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月下の魔剣~邂逅~ > 3


「陽太…余計なことしてる場合じゃ…」
「余計なんかじゃないさ」

そう言って、陽太は大根を左手に持ち替える。

「俺の奥義を見せてやる」
「いや奥義って…」

空いた右手で、天空をビシッと指差した。

「堕ちろ……ブラッディレイン!!」

つられて見上げる僕とベン。その瞬間、

「えっ!!!?」
「なっ!!!?」

ベンの足元に、肩に、顔面に。天空から降り注ぐ、真っ赤な……完熟トマト!?

「なっ…なンだこりゃあ!!?」

顔面に直撃したトマトは弾けて広がり、ベンの視界を塞ぐ。
ベンがうろたえる隙にすでに陽太は大根の間合いまで接近していた。
渾身の力を込めた大根で狙うは、無防備な足元。

「はああぁっ!!」

 バキィッ!

ベンの右足の脛に、大根が直撃した。盛大な音とともに一撃で折れる大根。

「なっ!?」

驚きの声を上げたのは陽太だった。右足一本をピンポイントで狙ったにも関わらず、折れる大根。
そして直撃を受けたはずの右足はピクリとも動かない。その右足が、スイと上がり後ろに引かれた。

「やるじゃねェか…よっ!!」

 ガコン!

放たれた回し蹴りは陽太の胴体に直撃し、変に硬い音を立てる。空き缶のように軽く吹き飛ばされる陽太。しかし

「くァッ!?」

次に苦悶の声を上げたのはベンだった。
吹き飛ばされるもなんとか足から着地した陽太の腕には、

「サイレント…シールド!」

大きく立派なカニが構えられていた。


「おいおいそいつァ…カニか。可能性あるたァ聞いてたが…やっぱ魚介類も出せンだな」
「出せるさ。俺の武器は無限だ」

とても信じがたい、息をつく暇もない攻防だった。僕の目の前で、それも陽太が、こんな戦いをするなんて…

「しっかし驚いたぜ、こいつァ聞いてなかった。まさか離れた空中に食材出すたァな」
「神に叛く能力だぜ? その程度はできて当然だ。次からは頭上にも注意するこったな」

食材を空中に出した。確かにそう見えたけど…そんなことができたの…?
いや、そんな離れ業ができるならもっと強力な攻撃ができるはず。不意打ちで大きな食材を出せばいいはずだ。
それに陽太の能力は発動ポーズもとっていない。指差しだけて空中に出すなんてあり得るの…?

ふと、目の前の物体が目に入る。
最初に陽太のいた場所に、一つだけ落ちていたそれは、下側が少し潰れたトマト。
さきほど落ちてきたトマトは全て原型を留めていない。なぜこんなところに一つだけ残って…

――こっからが本番だ――おっと、その前に――
――出でよ!――魔剣!――

「あっ!!?」

脳裏に電撃が走る。

そうだ、発動ポーズはとっていた。相手に名乗れと言う直前。あの時、何も出さずに手を下げたように見えた。
でも本当は遅れて出していたんだ。ベンと話しながら、何食わぬ顔でトマトを足元に用意していた!
そして大根を出す無駄な動き。あの派手な動きに乗じて足元のトマトを拾い、上空に投げたんだ!
それを全て、敵に気付かれずにやってのけた!!

気付けば陽太がこっちを見ていた。その目は、黙っとけ、と静かに語っていた。

恐るべし陽太、なんて抜け目のないことを…

思えばカニのときもそうだ。大根が折れたことに驚きながらも、すでに出す準備をしていた。
バトルセンスというのかな。もしかしたら陽太は、僕が思った以上にすごい奴なのかもしれない。


「こいつは最強の盾だ。こいつが手元にある限りてめぇの攻撃は効かねえぜ。絶対に手放すことはねぇ」
「ただのカニだろ。ンなもんすぐ砕ける」
「こいつで守りながら武器を降らせて決める」
「ンな消極的なやり方で俺を倒せると思ってんのか」
「やってみなきゃわからんさ!」

陽太は再び、ビシッと天空を指差す。
ベンの意識が一瞬上を向いたその瞬間、陽太は手にしたカニを…投げた!

「うォッ!!?」

不意を突かれて反応が遅れるも、腹部に迫るカニを弾き落とす。
投げると同時に駆けだした陽太の目の前に、一瞬晒される無防備な頭部。
そしてすでに用意されている、前よりも一回り巨大な桜島大根。

「レイディッシュ・ロゼオオォッ!!!!」

 バキャアン!!

十分な速度でもって叩きつける。上げかけた顔面に直撃。派手な音を立てて桜島大根は砕け散る。
立ったまま完全に停止し、動かないベン。

「やったの!?」
「ばっ馬鹿そういうこと言うとっ」

突如ベンの腕が動き、陽太の襟首を掴んだ。そのまま片手で軽々と持ち上げる。
陽太はバタバタと暴れるが、ベンの腕は重機の如く揺らがない。

「う、嘘っ!?」

桜島大根が直撃したはずのベンの顔には、傷ひとつ、跡ひとつとして残ってはいなかった。

「まんまと騙されたぜ、盾を投げるたァな。だが残念、効かねェなァ!」
「ほら見ろっ、やってないフラグが立っちまうんだっ!」
「ンなこと言ってる余裕あんのかァ?」
「余裕なんか…ねえよっ!!」

つりあげられたまま、無理矢理伸ばした右手をベンの顔面に向ける。

「ゼロ距離アクアニードル!!」

そして出現する大量のウニ。ほぼ触れるような距離で放たれたそれは、ベンの顔面にこれでもかと降り注ぐ。
あれならいかにタフだろうと…

「なん…だと…」

ウニの嵐の中でもベンは動かず、嵐が晴れた先でもまるで変わらず、不敵に口元を歪めていた。

「なンだこいつァ、栗かァ?」
「ウニだよ馬鹿!」
「ハッ! まァいいさ。栗だろうとウニだろうと…」

ベンは陽太をより高く持ち上げ、後ろに引き…

「俺にゃあ効かねェンだよっ!!」
「ガハッ!」

ブンと放り投げた。
陽太は地面に強く腰と背中を打ちつけ、下敷きになったトマトがべシャンと潰れる。

「陽太っ!」

僕は慌てて駆け寄る。幸い大事はないようで、陽太はすぐにむくりと起き上がった。

「どうだィ、理解しただろう? おめェの能力じゃ俺にゃあ敵わねェのさ」

怪我はなくとも、精神的な痛みは大きいだろう。悔しさにギリリと陽太の顔が歪む。

「洞察力のあるおめェのことだ、俺の能力はもう理解してンだろ?」
「…硬化…」
「その通り、硬化だ。俺はいつでも全身漏れなく鋼鉄以上の強度になれる。
 目ん玉だろうと口ん中だろうとな。言っとくが制限なんてねェぜ?
 硬化した俺は刃物で斬られようと銃で撃たれようと、ダンプに轢かれようと無傷なンだよ。
 当然、食材で殴ったところで効くわけがねェのさ」

そんな…そんな能力、陽太が敵うはずがない。どうしようもないじゃないか。

「実際おめェはすげェよ。しょぼい能力だってのにこの短時間に何度も俺をビビらせた。
 弱ェ能力を工夫とテクニックで補う。その若さで大したモンだ。
 だがな、いくら手ェ尽くそうとも越えられねェ壁ってのは存在する」
「それがてめぇだってのか…!」
「誰にだって越えられねえ宿命ってのはあるのさ」
「宿命…か…」

僕は意を決して立ち上がる。絶対に嫌だ。嫌だ…けれど…!
これ以上陽太が傷つくのは…見ていられない…!

「…僕、行きまっ……!」

突然伸びてきた陽太の手が僕の口を塞いだ。

「黙ってろ」
「………ぷはっ! 何だよっ! だってあんな能力っ…絶対に…敵わな…」

目が熱くなって…最後まで言うことができなかった。

「この男女っ!!」

コツン。

おでこを小突かれた。痛い。

「何すんだよっ!」
「似合わねえ顔すんなこのヤロウ! 気持ち悪いわ! 怒ってたほうがよっぽどマシだ!」
「何だよ気持ち悪いって!」
「まだ手はあんだよ。使える手段全部出してからでも遅くねえだろ」
「手段って」
「まあ黙って見てな。俺を信じろ」

いつの間にか立ち直った陽太が、ベンをキッと睨みつける。

「勝てねえのは宿命と言ったな、ベン!」
「あァ、その通りだ」
「そうか。だがな!!」

バシンと大きな音を立てて、陽太は両手をつき合わせる。
戻ってきた。どんなに絶望的な状況でも、僕に安心感を与えてくれる、陽太の力強い背中が。

「俺の名は岬月下! 神に、天の宿命に叛く男! 今日お前に負けることが、神の定めた宿命ならば…
 叛いてやるさ! その宿命!!」


<続く>

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最終更新:2010年07月07日 00:26
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