如何にして城茂はパーフェクトゼクターを扱うようになり、
 パーフェクトゼクターは城茂と行動を共にすることになったか

SIDE.S

 俺はその人を前にして、絶望を味わっていた。
「風見さん……」
 俺の嘆きが虚空に響く。風見さんは胸に大きな穴を開けて死んでいた。意志の強さをいつも感じさせていた鋭い瞳はもうなにも映していない。
 身体中のいたるところに傷があり、特にベルトは機械がむき出しになり、原型をとどめてさえいない。
 周りを見回すと、逆ダブルタイフーンの影響だろう壁の所々に大きなひびが入り、砕かれた多量の瓦礫はこの遺跡の出入り口を塞いでいる。
 その状況の全てがここで行われた戦いの凄まじさを示していた。
「風見さん」
 もう一度、その名を呼ぶと俺は膝を突き、涙を流しかけた。
 だが、そのとき、風見さんの言葉が頭をよぎる。風見さんはユリ子が死んだとわかった時、こう言った。
 勇敢な戦士なら、どこかで人を守って死んだのだろう。 それよりも、俺たちが許していけないのはおやっさんたちを殺した殺人鬼だ。
 それは続いている戦いのなかでは、戦士の死を悲しんでいるひまなどないということ。悲しんでいる暇があるなら、その死に報いるために、進まなければいけないということ。
 俺は決めたはずだ。多くの人々の希望になるために戦い続けると。
 そのためにはここを脱出しなければ。俺は手袋を外し、コイルアームを剥き出しにする。
「変身」
 両腕のコイルアームを接触させ、スパークさせる。だが、火花こそ散るものの、変身ベルトエレクトラーには何の反応もない。
「やはり駄目か」
 ジェネラルシャドウからの忠告。この首輪は能力に制限を与えている。
 変身が永久に出来ないとは考えにくいが、一定の期間は出来ないと思っていいだろう。ならば、変身できない間も戦うための力がいる。
「そのための支給品というわけか」
 俺の脳裏に黄金の剣が浮かぶ。だが、それを使うには躊躇いがあった。しかし、その躊躇いは聞こえてきた訴えにかき消される。
 仮面ライダーキックホッパー、麻生とそれを助けた男の訴え。
「迷っている暇はない」
 俺は来た道を戻り、黄金の剣の元へ向かった。

 黄金の剣は俺が去っていたときと変わらぬまま、壁に突き刺さっていた。
「ハァハァ」
 呼吸が荒れる。首輪が与える制限は相当厳しいらしいな。変身してない状態だと人間より多少はマシ程度か。
「……力を貸してもらうぞ」
 俺はそれを引き抜くと踵を返す。RUN&RUN。アメフト部に所属していた大学時代を思い出すぜ。
 例え息が切れていようとも、考えるより先に目的に向かって走る。俺は走って走って、そして、走った。
 再び、俺は風見さんの元へと辿り着く。
「風見さん」
 俺は黄金の剣を構える。そして、瓦礫に向って、その剣を振るった。
「だぁぁぁっ!」
 一振り、二振り、三振り、振るう度に瓦礫は粉塵へと姿を変えていく。凄まじい切れ味だ。
 岩を斬っているというのにまるで豆腐でも切っているかのような錯覚を与えさせる。
 だが、豆腐とはいえ、この量。全てを切り裂くのは相当厄介だ。だが、やるしかない。
 すると、不思議なことが起きた。黄金の剣のグリップが突如、折れ曲がる。この形は……銃?
 俺は黄金の銃を構えると、瓦礫へと照準を向ける。引き金を引こうとすると、今度は手元に付いている赤いボタンが震えた気がした。
 これを押せということか?
 俺は導かれるままに、その赤いボタンを押す。

――KABUTO POWER――

 黄金の銃から音声が流れる。それと同時に銃にエネルギーがチャージされる感覚がする。
 俺は引き金を引いた。

――HYPER CANNON――

 銃口から赤き閃光が放たれる。放たれた閃光は瓦礫に命中し、一瞬の内にそれらを無に返した。
 だが、その威力は俺にも影響を及ぼす。その閃光の余波は俺を吹き飛ばし、壁へと叩きつける。
 ドゴンと鈍い音がなる。かなりの衝撃だ。一瞬、息が止まる。そして、酸素を取り戻すと今度はまた息が荒くなる。
「ハァハァ、凄い力だ」
 だが、ようやくこれで移動することができる。俺は立ち上がると、風見さんの前に立った。
「風見さん、俺は……」
 ここを去る前に、風見さんには自分の思いを伝えなければいけない。今、自分が持つ澱みのない思いを。
「俺は過ちを犯しました。願いが叶うという甘言に我を忘れ、宿敵に自分を取り戻させてもらったものの、結局、風見さんを犠牲にしてしまった。
 正直、今でも、願いが叶うならと思うところはあります。ユリ子や風見さんを生き返らせたらと。しかし、それは逃げでしかない。
 自分の大切な人が死んでしまったという現実から、守りきれなかったことの責任からの逃げでしかない。
 俺は戦います。戦士として、仮面ライダーとして」
 俺が全てを告げた時、風見さんの懐から何かがこぼれ落ちた。これは……
「……これはV3ホッパー。これを俺に持っていけと言ってるんですか」
 風見さんがもつ唯一の装備、V3ホッパー。空に打ち上げることで敵を探査できる装置。
 俺が同じように使うのは無理だろうが、なにかに使えるかもしれない。
「ありがとうございます、風見さん。V3ホッパー、使わせてもらいます」
 風見さんはやはり最後の最後まで戦士だった。俺はそんな風見さんの姿に戦士としての決意を新たにすると、踵を返す。
「もういきます。キックホッパーや結城と合流して、この殺し合いを潰すために」
 俺は遺跡の出入り口を通り、樹海へと飛び出した。

 俺は戦う。ユリ子の願いを叶え、世の中を平和にするために。V3の思いを継ぎ、戦士として戦うために。
 人々に希望を与える、正義の戦士、仮面ライダーストロンガーとして。



SIDE.P

――我が名はパーフェクトゼクター

 我はひとり、佇み、観察する。
 目の前にあるのは褐色の壁。所々にヒビが入り、悠久の時を経てきたかのように見える。
 だが、時空を超えることが出来る我だからこそ、それがまやかしだとわかる。
 我が眼に映る物質の全ては実在のものを完璧に複製した紛い物だ。
 確かにそのものが今まで経てきた時間さえも再現している。だが、所詮は紛い物、何者かの力で実体化しているに過ぎない。
 これを作った術者が消えれば、この世界は全て無になることだろう。
 その危険性を理解しているのが、果たして何人いるのか。

 それにしても、我が城茂という男の手で壁に突き立てられから、もう1時間は経つ。
 いいかげんこの状況にも飽きてきた。この1時間、我は様々なことを思案した。
 首輪を着けられた者どもと違い、我自身の能力はほとんど制限されていなかった。
 この空間に立ち込めた特殊な瘴気の影響で移動こそままならなかったが、他の機能に支障はない。だが、我らが置かれている状況はあまり芳しくないものだった。
 ここに集められたものは同じ時間軸から集ったものではなく、必ずしもお互いを知りえているわけではないということ。
 ザビーに話しかけたとき、ザビーは我の存在を知らなかった。彼の主である矢車想もホッパーになる前の矢車想らしい。
 ザビーにとっては幸運だろうが、多くのものにとって、それは争いを生む火種となりうる。
 その証拠にサソードの主、神代剣はこの戦いを勝ち抜くために邁進しているという。ガタックの主であった加賀美新も彼の刃にかかったとのことだ。
 当然、天道総司も彼と戦うことになるだろう。それまでに天道総司は我を手にすることができるのか。
 それ以前に我は誰かの従となることができるのか。ここが禁止エリアとなる前に誰かと会いたいものだ。

 それから更に1時間が経った。
 カツカツとこちらへと迫る足音が聞こえる。
 足音の力強さから屈強な男だとわかり、リズムからかなりの速さで走っているとわかる。
 ようやく我が主の候補が来たらしい。
 以前の我の主は天道総司であったが、何も我が主が彼奴である必要はない。我が認める完璧な魂の持ち主であれば誰でも構わない。
 果たしてその男は我が期待に応えるべき人物か?
「ハァハァ」
 息を吐き、我を見つめるその男の容姿を若干の期待をもって我は確認する。だが、瞬く間に我の期待は崩壊した。
 その男は我が知っている人物であった。
 私利私欲に自分を失いながらも、白装束の魔人に諭され、己の拳で戦うことを誓った男。
 名は城茂。またの名は正義の戦士、仮面ライダーストロンガー。
「……力を貸してもらうぞ」
 城茂は一言を発し、我を引き抜くと、来た道を戻っていく。
 一体どういうつもりなのだろうか。城茂は我を捨てたのではなかったのか。ジェネラルシャドウに諭され、拳と電気で戦うことを誓ったのではなかったのか。
 我が思考している間も城茂は走った。何かに急き立てられるように必死に。しばらくして、目的地に辿り着いたのか、彼は足を止める。
 そこには壁を背に、ひとりの男が座していた。体中を傷だらけにして。身体の中心に一際大きな穴を開けて。
 ようやく我の記憶の引き出しからその男の名が取り出される。風見志郎。城茂が一緒に行動していた男だ。
 わずかな間ではあったが、風見志郎が熱く正義に燃える男であったのは理解できていた。
 そんな男が殺人者になりかけた城茂を追って来なかったのはおかしいと気にはなっていたが。
「風見さん」
 ……そうか、城茂の考えが理解できた。
 あの時、立ち直ったものの、風見志郎の死という現実に、やはり怪人となることを決意したか。
「だぁぁぁっ!」
 城茂は我を構えると瓦礫の山に向かっていく。一心不乱に振るわれる多数の斬撃。我の鋭き刃が瓦礫を少しずつ切り裂いていく。
 いいだろう、城茂。正義だろうと、悪だろうと、己の道を迷わず歩めるのなら、我は力を貸そう。
 城茂の斬撃の合間を見計らい、我は身体に力を込める。するとグリップ部分が折れ曲がり、我はガンモードへと姿を変えた。
 突然の変異に城茂は驚愕の表情を浮かべる。だが、その形の意味を理解すると瓦礫に向かって構えた。
 赤いボタンを押すよう促すために、わずかにそれを振るわせる。城茂はそのサインに気付き、我のボタンを押した。

――KABUTO POWER――

 その指示に従い、我に赤きカブトの力が宿る。

――HYPER CANNON――

 城茂が引き金を引くと同時に我の銃口から赤き閃光が放たれる。そのあまりの衝撃に城茂は作用反作用の法則に従い、吹き飛ばされた。
 壁にその身体を強く叩きつけられる。だが、その代償と引き換えに瓦礫は粉微塵に吹き飛ばされた。
「ハァハァ、凄い力だ」
 そうであろう。全てのゼクターをジョイントしたマキシマムハイパーサイクロンにこそ劣るが、それでも十分な威力を持っている。
 城茂は立ち上がると、息を切らせながらも風見志郎の元に向かう。
「風見さん、俺は……」
 そして、風見志郎の前に立つとその思いを告げた。
「俺は過ちを犯しました。願いが叶うという甘言に我を忘れ、宿敵に自分を取り戻させてもらったものの、結局、風見さんを犠牲にしてしまった。
 正直、今でも、願いが叶うならと思うところはあります。ユリ子や風見さんを生き返らせたらと。しかし、それは逃げでしかない。
 自分の大切な人が死んでしまったという現実から、守りきれなかったことの責任からの逃げでしかない。
 俺は戦います。戦士として、仮面ライダーとして」
 我は自分の考えが間違っていたことに気付いた。城茂は怪人になることを決意したわけではなかった。
 風見志郎の意志を継ぎ、己の正義を貫くことを改めて決意したのだ。
 我を手にとったのはそのため。変身できなくとも、力が使えなくとも、戦うために。人々を守るために。
 風見志郎の懐から何か筒のようなものがこぼれ落ちる。
「……これはV3ホッパー。これを俺に持っていけと言ってるんですか」
 V3ホッパーと呼ばれた機械には我のように意志が宿っているように思えない。ただの偶然だろう。
 だが、亡骸となったはずの風見志郎の身体に今、わずかに火が灯った気がしたのは気のせいなのだろうか。
「ありがとうございます、風見さん。V3ホッパー、使わせてもらいます」
 城茂はV3ホッパーをディパックに入れると踵を返す。
「もういきます。キックホッパーや結城と合流して、この殺し合いを潰すために」
 城茂は樹海へと飛び出す。我と共に。
 我は城茂に力を貸そう。城茂が望む限り、正義の戦士であり続ける限り。
【城茂@仮面ライダーストロンガー】
【1日目 現時刻:昼】
【現在地:樹海C-2】
[時間軸]:デルザー軍団壊滅後
[状態]:胸の辺りに火傷。
[装備]:V3ホッパー、パーフェクトゼクター
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
1:仲間を探す(仮面ライダーキックホッパー優先)。
2:殺し合いを阻止し、主催者を倒す。
3:明日、ジェネラルシャドウと決着をつける。
4:自分に掛けられた制限を理解する。
※首輪の制限により、24時間はチャージアップすると強制的に変身が解除されます。
※制限により、パーフェクトゼクターは自分で動くことが出来ません。
 パーフェクトゼクターはザビー、ドレイク、サソードが変身中には、各ゼクターを呼び出せません。
 また、ゼクターの優先順位が変身アイテム>パーフェクトゼクターになっています。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2018年11月29日 17:28