月蝕

まるで夢の中の様に、意識がはっきりしない。

俺は誰だ?

此処は何処だ?

俺は此処で何をやっている?

そうだ、俺はシャドームーン。
来るべきRXとの決着に備え、この身を休ませていた。

RXとの決着?
何故、奴と決着を付けなければならない?

―――我が息子、シャドームーンよ。

誰だ!?
声が聞こえる。
誰かが話しかけている様にも
自身が内から話しかけている様にも
過去の記憶の声にも聞こえる。

―――よいか。自らの運命に従いブラックサンと戦うのだ。

余計な口出しはするな!

―――戦え! 戦うのだ。

言われるまでも無い。RXとは決着を付ける。

―――そうだ。それでいい。
―――紀王、シャドームーンよ。

今、俺を何と呼んだ!?



「―――!!!?」

朦朧としていた意識が、突如急激な覚醒に見舞われる。
、 、 、 、 、 、 、 、、 、
突如それの存在を感じ取った。
、 、、 、 、 、 、 、 、 、、
それが解き放たれたと感じ取った。

俺の剣―――サタンサーベルの存在を。
何も覚えが無い筈だが、
俺はその剣を知っている。
俺はその剣が俺の物だと知っている。
俺はその剣の名がサタンサーベルと知っている。

右手を天にかざす、サタンサーベルを呼び寄せる為に。
こうすれば俺の手にサタンサーベルが来る筈だ。

………しかしサタンサーベルが来る気配は無い。
何故だ? 俺はかつてこうしてサタンサーベルを呼び寄せた筈だ。

ならば俺の方から取りに行くとしよう。
俺はサタンサーベルを求め、当ても無く歩き始めた。

◇ ◆ ◇

何処をどれだけ歩いたか、覚えちゃいない。

迫り来る死の影と悪夢に追い立てられ、辿り着いたのが公園。
その中には斧と盾を添えられた、簡易な墓があった。
添えられた斧と盾には、見覚えがあった。ドクトルGの墓か。

死者を弔うという習慣は、当然アンデッドには無い。
俺もかつては、それを行う人間の気持ちが全く分からなかった。
だが今の俺には、なんとなくだがそれが分かる。
そして強く戦士としての誇りに満ちていた、ドクトルGには敬意すら覚える。

だが何れにしろ、俺にはこいつを弔う資格は無い。
こいつを殺したのは、俺なのだから。
こいつとの戦いの際に、俺が与えたダメージは即死には至らなくとも致命傷だった事を覚えている。

自らの信念に殉じたドクトルGと違い、俺は唯の殺戮者だ。
死しても墓標も、弔う者も居はしまい。
例え生き残れたとしても、もう以前の様に天音ちゃんと共には生きられない。
理由はどうあれ、自分の意思で殺戮者の道を歩み出したのだから。
だが戦う事に躊躇いは無い。必ず天音ちゃん―――そして剣崎、お前を…………。



途切れがちな意識を何とか保つ。
相変わらず負傷箇所からは出血があるが、どうやら僅かずつでも回復に向かっているらしい。
元々は人間の姿をしていても、人間より高い回復力を持つ。
制限下でも、それはある程度発揮されているのだろう。

それでもやはり負傷、体力共に全快するにはまだ時間が掛かりそうだ。
今までの様に考え無しに、戦いを仕掛ける訳にはいかない。

―――使えるものは何でも利用し、講じれる策は全て講じる。

目前の墓の下に眠る男の台詞が、頭をよぎる。
敵である男の言葉だが、今の俺には何よりの助言だ。

  カシャッ カシャ カシャ

後方から定期的な機械音……いや、足音が聞こえてきた。
首輪探知機を持ちながら背後からの接近を許した自分の迂闊さに歯噛みしつつ、右手にハートのA・チェンジマンティスを持つ。

  カシャ カシャ

俺の背後から約10m程の所で、足音の主が止まった。
銀色の金属的な光沢を放つ体躯に、エメラルドに光る双眸を持つ者。
始めてみるそいつに関して俺は何も知らないが、直感が俺に確信を促す。
あいつは何者とも相容れない、孤独をしか生きられない者だ。そう、俺の様に。
殺し合いの中なら、なおさら味方となる者などいないであろう。
そして強い。ジョーカーの力を以ってしても、勝利を確信出来ない。
まして今の俺は満身創痍、勝算は薄い。

『あーあー、マイクテスト中。みんな聞こえてるー!?』

臨戦態勢を取る中で、天から拡声器による放送が降り注ぐ。
背後に居た相手は、視線を俺から天へと移す。
そして放送を聴き終えると、踵を返し俺から離れていく。
仕掛けてこない? 予想外の動きだ、こいつは殺し合いに乗ってないのか?
ならば好機だ、策を講じ利用する為の。

「待て!」
呼び止めるが、相手の足は止まらない。
ハートのAのラウズカードを、ベルトのバックルへ通す。
赤い単眼に黒い装甲の戦士にこの身が変身し、手中に出現した弓、カリスアローにラウズカードを通す。

――Tornado――

弓から放たれた小型の竜巻が、相手の脇を通り抜け進路上のアスファルトを盛大に破砕した。
唯の一撃だが反動が身体に堪える、やはり戦闘を行える状態では無い。
相手はこちらに向き直る。
「今のは威嚇だ。お前と戦うつもりは無い」
当然相手もそれが分かっているだろう、慌てた様子が見て取れない。

「お前は殺し合いに乗っているのか?」
「ああ」
「何故さっきは俺に仕掛けてこなかった?」
「俺の殺し合う相手はお前ではない」

成る程な、こいつは神崎士郎の定めたルールなど眼中には無い。
自分の望む相手と戦う事しか、興味が無いと言った所か。

「ならば俺と一時組まないか?」
「何?」
「見たところお前は負傷している、俺も傷を癒しているところだ。
 互いの傷が癒えるまで同じ場所で休めば、安全性も高まる。ただ共に居るだけだ。お互い相手を守る必要は無い」
「お前の力など借りずとも、自分は守れる」
「制限を受けているのにか?」
「不要だ」
「だが目的の相手と戦うまで、無駄な戦いを遠ざけられる。違うか?」

僅かな沈黙の後、質問が返された。
「お前の傷はどれ位で癒える」
「回復にも制限が掛かっている様だから、後数時間は掛かるだろう」
「次の放送までだ、それまでは一緒に居てやる。だが俺を陥れようとしているなら、必ず殺す」
そう言って相手は、公園の隣に在るビルに向かっていった。
どうやら交渉は成立したらしい。



ビルの一階のロビーで俺は柱に背を預け座り込み、休みを取る。
隣の柱では同じ様に、シャドームーンが休みを取っている。
互いに交換した情報は名前だけ、無愛想な奴だがそれはお互い様だ。
下手に情報を引き出そうとして、せっかくの交渉がふいになるのは避けたい。
元々俺は交渉事が得意でないのだから。

先刻の拡声器による放送で起こるであろう戦闘は、おそらく多数を巻き込む集団戦になるだろう。
ならば俺一人でそこに割って入るのは、リスクが高すぎる。
ちょうど次の放送まで休みを取るのだから、それから拡声器を使った場所へ向かい漁夫の利を狙う。
とにかくこれからは今まで以上に慎重に、そして効率的に戦わなくてならない。

ドクトルG。お前の死に報いるなどとおこがましい事を言うつもりは無いが、お前の戦士としての姿勢に学ばせてもらう。

天音ちゃん。君と共に生きる資格を失っても、俺は君を決して見捨てたりはしない。必ず助けてあげるよ。

剣崎。例えお前がそれを望まなくとも、俺がお前を優勝させてやる。

◇ ◆ ◇

シャドームーンは負傷の具合を確かめる様に、腹に有る傷を触る。
(次の放送までには、完全に癒えているだろう)
サタンサーベルや先刻の拡声器による放送は、シャドームーンも気に掛けてはいたが
始との会話で多少落ち着きを取り戻した為、休息を優先させる事とした。

(焦る必要は無い、サタンサーベルは俺の剣なのだ。何処にあろうと最後には必ず俺の物となる。
 そしてRXも簡単に死ぬような奴ではない。何故なら奴は俺と同じ、もう一人の…………)
未だ過去を取り戻さぬシャドームーンだが、その目的を見失ってはいなかった。



ゴルゴムの創世王は未だ滅んではいない。
その身が滅びても、運命の名の下にキングストーンを授けた二人の世紀王がいる限り。
【相川 始@仮面ライダー剣】
【1日目 現時刻:午後】
【現在地:市街地F-5】
[時間軸]:本編後。
[状態]:胸部に抉れ。腹部に切傷。
[装備]:ラウズカード(ハートのA、2、5、6)
[道具]:未確認。首輪探知機(レーダー)
[思考・状況]
1:次の放送までシャドームーンと共に休む。
2:天音ちゃんを救う。
3:剣崎を優勝させる。
4:ジェネラルシャドウを含め、このバトルファイトに参加している全員を殺す。
[備考]
相川始は制限に拠り、ハートのA、2以外のラウズカードでは変身出来ません。

【シャドームーン@仮面ライダーBLACK RX】
【1日目 現時刻:午後】
【現在地:市街地F-5】
[時間軸]:RX27話以降。
[状態]:腹にドリルによる刺し傷。
[装備]:シャドーセイバー
[道具]:なし
[思考・状況]
1:次の放送まで相川始と共に休む。
2:RXを探し出し、決着をつける。
3:サタンサーベルを探し出し、手に入れる。
4:風見志郎(結城丈二)に借りを返す。
[備考]
第二回放送を聞き逃しています。

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最終更新:2018年11月29日 17:39