律法の護り手
「……何を考えてるのよあいつは?」
左手でカンテラを掲げ、右手で木々を掻き分け進む。スーツが汚れるのはこの際無視だ。
カードデッキは胸ポケットに収めておき、支給品は袖口に。
森の中を十数分程もそうして歩けば、僅かに開けた場所に出た。
木製のベンチに座り、軽く息を整える。
吐いて、吸って、吐いて、大きく吸って、大きく吐いて、
瞬間、首筋に冷えた金属が押し付けられた。
「―――手を上げろ」
若い男の声、恐らく十代だろう。大人しく従っておく。
「……落ち着いて、話し合おうじゃないのさ」
「デイパックを地面に落とせ」
―――無視、か。
正直この手合いは慣れている。最初は従い、ゆっくりと自分のペースへ持ち込むのが交渉する際のコツだ。
素直に落としてやる。ガサゴソと中を探る音。鉄の感触が僅かにもぶれない事から、この手の武器の扱いに慣れていることが分かる。
「支給品は何だ?入っていないぞ」
「ライター、入ってるでしょ?ジッポーの結構高そうな奴。神埼も何考えてるんだかねえ?」
その言葉に差し込まれた剃刀は二枚。
一つは虚偽。支給品は袖口にある。高級ジッポーライターは単なる私物だ。
もう一つは、
「神崎……おまえ、あの男の知り合いか?」
―――そら乗ってきた。
心中でほくそ笑む。
真司の行動が幸いした。
あの馬鹿が大声で神崎の名前を叫んでくれたおかげで『さりげなく会話の中にその名前を混ぜる』ことで知人だと誤解させられる。
「ああ、親友だよ。ただ―――」
躊躇う演技。弁護士にとって腹芸は『自然に身に付いてしまう』技能の一つだ。
「言え」
狙い通り。鉄の感触が強まった。
「―――ただ、妹が死んでからちょっとおかしくなって、今じゃ狂人だ。
この戦いも多分、妹を生き返らせる為の儀式か何かだね。アイツならそれぐらいはやる。
前にもライダーバトルなんてものを計画してたし」
「ライダー?俺たち以外にライダーがいるのか?」
―――こいつもライダーだったらしいな。だが―――
自分が知っている『神崎士郎が開発した特殊作業服』の装着者に過ぎないライダーなら、こんな驚き方はしない筈だ。
つまり、こいつは、
「君もライダーなのかな?
ねえ、それ降ろして話し合わない?こっちも襲う気は無いしさ。
それに俺、実は不治の病の重病人だぜ?」
冗談めかして言うと、そろそろと退く気配があり、鉄の冷たさが消える。
僅かに安堵し振り返ると、古風な剣を提げた『新人社員』とでも言うべき風貌の男がいた。
「君は確か―――上条睦月君?
上条君って呼んでも良いかな?」
自分より早く神崎に呼ばれた奴の名前はあらかた覚えている。
相手の呼び方を自分で決めるのは会話のペースを握る上で重要だ。
「ええ、いいですけど―――あなたは?」
命令口調から敬語に変わった。そうさせるように仕向けたのだが。
「
北岡秀一、北岡でいいよ」
気さくに呼びかけ右手を差し出す。
おずおずと握ってきた手を軽く握り返し、口を開いた。
「で、君は何てライダー?俺は―――」
カードデッキを指先で摘む。
「―――『ゾルダ』だけど」
相手が自分の知る『ライダー』ではないと確信しているが、だからこそ、
「……俺は『レンゲル』ですけど」
既にある程度の情報を得た相手から、更に情報を引き出すことも可能だ。
それとなく視線で促すと、デイパックの中から仰々しい機械を取り出した。
拳大と言うには大きい金属の塊。そしてトランプサイズのカード。
レリーフ風に描かれた蜘蛛の絵、クラブのマークとA、そしてCHANGEと刻印されている。
「へえ、レンゲルもカードなのか」
デッキから『ADVENT』を引き出しつつ言う。慣れた事のように。そして描かれた鋼の猛牛を見せ、
「俺はマグナギガって
モンスターと契約したんだけど、上条君のは?」
半分はハッタリ。モンスターとの契約というシステムを取っているとは限らない。
「契約?封印の間違いじゃないんですか?」
残り半分の予想が当たった。近いが異なったシステムを用いたものらしい。
「え?モンスターと契約して、カードから力を引き出すんじゃないの?」
とぼける。こうすれば、
「いえ、俺たちのライダーシステムは、ブランクに封印したカテゴリーエースのアンデットと融合する為のものです。
確かにカードから力を引き出すシステムですけど……」
自分から説明してくれた。
そして幸運だ。自分が知るものと酷似している。
更に幾つかのワード。ブランク、カテゴリーエース、アンデット。
まずアンデット、不死という名が気になるがミラーモンスターのようなものと考えて相違ないだろう。
そしてブランク、空白のカードに封印するということだろうか?
カテゴリーエース、アンデットは分類されているのか?
クラブのマーク、封印という言葉から一つの推論を導き出し、言葉にする。
「ああ、そういえば昔神崎が言ってたな。どこかの世界でトランプに添った怪物を倒して回るライダーがいるって。
もしかして、君が?」
賭けではあった。
「ええ、剣崎さんと橘さん、相川さんと俺は、五十三、いえ五十二体のアンデットを封印しました。
でも剣崎さんは……」
口細る。それに被せるように、
「でも良かったじゃない。その剣崎って人もここに来てるから、また会える」
「いえ、違うんです―――」
そして彼は話し始めた。
不死の怪物が乱舞する数奇な物語を。
「ふうん。じゃあその剣崎って人はアンデットになったの?」
内心、狂喜に叫びたい気分だったが、表情には出さない。
「ええ、橘さんから聞いた話だと、その後は世界中の紛争地帯を廻ってるらしいです」
自身が求めているもの。不老不死。
「進化の副作用か……皮肉だね、そのおかげで世界を救う事が出来たなんて」
必要な情報は幾つか手に入った。
十三枚のカード、そしてバックル。
それらを手に入れれば、自分は―――
「ところで、北岡さんは何の為にライダーになったんですか?」
思考を切り替え答えを返す。自分の目標がばれるのは不味い。
心臓の辺りに手をやり、
「ああ、不治の病に罹ってるって言ったよね」
スーツの襟に付けられている、使い込みによって金が剥げた銀の天秤を指差し、
「だから、死ぬまでになるべく多くの人を救いたかったんだ。
成績は悪かったけど、必死で勉強したら何とか弁護士になれた。
でも、それでも救えない人たちは居たんだ。だから―――」
「誰か助けて!誰か!!」
子供の声、男、高校生位だろう。
顔を見合わせる。
「―――北岡さん!!」
次の瞬間には駆け出していた。
慌てて追い、何とか前に出る。
上条君があの蜘蛛のカードを機械に差し込むと、カードを連ねたベルトが伸張し腰に張り付く。
片手は顔に、まるで仮面を引き剥がすように指を広げ、
「―――変身ッ!!」
両腕を交差させつつ振り下ろした。あの機械が二つに割れ、現れる黄金のクラブ。
飛び出した紫の光壁。畳程度の大きさのそれには、カードと同じ蜘蛛のレリーフ。
彼がそれを通過した瞬間、緑と金、そして黒を組み合わせた装甲に覆われた『ライダー』がそこにいた。
眼として輝く双の紅球。胸部や拳に打たれた三本一組の鋲はクラブのマークを模している。
「北岡さん!助けに行きましょう!」
仕方が無い。ここで疑われては後々に響く。
「―――ああ!!」
左手に持ったままのカードデッキを突き出すと、腰にベルトが張り付いた。
右腕全体を肩に這わせ停止。
「―――変身」
カードデッキをベルトに装填。両の拳を握り締める。
牡牛のレリーフが黄金の光を放つと、その瞬間には緑と銀の装甲服が装着されていた。
脚を振り上げ疾走する。
悲鳴の元へ。偽りの正義を果たすために。
【北岡秀一@仮面ライダー龍騎】
【1日目 現時刻:深夜】
【現在地:樹海B-7エリア】
[時間軸]:本編終盤辺り。
[状態]:健康。ゾルダに変身中。
[装備]:不明。(袖口に隠し持てる。多分武器)
[道具]:不明。
[思考・状況]
1:とりあえず上条君とは協力しておこう。
2:誰かからカードとバックルを奪って、アンデットになる。
3:融合係数とやらで無理そうなら生き残って願いを叶えてもらおう。
【上条睦月@仮面ライダー剣】
【1日目 現時刻:深夜】
【現在地:樹海B-7エリア】
[時間軸]:本編後。
[状態]:健康。レンゲルに変身中。
[装備]:ディスカリバー@カブト
[道具]:不明。
[思考・状況]
1:悲鳴の主を助ける。
2:北岡さんと協力しよう。
3:剣崎さん達と合流しないと。
睦月は北岡の支給品をライターだと思ってます。
言ってた事は殆ど疑ってません。
ただし、剣本編についての話は意図的ではありませんが誤解させる、或いは言い漏らしがある可能性があります。
最終更新:2018年03月22日 17:09