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月下の魔剣~邂逅~ > 2


「…チッ。まァいい」

一触即発の睨み合いから、男は顔を逸らした。

水野晶。おめェをおびき出したのは勧誘のためだ。俺ァ女子供に手ェ出す趣味はねェ」
「…か…勧誘…?」
「俺ァある男の依頼を受けてきたンだ。名前は言えねえがそいつぁ能力研究者でなァ、
 能力の発展のためにおめェの能力を調べさせてほしいって言ってやがンだ」
「僕の能力…って動物の心が視えたり伝えたりするだけで…」
「そうなのか? まあ俺ァ依頼主の考えなんざ知ったこっちゃねェがな」

陽太が一歩踏み出す。

「ゴスロリの次は世紀末か…俺を狙う組織!」
「あァ、大根はいらねェ」

見事な即答。
顔は見えないけど、ちょっと、いやかなりショックを受けてたのが見てとれた。

「って…ゴスロリって?」
「………」

あらら、陽太かわいそう。背中に哀愁が漂う。
そんな陽太に少し和んでいたところに男の太い声がかかり、僕は急に現実に引き戻される。

「で、どうだィ? 長い拘束も危険もねェ、謝礼も弾むって話だ。どうする、水野晶」
「そ、そんなこと…まずその犬を解放してあげなさいよ!」
「おォ、忘れてたぜ。悪かったな」

男は右手にぶら下げていた犬を、屈んで解放する。幸い犬は健在のようで、道の奥へと全力で逃げていった。
放すとき、犬に向かって何事か小さく呟いたように見えた。

「で、どうするよォ、水野晶!」
「そ…それは………」

嫌だ絶対に嫌だ。こんな怪しい男について行きたくない。こいつの言うことなんてまるで信用できない。
でも断ればこいつは乱暴な手段に出るに違いない。そうなったら陽太が……

「断る」

答えに窮している僕を尻目に、きっぱりと答えたのは陽太だった。

「おめェには聞いてねェンだがな」
「まっとうな勧誘ならまっとうな奴をよこせばいい。てめぇみてえな世紀末野郎が出てくる時点で怪しさ満点だろうが。
 前の犬もどうせその依頼主とやらの差し金だろ。んな怪しい組織に晶をあずけられるかよ」
「おめェは何だ。水野晶の保護者か何かかァ?」
「てめぇが気に食わねえ。だからてめぇの思い通りにはいかせねえ。そんだけだ」
「…そうか。そいつァ残念だ」
「残念? よく言うぜ」

陽太の右手がそろりと後ろのポケットに向かう。そこにはさっきの…

「最初っから腕ずくで連れてくつもりだったんだろうがっ!!」

手を出すや振られる右腕、高速で男に飛来する円盤、ハードクラッカー。

「おいおい、俺ァ…うォッ!?」

こと、かた焼きは男のすぐ脇の排水管に当たり、派手な音と共に粉々に砕け散る。

「ジョー…ブレイカー!」
「って名前変わってるし!?」

僕の言葉を無視して、握り、一呼吸置いて開かれる右手。同時に出現した数枚のかた焼きを、一気に投げる陽太。
男の頭に胴体に脚に、唸りを上げて迫るかた焼き。あれは回避は難しいはず…

「うォあッ!? 喧嘩っ早えガキだなオイ!」

言いながら男は広げた両手をこちらへ向けた。瞬間、地面から生えるように出現した壁が男を覆い隠す。
男に向かったかた焼きは全て壁にぶつかり、はじけ飛んだ。

「チッ、やはりかっ! だったらっ!!」

陽太は再度右手を握り、開く。そこには…

「なっ、馬鹿なっ!? 出ない!?」
「えっ!? 何で!?」

開いた右手は空。陽太につられて僕も驚愕する。しかし僕は意識を少し周囲に向けて、すぐに気付く。

「違う陽太、もう夜になってる!」
「なっ……なんだ夜か。…チッ」

悔しげに舌打ちする陽太の反応に強い違和感を感じた。陽太は夜の能力でこそ真価を発揮するのだから。

「え、なんで? 夜になったら嬉しいんじゃ…」
「確かに昼の万物創造(リ・イマジネーション)に比べ夜の叛神罰当(ゴッド・リベリオン)は強力だが…」

先程、男の生み出した壁を見やる。地面と同じ灰色の壁は、かた焼きのぶつかった場所に亀裂が入っていた。

「奴はあきらかに時間稼ぎをしていた。それはつまり、奴も俺と同じ…」

亀裂が伸びて、やがて壁全体に広がる。壁は端から不安定に崩れ始める。

「夜の能力が本場。防御じゃねえ、戦うための能力ってわけだ」

そして、ガラガラと一気に崩壊する壁。奥に立つ人影。

「そォいうワケだ」

男は不敵に口元を歪ませていた。

ハッと気付いて振り向いた。しかし依然、背後の道は完全に閉ざされていて、僕は落胆する。

「あの壁は崩れないんだ…」
「奴の能力はたぶん、一定時間で崩壊する壁を出す能力だ。出したらもう管理の外。昼夜は関係ねえってわけさ」
「ハッ、いい洞察力だ。能力がも少しマシなら仲間にしてェくれえだぜ」
「神に叛く能力を舐めんなよ。罰が当たるぜ」
「そりゃあ…」

あんたにでしょ、と出かけた言葉は呑み込んだ。そんなことを言っていられる雰囲気ではなかったから。

「おめェの能力は知ってる。最初に言っとくが、その能力じゃ勝ち目はねェぜ?」
「前に見たことを言ってんだったら甘いな。俺はまだ能力の片鱗も見せちゃいねえ。
 武器はこの世界に無限に存在するんだぜ? 無限の可能性、それが俺の叛神罰当だ」
「どォしてもやるってか」
「ああ、こっからが本番だ」

そう言って両手を合わせる。久しぶりに見る、陽太の能力発動ポーズ。
しかし、何も出さずに手を離した。

「おっと、その前に。名乗れよ、それが流儀だろう。俺はとっくに名乗ったんだぜ?」
「そりゃあ…まァいいか。当然本名じゃねェがな」

男はボリボリと頭を掻く。

「俺はベン。隔離と戦闘を単独でこなす、便利屋のベンだ。そう呼ばれてる」
「そうか。刻んだぜ、ベン」

陽太は腕を組みうなずく。そして、ゆっくりと目を開き、大きく息を吸う。

「俺の名は岬月下! お前を倒す男の名だ! いくぜベン!!」
「おォ、来てみろ月下ァ!」

「はあああぁぁぁ…」

陽太は片膝をつき地面近くで手を合わせ、力を込める。

「出でよ!」

一気に立ち上がると同時に右手を高く振り上げる。

「魔剣!」

天に向けた右手から出現する純白の大根。

「レイディッシュ!!」

大根は右手一本で袈裟に振られ、4時の位置でピタリと停止した。

「………」
「………」

沈黙。場を支配する妙な空気。

「………」

「…その無駄な動きはナニ?」

無粋なツッコミは自重するつもりだったけど、さすがに言わずにはいられなかった。


<続く>

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最終更新:2010年07月06日 23:42
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