帰りたい場所がある―
「冷静にならないと・・・冷静に・・・」
あきらは岩場に隠れながら、
今起きたことを整理しようと努力した。
鬼を目指し鍛えていた筈が、
目の前で呆気なく消えた命に
動揺を隠せない自分に無性に腹が立った。
これまでも魔化魍の犠牲になった人々は見ていた。
しかし、ここまで露骨に臓物を見るのは初めてだった。
跡形もなく亡き者にする化け物もさることながら、
人間の恐ろしさを改めて感じた。
体が震えるのは夜の海風のせいだけではない。
自分が今ひとつ殻を打ち破れなかったのは、
こんな弱さがあったからだと気づかされた。
もしかしたら、イブキも気づいていながら
口に出していなかったのかもしれない。
「イブキさん・・・こんな時イブキさんならどうしますか?」
※
「おい!ちょっと待て」
巧はこの手の押し付けが大嫌いだ。
そもそも、人に何か言われて、素直に従える性格ならば、
アルバイトを転々としたりはしない。
「スカした顔で何言ってるんだよ!子供もいるじゃねーか!!」
「一切の質問は許されない。」
詰め寄る巧にロングコートの男は全く動じなかった。
「巧!もういいよ・・・」
真理のその声は今の出来事を必死に受け入れようと
しているのか、弱々しく暗かった。
その瞬間、巧の中の何かが切れた。
細かいことなどどうでもいい。
この首謀者さえ倒してしまえば全てが終わる。
「てめえええええ!」
刹那、巧の体は霧散する。
殺されてしまったのだろうか?
ホールの空気は再び凍りついた。
※
まずは現有の所持品を確認しよう。
あきらはずっしりと重かったバッグを恐る恐る開けてみる。
開けた・・・
特に爆発はしないようだ。
手を入れてみる。
金属の感触。
だが中は空洞なのか?
取っ手がある。
引き上げて見ると、それは飯ごうだった。
「キャンプに来たわけじゃないんです・・・。」
ずっしりと重かったもののは米が2キロ。
小さなプラスチックの容器に入っていたのはアサリの佃煮と漬物。
味噌に葱。
落胆しつつさらに探っていくと、ケータイを見つける。
銀色と黒の大きくて少し時代遅れなデザインのもの。
「SB-555P」
聞いたことのないメーカーだ。
そんなことはどうでもいい。
電源を入れ、一番自分がかけている番号―イブキのケータイの番号―を押す。
「はぁ~い?只今電波の届かない状況です♪めそめそ☆後でもう一回かけてみてねぇ~?」
嫌いなタイプの甘ったるい女の声に軽く腹を立てながら、電波状況を確認する。
電波は三本・・・やはり通信は遮断されているのだろうか?
「見ぃーつけたぁぁあぁ!」
アウターの襟首を掴まれたと思った瞬間、
あきらの体は蛇柄のジャケットの細身の男の腕の中にあった。
蛇柄のジャケットの男―
浅倉威は、あきらをそのまま岩場に叩きつける。
この男に、どこにそこまでの力があるのだろう?
そう思った瞬間、左の頬に痺れるような重い痛みが走る。
あっという間に男に馬乗りになられ、
右手の張り手を食らっていたのだ。
右・・・左・・・
右・・・左・・・
どれだけ時間が経ったのだろう?
口の中は鉄の味でいっぱいになり、
鼻からは熱いものが噴出している。
血と腫れで狭くなった視界から男を見ると、
涎がゆるやかに落下してくる。額に落ちる。
チキチキチキチ・・・・・・
聞きなれた文房具の音―カッターナイフの刃が伸びる音。
「お前の心臓・・見せてくれよ・・・」
浅倉は安っぽくも危険な凶器に舌を這わせると、
一気にあきらの体の正面を切りつける。
だが、シャツを一枚切っただけだった。
「すぐ殺さない・・それにしてもアイツも面白いゲームを考えるよなぁああああ」
このまま殺されてしまうのだろうか・・・?
朦朧とする意識の中で手を伸ばすと、そこには鬼笛があった。
※
気がつくと、海の中に落下していた。
とは言え、座っている状態でも臍まで海水が届かないので、海岸は近い。
目の前にはぷかりと浮かぶディバッグ。
巧はそれを引き揚げると海岸へ向かった。
流木を集め、火をつける。
もし、あの男の言う通り、殺し合いをしているのならば、
この煙で殺戮者が集まってくるかもしれない。
構わない。
そうしたら、一人一人倒していくまで。
何よりも真理にこの場所を知らせたい。
草加は気づくだろうか・・・・?
クレバーな奴のことだ、あれくらいの煽りでは簡単に乗らないだろうが・・・
鞄を開けてみる。
1.5?のミネラルウォーターが二本。
「オリエンタルな味と香りのポレポレカレー」と書かれた缶詰が一つ。
乾パンの缶詰が一つ。
そして、白い洋風の封筒。
開いてみると「はずれ」とマジックで汚い字が書き殴られている。
狼狽した巧はそれを破ると、火にかけた。
めらめらと燃える火を見つめながら乾パンの缶詰を開け、齧る。
味気のないそれを齧っていると、なぜか真理の作った味噌汁の味が口に甦る。
「あいつの作った味噌汁・・・熱すぎるんだよ・・・。」
※
あきらが鬼笛を吹くと、小型の赤い円盤が一瞬にして姿を鷹に変え、
浅倉の顔面を切り裂いた。
夥しい量の血液があきらの顔に降りかかる。
その隙をついて押しのけると、呆気なく浅倉の体は崩れた。
声にならない声を上げると、男は逃げていく。
手負いの状況だ。
体制を立て直す必要があると思ったのだろう。
あきらも走った。
血と涙、鼻水、涎・・・ぐしゃぐしゃの顔で。
手には先ほどのケータイ、そして鬼笛。
荷物は置いてきてしまった。
決意を持って猛士に入ったはずだった。
泣かないと心に決めていたはずだった。
それなのに、涙が次から次と溢れてきた。
忘れていたはずの女としての自分を踏みにじられた。
「イブキさん・・・もう一度イブキさんに会いたいです・・・。」
あきらは何をしても生き延びる決心を固めた。
そして、その目に映ったのはゆらゆらと流れる焚き火の煙だった。
【乾巧@仮面ライダー555】
【1日目 現時刻:深夜】
【現在地:海岸J-6】
【時間軸】中盤くらい
【状態】健康 服が濡れて気持ち悪い
【装備】ファイズドライバー
【道具】ミネラルウォーター×2 カレーの缶詰 食べかけの乾パンの缶詰
【思考・状況】1.あのバカを守る。このまま死なれちゃ夢見が悪い。
2.神崎・・・気に食わない。
3.草加・・・?あいつなら自分で何とかするだろ?
【
天美あきら@仮面ライダー響鬼】
【現在地:海岸J-6】
【時間軸】中盤くらい
【状態】錯乱 顔面ボコボコ
【装備】インナーは浅倉に破られてしまいました。
【装備】鬼笛 ディスクアニマルアカネタカ
【道具】ディバッグは海岸J-7に破棄 ファイズフォン
【思考・状況】1.何としても生き残る。もう一度イブキさんに会いたい。
【
浅倉威@仮面ライダー龍騎】
【現在地 海岸I-7】
【状態】顔にアカネタカに傷を負わされた状態(程度、箇所は以降にお任せ)
最終更新:2018年03月22日 17:10