この報告は、一つには、2002年に実施された「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する全国実態調査」の影響を受けている。学習面や行動面に著しい困難を示す児童・生徒の実態をはじめて明らかにしたのがこの時で、
特殊教育の対象となっていた障害像に、LD、ADHD、
高機能自閉症が新たに加わった。
またもう一つ、1994年に
ユネスコがスペインのサラマンカで開催した「特別ニーズ教育会議」を契機とする国際的動向の流れを受けている。同会議が採択した「
サラマンカ声明」では、特別ニーズ教育とインクル―ジョンという新しい考え方を示した。つまり、すべての子どもが教育的ニーズを有していることを前提に、教育システム全体を学習者の多様性に対応させていかなければならないとした。それによって報告では、一人一人の教育的ニーズを把握して適切な教育的支援を行うという方向性を示している。しかし、「インクル―ジョン」という言葉については触れておらず、
特別支援教育の
学校教育における位置づけが明確ではない。本来、「特別なニーズ」とは、特別支援教育の対象となる児童だけでなく、不登校、精神神経疾患、非行、
いじめ、被虐待、外国の子どもなどのうち、特別な教育的支援を要する全ての子どもが該当するが、特別支援教育においては、支援対象を「旧特殊教育制度の障害児+LD・ADHD・高機能自閉症」に狭く限定している。特別な教育支援を要する全ての子どもの学習と発達の権利保障を進めるインクル―シブ教育構築に向けた課題が残る。
(1)特別支援教育の基本的な考え方
①「個別の教育支援計画」の策定
障害のある子どもを生涯にわたって支援する観点から、一人一人のニーズを把握して、関係者・機関の連携による適切な教育的支援を効果的に行うために、教育上の指導や支援を内容とするものである。
この計画は、「障害者基本法」による「個別の支援計画」に沿ったもので、障害にわたって策定される「個別の支援計画」のうち、学校教育現場に関わるのが、「個別の教育支援計画」とされる。したがって、本来この2つは、1つの計画として機能すべきものであるが、関係機関との連携が進まず、実際には学校現場だけの問題として扱われがちである。特に、就学や卒業という移行期においての問題は依然として残っている。
②「特別支援教育コーディネーター」の配置
特別支援コーディネーターは、学内、または、福祉・医療等の関係機関との間の連絡調整役として、あるいは、保護者に対する学校の窓口の役割を担う者として学校に置かれる。このコーディネーターは、関連機関との連絡・調整役を担うことになっているが、学校内の
校務分掌に位置付られている現状では、その専門性に疑問が残る。
③広域特別支援連携協議会の設置
この協議会は、地域における総合的な教育的支援のために有効な教育、福祉、医療等の関係機関の連携協力を確保するための仕組みで、都道府県行政レベルで部局横断型の組織を設け、各地域の連携協力体制を支援する役割がある。現状では、教育委員会の閉鎖的な性格から、他分野との連携が進まない地域が多い。
(2)特別支援教育を推進する上での学校の在り方
①盲・聾・
養護学校から
特別支援学校へ
ここでは、障害の重複化や多様化を踏まえ、障害種にとらわれない学校設置を制度上可能にするとともに、地域において小・中学校等に対する教育上の支援をこれまで以上に重視し、地域の特別支援教育のセンター的役割を担う学校として「特別支援学校」を位置づけている。実際は、法律上の名前が「特別支援学校」に変化したとはいえ、以前として学校の機能は変わっていない。
②小・中学校における
特殊学級から学校としての全体的・総合的な対応へ
特殊学級や
通級による指導の制度を、通常の学級に在籍した上での必要な時間のみ「特別支援教室(仮称)」の場で特別の指導を受けることを可能とする制度に一本化することを提起している。障害のある児童生徒の教育の充実のためには、教育の場の選択肢を多くすることが望ましく、特別支援教室と
特別支援学級で柔軟に対応していく必要があると考えられる。
(3)特別支援教育体制を支える専門性の強化
国立特殊教育総合研究所、国立久里浜養護学校の役割について述べ、特殊教育教諭免許状については、障害の重度・重複化や多様化を踏まえ、総合化など制度の改善を促している。2007年に改正された「教育職員免許状」には、特別支援教育に関わる免許状の規定が盛り込まれており、障害の重度・重複化に対応し、総合的な対応のできる教員養成を目的にあげている。しかし、「個別の教育支援計画」を始めとする他機関との連携やセンター的機能を担う「特別支援学校」としての教員という観点から、どのような専門的資質が求められるのかが曖昧である。
(あ)
最終更新:2013年03月09日 15:21