想い紡ぐ者達

「ちょっと巧! 早く座ってよ。」
(んん……真理?)
「もう!せっかく美容師の資格取れたんだよ? あんた、お客さん第一号でしょ。 ほら!こっち早く。」
「あぁ。」
ハサミを片手に、俺を急かす。
「うるせーな。 本当に上手く切れんのかよ?」
「ちょっと、 話しかけないでくれる。 気が散るから。」
シャキッ シャキシャキ……
リズム良く、切り落とされて行く髪。 心地良さに重くなる瞼、少し目を閉じる。
シャキッ シャキシャキ……シャキッ シャキシャキ トン トトッ……
――オイ、 何か音おかしくねーか?

トントントントントントントントントントントントントントントントンッッ!

「お前!何やってっ……うゎっ!」
ガタタッッ ガタンッ!
「痛てっ!」
……ここは?
見慣れない模様の床。
打ち付けた腰を擦り、ハッと我に帰れば、キッチンから天道が睨み付けている。
「現状を忘れて、眠り惚けている奴の言葉とは思えんな?」
「別に!ちょっと、夢見てたんだよ。」
そうだ。 あの後、気絶してるあきらを海辺のこの別荘まで運んで……
疲れて、そのまま寝ちまったのか。
「大声を出すな。あきらが目を覚ます……」
「あぁ。」
伸び過ぎている髪をかき上げ、平静さを取り繕う。 
まだ、何も終わっちゃいない。
「乾、出来たぞ。」
包丁の類は無かったらしく、天道の手には鋭く尖った石が握られている。
そして石で切ったとは思えないほど、綺麗に切り揃えられた葱。
さっきの変な音は、これか。
「こんな時に、のんびり飯かよ。」
言葉とは裏腹に、味噌汁の匂いが鼻腔をくすぐる……
改めて座り直す、湯気の立ち上る味噌汁。プラスティックの容器から伝わる温度は、熱くも無くぬるくも無く。
普通の奴なら適温、でもまだ俺にとっては致命的だ。
眉をひそめる天道を横目に、フーフーッフーフーッ、冷ましながら一口。
「……うまい。」
少し悔しいが差し出されるまま、おにぎり、また味噌汁と貪りつく。
「当たり前だ。 誰が作ったと思っている?」
スカした奴だな。 だけど、やっぱ美味いわ。
「ひよりって奴、幸せ者だな。 こんな美味い味噌汁作れるお前と、一緒に居るなんて。」
「フッ、馬鹿を言うな。 ひよりの料理は、俺をも凌ぐ……」
お互いの口許から、つい零れる笑み。
「なら、そいつから真理に料理教えてやってくれよ。」
こんな状況じゃなきゃ、もっと良かったがな。
「……」
「なんだ? お前、聞いてんのかよ。」
やけに厳しい表情。 その視線の先……
束の間の安息を嘲笑うかの様に、リビングの鏡に映り込むスマートレディの虚像。
×××××× 死亡者6名。
残酷な現実だけを残し、平穏な朝はスマートレディと共に鏡の向こうへ消え去った。

――予想以上だな。
突き付けられた現状と、ひよりや加賀美が無事だったと言う安堵が複雑に入り交じる。
憤りを感情のまま自分に投げ付けて来る乾を、頭の隅に追いやり思考を整理する。
何かが、引っ掛かる。
放送の瞬間、 此方を向いていた乾が振り返った。 そして、
「乾……お前、今の女が何処に見えた?」
「あぁ!何処って鏡に突然、それが何なんだよ。」
俺には、窓ガラスに映り込む女が見えたが?
いや、確かに乾の視線は俺とは若干外れ、リビングの鏡を見ていた。
プリズム?
首輪から投射され、媒体内部で分光し映像化しているのか……
それに加え、生態反応感知と能力制限の為の電子チップ、首を吹き飛ばす量の爆薬、
位置を把握するための発信機、あとは盗聴機あたりが組み込まれていても、おかしくは無い。
この小さな首輪にそれだけの機能が搭載されているとすれば、恐らく起爆と施錠の仕組み自体は、単純にせざるを得ないだろう。
爆破の条件は、3つ。
  • 無理に外した時
  • 禁止エリア
  • 神崎士郎によるリモート爆破
首輪の正面に組込まれプラスティックのプレートの部分。
恐らくここが投影、発信機、リモートによる爆破を司る通信部の本体。
ここを取り除けば、爆破条件の内二つはクリア出来る。
しかし、同時に情報も遮断される。
「どうした、天道? まさかお前の仲間が。
「いや…… だが、思っていたよりは酷い状況だ。」
まだ断定は出来ない。 乾に伝えても、事がややこしくなるだけだ。
「乾、 あきらを起こせ。 充分とは言えないが、休息は取れただろう。」
考えを気取られまいと、手早くキッチンを磨きあげる。
光沢を放つシンク、最後の水滴をふき取った。その時……
――その時、聞こえた少女の願いを、俺は生涯忘れはしない。

「この声!真理じゃねーか!」
表に飛出し姿を捜す。 途切れ途切れに聞こえて来る音声、距離はかなり遠い。
「お前の言っていた、園田真理か!?」
デイバックを手に天道が駆け寄る。
「そうだ。あのバカ!どこだ。 遠過ぎるぜ!」
――ウルフオルフェノクになって走れば、まだ! だが、天道…… 畜生、でも真理が!

ガガガガガガッ!

ためらう思いへ、制裁を与える銃撃音。
――真理!
もう、迷ってる暇は無い……
「天道…… 俺の、俺の本当の姿は……」
開放され身体を駆巡るオルフェノクの因子。
「ウォォァァアアァァ!」
――まだ、生きているかもしれない、 まだ救うことが出来るかも知れない。 一縷の希望を架け 変身する。
ウルフオルフェノク  すべてを切り裂く鋼の爪、忌まわしき銀色の肉食獣。

突き放されて当然だ。 出来れば見せたくはなかった。
「……お前のベルトが入っている。 持って行け!」
困惑する俺に、天道はデイバックを差し出す。
「乾!何をグズグスしている? その姿なら、間に合うかも知れないのだろう。
園田真理を救う、それが本当のお前だ!!」
迷いは、その一言で張り倒された。
「天道……」
「あきらを頼むと言いたいのか。お前に言われなくとも、そのつもりだ。行け!」
――やっぱ、スカしたヤローだな! デイバックを咥え、走り出す。
「乾! かならず生きて帰ると約束しろ!あの、一番高いビルの屋上で、あきらと待っている!いいな!」
あぁ。絶対に生きて帰ってやる!真理も一緒にな!

仮面ライダーは、ファイズは、闇を切り裂き光をもたらす!
その言葉を胸に、2人でかならず帰るつもりだった。
数分後、麻生の言葉を聞くまで。

――間に合わなかったか、乾。
園田真理の最後の願い、乾の思い、麻生と言うライダーの魂の叫び。あきらに知らせる現実。
今は自分の胸にしまい込み、後手にドアを閉める。

「天道さん、ここは? 」
窓から差し込む光に、眩しそうに目を細めながら、ソファからゆっくりと起き上がる。
「目が覚めたか。」
少し体力が回復したのだろう。顔色も良い。
「痛むところは無いか? さぁ、少しだけでも食べるといい。」
「ありがとうございます。……おいしい。」
まだ、ぼんやりとしながら朝食を口にするその姿はあどけない少女その物だ。
「あの、乾さんはどうしたんです? まさか!」
次第に青ざめていく表情。
「お前を襲って来た奴は乾と倒した。 心配することはない。」
「なら、何処に居るんですか。」
――辛い役目だが。一呼吸置き、あきらを見つめる。
「乾の事も含めて、お前に伝えなければならないことがある。」
一つ一つ言葉を選び、紡いで行かなければ。
「何か、遭ったんですね。」
昨日、あきらが話したディスクアニマル、そして音撃戦士、持っていた鬼笛。 ならば……
「これに見覚えはあるか?」
―――これは、変身鬼弦?そして音撃弦・閻魔! 確か、裁鬼さんの武器。
「ここに来る途中、見つけた。 その傍らに落ちて居たのがこれだ。 やはり、お前に縁のある物だったか。
日本古来の神聖なる戦士たちの操る武器……
恐らく墓石の代わりだったのだろうが、あきらの身を守る道具になればと、乾が持って来た物だ。」
「裁鬼さんが、鬼が倒されるなんて……」
放送、禁止エリア、園田真理と乾の思い、約束の場所、そして麻生たちの言葉、あきらに送られた言葉。
「明日夢、あきら、きっと助ける、待っていてくれ。そう言っていた。」
「その人は、きっと響鬼さんです。」
あきらの瞳から、堰を切ったように大粒の涙が溢れ出した。 かける言葉が見つからないのが歯痒い。
「大丈夫だ、乾の目指す先にその男もいる。
歩けるか? 少し遠いが、今は乾を放っては置けない。」
「はい。」
不意に、光を遮る影。
「危ない!」
ガツッ ガツッ   ガッシャーン!
窓ガラスを叩き割り、飛来する物体。
「あきら、隠れていろ!」
変身すべく、伸ばした手を擦り抜けて行くカブトゼクター。 そして、戯れ会いながら飛交う、青き闘神の化身。

ガタックゼクター!?

突然、飛込んで来た青い甲虫。
形状は違うけれど、式神の役割を果たしているのだろう。
きっと、助けを求めに天道さんの元へ来たんだ。
立ち上がろうとして手を掛けたテーブルの上、指先に触れる裁鬼の遺品。

もし、ここが日常なら。
修行半の身、心身共に未熟な自分はきっと触れる事さえも躊躇う。
でも今は、そして、私に出来ることは……

――裁鬼さん。 戦うつもりはありません。 でも、生き残る為に…… 音撃弦 閻魔 お借りします。

「行って下さい、天道さん。」
「あきら?」
さっきまで泣いていた私にこんな事を言われたら、天道さんで無くても不思議に思う。
「ディスクアニマルとこの音撃弦があれば、逃げ延びる事ぐらいは出来るでしょう。
私、乾さんを探します。
そして、響鬼さんや麻生さん、皆で必ず約束の場所で待っています。
だから天道さん、行ってあげてください。」
真っ直ぐに自分を見つめる瞳。
戦士を選んだ強き志、それ所以の物なのか。
すまない、あきら……お前の覚悟に、少し甘えるとしよう。 加賀美の為に……
「わかった。でも決して、無理はするな。」
「はい。」

ガタックゼクターの標す道は、苦しくも2人の行く先を分ける。
戦士となった少女を見送り、世話のかかる加賀美の無事を切実に祈り、走る。
胸に、敬愛する祖母の言葉を抱きながら。
――おばあちゃんが言っていた。
人は、糸と似ている……一糸は弱く儚い。
だが、それぞれの想いを紡いで行けば強き紐と成り、信頼を織込めば、解く事の出来ない堅い絆となる。とな……
神崎士郎、俺たちの織り成すお互いを想う絆、紡ぐ想いを、貴様に断ち切る事は出来ない!
【乾巧@仮面ライダー555】
【1日目 現時刻:午前】
【現在地:市街地F-7エリア】
【時間軸】中盤くらい
【状態】精神的に大ダメージ、 変身が解けるまで全速力で走ったため疲労している。
【装備】ファイズドライバー、ファイズフォン
【道具】ミネラルウォーター×2(一本は半分消費) カレーの缶詰 乾パンの缶詰
【思考・状況】
1:真理が、死んだ?
2:麻生って奴を捜す。

天道総司@仮面ライダーカブト】
【1日目 現時刻:午前】
【現在地:市街地G-7エリア】
【時間軸】ハイパーゼクター入手後
【状態】若干疲労、
【装備】カブトゼクター&ベルト
【道具】食料など一式
【思考・状況】
1:ガタックゼクターを追う。
2:ひよりの救出。
3:一刻も早く、乾、あきらと合流する。

天美あきら@仮面ライダー響鬼】
【1日目 現時刻:午前】
【現在地:市街地G-7エリア】
【時間軸】中盤くらい
【状態】体力、気力とも回復。
【装備】破れたインナー、鬼笛・ディスクアニマルアカネタカ&戦国時代のディスクアニマル、音撃弦・閻魔
【道具】変身鬼弦(裁鬼)
【思考・状況】
1:絶対に生き残る 。
2:皆を捜し出し、天道さんと合流する。

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最終更新:2018年11月29日 17:26