二人の騎士のEGO
「恵理……」
秋山蓮は恋人の名を呟く。
ここに連れて来られる以前、彼は神崎士郎からナイトのカードデッキを受け取り、ゲームに乗った。
最後の一人になり、死を待つ恋人を救うという願いを叶える為である。
ならばここでもすることは変わらない。ゲームに乗る、ただそれだけだった。
覚悟が鈍らぬよう、恵理の象徴であるペンダントを強く握り締める。
「たかが13人が52人に増えただけだ。神崎、俺は戦う!」
この場にいない男へ決意の言葉を告げ、歩みを進める。彼の決意にペンダントは涙のように鈍く光っていた。
映画館、ブティック、スーパーなど、目に映る建物が次々と変わっていく。しかし人の気配は無い。
まるで日常に、突如人だけを消したような不気味な状況だった。
だが蓮に動揺は無く、黙々と進む。なぜなら彼は、ミラーワールドという似た空間を知っているからだ。
やがて蓮は一人の男を発見する。こちらに気づいた様子は無い。
男を標的と定め、カーブミラーへとカードデッキを掲げる。
(一つでも命を奪ったら、お前はもう、後戻りできなくなる!)
自分を止めようとした男の言葉を思い出す。
「城戸、俺はそれを望んでいる!」
医者に告げられた恋人の残りの時間、それは彼に殺人を決意させるには充分だった。
――もう一秒でも無駄にしない。
「変身!」
黒い騎士の残像が蓮を中心に幾重も重なり、仮面ライダーナイトとしての姿を現す。
剣を構え、雄たけびを上げながら、生身の男へと向かう。
「真理……」
草加雅人は愛しい女性の名を呟く。
このゲームに不満があるとすれば、彼女が参加させられていることだ。
別に殺し合いをすることには問題ない。生き残る自信はあるし、むしろ殺したい奴もいる。
だが真理は違う。何の力も無い彼女だけはどうしても救わねばならない。
母親に振り払われた自分の手を握ってくれたのは、彼女だけだ。
草加雅人にとって真理は自分のもので、自分は真理のものである。
だから真理を脅かすものは何であれ、殺すのが当たり前だ。
「オルフェノクも化け物も人間も、俺が殺す!」
草加雅人は迷わずゲームに乗った。
早速行動を起こす。水、食料、コンパス、地図といった基本的なものを確認したあと、支給品の説明書に目を通した。
読み終えると草加は深く、黒い微笑みを浮かべる。自分の支給品は当たりだと確信したからだ。
草加以外なら―――たとえ本来の持ち主でさえ―――違う感想を抱いただろう。だが殺し合いとは直接手をかけるだけではない。
彼は充分それを理解していた。上機嫌でウェットティッシュを取り出し、掌を拭く。彼の癖だ。
満足した後、名簿をチェックする。しかし利用できそうな三原はいない。舌打ちをし、どうにか乾を利用できないか考える。
(無理だな、奴はオルフェノクだ。信用できるはずが無い。そして……)
北崎の名を目にし、名簿を握り潰す。
(殺してやるっ! 俺の手で)
自分を殺した相手に対する激しい憎悪を辛うじて飲み込み、その場を後にしようとしたときだった。
「うおおおおおおおおおおっ!」
雄たけびと共に振り下ろされた剣を横に転がり、避ける。だが草加は避けれたことに疑問を持つ。
敵の奇襲のタイミングは完璧だった。避けるために行動はしたものの、腕一本は覚悟していた。
さらに転がる途中、剣の速度が鈍る様子を目撃している。
「どういうつもりだ?」
怪訝に思い、ゲームに乗った理由ではなく、わざと剣を外した事を尋ねた。
「―――ライダーなら俺と戦え!!」
僅かな間のあと、答えが返る。剣を構えるナイトには迷いが見え、納得する。
草加は嘲るような笑みを浮かべ、カイザドライバーを腰に巻き、ポケットの中からカイザフォンを取り出す。
―――Standing By―――
人の気配が無い市街地に、カイザフォンの待機音が鳴り響く。
「変身!」
―――Complete―――
腰のベルトより黄色いラインが走り、草加の全身を包む。
ラインから強化服が精製され、黒衣の戦士カイザが闇の中に輝いていた。
襟元を確かめるようなしぐさをするカイザに、ナイトが迫り剣を横に振るう。
難なくナイトの剣をカイザブレイガンの刃で受け止め、腹を蹴り飛ばし逆に剣を振り下ろした。
剣を受け止められ、そのまま数合切り結ぶ。五合を数えるころ、ナイトが防戦一方になり始めた。
カイザは思う。ナイトの速さは見るべき所があるが、技量は自分が上であると。
フェンシングで鍛えた腕前は伊達ではない。
加えて迷いが見える蓮に、草加は負ける気がしなかった。
「ディヤァッ!」
渾身の一撃をかわされ、ナイトが間合いを取る。ベルトからカードを取り出したようだ。
――――カイザは知らなかったが、それはトリックベントというナイトの切り札の一つだった。
ナイトがカードをバイザーに収める瞬間―――手を爆ぜさせる。
カイザはカイザブレイガンとフォンブラスターを横に構え、ナイトを撃つ。
(敵に休みを与えるわけにはいかないな)
ナイトの体に次々と着弾させ、建物の陰へと追い詰める。
「もう終わりか?」
つまらなさそうに呟き、壁を光弾で削りながら、カイザは己の勝利を確信する。数秒もすれば壁は崩れるだろう。
無防備になったところを切り刻めば良い、そう思考していたところに電子音が響いた。
―――ADVENT―――
その瞬間、自分の体が宙に浮くのを感じた。何が起きたのか疑問を持ち、周囲を確認すると、蝙蝠の化け物を目撃する。
―――NASTY VENT―――
再びナイトがカードをバイザーに納めたと思った瞬間、怪物から超音波が発生し、体が切り刻まれる。
その様子を見て、カイザは自分の迂闊さを呪った。
(あのカードが何らかの能力を使う鍵と言うことか。俺の知らない能力だと? くそ!
この島にはそんな奴が他にもいるというのか? 対策を練らないといけないな)
ふらつきながらも立ち上がり、自らに迫るナイトと自分のデイバックを確認する。
(その前にこの場を切り抜ける。俺は死ぬわけにはいかない!)
ナイトに吹き飛ばされながら、カイザはひたすら逆転の糸口を探った。
「ダークウイングッ!」
カイザを吹き飛ばした、己の相棒である蝙蝠の
モンスターを呼び、飛翔する。
ダークウイングを取り付けると、マントへ変形させ、カイザへと滑空する。
そのまま吹き飛ばし、剣での反撃がくる前にその場を離れた。
銃弾を錐揉みしながらよけ、真上より落下し、カイザを地面に叩きつける。
(まだだ! こいつを倒すにはまだ足りない!)
――――SWORD VENT――――
天より黒の装飾が施された巨大剣が降り、つかむ。両手に剣を構え、捨て身の攻撃をカイザへ仕掛けた。
カイザより放たれる光弾が、身体に鋭い痛みを生むが無視をし、そのまま二つの剣でえぐりながら突撃の勢いでビルに叩きつける。
反動で舞い上がり、上空で待機しながら、瓦礫に埋もれるカイザの様子を伺う。瞬時に、瓦礫より光弾が迫る。
何とかかわすが、ボロボロでありながら立ち上がり、反撃をするカイザに戦慄を抱いた。
戦況が有利なうちに畳みかけようとする。
突如、ダークウイングの悲鳴が聞こえた。
(ダークウイングがもう消えかけているだと? それに高度が下がってきている)
通常、ミラーモンスターは現実世界でもある程度は実現していられる。
だが、今回は30秒もたたないうちに、粒子化が始まり消えかけている。
――――ナイトは知らなかったが、神崎の手によりミラーモンスターの活動時間が短くなり、空での行動が制限されていたのだ。
「くっ」
やむを得ず、最後の切り札を取り出す。
(恵理、必ずお前を救う。そのためなら俺は死んでも構わない!)
―――FINAL VENT―――
マントが身体を包む。そのとき、カイザがデイバックに手を入れるのを目撃する。
警戒心が沸き起こるが、カイザは何もせずデイバックを投げ捨て、カイザブレイガンを向けた。
(ハッタリか? いや、関係ない。何がこようと吹き飛ばす!)
ここまできて、彼にはもう迷いなどない。死をもたらす暴力をカイザへと発動させる。
風が唸り、死がカイザへと迫った。
時をカイザが瓦礫を跳ね除け、立ち上がるところまで遡る。
フォンブラスターからの光弾をよけられ、舌打ちをする。
2、3度捨て身の攻撃をされては、カイザといえど耐え切れない。
(くそっ! 俺は死ぬわけにはいかない! まだ俺は何もつかんじゃいないんだ! 復讐も、人生も、真理も!)
ひたすら執念のこもった視線を、空のナイトへ向ける。
生への執着が実を結んだのか、カイザはついに反撃の糸口をつかむ。ナイトの背中で、異変が起き始めたのだ。
(背中の化け物から粒子がでている。あの焦りようだと想定外のようだな。なら次に起こす行動は……)
吹き飛ばされながらも、手放さなかったデイバックを取り、支給品を発動させる。
カイザが想定していた使い方とは違うが、今の場面でも有効だと判断し、中身を見せないようデイバックと共に投げ捨てる。
同時に敵の電子音が聞こえた。
(FINAL、つまりは切り札か。やはり決着を急いたようだな!)
仮面の下に笑みを浮かべ、カイザブレイガンを向け最大の技を発動させる。
―――EXCEED CHARGE―――
今までと違う大型の光弾を発射する。しかし黒い円錐は数瞬止まったのみで光の拘束具を粉砕し、構えをとる自分へと迫る。
「まずは一人!」
確信に満ちた声が聞こえる。カイザ、いや、草加雅人は自信に満ちた相手を突き落とすこの瞬間がたまらなく好きだった。
次の瞬間、ナイトの勢いが大きく削がれていった。
「どこからだ!」
狼狽の声が聞こえる。デイバックより小型の虫メカが群れを作り、ナイトを襲う。自分の予想よりも効果的に動き、満足する。
そのまま勢いに乗り、カイザは己を光の矢に変え、迎えうつ。光速の技が、死を奪われた暴力へと迫る。
「「うおおおおおおおおおおお!!」」
雄たけびが重なり、視界が光で包まれる。輝きが味方をしているのを、カイザは確信していた。
「ぐっ」
ナイトは瓦礫の中を這って進んでいた。変身が解けてないのは最後の意地だ。
(決着を急ぎすぎたか)
いつもの自分ならそんなことはしないと思った。
デイバックをつかむ余裕がなくなるまでダメージを与えるか、それが無理なら撤退をしていただろう。
恵理のタイムリミットが、自分の判断を誤らせた事を自覚する。
首を横に向けると、カイザが静かに近づいてくる。そのままナイトの首筋に刃が当てられた。
「恵理……」
最後に顔が浮かぶのは恋人と、自分に借金のある馬鹿の顔だった。
「ふんっ」
カイザは瓦礫の中を悠然と進んでいた。変身を解かないのは、相手へ威圧感を与えるためだ。
(怪我を負いすぎたか。やはり一人では限界がある。こいつを殺して誰か利用しないとな)
計算をしながらナイトへと向かう。情報は欲しいが、生かしておいては自分や真理を襲いかねない。
首筋に刃を当て、そのまま刎ねようとする。ナイトの呟きが聞こえたのはそのときだった。
「恵理……」
思わず手が止まる。なぜならカイザの中で、ナイトを利用できる可能性が浮上してきたからだ。
(ほう、こいつは女の為に戦っているのか。名簿にはない名前だな。あの神崎とかいう不気味な男にでも人質にされたか?
まあ、どんな理由にしろ好都合だ。人を殺さないとならない理由があるならな)
交渉材料を整理する。今見せた自分の力、多すぎる参加者、今負った傷、救わねばならない女。
相手が確実に乗るだろうと判断し、カイザは交渉を開始した。
「俺と組まないか?」
ナイトが言葉を失う様子を見せた。仮面の下でまぬけな表情をしているのを想像し、嘲笑する。
「馬鹿か、お前は? この戦いは最後の一人になるまで、終わりはしない」
これは「信用できるか!」と言いたいのだろう。それはカイザも同じだ。
だがそれ以上にナイトの力と情報は魅力的だった。
「なにも最後まで組もうと言っているわけじゃない。最後の一人になる前に別れればいいだけだ。
50人もいるのに、こんなことを続けては体が持たない。しかもお互い負傷をし、未知の敵がうようよしている。
そうだな、残り5人になるまでは共闘でどうかな?」
カイザはナイトの返事を待った。迷っているのが見て分かる。手ごたえを感じ、満足する。
(お前も欲しいんだろ? 俺の力が、情報が。なら俺のために駒になれ)
どうせ選択肢は一つしかないが、返事を待つ。
「―――お前はこの戦いに何を背負っている?」
しかし、返ってきたのは予想外の言葉だった。カイザにとっては聞きたくない類のものである。
仮面の下からの探るような視線に、カイザはつい手に力が入る。
「お前が知る必要はない。お前だって語る気はないんだろ?」
「……確かにな」
そのままナイトは蓮へと戻る。その様子を見て、カイザも変身を解除した。
「それは交渉成立という解釈で、いいのかな?」
邪悪な笑みを浮かべる草加に、蓮は頷き返す。
「だが妙なまねをした時には命がないと思え」
「俺もそうさせてもらう。とりあえず君の支給品を確認させてくれないか?」
立場をわきまえない奴に、誰が勝者かを示す。
蓮は憮然としながら、無雑作にデイバックを投げた。武器ではないのだろうと判断しながらも、確認をする。
支給品を見つけ、驚愕の表情を浮かべた。
「どうした? 妙なデザインの時計がそんなに珍しいか?」
「いや、つくづくこいつの持ち主と因縁があるもんだと、思っただけさ」
草加はその手にあるファイズアクセルを見て、苦笑をした。
自分が持っていてもしょうがないので、支給品は草加に譲った。
蓮の胸中にあるのはただ一つ、最後の一人になること。
そのためなら、目の前を行く悪魔に魂を譲っても、構わない。
(恵理、お前は俺が……)
さすがに今回負った傷が響くため、休める場所を目指して前を行く。
真理を探し出すのが遅れてしまう、それは懸念すべき問題だったが、自分が死んでは元も子もない。
(真理、俺が行くまで無事でいてくれ。君は俺が……)
【秋山蓮@仮面ライダー龍騎】
【1日目 現時刻:深夜】
【現在地:市街地E-5】
[時間軸]:34話龍騎サバイブ戦闘前後
[状態]:疲労大、全身に中程度の負傷
[装備]:カードデッキ(ナイト)
[道具]:配給品一式
[思考・状況]
1:休めるところを探す
2:ゲームに乗り、最後の一人になる
3:残り5人になるまで草加雅人と組む
4:隙あれば草加雅人を殺す
5:なるべく城戸には会いたくない
【草加雅人@仮面ライダー555】
【1日目 現時刻:深夜】
【現在地:市街地E-5】
[時間軸]:ファイズ終盤
[状態]:疲労大、全身に中程度の負傷
[装備]:カイザドライバー(カイザブレイガンのみ付属) ゼクトマイザー
[道具]:配給品一式 ファイズアクセル
[思考・状況]
1:休めるところを探す
2:ゲームに乗り人数を減らす
3:真理の安全の確保
4:北崎を殺す
5:オルフェノクの皆殺し
6:秋山蓮を利用する
最終更新:2018年03月22日 23:19