仮面ライダーの重圧

――ピ~ン♪ポ~ン♪パ~ン♪ポ~ン♪

 氷川くんたちがシャドームーンに連れ添ってこの場を離れてから数分後、1回目の放送を告げるチャイムが鳴り響く。
 そこで語られた内容は俺を動揺させるのに充分な内容だった。
「ほぉ、立花藤兵衛、珠純子が死んだか。誰が殺したか知らんが結構なことだ」
 ドクトルGの言葉に、俺は殴りかかりたい衝動に襲われる。だが、ここで感情を顕にするわけにはいかない。
「……そうだな」
 できるだけ耽々と、感情が篭もらぬように言葉を紡ぐ。
「だが、ラーイダV3は生きている。あやつらが生きている内は安心はできんな。……うん?何をしておる」
「一応約束したからな。俺も西へ向かう。折角の駒が殺されては台無しだからな」
 シャドームーンとの約束、氷川くんたちと共に行動してもらう代わりに俺も南を探す。
 しかし、それは建前だ。やはり氷川くんたちをシャドームーンに任せておくのは不安が残る。
 俺も合流して一緒に行動する。それが最善だ。
「なるほど。ならば俺も付き合おう」
「いや、動くのは俺ひとりで充分だ。ドクトルGは待っていてくれ」
 ただ、そのためにはドクトルGとは別行動をとらなければならない。
 俺はドクトルGの申し出を断ると、トランシーバーとディパックの中身一式を懐に入れ、準備を整える。
「いいだろう。しかし、残りのトランシーバーは置いて行け。連絡が取れないと困るからな」
 ドクトルGの言い分は尤もだったが、俺は答えに窮した。
 本心としてはこちらの会話内容を聞かれる心配があるトランシーバーを置いていきたくはない。
 だが、置いていかないと言ってもドクトルGは納得しないだろう。長々と問答をしている暇もない。
「わかった。何かあったら必ず連絡を入れるようにする」
 俺はそう答えるとその場を離れた。ドクトルGが俺に向ける不信の目に気づかぬまま。


「こちら風見、こちら風見。氷川くん、応答してくれ」
 D10エリアを離れて2時間、ドクトルGから充分に距離をとったところで、風見の名を借り、トランシーバーへと呼びかける。
 だが、返ってくるのはザーという無機質な音ばかり。
「くっ、一体どうしたんだ。氷川くん、応答してくれ」
 俺は懸命に呼びかけるが結果は変わらない。
 やはり俺の判断は間違いだったのか?

――カシャ、カシャ

 俺の思考を遮り、聞き覚えのある金属音が俺の耳に届く。この音は……
 音が響く方向へと俺は走る。そこには予想していた通り、銀色の男の姿があった。
「シャドームーン!」

―カシャ

 俺の叫びに、彼は動きを止め、こちらへと首を向けた。彼の周りに氷川くんと日下部くんの姿はない。
「貴様、氷川くんたちをどうした!」
 自然と語気が荒くなる。
「その声、風見志郎か。……ふっ、さあな。いつの間にかいなくなっていた。いずれにせよ俺にはどうでもいいことだ」
 シャドームーンの言葉に、俺の心が怒りが満ちる。
「ヤァッ!」
 俺は反射的にライダーマンに変身していた。そして、刃となった右腕を構え、シャドームーンへと突進する。
「ふっ、かかってくるか!」
 俺の行動に虚をつかれた様子もなく、同じく右腕を構えるシャドームーン。
 彼のエルボートリガーと俺のパワーアームがぶつかり合う。

 刹那―――

――パキッ

 無機質な音を立てて砕け散ったのは―――彼のエルボートリガーの方だった。
「何!?」
 その有様にさすがのシャドームーンも動揺する。
 すかさず俺はパワーアームを横薙ぎに払る。パワーアームはシャドームーンの硬質的な身体をかすめ、大きな火花を散らせる。
 呻き声を上げ、よろめくシャドームーン。
「ドリルアーム!」
 俺は止めとばかりに、右腕を強固な装甲も穿つ、長く尖ったドリルに変え、全身の力を込め、穿孔を放った。
 それで勝負は決まった。
「うぐっ、がぁ、馬鹿な……」
 派手な音を立てながらシャドームーンの装甲を砕き、腹に突き刺さるドリル。俺の腕にシャドームーンの身体から徐々に力が抜けていくのが伝わってくる。
 これでドリルを回せば、さすがのシャドームーンも命はない。その確信が俺にはあった。
 だが……
「………」
 熱くなっていた俺の心が急激に冷めていく。
 俺はシャドームーンの腹からドリルを抜くと崩れ落ちそうになるシャドームーンを支える。
 彼の意識はもうない。
「すまない、シャドームーン」
 シャドームーンに氷川くんたちを託したのも俺ならば、シャドームーンに行きたい場所に行けと言ったのも俺。
 氷川くんたちが危険な目にあっているというのなら、その責任は全て俺にある。
 俺の怒りは本来なら自分自身に向けるべきものだ。だが、俺は怒りに我を忘れ、シャドームーンを攻撃してしまった。彼に責任がないのにも関わらずだ。
 例え敵とはいえ、俺の行動は誉められるものではなかった。

 俺は自分の性格を悔いる。
 大局を見ず、自分の信じるがままに行動し、結局、最後は周りに流されている。
 ずっと同じ。

――仮面ライダー

 例えV3からその名前を授かっても、俺自身は変わっていない。

『仮面ライダーは闇を切り裂いて、光をもたらす! こんな殺し合い、ぶっ壊してくれるから、脅えないで自分と戦って!』

 先程聞いた少女の訴えが俺の心に再び響く。
 俺は闇を切り裂き、光をもたらすことができるのだろうか?


「このままにしておくわけにはいかんな」
 俺はライダーマンの姿のまま、シャドームーンを抱え上げる。
 このまま放置していては、いつ誰に止めをさされるかわからない。
 自分が瀕死の状態に追い込んでおいて勝手だとは思うが、今の俺にはとどめをさすことも放置することもできない。
「とりあえず南に向かうとするか」
 シャドームーンは北に向かっていた。ならば、氷川くんたちは南にいる可能性が高い。
 南へしばらく歩みを進めていると、突如ライダーマンへの変身が解ける。腕にずっしりとシャドームーンの重みが圧し掛かる。
 やはりそうか。シャドームーンと実際に戦ったことはないが、南と対等に戦える相手がこうもあっさりやられるとは考えにくい。シャドームーンの戦う前のあの自信も実力に裏打ちされたものだろう。
 ならば、能力になんらかの制限がかかっていると考えるのが自然だ。
 変身、または全力が出せる時間は10分程度。一度変身すると数時間は能力に制限がかかるといったところだろう。
 まったく、とんでもないことが出来るものだ。だが、逆に考えればチャンスともいえる。
 ドクトルGやヨロイ元帥、悔しいがまともに戦っては俺が勝てる見込みはわずかしかない。
 しかし、これを利用すれば、どんな強敵も倒すことが可能になる。
 なるほど、ただ殺し合いをさせるだけなら、何の力もない女性や子供が混じっているのはおかしいと思っていたが。
 そうすると主催者の目的はなんだ?こんなことをして何の意味がある?
 ……考えても仕方のないことか。俺がやるべきことは首輪の外し方を見つけ、皆と一緒に脱出すること。
 そのためには、まず氷川くんたちとの合流だ。
 俺はシャドームーンを抱えたまま、道を進んでいった。


結城丈二め、一体何のつもりだ?」
 木々の陰からドクトルGは結城の姿を捉える。
 同じデストロンとはいえ、信用すればいつ寝首を掻かれるかわからない。幹部にまで上り詰めた者にとってそれは常識だった。
 結城の言動を怪しんだドクトルGは結城が場を離れてから、すぐに後を追った。
 ひとつひとつ結城の行動を確認する度にドクトルGの疑念は深まっていく。
 なぜ駒ごときに必死になる?なぜシャドームーンにとどめをささない?
 そして、ドクトルGが抱いた最大の疑念は自分にトランシーバーが繋がらないことを確認して、駒に呼びかけたこと。
 ドクトルGは斧を磨ぐ。結城丈二の聡明さは惜しい。だが、自分を裏切るなら――

――生かしてはおかない
【結城丈二@仮面ライダーV3】
【1日目 現時刻:午前】
【現在地:市街地D7エリア】
【時間軸:仮面ライダーBLACLRX終了後】
【状態:健康。2時間変身できません】
【装備:カセットアーム】
【道具:トランシーバー(現在地から3エリア分まで相互通信可能)、名簿を除くディパックの中身一式】
【思考・状況】
1:氷川くんたちを探し、合流する。
2:シャドームーンの扱いを思案中。
3:首輪を外すために必要な情報をもっている人物と首輪と同様のテクノロジーをもつ道具を探す。
4:同一時間軸から連れて来られたわけではないことを理解。ドクトルGを利用することを模索。
5:ヨロイ元帥を倒す。

【シャドームーン@仮面ライダーBLACK RX】
【1日目 現時刻:午前】
【現在地:市街地D7エリア】
[時間軸]:RX27話以降
[状態]:気絶。右腕のエルボートリガー破損。腹にドリルによる刺し傷。後30分程度戦闘できません。
[装備]:シャドーセイバー
[道具]:なし
[思考・状況]
1:気絶中

【ドクトルG@仮面ライダーV3】
【1日目 現時刻:午前】
【現在地:樹海C7エリア】
【時間軸:死亡後】
【状態:軽症】
【装備:斧、盾】
【道具:トランシーバー(現在地から3エリア分まで相互通信可能)】
【思考・状況】
1:結城丈二に不信感。裏切るような行動を取れば殺す。
2:デーストロンのため、絶対に勝ち抜く。
3:ヨロイ元帥を探す。
※ドクトルGは結城丈二に不信感は持っていますが、デストロンでないとは思っていません。

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最終更新:2018年11月29日 17:24