「巧!巧!起きて、巧!!」
誰だ。・・・俺を呼ぶのは。
身体が重い。冷たい床の感触。
「真理・・?」
目の前には見知った相手の姿があった。
園田真理。
血相を変えて俺を呼んでいる。不安が入り混じった表情から、
何と無く、ただ事では無いのだとと感じ取れた。
身体を起こして辺りを見回す。
かなりの人間が、このホールに居るらしい。未だに眠っている者も居れば、
近くに居る者を起こしにかかっている者も居た。
知らない空間。こんな所に来た覚えは無い。
目の前で未だ不安そうにしている真理も、恐らく他の連中も、例外じゃないだろう。
その広いだけの空間が徐々に喧騒に包まれ始めた。
「何が起こってんだ。・・訳わかんねーよ。」
次々と混乱と不安の声がホールを包む。
「君達も居たのか。」
その時、背後から声を掛けられた。その声には聞き覚えがある。
丁度、真理と向かい合う姿勢になっていたからか、俺が振り向くより先に、
真理が歓喜の声を挙げる。
「草加君!」
小さく笑みを浮かべる草加。だが、俺に遣る視線は険しい。
俺が居るのを内心、面白くないと思っているはずだ。
いや、真理以外の人間はいらないとすら思っているかもしれない。
「草加・・・。」
奴だって、この状況に困惑している筈だ。だが相変わらず憮然とした態度を崩そうとしない。
大した奴だ。
「ここに俺達を集めた奴が、何を考えているかは知らないが。」
「気に喰わないな。首輪なんて俺達は犬か?おまけに外れないときている。」
その言葉で漸く気がついた。首に感じる、金属の冷ややかな感触。
真理にも、草加にも、俺にも、周りの奴らにも・・・例外無く全員に首輪は巻かれていた。
首輪から伝わってくる冷ややかな感触から、何と無く嫌な予感を感じた。
どうか、気のせいであって欲しい。
すぐ近くに居た男が怒声を挙げながら首輪を強引に引っ張っていた。
何故かは分からない。・・けど、妙な予感が頭を過ぎるんだ。
おい、止めとけって。それ以上、触んないほうが良い。
おいって!!
ボン!!
小さな爆発が、男の首元から起こった。真っ赤な鮮血を撒き散らし、男の首がコロコロとこちらへ転がってくる。
暫くフラフラと彷徨っていた首の無い身体も、やがて地に伏せてしまった。
「嫌ぁぁぁぁぁ!!」
隣に居た真理や、周りの奴らも一様に悲鳴を挙げた。首輪から起こった爆発に、男は間違いなく死亡している筈だ。
なにせ、首と胴が離れてしまったんだから。
その惨い光景は、これから起こる恐ろしいなにかを暗示しているようだった。
少なくとも、これは現実だ。
それを実感するには十分だった。
やがて、ホールの扉が開かれた。
更なる喧騒に包まれていた室内に、一人の男が足を踏み入れる。
コツコツと靴の音を響かせて、こちらへ歩み寄ってくる男から異様な気配が感じ取れた。
ホールの光が男の顔を明らかにした時、あれほど混乱に包まれていた室内は静まり返っていた。
男の雰囲気がそうさせたのだろう。
そして、一部の人間は俺達とは違う戸惑いを感じているようだった。
「神崎士郎・・」
一人の男が口を開く。
神崎士郎。
幾らかの人間は、奴の事を知っているようだった。
「どういう事だ?これは・・。納得のいく説明をして貰おうか。」
隣に居た草加が物凄い形相で神崎士郎と呼ばれた男を睨む。
ここに居る人間全員が、説明を望んでいる。それは明らかだろう。
さっきの男は何故死んだのか。
俺達は何故、ここにいるのか。
やがて静かに一言だけ呟いた。
「今日はお前たちに殺し合いをして貰う。」
静まり返る室内。この男が何を言っているのか理解出来ない。
殺し合い?何だってんだ。何がどうなってんだよ!!
「訳分かんないって。どういう事なんだよっ!」
先程、神崎士郎と呼んでいた男が声を張り上げた。それを切っ掛けに辺りは再び喧騒に包まれる。
文句や困惑、不安、怒り・・・それぞれの思いを神崎士郎にぶつける。
それを疎ましく思ったのか、先程絶命した男の生首まで歩み寄り、思いっきり踏みつけた。
グチャッ!とグロテスクな音を立てて潰れる、男の生首。辺りに血や脳漿をぶちまけて、それは見るも無残な姿に変わってしまった。
人のものだと言われなければ、分からないかもしれない。
「・・・!!」
嘔吐する声や、泣きじゃくる声が静かに響く。俺は最早、何も考えられなかった。
これが現実だと思いたくはなかった。
全てを忘れてしまいたかった。
だが神崎士郎は無情にも開始の言葉を告げた。
「名前を呼ばれた者は、あそこにあるバッグを一つ取り出発しろ。詳しいことはバッグに入っているメモを読め。
一切の質問は許されない。」
「さあ行け。戦わなければ生き残れない!」
そして、悪夢の戦いは始まった。
最終更新:2018年03月22日 17:07