帰りたい場所がある―

「冷静にならないと・・・冷静に・・・」
あきらは岩場に隠れながら、
今起きたことを整理しようと努力した。

鬼を目指し鍛えていた筈が、
目の前で呆気なく消えた命に
動揺を隠せない自分に無性に腹が立った。

これまでも魔化魍の犠牲になった人々は見ていた。
しかし、ここまで露骨に臓物を見るのは初めてだった。

跡形もなく亡き者にする化け物もさることながら、
人間の恐ろしさを改めて感じた。
体が震えるのは夜の海風のせいだけではない。

自分が今ひとつ殻を打ち破れなかったのは、
こんな弱さがあったからだと気づかされた。

もしかしたら、イブキも気づいていながら
口に出していなかったのかもしれない。

「イブキさん・・・こんな時イブキさんならどうしますか?」


「おい!ちょっと待て」

巧はこの手の押し付けが大嫌いだ。
そもそも、人に何か言われて、素直に従える性格ならば、
アルバイトを転々としたりはしない。

「スカした顔で何言ってるんだよ!子供もいるじゃねーか!!」
「一切の質問は許されない。」

詰め寄る巧にロングコートの男は全く動じなかった。

「巧!もういいよ・・・」
真理のその声は今の出来事を必死に受け入れようと
しているのか、弱々しく暗かった。

その瞬間、巧の中の何かが切れた。
細かいことなどどうでもいい。
この首謀者さえ倒してしまえば全てが終わる。

「てめえええええ!」

刹那、巧の体は霧散する。
殺されてしまったのだろうか?
ホールの空気は再び凍りついた。


まずは現有の所持品を確認しよう。
あきらはずっしりと重かったバッグを恐る恐る開けてみる。

開けた・・・
特に爆発はしないようだ。

手を入れてみる。
金属の感触。
だが中は空洞なのか?
取っ手がある。
引き上げて見ると、それは飯ごうだった。

「キャンプに来たわけじゃないんです・・・。」

ずっしりと重かったもののは米が2キロ。
小さなプラスチックの容器に入っていたのはアサリの佃煮と漬物。
味噌に葱。

落胆しつつさらに探っていくと、ケータイを見つける。
銀色と黒の大きくて少し時代遅れなデザインのもの。
「SB-555P」
聞いたことのないメーカーだ。

そんなことはどうでもいい。
電源を入れ、一番自分がかけている番号―イブキのケータイの番号―を押す。

「はぁ~い?只今電波の届かない状況です♪めそめそ☆後でもう一回かけてみてねぇ~?」

嫌いなタイプの甘ったるい女の声に軽く腹を立てながら、電波状況を確認する。
電波は三本・・・やはり通信は遮断されているのだろうか?

「見ぃーつけたぁぁあぁ!」


アウターの襟首を掴まれたと思った瞬間、
あきらの体は蛇柄のジャケットの細身の男の腕の中にあった。

蛇柄のジャケットの男―浅倉威は、あきらをそのまま岩場に叩きつける。
この男に、どこにそこまでの力があるのだろう?

そう思った瞬間、左の頬に痺れるような重い痛みが走る。
あっという間に男に馬乗りになられ、
右手の張り手を食らっていたのだ。

右・・・左・・・
右・・・左・・・

どれだけ時間が経ったのだろう?
口の中は鉄の味でいっぱいになり、
鼻からは熱いものが噴出している。
血と腫れで狭くなった視界から男を見ると、
涎がゆるやかに落下してくる。額に落ちる。

チキチキチキチ・・・・・・

聞きなれた文房具の音―カッターナイフの刃が伸びる音。
「お前の心臓・・見せてくれよ・・・」
浅倉は安っぽくも危険な凶器に舌を這わせると、
一気にあきらの体の正面を切りつける。

だが、シャツを一枚切っただけだった。
「すぐ殺さない・・それにしてもアイツも面白いゲームを考えるよなぁああああ」

このまま殺されてしまうのだろうか・・・?
朦朧とする意識の中で手を伸ばすと、そこには鬼笛があった。


気がつくと、海の中に落下していた。
とは言え、座っている状態でも臍まで海水が届かないので、海岸は近い。
目の前にはぷかりと浮かぶディバッグ。
巧はそれを引き揚げると海岸へ向かった。

流木を集め、火をつける。
もし、あの男の言う通り、殺し合いをしているのならば、
この煙で殺戮者が集まってくるかもしれない。

構わない。
そうしたら、一人一人倒していくまで。
何よりも真理にこの場所を知らせたい。
草加は気づくだろうか・・・・?
クレバーな奴のことだ、あれくらいの煽りでは簡単に乗らないだろうが・・・

鞄を開けてみる。
1.5?のミネラルウォーターが二本。
「オリエンタルな味と香りのポレポレカレー」と書かれた缶詰が一つ。
乾パンの缶詰が一つ。
そして、白い洋風の封筒。

開いてみると「はずれ」とマジックで汚い字が書き殴られている。
狼狽した巧はそれを破ると、火にかけた。

めらめらと燃える火を見つめながら乾パンの缶詰を開け、齧る。
味気のないそれを齧っていると、なぜか真理の作った味噌汁の味が口に甦る。

「あいつの作った味噌汁・・・熱すぎるんだよ・・・。」


あきらが鬼笛を吹くと、小型の赤い円盤が一瞬にして姿を鷹に変え、
浅倉の顔面を切り裂いた。

夥しい量の血液があきらの顔に降りかかる。
その隙をついて押しのけると、呆気なく浅倉の体は崩れた。

声にならない声を上げると、男は逃げていく。
手負いの状況だ。
体制を立て直す必要があると思ったのだろう。

あきらも走った。
血と涙、鼻水、涎・・・ぐしゃぐしゃの顔で。

手には先ほどのケータイ、そして鬼笛。
荷物は置いてきてしまった。

決意を持って猛士に入ったはずだった。
泣かないと心に決めていたはずだった。
それなのに、涙が次から次と溢れてきた。
忘れていたはずの女としての自分を踏みにじられた。

「イブキさん・・・もう一度イブキさんに会いたいです・・・。」

あきらは何をしても生き延びる決心を固めた。
そして、その目に映ったのはゆらゆらと流れる焚き火の煙だった。



【乾巧@仮面ライダー555】
【1日目 現時刻:深夜】
【現在地:海岸J-6】
【時間軸】中盤くらい
【状態】健康 服が濡れて気持ち悪い
【装備】ファイズドライバー
【道具】ミネラルウォーター×2 カレーの缶詰 食べかけの乾パンの缶詰
【思考・状況】1.あのバカを守る。このまま死なれちゃ夢見が悪い。
       2.神崎・・・気に食わない。
       3.草加・・・?あいつなら自分で何とかするだろ?

天美あきら@仮面ライダー響鬼】
【現在地:海岸J-6】
【時間軸】中盤くらい
【状態】錯乱 顔面ボコボコ
【装備】インナーは浅倉に破られてしまいました。
【装備】鬼笛 ディスクアニマルアカネタカ
【道具】ディバッグは海岸J-7に破棄 ファイズフォン
【思考・状況】1.何としても生き残る。もう一度イブキさんに会いたい。

浅倉威@仮面ライダー龍騎】
【現在地 海岸I-7】
【状態】顔にアカネタカに傷を負わされた状態(程度、箇所は以降にお任せ)

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最終更新:2018年03月22日 17:10