俺の名は岬 月下。
俺の能力は万物創造(リ・イマジネーション)。万物を創造する力。
もうひとつの能力は叛神罰当(ゴッド・リベリオン)。神に叛く力。
この力を使い続ければ、俺はいつか地獄に堕ちるだろう。構いはしない。
俺に未来は必要ない。過去もいらない。必要なのは現在(いま)だけだ。
今日もまた退屈な授業を終え、古い情報媒体から情報を収集し、夕日の中帰路につく。
俺は能力で生み出した新たな武器、ハードクラッカーに牙を立てる。うわなにこれ硬
「はいそこの厨二ー」
急に真上から頭を押され、円盤に食い込んだ少年の糸切り歯がゴリリと嫌な音を立てた。
「まーた立ち読みしてたでしょー。真っ直ぐ帰れって言われてんのにさー」
「……い……」
「陽太?」
「痛ってええぇな晶あぁ!! 歯折れるかと思ったぞ!!」
「あ、それ。さっそく出してみたんだ。伊賀名物の」
「幾多の伊賀忍者の歯を打ち砕いたという伝説の武器。ハードクラッカーだ」
「ほんと硬いよね。木槌で割らなきゃ食べられなかったもん、かた焼き」
「ハードクラッカーだ!」
このちっこい中二の厨二病、陽太の能力は、昼はお菓子とか軽食を、夜は食材を手から出すっていう変な能力。
過去に食べたことのあるものじゃないとダメらしい。
それでもって、陽太の両親。彼らは大の旅行好きで、世界中からいろんなお菓子とか食材をお土産に買ってくる。
今回は国内旅行だったから帰ってくるのは早かったみたいだね。
「で、どうすんのそれ。そんな硬いの出しちゃってさ、食べらんないじゃん」
「投げるっ!」
「馬鹿」
グーから中指を出してコツンと陽太の頭を叩いた。
「食べ物で遊ばない! もったいないでしょー。そんなことすると罰が当たるよ!」
「い、いいじゃねーかよ、俺の能力で出したもんなんだからさー」
「ダーメ! 食べ物は食べ物!」
「昼に戦う武器だって必要だろーが」
「そんな前みたいな機会そうそう来ないってば!」
あれから数週間。僕たちは少し遠回りになるけど、人通りの多い道を選んで通学している。
あれ以来猛犬の姿は見ていないし、話も聞かない。ちゃんと報告したからお巡りさんがなんとかしてくれたんだろう。
僕はそろそろ通学路を戻してもいいかな、と思っている。
「そのお煎餅はちゃんと持ち帰って割って食べる! いいね!」
「…わかったよちくしょー」
「よし、じゃあ缶コーヒーを奢ってあげよう」
「加糖な」
微糖を買って渡してあげた。平気な顔して飲んでいるが、ちょっと涙目になってる陽太。かわいい。
ほのぼのとした平和な時間。今となっては数週間前の非日常が、まるで夢だったように感じられた。
街中を歩く僕と陽太。目で、耳で視る街の雑踏。僕の心に直接視える、動物たちの心。
巣に急いで帰ろうとしているのは、あのカラス。大好きなメスにあげるプレゼントをくわえたネコ。
今日もたくさん獲物を捕らえようと張り切っているのは、コウモリ。
みんなそれぞれに生きている。もうすぐ消えてしまうけれど、僕はやっぱりこの昼の能力が好きだ。
そんな平和な雑踏に変化が起きた。僕だけが感じる変化。心に響く、怖い、苦しい、痛い、負の感情。
これは…犬。そう、小さな仔犬だ。助けを求めているのを感じる。あの並んだビルの間から。
「ごめん。ちょっと待ってて陽太」
「は? ちょ、どこ行くんだよ」
「仔犬が苦しんでるの。助けてあげなきゃ」
「おい待てって! 危ねえぞ! 罠かもしんないだろ!」
「だからそんなのないって! ほうっておけないよ」
薄暗い路地裏に飛び込む僕に、続く陽太。意外と道は長く、幅は狭く2mもない。
少し走った先に、ひとつの人影を見つけた。
恐らく20代後半。所々に金属の装飾がついたハードな黒服。少し動けば腰のチェーンがジャラジャラと音を立てる。
何というか…世紀末な男だった。残念ながら頭はモヒカンではなくツンツン尖った金髪だったけれど。
男はその露出した太い腕で、小さな犬の頭を掴んでいた。
その姿に一瞬たじろいだけど、意を決して声をかけようと息を吸う。
と、意外にもその男に先に声をかけられた。
「よォ、来たな。待ってたぜェ、
水野晶」
「え…何で……」
「いつもおびき出すまでが苦労するんだがよォ、今日の仕事は簡単だったなァオイ」
僕は本能的に後ずさる。この男はヤバい。一刻も早く離れなれないとヤバい。
そんな僕の肩に突然何かが触れて、バクンと心臓が跳ねた。
そのまま身体を引かれ、男と僕の間に見慣れた腕が差し込まれる。
「な。やっぱり罠だったろ」
そこにはいつも通りの、余裕溢れる陽太がいた。
「チッ、やっぱりか。大根のガキまでついてきちまった」
「初対面じゃねえな。犬と戦ったあの日にも近くにいた。そうだろ、壁の能力者」
「あァ、よくわかったな。生意気なガキだぜ」
「ね、ねえ壁って…」
陽太の背中に恐る恐る声をかけると、男と向き合ったまま親指で後ろを示す陽太。
振り向けば、僕たちがたった今入ってきたはずの入口には、ビルの頂上まで続く壁。完全な行き止まりになっていた。
「そんな、いつの間に…」
「この道に入った直後だ。危うく分断されるとこだったな。あの壁は壊せねえ越えられねえ、ついでに電波も通らねえ」
慌てて携帯を取り出して驚く。画面には、街中であるにも関わらず圏外の文字が光っていた。
「昼の能力だが夜になっても消えねえし消せねえ。でかい壁を作れんのは一つだけで、持続時間は十時間…ってとこか」
そこまで無表情で聞いていた男が、ピクリと露骨に顔をしかめる。
「…てめェ、何モンだ」
「岬月下。神に叛く能力者だ」
あの日と同じく、いや、あの日以上に。
陽太は冷静で、余裕で、自信に満ちていて。そして悲しいほどに厨二だった。
<続く>
登場キャラクター
最終更新:2010年07月11日 08:53