「申し訳ないが、俺にはどうしようもありません」
久賀は先程と同じ言葉を繰り返す。この仕事をやるようになってから何度この言葉を口にしただろうか。考える気すら起こらない。少なくとも依頼された仕事の数よりは多いはずだ。
それなりに丁寧にしつらわれたように見えるが、どことなく陰鬱な空気の部屋の座り心地の悪いソファーに腰掛けて二十分少々は経つ。腕時計を気にしながら極力無駄を省いた言葉を送り出す。余計な言葉に反応されて、不毛な会話を続行させられるのは正直不快だ。
「こちらの会社との契約は今月末をもって終了する。これは決定事項です」
「待ってくれっ! わ、わかった、前回の条件を呑もう。全面的にそちらの要求を呑む。だから契約だけはっ」
久賀はひっそりと息を吐いた。
どうしてこうも一様に同じことばかり言うのか。まったく関係のない人間たちだというのに、未練がましく、あるいは非難がましく叫ぶ言葉は同じ。型にはめたような言葉ばかりの会話は久賀の好みではない。
とはいえ仕事中。あからさまな溜め息も依頼主に言いつけられた敬語を払った素の話し方も控えるくらいの分別は久賀にもある。だから、ただただいつもと同じ言葉を吐き出した。
「ですから、俺に言われても困ります。俺の仕事はこちらの会社との契約を終了するということを伝える、それだけです。この件に関する一切の交渉を俺は許可されていません」
一瞬目を落とした腕時計の文字盤を確認して、ソファーから立ち上がった。もう時間だ。青ざめた悲壮極まりない顔で縋ってこようとする相手を見下ろして、終わりを告げる。
「それでは、失礼します」
浅く礼をして顔を上げてから、久賀はかすかに眉をしかめた。
久賀は先程と同じ言葉を繰り返す。この仕事をやるようになってから何度この言葉を口にしただろうか。考える気すら起こらない。少なくとも依頼された仕事の数よりは多いはずだ。
それなりに丁寧にしつらわれたように見えるが、どことなく陰鬱な空気の部屋の座り心地の悪いソファーに腰掛けて二十分少々は経つ。腕時計を気にしながら極力無駄を省いた言葉を送り出す。余計な言葉に反応されて、不毛な会話を続行させられるのは正直不快だ。
「こちらの会社との契約は今月末をもって終了する。これは決定事項です」
「待ってくれっ! わ、わかった、前回の条件を呑もう。全面的にそちらの要求を呑む。だから契約だけはっ」
久賀はひっそりと息を吐いた。
どうしてこうも一様に同じことばかり言うのか。まったく関係のない人間たちだというのに、未練がましく、あるいは非難がましく叫ぶ言葉は同じ。型にはめたような言葉ばかりの会話は久賀の好みではない。
とはいえ仕事中。あからさまな溜め息も依頼主に言いつけられた敬語を払った素の話し方も控えるくらいの分別は久賀にもある。だから、ただただいつもと同じ言葉を吐き出した。
「ですから、俺に言われても困ります。俺の仕事はこちらの会社との契約を終了するということを伝える、それだけです。この件に関する一切の交渉を俺は許可されていません」
一瞬目を落とした腕時計の文字盤を確認して、ソファーから立ち上がった。もう時間だ。青ざめた悲壮極まりない顔で縋ってこようとする相手を見下ろして、終わりを告げる。
「それでは、失礼します」
浅く礼をして顔を上げてから、久賀はかすかに眉をしかめた。
豪華、という表現にはプラスマイナス両方のニュアンスがあると久賀は思っているが、この部屋はプラスな方向の豪華さが感じられる。価値を主張するような威圧感のある装飾ではなく、素材や作り上げるまでの技術をさり気なく悟らせるように振舞う美しさが悪くない。
腰掛けている黒張りのソファーも適度に体が沈む柔らかさが上品だ。艶やかな黒に彼女を思い出す。今日は気温も低い。一刻も早く彼女の元に向かいたいと思いつつ、無意識に久賀は襟元へと手を伸ばした。ネクタイは締めていない。
この仕事を続ける中でいくつか久賀の中でだけのきまりができた。
例えば、仕事中、しかも依頼を受けて向かう先の会社の中にいる間だけネクタイをすること。
中に入っている人間たちのことなど気にもせず無機質でそつのない顔をして建つビルの中に入る寸前に、ネクタイを締める。そして仕事を終えて外気に触れた瞬間には意識しないまま襟元へと手をかけてしまう。
元々ネクタイというものに好悪感情は抱いていなかったのだが、最近ではもう仕事以外では締める気になれない。あるいは仕事中だけ締めたくなるのか。あの場の空気を吸わないように。
「ご苦労様。相変わらずお前は仕事が早い」
柄にもなく感傷的なことを思ってみた久賀に笑みを含んだ声がかかる。一応の義理で久賀はそちらの方に意識を向けた。依頼主に対する義理として。
ただしネクタイは締めていない。
これは久賀がここでの会話を仕事として認めていないと言う意味ではなく、ただ単にこの男相手にはネクタイを結ぶという行為で誠意を示す必要がないからだ。そもそも仕事中にネクタイをしろと久賀に言ったのはこの男なのだが、本人に対しては別に構わないらしい。
確かに今更形ばかりの誠意など必要のない関係ではあるが、
「さすが僕が見込んだだけのことはある、と言って労ってやりたいところだが、今更だな」
誠意を示す気になれないのはこの男の人間性も大いに関係あると久賀は思っている。
深い飴色のデスクの向こうでソファーとデザインの似通ったアームチェアに腰掛けたこの男が今回の仕事の依頼人。今回の、と言っても久賀の仕事の八割近くがこの男からの依頼だ。
そしてこの男は、大学時代からの友人でもある。
「お前の仕事を受け始めてから六年近く経っているから今更という言葉には同意してやるが、それは労いの言葉なのか?」
「僕なりの賛辞だぞ?」
「もっとまともな賛辞があるだろう」別に久賀自身が気の利いた誉め言葉を求めているわけではないが、「お前の部下たちが不憫でならないな」
少なくともこの男の下には百を越える人間が働いている。久賀と同じ二十八という年を考えれば、成功していると言っていいレベルだろう。さまざまな方向に手を伸ばしているらしいし(らしいと言うもの、久賀は自分に依頼された仕事に関連する部門以外、この男の会社が何をしているのか全く知らない。特に興味がない)、この先もこの男の好きなように進んでいくのだろう。
『成功しようが失敗しようが、結果はどうであれ、自分の好きなようにできないなんて屈辱的だろう?』
そう言って、言葉とは裏腹に自分が失敗することなどあり得ないと確信している相当な自信家は、
『それに、どれほど小さい集合内であろうとも、一番上に立っていないと精神衛生的に耐えきれない。吐きそうだ。下手をすれば発狂する』
と、起業を志す青年としては大いに間違ったことをのたまいながら笑った。
それから六年、方向性の誤った目的を掲げる自信家は着実に自らが頂点に立つ集合体を拡大させている。
さすが、と言うべきか。
動機はなんにせよ、掲げた目的を達成し、更に上を目指そうとするその意欲に対してはそれなりに敬意を払っている。その熱意をいうものも、情熱というものも、久賀とは無縁のものだからだ。
この男と友人のようなものを続けているのはそのせいかもしれない。自分が持たない、持ち得ないものを持つ相手に対する羨望というやつだろうか。
何故だろう、今日は随分と感傷的なことばかり考えているような気がする。かすかに口元を動かした。
「そういえば、久賀」
ふと、男が眺めていた書類から顔を上げて(つまり、今までこの男は書類から顔も上げず久賀と会話としていたわけである)、世間的に整っていると評価される顔に朗らかな笑みを浮かべて尋ねた。
「八千代嬢はお元気か?」
「ああ」
そうでなければ久賀はここにいない。もしも彼女に万が一のことがあれば、仕事など、ましてネクタイを結ぶ必要もないこの男の元に来るはずがない。
「また会社の前に残しているのか? お会いしたかったのに」
「そうか、悪かったな」
悪いとはまったく思っていない。確かに彼女を外で待たせているのは心苦しいことこの上ないが、彼女を仕事と関わる場所には連れていったとしても立ち入らせはしないと決めている。
「・・・・・・お前のその言葉のみで一切の罪悪感も謝罪も含まれていない台詞を僕は何度聞かされただろうな」
「さぁ」
数える気も失せるほど言った。ここに来るたび、この男が同じことを言うから久賀も同じ言葉を返しているだけだ。
「久賀、そんなに八千代嬢と僕を会わせたくないのかっ!」
「あぁ」
即答した。
無論、会わせたいわけがない。
「久賀っ!」
今にも立ち上がりそうな勢いの男を横目で睨む。久賀もそれに応戦するように鋭い視線を返し、はっきりと言い放つ。
「初対面の女性に挨拶もなく抱きつくなど恥を知れ」
「まだ根に持っているのかっ。了見の狭い男だなお前も。八千代嬢は快く許してくれたというのに」
「帰宅してから八千代さんはすぐにシャンプーを希望した」
「なっ!」
絶句するその顔を横目にしつつ、テーブルに出されていた珈琲を手に取る。少しばかり冷めてしまっていたが、その香りはいまだ十分に黒の波面から漂っている。この会社、珈琲だけはやたらとうまい。いつもこの社長室に珈琲を届けてくれる女性に淹れ方を訊いてみようか。
ひとしきり香りを楽しみつつカップを空にした頃、ようやく男が何やらぶつぶつと呟きながらデスクを指先で叩くという行儀の悪い現実逃避から返ってきた。
「さて、仕事の話をするぞ」
これまでの会話はなかったことになったらしい。まぁ、いつものことだ。
数センチは厚さのある黒のファイルがデスクの上に置かれた。ソファーから立ち上がり、手に取ったファイルを流し見る久賀に男は話し出した。
腰掛けている黒張りのソファーも適度に体が沈む柔らかさが上品だ。艶やかな黒に彼女を思い出す。今日は気温も低い。一刻も早く彼女の元に向かいたいと思いつつ、無意識に久賀は襟元へと手を伸ばした。ネクタイは締めていない。
この仕事を続ける中でいくつか久賀の中でだけのきまりができた。
例えば、仕事中、しかも依頼を受けて向かう先の会社の中にいる間だけネクタイをすること。
中に入っている人間たちのことなど気にもせず無機質でそつのない顔をして建つビルの中に入る寸前に、ネクタイを締める。そして仕事を終えて外気に触れた瞬間には意識しないまま襟元へと手をかけてしまう。
元々ネクタイというものに好悪感情は抱いていなかったのだが、最近ではもう仕事以外では締める気になれない。あるいは仕事中だけ締めたくなるのか。あの場の空気を吸わないように。
「ご苦労様。相変わらずお前は仕事が早い」
柄にもなく感傷的なことを思ってみた久賀に笑みを含んだ声がかかる。一応の義理で久賀はそちらの方に意識を向けた。依頼主に対する義理として。
ただしネクタイは締めていない。
これは久賀がここでの会話を仕事として認めていないと言う意味ではなく、ただ単にこの男相手にはネクタイを結ぶという行為で誠意を示す必要がないからだ。そもそも仕事中にネクタイをしろと久賀に言ったのはこの男なのだが、本人に対しては別に構わないらしい。
確かに今更形ばかりの誠意など必要のない関係ではあるが、
「さすが僕が見込んだだけのことはある、と言って労ってやりたいところだが、今更だな」
誠意を示す気になれないのはこの男の人間性も大いに関係あると久賀は思っている。
深い飴色のデスクの向こうでソファーとデザインの似通ったアームチェアに腰掛けたこの男が今回の仕事の依頼人。今回の、と言っても久賀の仕事の八割近くがこの男からの依頼だ。
そしてこの男は、大学時代からの友人でもある。
「お前の仕事を受け始めてから六年近く経っているから今更という言葉には同意してやるが、それは労いの言葉なのか?」
「僕なりの賛辞だぞ?」
「もっとまともな賛辞があるだろう」別に久賀自身が気の利いた誉め言葉を求めているわけではないが、「お前の部下たちが不憫でならないな」
少なくともこの男の下には百を越える人間が働いている。久賀と同じ二十八という年を考えれば、成功していると言っていいレベルだろう。さまざまな方向に手を伸ばしているらしいし(らしいと言うもの、久賀は自分に依頼された仕事に関連する部門以外、この男の会社が何をしているのか全く知らない。特に興味がない)、この先もこの男の好きなように進んでいくのだろう。
『成功しようが失敗しようが、結果はどうであれ、自分の好きなようにできないなんて屈辱的だろう?』
そう言って、言葉とは裏腹に自分が失敗することなどあり得ないと確信している相当な自信家は、
『それに、どれほど小さい集合内であろうとも、一番上に立っていないと精神衛生的に耐えきれない。吐きそうだ。下手をすれば発狂する』
と、起業を志す青年としては大いに間違ったことをのたまいながら笑った。
それから六年、方向性の誤った目的を掲げる自信家は着実に自らが頂点に立つ集合体を拡大させている。
さすが、と言うべきか。
動機はなんにせよ、掲げた目的を達成し、更に上を目指そうとするその意欲に対してはそれなりに敬意を払っている。その熱意をいうものも、情熱というものも、久賀とは無縁のものだからだ。
この男と友人のようなものを続けているのはそのせいかもしれない。自分が持たない、持ち得ないものを持つ相手に対する羨望というやつだろうか。
何故だろう、今日は随分と感傷的なことばかり考えているような気がする。かすかに口元を動かした。
「そういえば、久賀」
ふと、男が眺めていた書類から顔を上げて(つまり、今までこの男は書類から顔も上げず久賀と会話としていたわけである)、世間的に整っていると評価される顔に朗らかな笑みを浮かべて尋ねた。
「八千代嬢はお元気か?」
「ああ」
そうでなければ久賀はここにいない。もしも彼女に万が一のことがあれば、仕事など、ましてネクタイを結ぶ必要もないこの男の元に来るはずがない。
「また会社の前に残しているのか? お会いしたかったのに」
「そうか、悪かったな」
悪いとはまったく思っていない。確かに彼女を外で待たせているのは心苦しいことこの上ないが、彼女を仕事と関わる場所には連れていったとしても立ち入らせはしないと決めている。
「・・・・・・お前のその言葉のみで一切の罪悪感も謝罪も含まれていない台詞を僕は何度聞かされただろうな」
「さぁ」
数える気も失せるほど言った。ここに来るたび、この男が同じことを言うから久賀も同じ言葉を返しているだけだ。
「久賀、そんなに八千代嬢と僕を会わせたくないのかっ!」
「あぁ」
即答した。
無論、会わせたいわけがない。
「久賀っ!」
今にも立ち上がりそうな勢いの男を横目で睨む。久賀もそれに応戦するように鋭い視線を返し、はっきりと言い放つ。
「初対面の女性に挨拶もなく抱きつくなど恥を知れ」
「まだ根に持っているのかっ。了見の狭い男だなお前も。八千代嬢は快く許してくれたというのに」
「帰宅してから八千代さんはすぐにシャンプーを希望した」
「なっ!」
絶句するその顔を横目にしつつ、テーブルに出されていた珈琲を手に取る。少しばかり冷めてしまっていたが、その香りはいまだ十分に黒の波面から漂っている。この会社、珈琲だけはやたらとうまい。いつもこの社長室に珈琲を届けてくれる女性に淹れ方を訊いてみようか。
ひとしきり香りを楽しみつつカップを空にした頃、ようやく男が何やらぶつぶつと呟きながらデスクを指先で叩くという行儀の悪い現実逃避から返ってきた。
「さて、仕事の話をするぞ」
これまでの会話はなかったことになったらしい。まぁ、いつものことだ。
数センチは厚さのある黒のファイルがデスクの上に置かれた。ソファーから立ち上がり、手に取ったファイルを流し見る久賀に男は話し出した。
「それじゃあ八千代さん、俺はしばらく部屋にいるから。夕飯までには片づけるよ」
家へと戻ってから軽く食事をとり、ゆっくりとブラッシングを終えた頃には長い間一人で待ちぼうけを食らわせてしまった八千代さんの機嫌もだいぶよくなっていた。ソファーの上で心地よさそうに微睡む八千代さんの頭を撫でながら声をかけると、彼女の尻尾がぱたりと一回ソファーを打った。どうやら了承してもらえたらしい。
もう一度八千代さんの頭を撫でて、久賀はリビングを出た。
階段を上がり二階の自室へ。この二階立ての一軒家で実質久賀が使っている部屋は一階のリビングと二階のこの一部屋のみ。一度八千代さんに一部屋使ってもらおうかとも思ったが、お気に召さなかったらしい。女性の心理は複雑だ。
デスクについて鞄の中から先程渡されたファイルを取り出す。開いたファイルの中には十人弱の人間に関する情報が羅列されていた。
家へと戻ってから軽く食事をとり、ゆっくりとブラッシングを終えた頃には長い間一人で待ちぼうけを食らわせてしまった八千代さんの機嫌もだいぶよくなっていた。ソファーの上で心地よさそうに微睡む八千代さんの頭を撫でながら声をかけると、彼女の尻尾がぱたりと一回ソファーを打った。どうやら了承してもらえたらしい。
もう一度八千代さんの頭を撫でて、久賀はリビングを出た。
階段を上がり二階の自室へ。この二階立ての一軒家で実質久賀が使っている部屋は一階のリビングと二階のこの一部屋のみ。一度八千代さんに一部屋使ってもらおうかとも思ったが、お気に召さなかったらしい。女性の心理は複雑だ。
デスクについて鞄の中から先程渡されたファイルを取り出す。開いたファイルの中には十人弱の人間に関する情報が羅列されていた。
久賀は自分の仕事を端的かつ正確に他人に表現できる言葉がわからない。単純化しすぎるとあまりに抽象的で意味をなさないし、わざわざ具体的に述べるほどの仕事だとも思っていない。
それでも述べなければならないとしたら、久賀の仕事を恐ろしく単純化して表現すると、『伝える』ただそれだけである。伝えるという表現が甘ければ、『宣告する』でも構わない。
何を?
今日の仕事で言うならばとある会社と会社の契約の終了を、渡されたファイルの仕事で言うならば資料に並ぶ人間たちの解雇を。
伝える。宣告する。
それが仕事だ。
仕事と称するにはあまりに世間の会社員に失礼なものかもしれないが、事実なのだから仕方がない。文句ならあの男に言ってもらいたい。現在久賀の仕事のほぼ全てがあの男からの依頼、あるいは斡旋、仲介によるものだ。
次の仕事はあの男の会社の整理解雇代行を行う部署の手伝いといったところだ。会社の業績不振、不況、内部の不祥事、理由はさまざまだが会社の人員整理を必要とする会社が、それらを委託する部署。
会社側からの指示、資料を元に解雇が決定した人間の面接を行う。この時点で彼らが会社から不必要とされたとこを通達する。そして、会社からの措置を提示し、希望退職を選択させる、そういう仕事だ。
ただ、久賀が担当する人間たちは単に解雇を決定された者ではないことが多い。
それは、社内の要職に就く重役であったり、会社経営者の親族や深い関係性のある人間であったり、その時点ではまだ秘匿されている不祥事の当事者であったり、一つに括るなら面倒な立場、経歴の人間たちである。
そんな面倒な割り振りが行われているかといえば、それもあの男の指示によるものだ。まぁ、実質的な仕事量に対して不釣り合いな久賀への報酬はそういった裏に関連しているのだろう。
この他にもあの男が久賀に依頼する仕事はどことなく後ろ暗い気配の漂う仕事が多い。あからさまに柄の悪い人間が居並ぶ事務所に行かされたこともあるし、話をしに行っただけなのに初対面のはずの相手に言葉にするものはばかられる暴言を吐かれたこともある。久賀の知らないところであの男が何をしているのかは別に知りたくもないが、身の危険を感じる時はさすがに一体何をしているのかと問いただしたくなる。
自身の身内である会社の人間には任せられないというより任せたくないのか、いざとなれば久賀一人を切り捨てれば自分には一切火の粉が降りかからないという思惑があるからか、あの男からの依頼が途切れることはない。
そして、その依頼を久賀が断ることもない。
それでも述べなければならないとしたら、久賀の仕事を恐ろしく単純化して表現すると、『伝える』ただそれだけである。伝えるという表現が甘ければ、『宣告する』でも構わない。
何を?
今日の仕事で言うならばとある会社と会社の契約の終了を、渡されたファイルの仕事で言うならば資料に並ぶ人間たちの解雇を。
伝える。宣告する。
それが仕事だ。
仕事と称するにはあまりに世間の会社員に失礼なものかもしれないが、事実なのだから仕方がない。文句ならあの男に言ってもらいたい。現在久賀の仕事のほぼ全てがあの男からの依頼、あるいは斡旋、仲介によるものだ。
次の仕事はあの男の会社の整理解雇代行を行う部署の手伝いといったところだ。会社の業績不振、不況、内部の不祥事、理由はさまざまだが会社の人員整理を必要とする会社が、それらを委託する部署。
会社側からの指示、資料を元に解雇が決定した人間の面接を行う。この時点で彼らが会社から不必要とされたとこを通達する。そして、会社からの措置を提示し、希望退職を選択させる、そういう仕事だ。
ただ、久賀が担当する人間たちは単に解雇を決定された者ではないことが多い。
それは、社内の要職に就く重役であったり、会社経営者の親族や深い関係性のある人間であったり、その時点ではまだ秘匿されている不祥事の当事者であったり、一つに括るなら面倒な立場、経歴の人間たちである。
そんな面倒な割り振りが行われているかといえば、それもあの男の指示によるものだ。まぁ、実質的な仕事量に対して不釣り合いな久賀への報酬はそういった裏に関連しているのだろう。
この他にもあの男が久賀に依頼する仕事はどことなく後ろ暗い気配の漂う仕事が多い。あからさまに柄の悪い人間が居並ぶ事務所に行かされたこともあるし、話をしに行っただけなのに初対面のはずの相手に言葉にするものはばかられる暴言を吐かれたこともある。久賀の知らないところであの男が何をしているのかは別に知りたくもないが、身の危険を感じる時はさすがに一体何をしているのかと問いただしたくなる。
自身の身内である会社の人間には任せられないというより任せたくないのか、いざとなれば久賀一人を切り捨てれば自分には一切火の粉が降りかからないという思惑があるからか、あの男からの依頼が途切れることはない。
そして、その依頼を久賀が断ることもない。
本当はこんなファイルをわざわざ読む必要はない。いくら対面する彼らの情報を頭に入れようとも、言葉を交わす前から、対面する前から彼らの行く末は決まっている。そして、久賀が彼らに放つ言葉も決まっている。どんな言葉を、どれほど交わそうとも結果は変わらない。
不毛な会話だ。正直、うんざりもするし、鬱陶しくて疲れもする。仕事でなければ絶対に会話を放棄しているところだろう。
そう、仕事だ。
貴方たちは不要だと伝える。
それが久賀の仕事なのだ。
不毛な会話だ。正直、うんざりもするし、鬱陶しくて疲れもする。仕事でなければ絶対に会話を放棄しているところだろう。
そう、仕事だ。
貴方たちは不要だと伝える。
それが久賀の仕事なのだ。
「どうした、珍しく疲れているのか?」
「珍しく、は余計だ」
ソファーに深く腰掛けると、何故かリラックスするというより一層の疲労を感じる。が、それはソファーの責任ではなく、ここしばらくの間この男の顔を見る頻度が高いせいだろう。目を閉じてソファーに体重をかける。
先日依頼された仕事はつつがなく終了した。久賀は割り当てられた人間たちに解雇を通達し、可能な限り会社へのダメージが少ない条件で消えてもらった。
特に変わりない、いつもの仕事だ。
「そういえば、彼はどうだった?」
不意にデスクに積まれた書類を端から処理していた男が口を開いた。視線を送る気すら起きず、ただ相槌を打つ。
「彼?」
「お前が担当したファイルの最後の彼だ」
視線だけを男に向けた。何が面白いのか、うっすらと微笑んでいる。
「いくらお前でも融通のきかない老害の相手ばかりじゃ疲れるだろう? 僕なりの気遣いだよ」
「……お前は気遣いという言葉の概念も考え直したほうがいい」
「おや、彼との会話は気に入らなかったか? お前の好きな未来ある理想高き若者だっただろう? 正義感に溢れる勇気ある告発者だ」
まるで舞台に立つ名優のような、あるいは大衆を扇動する演説家のような芝居がかった喋り方はこの男が上機嫌な時の癖だ。今にも立ち上がり手に持った書類を中に散らして、朗々と語り出しそうだ。
勇気ある告発者。確かに彼は告発者だ。
今回の仕事に関するファイルを渡された日、含みのある嫌な言い方で依頼を説明していた男が『まぁ、お前には隠していても仕方のないことだから言っておこうか』と、肩を竦めて、
『向こうはこちらに隠したいようだが、どうやら内部告発で大荒れに荒れているらしい。上訴部の不祥事が社内にばらまかれたようだな。なかなかやる。彼が上層部の一新を決め、うちに依頼が来た。だから、今回はお前への仕事も少々多い』
『内部告発をした本人は? どうするつもりなんだ?』
『彼としては社に残ってもらっても構わないようだがな、少々大袈裟にやりすぎたところもある。社には残りにくいかもしれないな』
そして、彼は久賀が担当した。不正を許すとこができなかった理想高き彼は、不正の根源と共に排除された。皮肉な話、なのだろうか。
「楽しかっただろう?」
満面の笑みというにはいささか嫌味が過ぎる笑いを浮かべ、男は書類の向こうから朗らかな声音で言った。状況から考えてかなり失礼な台詞だ。
他人に対してその存在が不必要だと告げることを楽しめと?
「お前は、どれだけ俺のこと人でなしだと思っているんだ」
久賀は溜め息混じりに不快感を示した。すると、書類を机に置いた男は一瞬虚を突かれたような表情をして、すぐさま呆れ顔で口元を歪めた。
お前は、と嘲笑うようにまくし立て出す。
「自覚しているくせに何を言っているんだ。だってお前、結局どうでもいいって思っているじゃないか」
ソファーに体を落としたまま、久賀は男の言葉を聞く。
「契約を解除してその会社が潰れようとも、目の前の男がどうなろうとも、お前はなんとも思わないだろう? 会社を解雇された男がその後どんな人生を送るか想像したことがあるか? 妻と離婚するかもしれない。家庭崩壊でも起こして、子供が人生を踏み外すかもしれない。お前は想像したことがあるか?」
彼や、彼女や、彼や、彼や、彼女や、彼の行く末を久賀は知らない。
「この仕事をしていたら普通まったく考えないなんてことはない。大体は仕事と割り切っているだろうな。そもそもこの仕事に限らず、人が何かをなそうとすれば、直接間接問わず他者を害するものだ。気にしていたら生きていけない」
久賀と彼らの人生はほんのわずかな時間しか交錯しない。
「お前には自分が行ったことの影響を予想するくらいの想像力はある。その辺りは他の奴らと同じだろう。だがな、お前の他人への興味と関心のなさはいっそ見事だよ。心底どうでもいいだろう、他人なんて。極論、今この瞬間僕が死んでもお前は別に何とも思わないだろう?」
「驚きはする」
そう、驚きはする。目の前の男が突然血を吐いて倒れれば誰だって驚く。
「そうだな。そうして、警察に連絡するか帰るかを考えて、面倒だが面倒にならないように通報するだろうな」
「事情聴取は必至だ」
「大丈夫さ。お前が僕を殺すはずがない。すぐに釈放される」
「そうか?」
あれほど人のことを人でなし扱いしておいて、よく言う。
「あぁ、お前に僕を殺す理由はない。そもそもお前に他人を殺そうなんて発想は出ないさ。お前には他人に殺意を抱く要因がない。他人に対する期待もないし、興味もない」
「興味はあるさ。他人は面白い」
「お前の面白いは小説や映画の中の人間を面白いと思うようなものさ。自分とは違う人間の思考や感情を覗いて面白がっているだけだ。関心はあっても固執はない。興味はあっても執着はない。お前にとっての他人は暇を潰すちょっとした娯楽みたいなものだ。今、世界中の人間が死んでもお前は困らない」
そうだろう、久賀千景。
穏やかにすら見えそうな笑顔で男はそう締めくくった。
久賀は何か言葉と繋ごうとしたが、何を言っても無駄な気がして、男も久賀の返答を求めている様子ではなかった。正論であるとか、正答であるとか、そうしたことに一先頓着せずただ言いたいことを言い放っただけなのだろう。
そうした会話のスタンスは別に不快ではない。なまじ同意を求められるよりはいっそ清々しいくらいだ。他の話題ならば、久賀も共感など一切求めない至極個人的な意見を返して、それで終わりだっただろう。
ただ、これは少々勝手が違う。
そもそも繋ぐべき言葉が見つからず、返すべき言葉も見つからず、若干口惜しい気もしたが、恐らくは逃げの言葉を久賀は放った。
「それで、結局お前は何が言いたいんだ?」
男は久賀の逃げを咎めることなく、一冊のファイルを差し出した。
「この仕事はお前にぴったりだという話だよ」
さぁ、次の仕事だ。
男はやはり愉しそうに笑った。
「珍しく、は余計だ」
ソファーに深く腰掛けると、何故かリラックスするというより一層の疲労を感じる。が、それはソファーの責任ではなく、ここしばらくの間この男の顔を見る頻度が高いせいだろう。目を閉じてソファーに体重をかける。
先日依頼された仕事はつつがなく終了した。久賀は割り当てられた人間たちに解雇を通達し、可能な限り会社へのダメージが少ない条件で消えてもらった。
特に変わりない、いつもの仕事だ。
「そういえば、彼はどうだった?」
不意にデスクに積まれた書類を端から処理していた男が口を開いた。視線を送る気すら起きず、ただ相槌を打つ。
「彼?」
「お前が担当したファイルの最後の彼だ」
視線だけを男に向けた。何が面白いのか、うっすらと微笑んでいる。
「いくらお前でも融通のきかない老害の相手ばかりじゃ疲れるだろう? 僕なりの気遣いだよ」
「……お前は気遣いという言葉の概念も考え直したほうがいい」
「おや、彼との会話は気に入らなかったか? お前の好きな未来ある理想高き若者だっただろう? 正義感に溢れる勇気ある告発者だ」
まるで舞台に立つ名優のような、あるいは大衆を扇動する演説家のような芝居がかった喋り方はこの男が上機嫌な時の癖だ。今にも立ち上がり手に持った書類を中に散らして、朗々と語り出しそうだ。
勇気ある告発者。確かに彼は告発者だ。
今回の仕事に関するファイルを渡された日、含みのある嫌な言い方で依頼を説明していた男が『まぁ、お前には隠していても仕方のないことだから言っておこうか』と、肩を竦めて、
『向こうはこちらに隠したいようだが、どうやら内部告発で大荒れに荒れているらしい。上訴部の不祥事が社内にばらまかれたようだな。なかなかやる。彼が上層部の一新を決め、うちに依頼が来た。だから、今回はお前への仕事も少々多い』
『内部告発をした本人は? どうするつもりなんだ?』
『彼としては社に残ってもらっても構わないようだがな、少々大袈裟にやりすぎたところもある。社には残りにくいかもしれないな』
そして、彼は久賀が担当した。不正を許すとこができなかった理想高き彼は、不正の根源と共に排除された。皮肉な話、なのだろうか。
「楽しかっただろう?」
満面の笑みというにはいささか嫌味が過ぎる笑いを浮かべ、男は書類の向こうから朗らかな声音で言った。状況から考えてかなり失礼な台詞だ。
他人に対してその存在が不必要だと告げることを楽しめと?
「お前は、どれだけ俺のこと人でなしだと思っているんだ」
久賀は溜め息混じりに不快感を示した。すると、書類を机に置いた男は一瞬虚を突かれたような表情をして、すぐさま呆れ顔で口元を歪めた。
お前は、と嘲笑うようにまくし立て出す。
「自覚しているくせに何を言っているんだ。だってお前、結局どうでもいいって思っているじゃないか」
ソファーに体を落としたまま、久賀は男の言葉を聞く。
「契約を解除してその会社が潰れようとも、目の前の男がどうなろうとも、お前はなんとも思わないだろう? 会社を解雇された男がその後どんな人生を送るか想像したことがあるか? 妻と離婚するかもしれない。家庭崩壊でも起こして、子供が人生を踏み外すかもしれない。お前は想像したことがあるか?」
彼や、彼女や、彼や、彼や、彼女や、彼の行く末を久賀は知らない。
「この仕事をしていたら普通まったく考えないなんてことはない。大体は仕事と割り切っているだろうな。そもそもこの仕事に限らず、人が何かをなそうとすれば、直接間接問わず他者を害するものだ。気にしていたら生きていけない」
久賀と彼らの人生はほんのわずかな時間しか交錯しない。
「お前には自分が行ったことの影響を予想するくらいの想像力はある。その辺りは他の奴らと同じだろう。だがな、お前の他人への興味と関心のなさはいっそ見事だよ。心底どうでもいいだろう、他人なんて。極論、今この瞬間僕が死んでもお前は別に何とも思わないだろう?」
「驚きはする」
そう、驚きはする。目の前の男が突然血を吐いて倒れれば誰だって驚く。
「そうだな。そうして、警察に連絡するか帰るかを考えて、面倒だが面倒にならないように通報するだろうな」
「事情聴取は必至だ」
「大丈夫さ。お前が僕を殺すはずがない。すぐに釈放される」
「そうか?」
あれほど人のことを人でなし扱いしておいて、よく言う。
「あぁ、お前に僕を殺す理由はない。そもそもお前に他人を殺そうなんて発想は出ないさ。お前には他人に殺意を抱く要因がない。他人に対する期待もないし、興味もない」
「興味はあるさ。他人は面白い」
「お前の面白いは小説や映画の中の人間を面白いと思うようなものさ。自分とは違う人間の思考や感情を覗いて面白がっているだけだ。関心はあっても固執はない。興味はあっても執着はない。お前にとっての他人は暇を潰すちょっとした娯楽みたいなものだ。今、世界中の人間が死んでもお前は困らない」
そうだろう、久賀千景。
穏やかにすら見えそうな笑顔で男はそう締めくくった。
久賀は何か言葉と繋ごうとしたが、何を言っても無駄な気がして、男も久賀の返答を求めている様子ではなかった。正論であるとか、正答であるとか、そうしたことに一先頓着せずただ言いたいことを言い放っただけなのだろう。
そうした会話のスタンスは別に不快ではない。なまじ同意を求められるよりはいっそ清々しいくらいだ。他の話題ならば、久賀も共感など一切求めない至極個人的な意見を返して、それで終わりだっただろう。
ただ、これは少々勝手が違う。
そもそも繋ぐべき言葉が見つからず、返すべき言葉も見つからず、若干口惜しい気もしたが、恐らくは逃げの言葉を久賀は放った。
「それで、結局お前は何が言いたいんだ?」
男は久賀の逃げを咎めることなく、一冊のファイルを差し出した。
「この仕事はお前にぴったりだという話だよ」
さぁ、次の仕事だ。
男はやはり愉しそうに笑った。
寝室兼書斎として使っている自室だが、あるのはデスクと本棚とベッドとクローゼット。ものというものはすべて引き出しと棚の中に仕舞われているので、清々しいほどに殺風景だ。例外というならベッド脇に置かれた八千代さん用のベッドとデスクに置かれた鞄くらいしかない。物欲のなさが如実に現れた部屋だ。
何かを強く欲するという経験が久賀の人生にはない。
必要なものとは欲しいものは違う。久賀の身の回りにあるものは必要なものばかりで、久賀が欲しいと思って手に入れたものではない。それはものに限らず、立場であれ状況であれ必要にかられない限り、久賀は現状に留まり続けた。
八千代さんと彼女に関しては異なるが、彼女の存在は久賀の人生において恐らくとてつもなく例外的なものだ。だから、久賀は彼女が大切で仕方がない。
それでも、やはり彼女は例外であって、久賀は何も変わらない。変わらなかった。久賀のままだ。
「……『この仕事、好きですか?』、か」
彼が投げかけた言葉、かつての彼が投げかけた言葉、かつての彼女も投げかけた言葉。
彼らの言葉に、問いに、久賀はただひたすら同じ答えを返した。
そして、今までも、これからも変わることなく答え続ける。
上昇する気も、下降する気も、前進する気も、後退する気もない。
ただひたすらに現状維持を続ける。
何かを強く欲するという経験が久賀の人生にはない。
必要なものとは欲しいものは違う。久賀の身の回りにあるものは必要なものばかりで、久賀が欲しいと思って手に入れたものではない。それはものに限らず、立場であれ状況であれ必要にかられない限り、久賀は現状に留まり続けた。
八千代さんと彼女に関しては異なるが、彼女の存在は久賀の人生において恐らくとてつもなく例外的なものだ。だから、久賀は彼女が大切で仕方がない。
それでも、やはり彼女は例外であって、久賀は何も変わらない。変わらなかった。久賀のままだ。
「……『この仕事、好きですか?』、か」
彼が投げかけた言葉、かつての彼が投げかけた言葉、かつての彼女も投げかけた言葉。
彼らの言葉に、問いに、久賀はただひたすら同じ答えを返した。
そして、今までも、これからも変わることなく答え続ける。
上昇する気も、下降する気も、前進する気も、後退する気もない。
ただひたすらに現状維持を続ける。
もしあの男の言うように、久賀が他人に対して関心も興味も抱いていないとしたら、恐らく他人以上に、久賀は自分に対して関心も興味もないのだろう。
それでも。
それでも。
『楽しくは、ないな』
嫌いだよ。
でも、別にどうでもいいんだ。
嫌いだよ。
でも、別にどうでもいいんだ。