火を噴けグランザイラス

 後悔に襲われ続ける男が一人、名を霞のジョーという。
 自らを襲う矢を掻い潜り、彼は無我夢中で走る。
(兄貴……どこにいるんだ! 俺は……俺は!!)
 ジョーは混乱している。なぜなら、ここに来てしばらくの間、記憶がハッキリとしていなかったからだ。
 だが彼は怪人のいいなりとなり、人を殺そうとしていた事を思い出してしまったのだ。
(兄貴、助けてくれ!!)
 ジョーは罪悪感に押しつぶされそうになる。自分の尊敬する人、南光太郎に叱責してもらい、立ち直らせて欲しいと願う。
 だが誰も彼に応えず、心を蝕んでいく。
 迷える彼が光を掴んだのは、北より響く少女の願いがきっかけだった。

『みんなぁ! 殺し合いなんてもうやめてー!!』
 ジョーは救いを求める足を止めた。
 振り返れば、自分が逃げた方向から声が聞こえてきたのだ。
 方法は分からないが、少女が殺し合いを止める為、必死の思いで訴えを続けているのを理解した。
『ファイズは、仮面ライダーは……闇を切り裂いて、光をもたらす!』
「兄貴以外の、V3達以外の仮面ライダーもここにいる。正義の為に戦っている!」
 闘志が沸く。彼はもともと考えるのを得意としない。
 ただその身を戦いに投じ、愛用のサイと共に人を守るだけだ。
(もう二度と怪人のいいなりなんかにはならない。俺は……兄貴達、仮面ライダーと共に戦う!)
 ジョーは決意を固める。そんな彼を嘲笑うかのように、少女が無残にも散る様子が流れた。
(怪人が近くにいたのかよ!?)
 少女の命をなんとも思っていない声がする。怒りを燃料に胸のエンジンに火を灯す。
「よーし! あそこまでひとっ走りだ!」
 叫んで気合を入れる。彼は救いを求めるより、救う側に回るのだった。


「ハア、ハア、ハア、ハア」
 殺し合いの跡が残る場所で、少年は硝煙の匂いと共に空気を吸い込む。
(加賀美さんが死んでしまった! 僕一人でこの殺し合いをどうやって勝ち抜けって言うんだ!!
大体僕を守るって言ったのに、こうも簡単に死んでしまうなんて!!)
 明日夢は命の恩人に、理不尽な怒りを抱く。
 殺し合いという闇に歪められ、下町で平和に暮らしていた素直な少年はもういない。
 ここにいるのは、幼いだけの殺人者であった。

『みんなぁ! 殺し合いなんてもうやめてー!!』
 北より聞こえる声に顔を上げる。
 自分と同じくらいの歳であろう少女は、殺し合いをやめるように訴えているようだ。
(凄い人だ。自殺行為を平気でやるなんて)
 明日夢は無謀な行為を行う人間に対し、呆れる。
『帰りたいから殺すの? 守りたい人がいるから殺すの? ただ殺したいから殺すの? 怖いから殺すの?』
(帰りたいから殺したに決まっているじゃないか! ヒビキさんに助けを求めて、裏切られた僕の気持ちを君が分かるのかよ!!
誰も頼りになんてならない。仮面ライダーなんて、何の役にも立ちもしない)
 明日夢の悪意を肯定するように、銃弾が響く。
(ハハッ、ほら見ろ。言わんこっちゃない)
 明日夢は暗い愉悦感を抱く。自分の行為を否定した者の末路に満足し、その場を後にした。
 突然、明日夢は路地を駆けて来る足音が聞こえてきた。
(誰か来る! は、早く隠れなくちゃ!)
 明日夢は余裕が無くなり、周囲に視線を彷徨わせた。
 身を隠そうとして足がもつれる。
「うわっ!」
 明日夢は殺し合いの場で大声を上げた事を後悔しながら、無様に倒れる。
 訪問者は明日夢の様子に気づいたらしく、影が明日夢に覆いかぶさる。
「こ、殺さないでっ!」
 明日夢は頭を抱え、命乞いをする。
 少年は相手を確認することも、殺すことも考えていない。
 彼はただ命が惜しかっただけだ。


 霞のジョーは少女を助ける為、走り続けること数分、一人の少年と出会った。
(まだ子供じゃねえか……)
 よっぽど酷い目に遭ったのだろうと、ジョーは脅える少年に同情する。
 そんな少年に殺し合いを強制する神崎士郎に、ジョーは腹を立てた。
「殺すなんてしねえよ。それよりも怪我は大丈夫か?」
 ジョーは手を差し出す。戸惑う少年に笑顔を浮かべる。
「俺は霞のジョー。よろしくな」
 ジョーはおずおずと差し出された手を強く握り、明日夢を立ち上がらせる。
 その時、少女の声が聞こえた方向から、再び拡声器を通した声が聞こえた。
『俺は闇を切り裂き光をもたらす、仮面ライダー! キック! ホッパァー!!』
 戦士の宣言が、ジョーの耳と心を貫いた。
(悔しいけど、あそこは仮面ライダーキックホッパーに任せるしかないか。この子供を手当てしないとな)
「とりあえず手当てをしないとな。あそこにおあつらえ向きに薬局もあることだしよ」
 自分の無力さを噛み締め、ジョーは明日夢を薬局に連れて行く。
 その少年が殺し合いに乗っていることに、霞のジョーは気づけるはずが無かった。


(僕はついている)
 明日夢は、加賀美新に代わる庇護者を手に入れ満足していた。
「ちっきしょぉ! この殺し合いに乗るなんて……自分の友達を殺すなんて何を考えてるんだ!!」
 お互い自己紹介を終え、加賀美が自分を保護し、友人である神代剣に殺された事を、明日夢は伝えたのだ。
 そのことに怒りを示すジョーを見て、明日夢はジョーが加賀美と同じくお人好しである事を確信した。
(これで加賀美さんと同じく鬼の力を持っていると良いんだけど……)
 さすがにそれは高望みをしすぎるかと思い、明日夢は右腕に巻かれた包帯を擦る。
 その瞳には、冷徹に生き残る算段をする冷たい輝きが宿っていた。

 そんな時、天から三度戦いを止める訴えが響く。
 明日夢はキックホッパーの訴えに闘志を燃やすジョーを見つめ、続けて行われた宣言に眼を見開く。
『明日夢! あきら! きっと助ける。だから待っていてくれ』
 ヒビキが明日夢を勇気付ける為に声を張り上げていた。
 明日夢の心が揺れる。
「よかったな、明日夢! お前の知り合いの居場所が分かったぜ!」
 喜びながら背中を強く叩くジョーに、明日夢は笑みを浮かべ頷く。
 明日夢はヒビキの必死の想いを聞きながらも、ジョーとは違って素直に喜べなかった。
(助けるから待っていてくれ……か。ヒビキさん、僕はあなたを待っていたんですよ。ずっと)
 明日夢はジョーの視界から外れているのを確認し、顔を背ける。
 純粋だった少年は、唇を真一文字引き締め、怒りに身体を震わせていた。
(ヒビキさんに憧れていました。そしていつかヒビキさんみたくなりたいって、思っていました)
 本来なら、明日夢がいろいろな人と出会い、一年と半年を費やして得る結論を、本来の答えとは逆の意味で構築していった。
(でもこの殺し合いでそれじゃ駄目なんじゃないかって気づきました。
ヒビキさんに何でも頼って、ヒビキさんの真似をして……これじゃ生き残れないってヒビキさんが教えてくれたんです)
 明日夢の経験と出会いの足りない想いは歪みを生み、少年を闇に踊らさせる。
(ヒビキさん、僕は鬼にはなりません。僕は人助けなんてしない。殺しぬいてでも生き残る!)
 明日夢はヒビキが願った道と逆を進み、手を汚す。
 ただ、自分が日常に帰る事を望んで。


 麻生とヒビキの訴えから一時間経った。
 ジョーは明日夢の怪我もそろそろ良いだろうと判断し、丘へ向かう事を提案しようとする。
 だが、突如轟音が響き、建物が揺れる。
「な、なんだ!!」
 彼が窓から外の様子を伺うと、風と雷の嵐が破壊を繰り返し、瓦礫を生むのが見えた。
 彼は巨大な爆発が起きるのが見え、明日夢を抱え込む。
 薬局のガラスが飛び散り、棚にある薬が落ちてくる。
 彼は背中に痛みを感じながらも、数分そのままの姿勢でうずくまる。
(今明日夢を守れるのは俺しかいない。絶対に殺させはしねえ!)
 彼はひたすら爆発が収まるのを亀のように耐えた。

「もう安全のようだな」
 あれから幾らか時間が経ち、ジョーは周囲を確認して明日夢に声をかける。
 薬局からひょっこりと顔を出す明日夢を、彼は先導した。
「あっちの方向に向かえば仮面ライダーと明日夢を助けるって言った奴……ヒビキだっけか?
とりあえず合流する為に行こう」
 彼は向かうのに時間がかかってしまったことを悔やむが、明日夢を守るためには仕方ないと割り切る。
(こいつはなるべく使いたくないけど、いざという時は……)
 彼はいい思い出の無いスマートバックルをデイバックから掴み、決意する。
 彼の歩みは希望で満ちていた。


 明日夢はジョーから丘へ向かうと聞いて、戸惑った。なぜなら、あの場所は殺戮者が集まる事を容易に想像出来たからだ。
 だが、すぐに少年は思い直した。
(丘に向かえばヒビキさんに保護してもらえる。邪魔な奴はヒビキさんに始末させて、油断したところで殺す)
 少年はそれが一番、優勝の近道であると確信し、ジョーに従う。
(僕はヒビキさんを許してあげます。その代わり……死んでください)
 少年はデイバックのナイフを掴み、決意をする。
 彼の歩みは殺意で満ちていた。


 異なる想いを乗せる二人の歩みを、炎が遮った。
「明日夢!!」
 ジョーは明日夢を抱えながら炎を避ける。
 黒焦げになった道筋を辿ると、彼の知る敵がそこにいた。
「てめえ……グランザイラス!!」
「ほう、俺を知っているのか。たしか、RXの仲間、霞のジョーとかいったな」
 彼はまるで初対面のような口ぶりに戸惑うも、怒りを口にする。
「お前はバイオライダーに倒されたはずだ! まさか蘇ったのか!?
だが、何度蘇ろうとも、兄貴や仮面ライダーがお前を倒す!!」
「バイオライダーに倒された? 何を馬鹿な事を。
俺は皇帝直属の最強怪人グランザイラス、バイオライダーなどに倒されたことなど無い!」
 怪人は言い放ち、炎を噴出した。
 怪人の炎がコンクリートや鉄筋を飴のように溶かしていく。
「明日夢! 逃げろ!!」
 彼は業火を掻い潜り、サイを構える。
 人殺しに利用されたスマートバックルを使う事を、彼はまだ決意できていない。
(せめて明日夢が逃げる時間を稼ぐ)
 彼は少年が逃げていく気配を感じながら、震える足を叱咤し立ち上がる。
 サイを構えなおした彼は、怪人を睨みつけた。


(あんな魔化魍に出会うなんて最悪だ!)
 明日夢は魔化魍と対峙する霞のジョーを背に、廃墟を駆けていた。
 少年の脳裏に浮かぶのは、敗北し物言わぬ死体となった加賀美だ。
(僕もあんなふうになるのか? そんなの嫌だ!!)
 少年は叫びたい衝動に駆られ、グッと抑える。
(生き延びてやる。どんな手を使ってでも!)
 だが、その決意を嘲笑うかのように、少年は固い感触に突き飛ばされる。
 少年は尻餅をつき、視線を上げていくと、鯨を模した怪物がいた。
「うわっ!」
 少年は悲鳴をあげ、助けを求めるが応える者はいない。
 怪物が左手を対峙する二人に向けるのを、少年は見ていることしか出来なかった。


「うおおお!!」
 ジョーは両手に持つサイをグランザイラスの身体に突き刺す。
 しかし、サイは甲高い金属音を立て、弾かれてしまう。
「痒いわ!!」
 怪人は叫び、鉤爪状の右腕を振るう。
 重い衝撃が彼を貫き、壁へと叩きつけられる。
「ぐぅぅ……」
 彼は痛みに呻いた。
 怪人が炎を噴出す右手を向けるのを、彼は目撃する。
「終わりだ。霞のジョー」
 怪人より炎が噴出し、彼を焼き尽くさんと襲った。
(兄貴、すまない)
 結局、彼はスマートバックルを使えず、その人生を燃やされようとした。
 だが炎は彼の目の前でピタリと止まり、怪人に襲い掛かる。
「な、なに。グワァァァァァ!!」
 怪人が炎に身を焼かれ、転げまわる。
 空より灰色の怪人が、青い光を纏って現れた。

「お、お前は……」
 彼はその灰色の怪人に見覚えがあった。

 ――お前はアギトではない。だが人間でもない。

 鯨の怪人はそう言い、男性を守っていた。
「お前はアギトではない。だが人間でもない」
 そして鯨の怪人はあの時と、一言一句変わらない言葉をグランザイラスに向けた。
 今度は自分を守る為にグランザイラスと斬り合う。
 霞のジョーの側には、スマートバックルが冷たく輝いていた。


(なんだ! こいつは!!)
 グランザイラスは戸惑っていた。
 目の前のそれは、自分と同じ怪人にしか見えない。
 それが人を守る為に戦っているのである。
「仮面ライダーにでもなったつもりか? 生意気な!!」
 グランザイラスは気合をいれ、鯨の怪人、水のエルのバルディッシュを跳ね上げた。
「ムウン!」
 しかし水のエルはバルディッシュの柄を、グランザイラスの咽に叩きつけた。
 よろめきながら後退するグランザイラスに、水のエルは左手を向ける。
「か、身体が動かないだと!」
 水のエルの念力がグランザイラスを拘束する。
「滅びよ!」
 声と同時に空気が一瞬停滞する。
 青い梵字が空に浮かび、グランザイラスを襲う。
 爆発が巻き起こり、グランザイラスが瓦礫に埋もれた。
 瓦礫の隙間から、踵を返し去ろうとする水のエルが視界に入る。
「舐めるなよ!!」
 瓦礫を跳ね飛ばし、振り返ろうとする水のエルの背中を抉る。
「ぬぅ!」
 怪我を深められ、呻きながら地に膝をつく水のエルをグランザイラスは蹴り上げる。
「よくもやってくれたな! その身体、切り刻んでやる!」
 水のエルの身を、グランザイラスの右腕が削り取る。
 複数の仮面ライダーを圧倒した怪人同士の戦いは、炎の怪人が優位に立っていた。


「ジョーさん、今のうちに逃げましょう」
 明日夢が腕を引き、ジョーに共に逃げるように言う。
 しかし彼は動こうとしなかった。
 スマートバックルを手に取る。
(俺はこんなものを支給されたばっかりに、怪人に利用された。
取り返しのつかないことになる前に、あの鯨の怪人と仮面ライダーに助けられた)
 戦う意思が、彼の胸を焦がす。
 彼はスマートバックルを腰に巻く。
「明日夢、離れていろ」
「まさか戦うつもりですか!?」
「ああ、あの鯨の怪人には借りがあるからな」
 彼は左手にサイを構え、グランザイラスに駆ける。
 右手をバックルに添える。
「うおおおおおおお!! 変身!!」
 彼の尊敬する南光太郎、及び仮面ライダー達の使う魔法の言葉を叫ぶ。
 勢いよくバックルを倒す。ベルトが光り、強化スーツを精製する。
 ライオトルーパーに変身したジョーは、迷わずグランザイラスへと向かっていった。


「ぐぅぅ!」
 水のエルはグランザイラスに壁に叩きつけられた。
「もう終わりだ!」
 敵が言うが、水のエルはまだ終わる気は無かった。
(まだアギトを抹殺していない。主の命令を果たすまでは死ねない)
 しかし、彼らに迫る影、ライオトルーパーを水のエルは見つけた。
(奴までいたか。人間だが、邪魔するなら……)
 彼はバルディッシュを強く握る。
 背中を怪我している上に二人がかりとはいえ、彼は使命を果たすことを諦める気は無かった。

「おおおお!」
 しかし、水のエルの予想と違い、ライオトルーパーはグランザイラスに斬りかかっていた。
「キサマ、霞のジョーか!?」
 振るわれるグランザイラスの右腕を、彼はサイで受け止める。
 そのまま彼の右手に持つアクセレイガンで、グランザイラスの胸を斜めに切り裂いた。
「グハッ!」
 後退するグランザイラスを尻目に、ライオトルーパーは水のエルの横に並び立つ。
「この前は襲って悪かった」
 ライオトルーパーの謝罪が、水のエルに告げられる。
「邪魔をしなければ構わない」
 水のエルの言葉に、ライオトルーパーは鼻の辺りを擦る。
「へっ。じゃあいくぜ! 覚悟しな!! グランザイラス!!」
 ライオトルーパーは気合を入れ、身軽な動きでグランザイラスの周りを舞う。
 その様子を水のエルは静かに見つめ、翻弄されるグランザイラスに近付き、バルディッシュを数度振るった。
「グワッ!」
 よろめきながらも、グランザイラスは反撃しようと水のエルに右腕を振るう。
 しかし、ライオトルーパーがアクセレイガンをガンモードにし、光弾を放った。
 火花が散り、水のエルは動きが止まるグランザイラスにバルディッシュの刃を突く。
 グランザイラスが身を転がしていく。
「キサマ等! 許さん!」
 グランザイラスは火の玉になり、ライオトルーパーと水のエルを吹き飛ばす。
「がっ!」
 グランザイラスはライオトルーパーの悲鳴に満足しながら、火の玉から怪人へと姿を戻す。
「地獄に送ってやろう」
 グランザイラスはゆっくりと右手を二人へと向ける。
 その様子を見ながら、ライオトルーパーが水のエルに顔を向けた。
「お前の念力、俺にかけてくれないか?」
「どういうつもりだ?」
 水のエルの疑問に、ライオトルーパーは悔しそうに拳を握る。
「変身しても俺の力じゃグランザイラスに深手は負わせられない。だから俺にお前の力を貸してくれ!」
 無茶な注文に、水のエルは呆れる。
「お前の身体が耐えれないかも知れんぞ?」
「構いやしない。俺は霞のジョー、命に代えてもやり遂げるべき使命があるんだ!」
 使命という言葉が、水のエルの心を刺激する。
(使命……主は人を愛している。ゆえにアギトを抹殺するのが我が使命! だが人間であるこいつにも、使命があると言う。
それにこの男が、人間が死ぬのなら、主は悲しむだろうか?)
 水のエルの葛藤に気づく様子も無く、ライオトルーパーが立ち上がる。
「だから頼んだぜ! うおおおおおおお!!」
 ライオトルーパーがサイとアクセレイガンを構えて跳躍する。
「馬鹿が! 自棄になったか!!」
 グランザイラスが、ライオトルーパーを焼き尽くそうと炎を噴出させた。
 それを見ると、水のエルは自身に相応しくない、奇妙な熱い感覚に突き動かされる。
 水のエルは焦りながら両手をライオトルーパーに向け、念力でライオトルーパーを加速させた。


 ライオトルーパーは地面を蹴って、グランザイラスを貫く加速を得る感覚を感じていた。
(感謝するぜ!)
 彼は炎に身を焼かれるのは覚悟している。彼はグランザイラスと刺し違える気でいた。
(名前は知らねえが……明日夢の事を頼んだ!)
 鯨の怪人が人を守る為に動いているのを、彼はとっくに知っている。
 だから、明日夢の事を心配せずグランザイラスに向かって行ったのだ。
 しかし、予想と違って炎が彼を避けていった。
 彼が後ろを見ると、炎の余波を身体に浴びながらも、両手を自分に向け続け、念力を送る鯨の怪人が見えた。
(ありがてえ!)
 彼は一瞬で視線を前に戻し、グランザイラスを貫くことだけを考える。
 驚愕の表情を浮かべるグランザイラスに、水のエルの力を乗せて衝突する。
「ぐぇぇぇっ!!」
 サイとアクセレイガンがグランザイラスの胸を抉る。
(まだ足りねえ!)
 アクセレイガンをガンモードへと変え、グランザイラスの体内で光弾を発射させる。
 彼はダメージを受けながらも、爆発の反動で剣を抜いて地面を滑る。
 グランザイラスは勢いよく吹き飛び、地面に倒れる。
「ぐぅぅぅ……」
 ライオトルーパーはあれで倒せないことに気落ちする。
 だがグランザイラスは、自身を炎に変え、その場を去る。
(この俺が……最強怪人のこの俺が霞のジョー如きに逃げねばならないだと! 憶えとけよ! 霞のジョー、鯨の怪人!)
 その胸に復讐心を宿して、最強の怪人は逃げていった。

 グランザイラスが去ったのを確認して、ライオトルーパーは変身を解除しながら膝をついた。
 しかし、ジョーの顔には喜びが表れていた。
「いよっしゃー!! 勝ったぞ! あの、グランザイラスに!!」
 叫んでいる彼に、明日夢が近寄る。
「やりましたね! ジョーさん!!」
「ああ、勝ったんだ。あの、仮面ライダーを追い詰めたグランザイラスに、俺達が!」
 明日夢の肩を乱暴に叩きながら、彼は喜び続けた。
 鯨の怪人を探す為、視線を彷徨わせると、立ち去ろうとする姿が眼に入った。
「待ってくれ! あんたは……え~っと」
水のエル、我が名だ。一つ聞いていいか?」
 ジョーは真剣な表情を水のエルに向ける。
「お前はアギトではない。アギトになる人間でもない。だが、お前は戦い続けた。何故だ?」
「なんだ、そんなことか」
 ジョーは笑顔を浮かべる。水のエルは、力を持たないはずの自分が戦いきったことが不思議らしい。
「簡単なことさ。ここで逃げ出しちゃ兄貴に申し訳がたたねえ!」
「それが、お前の使命とやらか?」
 自分の使命という言葉に興味を持ったらしい。だから、彼は胸を張って水のエルに答える。
「違う。俺の……人間の使命は誰かを守ることだ。ただの人間だからこそ持てる、最高の使命だ」
 言い切ると、水のエルが沈黙していた。


(人を守るのが使命か……)
 なんとも単純で、難しい使命である。
 だが目の前の男は、堂々と言ってのけた。
(主が人を愛し続けるのも、分かる気がする)
 水のエルは自らに生まれた、奇妙な感覚の影響に気づかなかった。
「そうか」
 水のエルは呟き、その場を去ろうとする。
「待ってくれ! 水のエル、俺に力を貸してくれ!」
 ジョーが叫ぶが、水のエルは取り合うつもりは無い。
「お前に使命があるように、我にも使命がある。アギトを探し出すという使命がな」
 水のエルはアギトを殺すとは、何故か言えなかった。
 誰に何と思われようと、構わなかったはずなのに。
水のエルがアギトって言うのを探しているなら手伝う。俺はどうなっても良いんだが、明日夢は違う!
こいつは何の力も無い。戦うことなんて無理な奴だ。俺だって強い力は無い。だから頼む!
明日夢を守る為に、俺に力を貸してくれ!!」
 水のエルは土下座をするジョーを見つめ、黙考する。
(確かにこの殺し合いの場では二人が生き残ることは難しい。人が殺されるのは、主の望まぬこと)
 刹那の間、水のエルは葛藤する。
 だが決断は早く、その場を立ち去る。
 明日夢とジョーが落ち込むのが見えた。
「どうした? 共に行くのではなかったのか?」
 振り返り告げると、二人が喜び手を叩きあうのが見える。
 水のエルはおそらく人間の喜びの表現方法なのだろうと思い、二人が追いつくのを待つ。
 神の使いは、己自身が人間に興味を持ち始めていることに気づけなかった。


 炎が市街に降り、人型の怪物の姿となる。
「くそっ! くそぉぉぉ!!」
 グランザイラスは壁に苛立ちをぶつける様に叩きつける。
 しかしコンクリートの壁は崩れず、虚しい音を響かせるだけだった。
「忌まわしい制限をしよって! 神崎士郎だけじゃない! 俺をコケにした奴は皆殺しだ!!」
 グランザイラスは呪詛を呟き、暗い炎を燃え上がらせた。
「霞のジョー、まずはキサマだ! 力が戻り次第殺してやる!!」
 彼は叫び、壁に身を預ける。だが彼は知らない。
 今の彼は禁止エリアと背中合わせである事を。


 僕、安達明日夢は下町の学校に通う高校生です。
 極々普通の高校生だったけど、霞のジョーさんと出会って何かが変わってきました。
 いえ、変われそうな機会が出来ました。
 加賀美さんが死んで、炎を噴出す魔化魍に襲われたときは、どうなるんだろうと不安でしたが、ジョーさんが使うベルトを見て希望が沸きました。
 なにせ合流した水のエルという魔化魍が言うには、ジョーさんは普通の人間だそうです。
 それなら、僕が鬼の力を得ても不思議ではありません。
 懐のナイフの感触を確かめ、ジョーさんの隙を伺います。
 今は水のエルもいることだし、殺すことは出来ないでしょう。
 ですが、必ず殺してベルトを奪います。
 僕が、僕だけが日常に帰る為に。
安達明日夢@仮面ライダー響鬼】
【1日目 現時刻:昼】
【現在地:市街地E-5】
[時間軸]:番組前期終了辺り。
[状態]:腕に軽い擦り傷。
[装備]: デイパックニ人分。加賀美と影月。影月は支給品不明です。
[道具]:果物ナイフ数本。
[思考・状況]
1:ジョーのスマートバックルを奪う。
2:奪った後、出会う人間の隙を突いて殺す。

【霞のジョー@仮面ライダーBLACKRX】
【1日目 現時刻:昼】
【現在地:市街地E-5】
[時間軸]:クライシス壊滅後。
[状態]:念力の反動で全身に打撲。負傷大。二時間変身不能。
[装備]:サイ、スマートバックル(アクセレイガン付属)
[道具]:なし
[思考・状況]
1:C6の丘に向かう。
2:仮面ライダーたちと合流し、水のエルが悪い怪人でない事を伝える。
3:兄貴と合流。

水のエル@仮面ライダーアギト】
【1日目 現時刻:昼】
【現在地:市街地E-5】
[時間軸]:アギト43話、敗北後。
[状態]:背中に裂傷。加えて全身に中程度の負傷。二時間戦闘不能。
[装備]:怨念のバルディッシュ
[道具]:オルゴール付き懐中時計
[思考・状況]
1:アギトを抹殺する。
2:アギトを抹殺することができれば、誰が勝とうが、自分が死のうがどうでもいい。ただし、邪魔する奴は容赦しない。
3:主の為人間であるジョーと明日夢を守る。
[備考]:僅かですが、人間へ興味を持ち始めました。

【グランザイラス@仮面ライダーBLACK RX】
【1日目 現時刻:昼】
【現在地:市街地D-4】
[時間軸]:地球到着直後
[状態]:負傷大。二時間戦闘不能。
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
1:傷を癒す。
2:霞のジョー、及び水のエルに復讐。
3:RXを殺す。
4:ジャーク将軍は後回しにする。

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最終更新:2018年11月29日 17:28