Lonely Soldier

 木野薫は、自らに迫るミサイルと弾丸を見つめていた。
 爆発に巻き込まれながら、アギトに変わった身でも危険だと本能が告げる。
 木の葉のように身体を翻弄され、地に伏せる。
 超人から元の人間へと、身体が変わり、意識が薄れていく。
 その時、機械を通した女性の声が聞こえた。
 戦いを止めることを訴え、希望を紡いでいる。
 暗闇が、木野を覆う。薄れていく意識の中、吹雪が起こり、隣には眠る弟がいた。
 最早木野には夢と現実の区別はついてはいない。
 少女の言う闇を切り裂き、光をもたらすため弟を担ぎ、全ての人間を救うために動く。
(俺は救ってみせる。雅人を、助けを求める者を全て!! そのために……)
 木野の決意が残酷な雪山で木霊する。その傍らには、絶対救えない弟が罪として存在していた。


 壁が崩れた小屋に男が二人、皿を空にして椅子に座っていた。
 一人は細い長身をグレイの高級スーツで上下に身を包んでいる。
 胸には弁護士であることを示すバッチが輝き、首元はネクタイをなくしていた。
 綺麗に左右に流された黒髪を揺らし、整えられた眉の下で、知的でありながら他者を値踏みするような瞳を対峙する男に向け、声をかける。
「さてと、これからどうする?」
 声をかけられた、黒のジャケットを羽織った男は、黒い豊かな前髪の下の、垂れ下がった熱さと知性を秘めた瞳から視線を動かす。
 彼の視線は、対峙する弁護士の男ではなく、健やかな寝息を立てる、白いジャンパーを羽織り、青いジーンズを穿いた男に向けられていた。
 茶色に染めている長髪の下、笑顔を浮かべ楽しそうな寝言を呟いている。どうやら彼が趣味だと語っていた、家庭菜園についての夢であるようだ。
 そして彼は視線を弁護士の男に向けなおす。
「津上が目覚めるのを待つしかないだろう。それより北岡、お前に聞きたいことがある」
「なによ。答えられる範囲なら、何でも答えるけど?」
(もっとも、知られて困ることには答えないけどね。たとえば、俺が不老不死を狙っているとか、俺の支給品とか)
 北岡は心の中で舌を出し、飄々と答える。
 他者が彼の内心を知ったのなら、食えない奴ともらしただろう。
 それもそのはず。彼は黒を白に変える、弁護の達人、北岡秀一だからだ。
 騙しあい、化かしあいは彼の得意分野である。
「お前は自分のためにしか動かないといったな。そのためなら何でもやると。
お前は、このゲームに乗っているのか?」
 橘の直球な物言いに、北岡は呆れる。
 ここで馬鹿正直に答える奴など、超がつくほど善人以外はありえない。
 橘自身が、超がつくほどの善人なのだろう。睦月が騙されやすいと評したのが分かった。
(さて、どうしたものか)
 彼自身、ゲームに乗っているか微妙である。
 この殺し合いで、最後の一人にならずとも、自身の願いを叶える手段を知った。
 その方法を試すために、橘か睦月は味方にしておきたい。
 だが、アンデッドになったとしても、首輪を外さねば意味が無く、神崎がそれを許すとは思えなかった。
 いつかは、アンデッドによる不死か、最後の一人としての願いで不死になるか決めなければならないだろう。
 だが、今はその時ではない。となると、橘に対する答えは一つ。
「乗っちゃいないさ。言っただろ。俺は俺が一番大切だって。
それなら、こんな殺し合いで命を落とすような真似はゴメンだね。生き残る確率を増やすためにこうしてチームも組んでいる。
殺すつもりなら、あの時手加減なんてしない。仲間割れなんてまとめて殺すチャンスだからね。違うか?」
 北岡が尋ねると、橘は顔を顰め、ああ、と返事をした。
 おそらく仲間割れという醜態を引き起こしたことに自己嫌悪しているのだろう。
 とりあえず、ごまかして答えを先送りしたことがばれないことに安堵する。もっとも、当然の結果だったが。
 唸る橘に、分かりやすい奴だと笑う。
 その時、う~んという声が長髪の青年、津上翔一の方向から聞こえてきた。
「よく寝た~。橘さん、北岡さん、おはようございます。ああっ!!」
 挨拶を返そうとした二人がギョッとする。
 津上は二人の空の皿を見つめ、笑顔を浮かべた。
「俺の作った朝ごはん、食べてくれたんですね。味の方はどうでしたか?」
 北岡がなんだ、そんなことかと内心呟きながら答えようとしたとき、再び機械を通した声が聞こえてきた。


 男の訴えが、機械を通して小屋に響く。
 その訴えを静かに聞き終え、津上は顔を二人に向けた。
「命を落とした真理ちゃんって、どういうことですか?
俺が寝ている間に、何かあったんですか?」
 津上の問いに、橘が伏せていた顔を上げ、静かに語りかけてきた。
「津上が寝ている間に、少女の訴えがあったんだ……」
 橘の口から出るのは、真理という少女が戦いを止めようと訴えたこと。
 そして、彼女が凶弾に倒れてしまったこと。
 最後に、彼女を救うためキックホッパーである麻生が駆けつけ、無常にも間に合わなかったこと。
 一つ一つの事実に、津上は身体を怒りと感動で震わせていた。
「麻生さんの下へ行きましょう! そして、一緒に闇を切り裂いて、光をもたらしてやりましょう!!」
「もちろんだ、津上。力を合わせて、この戦いを止めよう!!」
 二人は少女の願いに呼応し、気力が湧き上がる。
 その様子を冷ややかに見つめる北岡が、今に飛び出さんとする二人に声をかけた。
「やる気を出しているのは結構だけど、丘のほうへ向かうのは待ってもらえないか?」
「何を言っているんですか! 北岡さん!!
麻生さんは戦って、今負傷しているかもしれないんですよ。早く駆けつけて、守らないと!」
「津上の言う通りだ。それとも、あの場へ向かって不都合なことがあるのか?」
 橘の射るような視線が、北岡を貫く。
 まだ完璧に信用されてないことに、当然かと思い、自分の持つ重要な情報の一つを明かす事を決めた。
「都合が悪いのは、場所じゃなくて今の俺たちさ。首輪に制限がかかっているのは気づいているか?」
「なに? どういうことだ?」
「普段より威力が低くなったり、急に変身が解けたり、二時間くらい変身できなかったりしなかったか?」
 その言葉で橘が思い出すように顔を伏せ、あの時かと呟くのが聞こえる。
 おそらく、北岡が橘と最初に遭遇したときの出来事だろう。
「どういうことですか?」
「橘は心当たりがあるだろうが、首輪の制限の所為で俺たち十分間しか変身できないのよね。
そして変身した後は二時間再変身ができない。だから変身できる時間まで待って欲しいってことよ。
あそこには血の気の多い連中も来るだろうしね。麻生とかいう奴を守るためにも、変身できるようにしておく必要があるだろ?」
 北岡の言葉に、まだ津上が反論しようと身を乗り出す。
 変身できなくても、向かうべきだと言いたいのだろうと分かり、先手を打つ。
「心配しなくても、ヒビキって奴が麻生と合流している。
木野をこのままにしておくわけにはいかないし、とりあえず変身できる時間になるまで休憩ってことでどうかな?」
 今度は異論は出なかった。
 麻生が一人で無いという事実と、木野という存在が、北岡の望み通りに展開させたのだ。
 多少のアクシデントはあったが、とりあえずは順調に事を運んでいた。
 ギシギシと椅子の音を立て、目を瞑る。
(ま、ゲームに乗った奴が現れても、三人いれば大丈夫でしょう。
とりあえずは休憩するとしますか。途中アクシデントはあったけど、今のところは順調だね)
 ゆえに、僅かな油断が北岡に生まれた。


 ジャリ、ジャリ、と地面を踏みしめ、蛇は獣道を進む。
 金に染めた髪の下の瞳は狂気の光を爛々と輝かせ、獲物を求めていた。
 胸元を大きく開いた蛇柄のシャツを羽織った痩躯が揺れる。
 腰には再起動をしたデルタドライバーを巻いていた。
 森で潜んでいた蛇、浅倉が麻生の放送を聞いたのは、ベルトが再起動する三十分前だった。
 浅倉は戦いの無情を訴える内容には興味は無い。キックホッパーである麻生が丘にいるという事実が欲しかった。
(今向かえば麻生って奴と戦える。いなかったとしても、近くにいるはずだ。ハッ、ゾクゾクする)
 V3という奴から奪った支給品は意味が分からなかった。説明書を見ると、ファイズというベルトにしか対応してないようである。
 V3の支給品は自分にとって外れだが、北崎の支給品には笑みがこぼれた。
 この武器を北崎は使わなかった。己の肉体に自信があったのだろう。
 だが自分には関係ない。拳だろうと銃弾だろうと剣だろうと、イライラさえなくなればそれでいい。
 丘の頂を見つめる。
「あそこか、祭りの場所は?」
 蛇は行く。己が狂気を歩みに乗せて。


 麻生の訴えから一時間、北岡たちは丘の頂にたどり着いた。
 一足遅かったらしく、麻生の姿はそこには無い。
「麻生さんたち、どこに行ったんでしょうね?」
 木野を背負った津上が話しかけている。道中は木野を橘と交代で背負ってきたのだ。
 暴走の危険があるため、小屋に置いていきたかったが、津上が強固に反対し、橘が同意した。
 北岡はそこまで考え、思考を現在に戻す。
「血や破壊の跡が多いし、怪我が酷くて休憩しに丘を降りたんじゃないか?
ほら、目の前には丁度休める場所が豊富なところが多そうだし」
 眼下に広がる街並みを、津上たちが見下ろす様子が見える。
 麻生を探そうと、二人は提案するだろう。
 殺戮者がここに来る可能性が高いため、北岡としてはその意見に反対する気は無い。
 風が木の葉を揺らし、爽やかな音が耳に入る。
 真っ青な空には、輝く太陽がもう真上に上がっていた。
 焦げた折れた木たちを背に、三人は丘を降りる準備を始める。
 その時、木の枝が折れる音が聞こえた。振り返ると、そこには最悪の蛇がいた。
「よう、北岡。会いたかったぜ~」


 浅倉が丘を進むと、声が聞こえてくる。
 放送で聞いた声とは違うが、様子を伺うと何人かいるらしい。
 それなら変身能力を持つ人間もいるだろうと考える。
 そして、グレイのスーツの弁護士が、浅倉の視界に入った。
 背筋は電流が走り、肌が粟立つ。笑みを浮かべ、一旦は止めていた歩みを再会する。
 枝を踏み潰し、六の瞳が自分に向けられた。
 北岡の顔が驚愕に歪む。その様子を滑稽に思う。
「よう、北岡。会いたかったぜ~」
 戦いの予感に、浅倉は心を躍らせ、デルタフォンを掴み口元に運ぶ。
「変身」
 ――Standing by――
 デルタムーバーと接続させ、ベルトの中央が輝き、白く輝く蛇のごとく、ラインが浅倉の身体を走る。
 白の閃光が浅倉を輝かせ、随所に三角の記号を埋め込んだ、黒の強化スーツが精製された。
 ――Complete――
 デルタは首を回して、ゆっくりと北岡たちに近付いていく。
 北崎の支給品、鬼を模した石を先端につけた金棒を肩に担ぐ。
 ――さあ、祭りの始まりだ。


(まずい奴と再会しちゃったよ……)
 北岡は舌打ちをし、懐から割れたガラスの破片を取り出した。
 自分が破壊した小屋の一部である。
(それにしても、浅倉の奴なんで王蛇じゃないんだ? あれは他の世界のライダーか?)
 王蛇であるなら、ある程度対策は取れる。しかし、今の浅倉は見覚えのないライダーになっていた。
 強敵が、見知らぬ強敵へと姿を変えたことに苛立ち、残り二人に変身を促す。
「橘、津上、変身するんだ。こいつはゲームに乗っている。迷うと死ぬよ」
 北岡はガラスに緑のカードデッキを掲げ、銀のベルトを召還する。
「変身!!」
 叫ぶと同時に、ベルトの空になっている中央へとカードデッキを収めた。
 緑の砲兵が虚像を重ね、北岡に重なりゾルダとしての姿を現す。
「変身!!」
 ――Turn Up――
 橘がバックルにカテゴリーAのカードをセットして回転させるのが見える。
 ダイヤの意匠が施されたバックルより青いゲートが現れ、橘が潜ると赤いスーツを身に纏い、銀のアーマーを着けた仮面ライダーギャレンへと姿を変えた。
「変身!!」
 木野を降ろした津上が、右手を前へ突き出し、腹へベルトを顕在させ、両腰のスイッチを押す。
 閃光が津上を包んで、龍の顎を模した角を持つ、金と黒のアギトへと姿を変えた。
「俺、木野さんを安全な場所に運んできます」
「なるべく早くしてよ。こいつは三人でもキツイ相手なんだから」
「……その必要は無い」
 三人のライダーたちが振り向くと、ネクタイの拘束から開放された木野が、黒衣で包まれた巌のような肉体を仁王立ちさせていた。
 骨の太い四角い顔の眼差しは厳しく、変身した四人に向けられていた。
「変身!!」
 低く、野太い声とともに木野が両腕を交差させ、ベルトを顕在させた。
 緑の光が木野を包み、閃光が晴れた先には、くすんだ金の小さな角を持つ、バッタを模した仮面があった。
 オレンジ色のマフラーが風でなびき、胸の中央の宝石は、太陽の光を浴びて輝いていた。


「あんた、どうやって拘束を解いたのよ」
 ゾルダとなった北岡が驚きの声を上げている。
「お前に力仕事は向かない。その、病んだ身体ではな」
 自分の言葉ゾルダが息を呑むのを分かった。
 アナザーアギト、木野が目を覚ましたのは津上とほぼ同時期だ。
 だが、機会をうかがい気絶したふりをしていた。
 ネクタイの拘束を解く為ガラスの破片を取ろうとしたが、結び目が緩いのに気づいた。
 小屋にいるときの様子と、道中嫌な咳をする北岡を見て、彼が病に侵されている身だと医者である木野は理解する。
 今は元気な振る舞いをしているが、近い将来病は彼の命を奪うだろう。
「木野さん。あなたはまだアギトの力に呑まれているんですか?」
 アギトが自分に問う。その答えは決まっている。
「アギトの力などに呑まれるほど俺は弱くない。
俺は少女の願いを叶える。闇を切り裂き、光をもたらすライダーとなる。それが、雅人のためでもある」
「木野さん……」
「ごちゃごちゃと煩いんだよ!!」
 黒衣のライダーが迫り、四人はそれぞれの方向へ散った。金棒が振り下ろされた地面は轟音を上げ小規模のクレータを作る。
 少量の砂塵が舞い上がり、アナザーアギトは雑草を踏みしめて立つ。
「木野さん、この場を切り抜けて、一緒に闇を切り裂きましょう!!」
 アギトが言い、傍に立つ。そのアギトの腹に、アナザーアギトは鋼の拳を叩き込んだ。
 アギトは空を舞い、地面へ二、三度叩きつけられた。内臓をやられたのだろう、血反吐を吐いている。
「木野!! お前、何をするんだ!!」
 ギャレンという仮面ライダーが叫ぶ。顔を向け、緑の両眼を見つめた。
 その行為に秘められたものは一つ。自分の宣言を、全ての仮面ライダーに告げるためだ。
「俺は闇を切り裂き、光をもたらす仮面ライダーとなる。そのために……」
 心に浮かぶのは、弟の死。そして少女の願い。
 ――救えなかった。救わねばならなかった。
 悔恨が心を蝕み、右腕が痛む。
 自分は、この痛みを忘れるため、雅人に許しを求めるために戦い続けるのかもしれない。
 だが、それでも構わない。
 救い続けるために必要なのは一つ。
「そのために、全ての仮面ライダーを殺す。俺が、最強の仮面ライダーである事を証明するために!!」
 最強の称号を得ること。
 仮面ライダーを全て殺し、最強のライダーとなり、普通の人々を救えば……
(俺は、雅人に許してもらえるだろうか?)
 疼く右手に問いかける。答えはどこにも返らなかった。


「木野ぉぉぉ!!」
 ギャレンは叫びながら銃を撃つ。弾丸がアナザーアギトを襲うが、腕より生えているバイオクロウに叩き落された。
「フウン!」
 敵が飛翔し、間合いを詰められ拳が放たれる。
 ギャレンは左腕を挙げ、アナザーアギトの拳を受け止め、重い衝撃がギャレンを貫き、たたらを踏ませた。
 よろめく身体に、敵の蹴りが脇腹に叩き込まれる。
「ぐわっ!」
 ギャレンは地面を転がりっていく。立ち上がりながら、視線を周囲に向けると、ゾルダとデルタの姿は見えない。
 結構な距離を離れたらしい。アナザーアギトはゆっくりと自分に歩み寄る。
「何故こんな事をする。津上はお前の事を信じていたんだぞ!」
「俺は力以外いらない。雅人を救える力以外は……」
「雅人……?」
 アナザーアギトがクラッシャー部を開き、構えをとる。
 スゥーっと、息を吸い込み、脚に金の紋章を浮かべるのが見える。
 ギャレンには見覚えがある。津上も使っていた、彼らの必殺技。
 ギャレンラウザーのカードを扇状に展開させ、二枚のカードを取り出す。
(今の俺にできる、最高の技だ。だが、奴に通用するのか?)
 迷うが、彼にはそんな暇はない。紋章がアナザーアギトの脚に吸い込まれていく。
 ――Drop――
 ――Fire――
 ――Burning Smash――
 青いカードの光がギャレンに吸い込まれ、顔が発光する。
 二人は同時に空へ跳んだ。
「おおおおおおおおおおおおおお!!」
「ハァァァァァァァァァァァァァ!!」
 炎と光がぶつかり、爆発が生まれていく。
 閃光が森に満ち、ギャレンの視界は白に支配されていった。


 ゾルダが構えた銃、マグナバイザーが火を吹く。
 デルタは金棒を盾に自らの攻撃がを防いでいる。攻撃が通らないことにゾルダは苛立つ。
 デルタがデルタムーバーを口元に寄せた。
「ファイア」
 ――BURST MODE――
 マグナバイザーの銃弾と、白い閃光が交差し、互いの胸が爆ぜた。
 金棒を潜りぬけ攻撃は通ったはずだが、デルタは笑っていた。
「ハハハハ! 楽しいなぁ! お前もそう思うだろ!!」
「相変わらずだねぇ、お前は」
 仮面の下でゾルダは呆れながら、敵の攻撃範囲が現状では自分とそう変わらないことに歯噛みした。
 ゾルダは敵から離れた距離で攻撃を加えれるのが特性だ。
 十三人の仮面ライダーでは一番射程距離が長かった。ゆえに、敵の攻撃が届かぬ位置での戦いが基本だ。
 しかし、今の浅倉は異世界のライダーになったおかげで、自分に距離で対抗できている。
 もちろん、デルタよりも射程距離の長い武器はある。しかし、距離を開いて、ギガランチャーで一方的に攻撃をするなど、デルタは許さないだろう。
 それならとゾルダは一枚のカードを引いた。
 ――SHOOTVENT――
 地面に置いたガラスより、大型のキャノンが二門飛び出し、ゾルダの肩に装着される。
(距離で駄目なら、火力で押す!)
 大口径の砲身から砲弾が放たれ、デルタの足元の地面を抉る。
 二、三発連続で放ち、デルタは爆発で翻弄されている。
 もちろん、これでけりがつく相手とは思っていない。
 四度の砲撃を放つ。そのとき、デルタが金棒を人ほどもある岩にぶつけようとしているのが見えた。
(おいおい、まさか……)
「ハアアア!!」
 デルタが岩に向かってフルスイングをする。金棒は風を唸らせ、岩とぶつかった瞬間耳をつんざくような轟音があがる。
 岩と砲弾が空中で激突し、爆発する。砂塵を切り裂いて、デルタがゾルダの目の前に迫って真横に金棒を振りぬいた。
 ――GUARDVENT――
 マグナギガの胸部を模した盾を構える。しかし、予想以上にデルタの金棒は速く、盾を横に吹き飛ばし、ゾルダの身体を弾き飛ばした。
「ガハッ!」
 木に叩きつけられ、肩キャノンは遠くに吹き飛ばされている。盾を手放さなかった自分を褒めてやりたいくらいの衝撃だった。
 デルタに視線を向けると、再度デルタムーバーを口元に寄せている。
「チェック」
 ――EXCEED CHARGE――
 敵の白いラインをエネルギーが走り、銃に装填されていく。
 引き金が引かれ、ゾルダはとっさに盾を構えると、光弾が白い三角錐に展開し、自分の身体を縫いつけた。
(動けないって……かなりやばいじゃないか!!)
「おぉぉぉぉぉぉ!! 北岡ぁぁぁぁぁぁ!!」
 デルタが跳躍し、ドゥームズデイを思わせるように回転しながら自分に迫った。
 エネルギーがドリルのように唸り盾を削り続ける。盾の上半分が抉れ、纏ったエネルギーを失ったデルタは自分の胸を蹴った。
 堪らず盾を手放し、ゾルダは木を二、三本折って地面に倒れ伏す。
「終わりか?」
「冗……談で……しょ」
 ゾルダは震える手で一枚のカードをマグナバイザーにセットする。
 デルタ……浅倉には強がりに聞こえるだろう。しかし、今の状況は自分にとってはチャンスである。
 デルタが銃口を向け、引き金を引いた。
 ――FINALVENT――
 銃弾を、召還されて間に立ちふさがったマグナギガが防ぐ。
 デルタが舌打ちしているのが聞こえた。折れた木に手をかけながら、マグナギガの背中にマグナバイザーを接続する。
「自分から……距離をとったの……が命取り……だな。浅倉!」
 ゾルダは引き金を引いた。マグナギガの胸部が開き、ミサイルを、砲弾を、銃弾を、光弾を、破壊を生み出すために放つ。
 小規模な爆発が連続で起き、丘の地面を削り、まだ残っていた木を砕いて宙に舞わす。
「北……岡ぁぁぁぁぁぁ!!」
 最後に大きな爆発が起きて、轟音がデルタの叫びを呑みこみ、粉塵がゾルダの視界を奪っていった。

 煙が晴れ、デルタが視界を取り戻した後には破壊の跡しかなかった。
 木々は燃え、地面が抉れていくつものクレーターを作られている。
 首を動かすと、ゾルダの姿はなかった。
 右腕が震え、自らの身体を守ったゾルダの盾を投げ捨てる。
 爆発が次々と起こるなか、捨てられた盾に身体を隠して身を守ったのだ。
 最早盾の面影はなく、炭化しているそれを踏み砕く。
「俺と戦え!! ウオォォォォォォォ!!」
 デルタは岩を殴り砕き、北岡以外のライダーがいる場所へ向かおうとする。
 突如変身が解けてしまった。その様子に浅倉はさらに苛立つ。
「イライラするんだよぉ!! がぁぁぁ!!」
 地面で燃える木の破片を砕いていく。破壊衝動は抑えきらず、浅倉はひたすら暴れた。
「北岡……キックホッパー、誰でもいい。俺と戦え!!」
 獣の唸り声が天に轟く。蛇の破壊の欲望は止まらない。


 炎と光が舞い、木々を破壊し破片を飛び散らせる。
 だが状況は、ギャレンが不利だった。
(クッ……このままでは……)
 アナザーアギトのアサルトキックは、彼自身の最強の技。
 対して、ギャレンのバーニングスマッシュは自分が持つ最強の技、バーニングディバイドに比べると一段劣る技だ。
 カードが足りないため、バーニングスマッシュを放つしかなかった。
 加えて、今の自分は津上の怪我の具合を気にしている。
 技においても、覚悟においても今は劣っている事を自覚しいた。
(このまま俺は終わってしまうのか? 剣崎……すまない……)
 体が押され、徐々に後退していくのを自覚し、今は亡き後輩を思う。
 脳裏には、白衣を着た女性が微笑んでいる姿が浮かんだ。

「ハァァァァァァァァァ!!」
 声がする方向へ顔を向けると、血の跡がマスクに残るアギトが構えをとっていた。
 頭部のクロスホーンが展開され、足元にアギトの紋章が浮かび、吸い込まれていく。
「津上、無茶だ!!」
「ハァッ!!」
 忠告を無視し、アギトは跳躍してギャレンと並ぶ。
「ヌゥッ!!」
 光と炎が混ざり、アナザーアギトを押し切った。
 二人が地面に着地すると同時に、アナザーアギトは木の枝で衝撃を和らげながら、背中をしたたかに打った。
「グフッ!」
「津上!!」
 しかし、血反吐を吐いたのはアギトだった。最初の拳がきいていたようだ。
 止めを刺す為か、アナザーアギトが立ち上がり構えをとる。
 その時、三人の変身が解かれた。
「時間か……」
 木野が呟き、その場を離れていく。
「待ってください! 木野さん!!」
 津上の制止を無視して、黒く大きい背中が小さくなっていった。
 津上は悔しそうにただ木野の背中を見つめている。
 無理矢理身体を起こし、追いかけようとするが、再び血を吐いて倒れる。
「無理だ。今は大人しくしているんだ」
「できません。木野さんは再びアギトに、弟さんを救えなかったという過去に囚われているんです。
そんなあの人を一人になんて……ガハッ!」
 再び倒れかかる津上を支え、橘は先程の木野の呟きを思い出した。
(木野はまるで昔の俺だ。恐怖心に負け、力だけを追い求めた俺に似ている)
 ――橘君。
 瞳を閉じると、先ほど脳裏に浮かんだ白衣の女性が微笑んでいた。
 決意を固め、開けた瞳で津上を見つめる。
「すまない」
 橘は相手の首筋に手刀を打ち込む。
「た、橘さん。何を……?」
 呟きながら崩れ落ちる津上を優しく抱きとめる。
(このままでは木野は小夜子を喪った俺と同じ道を辿る。だが安心しろ。俺がそうはさせない!)
 気絶している彼を木の陰に隠す。枯葉を踏みしめる音がして、振り返る。
「いよ、元気?」
 北岡の姿を認めると、橘は安堵のため息を吐いた。
「津上を頼む」
「何をする気よ」
「木野を止める。だからしばらくは別行動だ」
 北岡が呆れた顔をする。構わず、駆けようとすると後ろから声をかけられた。
「放っとけば良いじゃん。暴走したい奴は暴走させてさ。
むしろいい厄介払いじゃない」
「……似ているんだ。あいつは、昔の俺に。だから放っては置けない」
「それだけの理由で止めに行くのか?」
「ああ」
「お前さん、大馬鹿者だね」
 木の根に腰を下ろしながら北岡が言う。
「俺は職業柄、他人のために尽くして馬鹿を見る連中を見てきているわけよ。
そういう奴らはさ、たいてい骨の髄まで悪人にしゃぶられて、そのままお終い。
木野に関わったって、碌なことがないだろうからやめときなって」
「そうかもな」
 橘が空を見上げると、青さが広がっており、剣崎を思い出して目を細めた。
 この空の下、お人好しを発揮して命を落としたのだろう。
 ゆっくり、顔を北岡に向ける。
「だからこそ、木野を助けたい。今のままでは奴は必ず後悔をする。
俺が仲間に助けられたように、今度は木野を救いたいんだ」
 揺るぎない決意を込めた視線で北岡を射る。その様子に彼は無言でデイバックを一つ投げてよこした。
「睦月のデイバック。一つは剣、もう一つは当たりって紙と一緒に、相手を拘束する武器が入っている」
「……いいのか?」
「俺の趣味じゃないし、どうでもいいよ。生身相手だと殺しちゃうけど、変身した相手には丁度いいんじゃない?」
 投げやりに手を振る北岡に笑顔を返す。
「ありがとう、北岡。お前はいい奴だな」
「やめてよ。痒くなっちゃうって。俺のためにお前は死んじゃこまる。それだけだって」
「お前は損する人たちを見てきたから、自分のためにしか戦わないと思っているのか?」
「いや、単に性格。俺は昔っから自分のためにしか動かないだけ。俺は人間の欲望を愛しているからね」
 そうか、と呟き、背を向ける。あんな事を言っているが、根は悪い奴ではない。
(待っていろ、津上。必ず木野と一緒に戻ってくる)
 橘は駆ける。その胸に、仮面ライダーとしての正義が宿っているからだ。


(いっちゃったよ)
 北岡は行かせた自分に呆れている。
 橘は不老不死への手がかりだ。わざわざ死地に向かわせる必要はなかった。
(でも、止まらないだろうね。あれは城戸と同類だ)
 袖から取り出した弾丸をいじり、思考する。
 とりあえず、現在の状況を分析して戦力を計算する。
 変身できたとしても、今の北岡なら戦いは不利だ。だが限定的な条件なら対抗策はある。
(相手が改造人間なら、俺の支給品、バタル弾の出番だ。できれば戦いたくないけどね。一発限りしかないわけだし)
 鈍く輝く弾丸を、コインのように真上に放り投げ、手元に戻ってきたところで握り締める。
「ま、橘を待っておきますか。蛇さんも相当頭にきているみたいだしね」
 北岡は皮肉の笑みとともに丘の頂を見つめる。
 その心に宿るのは、生への渇望か、不死への欲望か、橘の心配か。
 彼自身、分からなかった。
【浅倉 威@仮面ライダー龍騎】
【1日目 現時刻:午前】
【現在地:樹海C-6】
[時間軸]:本編終盤辺り。
[状態]:左目負傷、全身に中程度の負傷(打撲、火傷など)、中程度の疲労。2時間変身不可。
    北岡を殺せずイライラ。
[装備]:デルタフォン、デルタドライバー。音撃金棒・烈凍。
[道具]:ファイズブラスター。三人分のデイバック(風見、北崎、浅倉)
[思考・状況]
1:変身できる時間になったら、遭遇する奴を殺す
2:北岡、あきらを探して殺す。

【北岡秀一@仮面ライダー龍騎】
【1日目 現時刻:午前】
【現在地:樹海C-5】
[時間軸]:本編終盤辺り。
[状態]:全身に中程度の負傷(打撲、火傷など)、中程度の疲労。2時間変身不可。
[装備]:カードデッキ(ゾルダ)、バタル弾。
[道具]:配給品一式×2(自分とキングのもの)
[思考・状況]
1:とりあえず一休み。橘を待つ。
2:……城戸たちとでも合流してみるか。リュウガについて何か分かるかもしれない。
3:人数がある程度減るまでは優勝するかアンデッドになるか、とりあえず脱出を目指すかは保留。
※エンドオブワールドによって、小屋の壁は破壊されています。外からも見えます。
※バタル弾は改造人間のみに効果あります。

【木野 薫@仮面ライダーアギト】
【1日目 現時刻:午前】
【現在地:樹海C-4】
[時間軸]:本編38話あたり
[状態]:全身に中程度の負傷(打撲、火傷、刺し傷など)、中程度の疲労。2時間変身不可。
[道具]:救急箱。精密ドライバー。
[思考・状況]
1:闇を切り裂き、光をもたらす仮面ライダーは俺一人でいい。
2:自分の無力さを痛感している。
3:力を得るために最強のライダーになる。

【津上翔一@仮面ライダーアギト】
【1日目 現時刻:午前】
【現在地:樹海C-5】
[時間軸]:本編終盤。
[状態]:気絶中。腹部に大ダメージ。重症。2時間変身不可。
[装備]:なし
[道具]:カードデッキ(オルタナティブ・ゼロ)、ドレイクグリップ
[思考・状況]
1:気絶中。以下は気絶前の思考。
2:木野さんを助けなきゃ!
3:元の世界へ帰る。
4:橘さん、何を?
5:氷川、小沢と合流する。
※首輪の能力制限により、一日目のみバーニング、及びシャイニングフォームへの変身は制限されています。
※ドレイクゼクターは島のどこか、もしくは支給品として誰かに配られているかもしれません。

【橘朔也@仮面ライダー剣】
【1日目 現時刻:午前】
【現在地:樹海C-5】
[時間軸]:Jフォーム登場辺り。
[状態]:全身に中程度の負傷(打撲、火傷など)、中程度の疲労。2時間変身不可。
[装備]:ギャレンバックル
[道具]:ディスカリバー、GA-04・アンタレス。配給品一式(睦月)
[思考・状況]
1:木野を放っておけない。絶対救う!
2:剣崎の思いを継ぎ、参加者を神崎やマーダーから守る。
3:神崎を倒す。
4:仲間を傷つける奴を許さない。
※睦月がカテゴリーAに乗っ取られていると思っています。
※Gトレーラーの鍵はキングが持ち去りました。

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最終更新:2018年11月29日 17:27