい。
人間態へ戻り、その手を握った。
◆
右手を差し出す。
握った手の指輪の感触が不愉快だが、それは表情の端にすら浮かべない。
気さくに笑いかけ、自分達の目的を説明する。
リュウガに遭う前に、上城君と相談していた事だ。
「俺達はこのゲームから脱出しようと思っていてね。その為に協力者を集めてる」
無論、自分の目的では無い。
協力者の中に
剣崎一真を見つけ、ラウズカードとバックルを手に入れる為の方便だ。
或いは、集まった参加者達を一網打尽にする為の。
「組まないか? 君が優勝しようとしてるのなら期限付きでもいい」
念の為の保険。これで奴が優勝狙いであっても引き込める。
「……いいよ、組もう。
別に誰の味方になる気も無いけど、レンゲルと一緒なら面白いものが見れそうだ」
……面白いものが見れそう、ねえ。
気に食わないがまあいい。これで協力者がもう一人。
単純に人手が増えただけだが、倒れた上城君を片方が護衛しもう片方が探索を行うといった事も可能だ。
上城君の意識が戻るまでは、そう行動しよう。
意識さえ戻ればアンデットと融合できる。傷もある程度治るかもしれない。
◆
―――――兵と僧を携えた王は歩き出す。たった一滴の悪意は、誰にも悟られる事は無かった。
◆
【キング@仮面ライダー剣】
【1日目 現時刻:早朝】
【現在地:樹海B-8】
[時間軸]:キングフォーム登場時ぐらい。
[状態]:健康。二時間、怪人態にはなれません。
[装備]:無し。
[道具]:携帯電話。
[思考・状況]
1:戦いに勝ち残る。面白いものも見たい。
2:ライダー同士の仲間割れは最高に面白そうだ。
3:今は戦うつもりは無い。
【北岡秀一@仮面ライダー龍騎】
【1日目 現時刻:早朝】
【現在地:樹海B-8】
[時間軸]:本編終盤辺り。
[状態]:手負い。でも軽傷。
[装備]:不明。(袖口に隠し持てる)
[道具]:不明。+リュウガから受け取った救急箱(元は岬ユリ子の道具)。
[思考・状況]
1:個人的には気に食わないが、キングと協力しよう。(いつかキングは封印する)
2:……城戸たちとでも合流してみるか。リュウガについて何か分かるかもしれない。
【
上城睦月@仮面ライダー剣】
【1日目 現時刻:早朝】
【現在地:樹海B-8】
[時間軸]:本編後。
[状態]:背中に大火傷。手当てはしましたが意識は戻らず。
[装備]:ディスカリバー@カブト
[道具]:不明。
[思考・状況]
1:意識を失っているため不明。
最終更新:2018年03月22日 23:46