儀式の始まり ◆o.lVkW7N.A
そこはまるで、闇の底だった。
暗く肌寒く静かで、誰もが避けて通ろうとする深い深い闇の奥底。
陽の光が遮られているのか酷く薄暗く、それ以上にじめっとした嫌な空気が澱のように沈殿している。
常時ならば人の存在などあり得ないはずのその場に、
けれど今、数多くの者たちが集められ、そうして今や遅しと開幕の時を待っていた。
暗く肌寒く静かで、誰もが避けて通ろうとする深い深い闇の奥底。
陽の光が遮られているのか酷く薄暗く、それ以上にじめっとした嫌な空気が澱のように沈殿している。
常時ならば人の存在などあり得ないはずのその場に、
けれど今、数多くの者たちが集められ、そうして今や遅しと開幕の時を待っていた。
○ ○ ○
「真山、まーやーまー!!」
頭の上から、俺の名前を呼ぶ呑気な声が聞こえてくる。
……ちょっと森田先輩もう少し寝かせてくださいよ。
昨日も夜遅くて疲れてんすから、そうやって人の部屋でうるさく騒ぐのはやめてくださいってば。
「おい、起きろって真山!!」
だからもう少しこのまま寝かせてくださいって言ってるじゃないですか。
つーかそれにしても背中痛いな、俺の部屋のベッドってこんなのだったっけ?
なんだか明らかに床に直接寝かされてるような……ん? 床?
「…………ええっと、どこですかここ」
目が覚めた俺が最初に発した言葉に、横にいた森田さんが同じく不可解そうに返した。
「さあ、俺も今さっき起きたところだ」
「さあって……、また先輩の下らない企みとかじゃないんすか?」
「なにぃっ、失礼なっ!! 俺がいつ下らない企画なんてしたっていうんだ!!」
本気で分かっていない顔の先輩を見て、腹立たしさと呆れがどっと押し寄せてくる。
しかしそんなことよりも、問題なのは今の状況だ。
森田さんのわくわくドッキリ!☆でないのだとすれば、一体全体ここはどこだ?
まだ寝ぼけた頭を左右に振って眠気を払い落しながら、そんなことを考える。
周囲を見渡せば、俺と同じように状況の分かっていないらしい人たちの姿が見て取れた。
人数は三、四十人と言ったところだろうか。
小学生から高校生くらいまでの学生とその保護者らしき大人がほとんどだが、
中に時々、コスプレかと思うような一団もいたりして、共通性が掴めない。
首を傾げながら再び森田先輩に話しかけようとした俺は、しかしその口を途中で閉じざるを得なかった。
頭の上から、俺の名前を呼ぶ呑気な声が聞こえてくる。
……ちょっと森田先輩もう少し寝かせてくださいよ。
昨日も夜遅くて疲れてんすから、そうやって人の部屋でうるさく騒ぐのはやめてくださいってば。
「おい、起きろって真山!!」
だからもう少しこのまま寝かせてくださいって言ってるじゃないですか。
つーかそれにしても背中痛いな、俺の部屋のベッドってこんなのだったっけ?
なんだか明らかに床に直接寝かされてるような……ん? 床?
「…………ええっと、どこですかここ」
目が覚めた俺が最初に発した言葉に、横にいた森田さんが同じく不可解そうに返した。
「さあ、俺も今さっき起きたところだ」
「さあって……、また先輩の下らない企みとかじゃないんすか?」
「なにぃっ、失礼なっ!! 俺がいつ下らない企画なんてしたっていうんだ!!」
本気で分かっていない顔の先輩を見て、腹立たしさと呆れがどっと押し寄せてくる。
しかしそんなことよりも、問題なのは今の状況だ。
森田さんのわくわくドッキリ!☆でないのだとすれば、一体全体ここはどこだ?
まだ寝ぼけた頭を左右に振って眠気を払い落しながら、そんなことを考える。
周囲を見渡せば、俺と同じように状況の分かっていないらしい人たちの姿が見て取れた。
人数は三、四十人と言ったところだろうか。
小学生から高校生くらいまでの学生とその保護者らしき大人がほとんどだが、
中に時々、コスプレかと思うような一団もいたりして、共通性が掴めない。
首を傾げながら再び森田先輩に話しかけようとした俺は、しかしその口を途中で閉じざるを得なかった。
「――――――全員目が覚めたようだな」
ざわつく人々の間を縫って発されたその言葉に、思わず前を向いた。
一体いつの間に現れたというのか。少しも気がつかなかったことに驚く。
金色のウェーブがかった髪を長く伸ばした男は、圧倒的な重圧を持って仁王立っていた。
一体いつの間に現れたというのか。少しも気がつかなかったことに驚く。
金色のウェーブがかった髪を長く伸ばした男は、圧倒的な重圧を持って仁王立っていた。
「……っ、心宿!?」
「久しぶりだな、朱雀の巫女」
男を見て、赤いリボンで髪を結んだ少女が驚きの声を上げる。
心宿と呼ばれた金髪碧眼の青年は顔見知りらしいその少女に顔を向けてそう返すと、
再度俺たちへと向き直り、地の果てから響くような低く冷たい声で告げた。
「よく来たな、候補者たちよ。――――お前たちには、今から殺し合いをしてもらう」
その言葉に、こそこそと会話を交わしていた人々のざわめきが一層強くなった。
なかには露骨に聞こえるような声で「何あれ?なんかの冗談?」などと言う者すらいる始末だ。
心宿はそれらの声に対して小さく吐息して眉をしかめると、改めて口を開き、続きを話し始めた。
「久しぶりだな、朱雀の巫女」
男を見て、赤いリボンで髪を結んだ少女が驚きの声を上げる。
心宿と呼ばれた金髪碧眼の青年は顔見知りらしいその少女に顔を向けてそう返すと、
再度俺たちへと向き直り、地の果てから響くような低く冷たい声で告げた。
「よく来たな、候補者たちよ。――――お前たちには、今から殺し合いをしてもらう」
その言葉に、こそこそと会話を交わしていた人々のざわめきが一層強くなった。
なかには露骨に聞こえるような声で「何あれ?なんかの冗談?」などと言う者すらいる始末だ。
心宿はそれらの声に対して小さく吐息して眉をしかめると、改めて口を開き、続きを話し始めた。
「殺し合いは、最後の一人が決まるまで続けられる。
つまり生き残るのは、この中でただ一人というわけだ。
そして最後まで生き残った者は、私の野望に協力してもらう」
つまり生き残るのは、この中でただ一人というわけだ。
そして最後まで生き残った者は、私の野望に協力してもらう」
殺し合い? 野望に協力? 何を言っているんだか全然理解できない。
そして、そんな俺の思いはやはりごく一般的らしく、他の人々の反応も同様のようだ。
ぽかんとした顔の人、意味不明な説明にイラついている人、
テレビ番組でも見ているかのようにわくわくと楽しそうにしている人……。
そんな中、険しい顔立ちで立ち上がったのは、先ほど『朱雀の巫女」と呼ばれた少女だった。
俺よりもだいぶ年下。制服を着ているから、中学生か高校生と言ったところだろう。
「野望って……、アンタまさか神獣を呼ぶつもりなんじゃないでしょうね!?」
「ふうん、腐っても朱雀の巫女。見た目に似合わずなかなか賢いものだ」
「やっぱり……」
「多くの生贄を争わせ、もっとも強く力に溢れた者を青龍の巫女として祀り上げる。
それにより、今までの巫女がなしえた以上の奇跡を、私は手にすることができるのだ」
「なっ、何言ってんのよ!? そんな馬鹿げた話あるわけないじゃない!!」
「馬鹿げた……か。そう思いたいなら思えばよい」
そして、そんな俺の思いはやはりごく一般的らしく、他の人々の反応も同様のようだ。
ぽかんとした顔の人、意味不明な説明にイラついている人、
テレビ番組でも見ているかのようにわくわくと楽しそうにしている人……。
そんな中、険しい顔立ちで立ち上がったのは、先ほど『朱雀の巫女」と呼ばれた少女だった。
俺よりもだいぶ年下。制服を着ているから、中学生か高校生と言ったところだろう。
「野望って……、アンタまさか神獣を呼ぶつもりなんじゃないでしょうね!?」
「ふうん、腐っても朱雀の巫女。見た目に似合わずなかなか賢いものだ」
「やっぱり……」
「多くの生贄を争わせ、もっとも強く力に溢れた者を青龍の巫女として祀り上げる。
それにより、今までの巫女がなしえた以上の奇跡を、私は手にすることができるのだ」
「なっ、何言ってんのよ!? そんな馬鹿げた話あるわけないじゃない!!」
「馬鹿げた……か。そう思いたいなら思えばよい」
神獣? 青龍? またよく分からない単語が登場したせいで、俺の頭は最早パニックだ。
どうやらあの女の子はあいつの知り合いらしいが、
それにしたって、せめてもう少し一般的な言葉を使ってくれないか。
もう蚊帳の外過ぎて何がなんだか。
どうやらあの女の子はあいつの知り合いらしいが、
それにしたって、せめてもう少し一般的な言葉を使ってくれないか。
もう蚊帳の外過ぎて何がなんだか。
「……だが、私は本気だ。お前たちがなんと言おうが、この儀式は今から開始される」
その言葉に少女が一瞬口をつぐんだのと時を同じくして、
俺の斜め前辺りに座っていた少年が、大きく肩を怒らせて立ちあがった。
俺の斜め前辺りに座っていた少年が、大きく肩を怒らせて立ちあがった。
「おい、ふざけんじゃねぇぞ糞野郎。殺し合いだ? テメェ誰にもの言ってやがんだ」
毛先がピンと跳ねた癖のある白髪が特徴的なその少年が、相手を口汚く罵った。
心の底から不快そうに顔面を歪め、そう吐き捨てながら青年の元へとにじり寄る。
「何様だテメェ、神か? 神気取りなのか!?
お前が誰だろうと、何で俺たちが大人しく言うこと聞かなきゃならねーんだ。
ガタガタ勝手なことぬかしてねーで、とっとと俺たちを帰しやがれ糞が」」
口早にそう言いながら、握った拳を青年へと突き出し、その襟元を掴み上げようとする。
その動作は、容易に目で追うのが困難なほど素早く、傍目にはまず間違いなく成功するだろうと思われた。
毛先がピンと跳ねた癖のある白髪が特徴的なその少年が、相手を口汚く罵った。
心の底から不快そうに顔面を歪め、そう吐き捨てながら青年の元へとにじり寄る。
「何様だテメェ、神か? 神気取りなのか!?
お前が誰だろうと、何で俺たちが大人しく言うこと聞かなきゃならねーんだ。
ガタガタ勝手なことぬかしてねーで、とっとと俺たちを帰しやがれ糞が」」
口早にそう言いながら、握った拳を青年へと突き出し、その襟元を掴み上げようとする。
その動作は、容易に目で追うのが困難なほど素早く、傍目にはまず間違いなく成功するだろうと思われた。
しかし彼の指先が青年の肩口へ今にも触れようとした瞬間――――。
ぱちん、とどこか気の抜けたような音が室内に小さく響き渡り、
それに一瞬遅れて、火薬のはぜる爆音があたり一面へと盛大に鳴り渡った。
それに一瞬遅れて、火薬のはぜる爆音があたり一面へと盛大に鳴り渡った。
甲高い悲鳴がいくつも上がり、さざ波が広がるようにしてパニックが伝染していく。
先ほどまでのどこかふざけていた空気など、最早微塵も残っていない。
立ち込める煙のせいで前が見えず、状況が掴めないことに腹が立つ。
今、いったい何が起こった!? あいつは一体、何をしたっていうんだ!?
立ち上った灰褐色の煙が徐々に薄れていくとともに、
鼻をつく特徴的な香りが火薬のせいだけではないことに漸く気付く。
全ての煙が晴れたとき、そこに在ったのは、血塗れで倒れ伏す少年の亡骸だった。
先ほどまでのどこかふざけていた空気など、最早微塵も残っていない。
立ち込める煙のせいで前が見えず、状況が掴めないことに腹が立つ。
今、いったい何が起こった!? あいつは一体、何をしたっていうんだ!?
立ち上った灰褐色の煙が徐々に薄れていくとともに、
鼻をつく特徴的な香りが火薬のせいだけではないことに漸く気付く。
全ての煙が晴れたとき、そこに在ったのは、血塗れで倒れ伏す少年の亡骸だった。
「春! 春!!」
先ほどまで少年の横に座っていた黒髪の少女がばね仕掛けのように立ち上がり、彼の元へと走り寄った。
慌てて抱き起した少年の体はしかし、すでにもの言わぬ躯となり果てている。
首の骨がありえべからざる方向に捩じ折れ、そこかしこに穴を開け大量の血を流れ落とす。
「あ……、嘘、春が……、春……」
抱きかかえた少年の痩躯を驚愕の目で見つめる、蒼白した顔の少女。
そんな彼女とその腕の中に眠る遺骸には最早目もくれず、心宿は薄く唇を釣り上げて微笑した。
先ほどまで少年の横に座っていた黒髪の少女がばね仕掛けのように立ち上がり、彼の元へと走り寄った。
慌てて抱き起した少年の体はしかし、すでにもの言わぬ躯となり果てている。
首の骨がありえべからざる方向に捩じ折れ、そこかしこに穴を開け大量の血を流れ落とす。
「あ……、嘘、春が……、春……」
抱きかかえた少年の痩躯を驚愕の目で見つめる、蒼白した顔の少女。
そんな彼女とその腕の中に眠る遺骸には最早目もくれず、心宿は薄く唇を釣り上げて微笑した。
「神気取り……、か。そうだな、これは私が神に……天帝になるための儀式だ」
「天帝……?」
「そうだ。この世界も、お前たちのいる異世界も、その全てを私の掌中に収め支配するための」
「ふざけないで! 何が天帝よ!!」
激昂する少女を軽く見つめ返し、心宿は淡々とした口調で告げる。
「おっと、その少年のようになりたくなければ大人しくしていろ。
お前たちの首にはめられたその首輪は、私の思うがままに爆破することができる。
私の意に沿わぬ行動をとった者、私に逆らった者に対しては容赦しない」
「そんな……」
言われて、俺も含めた室内の人々が一斉に己の首へと手を伸ばす。
指先に触れた感触は冷たい金属のそれで、おそらくはこの中に爆薬か何かが仕込まれているのだろう。
そんなものが自分の首に嵌められているというだけで、絶望的な気分になってくる。
しんと静まり返った室内で、心宿は一人粛々と、この『儀式』とやらについての説明を続けた。
地図や食料、武器といった殺し合いに必要なものは、全員に支給されること。
時間の経過ごとに増える立入禁止区域に入ろうとしたときや、
『儀式』の場から逃走したときは、首輪が爆破するようになっていること。
そして何より重要な、『丸一日誰も死ななければ全員の首輪が爆破する』というルールも。
「天帝……?」
「そうだ。この世界も、お前たちのいる異世界も、その全てを私の掌中に収め支配するための」
「ふざけないで! 何が天帝よ!!」
激昂する少女を軽く見つめ返し、心宿は淡々とした口調で告げる。
「おっと、その少年のようになりたくなければ大人しくしていろ。
お前たちの首にはめられたその首輪は、私の思うがままに爆破することができる。
私の意に沿わぬ行動をとった者、私に逆らった者に対しては容赦しない」
「そんな……」
言われて、俺も含めた室内の人々が一斉に己の首へと手を伸ばす。
指先に触れた感触は冷たい金属のそれで、おそらくはこの中に爆薬か何かが仕込まれているのだろう。
そんなものが自分の首に嵌められているというだけで、絶望的な気分になってくる。
しんと静まり返った室内で、心宿は一人粛々と、この『儀式』とやらについての説明を続けた。
地図や食料、武器といった殺し合いに必要なものは、全員に支給されること。
時間の経過ごとに増える立入禁止区域に入ろうとしたときや、
『儀式』の場から逃走したときは、首輪が爆破するようになっていること。
そして何より重要な、『丸一日誰も死ななければ全員の首輪が爆破する』というルールも。
呆気にとられ、最早反抗の意志さえ口にできない俺たちを睥睨する心宿。
その青い瞳にこちらがどう映っているのか、当然ながら知るすべなどどこにも無い。
その青い瞳にこちらがどう映っているのか、当然ながら知るすべなどどこにも無い。
「だが、ただ殺しあえと言っても拒絶するものが多いだろうからな。
最後まで生き残った者には、その人間の好きな願いをひとつ叶えてやろう。
巨万の富や権力、永遠に変わらぬ愛、失った愛しい者の命……、好きなものを望めばいい
神獣さえ呼び出すことができればどんな願いだろうと、実現は容易いからな」
最後まで生き残った者には、その人間の好きな願いをひとつ叶えてやろう。
巨万の富や権力、永遠に変わらぬ愛、失った愛しい者の命……、好きなものを望めばいい
神獣さえ呼び出すことができればどんな願いだろうと、実現は容易いからな」
そう言い放って高らかに笑声を上げると、心宿はもう一度だけこちら側を見据えて言った。
暗い野望に燃えた双眸に射抜かれて、ぶるりと身体が寒気を覚えるのがわかる。
暗い野望に燃えた双眸に射抜かれて、ぶるりと身体が寒気を覚えるのがわかる。
「――――――さあ、殺し合え生贄たちよ」
その言葉を聞くのと同時に、俺は再び意識が薄れ……、そして…………。
【草摩發春@フルーツバスケット 死亡】
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