Harvest Museum

むさかりくさんの作品

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1.●▲の秋


2.収穫


3.アトリエ愛


4.学園祭 (10/21 up)


学園祭
 
後に、シア=ドナースターク嬢は、楽しそうな微笑みで、<あの時>のことをこう評したという。
 
「あの時のクライスさんたら、まるで風みたいだったわね。」
 
 
 
 
 
「あ、貴女は何をしているのですか!マルローネさん!」
 勢いよく開いた扉は、バン、と音をたてて閉まった。
 侵入者はクライス。
 いつも、彼はアカデミーの問題児マルローネに対し、
「扉は静かに閉めるものですよ。」と何度となく注意をしている方なのに、今日は珍しくもそんなことは忘れたようであった。
いや、それどころではないというのが正直なところか。
 慌ただしく室内に飛び込むと、肩で息をつき荒れた呼吸のリズムをととのえる。どうやら彼はここまでわき目もふらず一心に走ってきたらしい。
 
 
 ぎりっとマルローネをにらみつけると、荒い息の下、一息にこう言いきった。
 
 
「貴女はいったい何を考えているのですか?!ご自分の立場というものを考えてみたことがありますか?貴女はこのアカデミーの講師なんですよ?
生徒の模範とならねばならないはずです!
それなのに、なんなんですか、あれは!貴女が先陣をきって行動したら、生徒だって乗せられるにきまってるじゃないですか!まったく貴女ときたら…!」
「いきなり、なに!?ちょっと落ち着いてよ。なんのことを…」
「何のことをいっているかわからない?」
 えぇい、憎々しいと顔にかいたクライスは無言で一枚の紙ぺらをマリーに向かって差し出した。
 
 
「…これ?何っ…て、あ~!これ、もう張り出されたのね。張り切って書いた甲斐があるわ!もう手書きでかくのはつかれちゃったけど。やっぱり同じ内容を何枚もかくのは時間かかるわよね。今度、生きているペンでも作ってみようかしら。一度かいたものを勝手に複写してくれるやつ。アンタはどう思う、クライ…」
「今はその話をする時間じゃありませんよ。それとも話を反らそうとなさってるんでしょうかね?それなら無駄だと申し上げておきますよ。私はこの問題が解決されるまでは貴女の前から退きませんから。」
「別に反らした訳じゃないわよ!思いついたからいっただけじゃない!」
「貴女はいつもそうですよね。少しは脳みそを使ってから言葉をくちにしては如何です?少しはしわが刻まれて、猿よりは賢くなれるかもしれませんよ。」
「アンタこそ、そのイヤミをどうにかしたら?そんなんだから生徒が怯えて、クライスには質問できないっていわれちゃうのよ!…だから」
 
「こんなことを企画したんですか?親しみをもてるようにと…?」
マリーの言葉を引き取ってクライスが続ける。
 
 
「そうよ。」
 クライスの回答に、よくできましたというような満足げな顔でマリーが首をふって肯定した。
「わかってるんじゃない!我ながら良い案だと…」
「良い案だとでも思ってるんですか!?余計なお世話というんですよ!第一、学園祭を開こうというのはいいですよ。たまにはアカデミーにも息抜きは必要でしょう。でも、なんなんですか、《クライス先生とわくわくクイズ大会♪》って出し物は!」
 
 
 クライスが先ほどマリーに示したのは学園祭のお知らせポスターだった。
このアカデミーで生徒と先生が一眼になって、一つのイベントを開こうというのである。お祭り好きのマリーが、どこかで学園祭というイベントが学舎で開かれることがあると小耳に挟んだらしく、うちでもやりたいと動いたらしい。
思いついたら即日ドルニエ、イングリドヘルミーナ達教師の了解をとりつけたというのは素晴らしい行動力だ。
その辺は賞賛に値する。
 しかし、だ。
ポスターにかかれた開催日を信じるなら、期日まではもう時間がないといっていい。
にもかかわらず、クライスは今日になるまで・・・寧ろ今日になっても何も知らされていなかった。|
これを知ったのもほとんど偶然のようなものだった。
 
 
 
 
「生徒の代表として、お聞きします。」
 
と、彼は言った。
 クライスの受け持ちの学生の一人だった。
 緊張に引き締まった顔で、彼は一枚のカラフルなデザインの紙を取り出して、クライスに差し出した。
 
「これは、本当に先生がおやりになるのですか?」
 恐る恐る、といった風情でそのカラフルな紙・・・学園祭のポスターの一角を指し示す。
そこには、《クライス先生のわくわくクイズ大会♪》とかかれている。
ご丁寧に、傍には小さくデフォルメしたクライスと思しき似顔絵があり、「豪華商品を用意してお待ちしています」と吹き出しに書かれていた。
謳い文句は「アカデミーの冷徹講師クライス先生が笑顔でお迎えしてくれます。皆で楽しくクイズしちゃおう♪」とある。
 
 
「これは、どこで・・・?」
「え・・?ご存じないのですか?アカデミーのショップのカウンターにたくさん積み重ねておかれてますよ?」
「・・・・・・・・ほう。そういうわけですか・・・。」
「クライス先生・・・?」
「わかりました。よく教えてくれました。」
「で、あの・・」
「すいませんが急用が出来ましたので、失礼させていただきますね。では」
 
 答える時間も惜しいといった風情で、でもそれだけは口にすると、クライスは一目散でカウンターへ走った。そして、ショップ店員の彼の姉アウラ、そしてイングリドら他の教師達に裏づけを取り・・・・わき目も振らずマリーのもとへと駆けて来た。
そして、彼は今、仕掛け人マリーの前にいるのである。
 
 
 
 
「私の了解も得ることなく、勝手に何を計画してらっしゃるんですか!?全く、私を雑用係とでもおもってるんですか?・・・・・都合よく使える人間だと・・・」
「そんなんじゃないったら!アンタがとっつきにくいから少しでも生徒に親しみを持ってもらえるようにと思っただけよ!」
「別に生徒に親しみを持ってもらわなくても結構です。講師にしろ教師にしろ、他にもいるんです。別にわからないことがあれば、他の教師に聞いたって問題ないでしょう。ですから、親しみを持っていただく必要はないんです。だから、クイズの司会なんてお断りします!」
クライスはまっすぐにマリーを見つめた。
「何か反論はありますか?一応聞いて差し上げてもいいですよ。」
 
 
 
「だって!」
何かをこらえるような様子で、マリーが自らの手のひらにつめを立てた。
「・・・・・・なんですか?」
「アンタ本当は優しいじゃない!」
「・・・はぁっ?」
 なにか妙なことを聞いた、といった風にクライスがぽかんと口を開ける。
予想もしていなかった答えだった。
 
「わからないことがあったら、口ではなんだかんだイヤミいうけど、丁寧にわかりやすく教えてくれるし、あたしが困ってたらやっぱりイヤミは言うけど手助けしてくれるでしょ?・・・もったいないじゃない、皆が知らないなんて。アンタはやっぱり頭はいいし、それを上手く人に伝えようとする力もあると思う・・・そりゃ、一言多いけどね?でも、生徒はアンタのことを怖い人だと思い込んで、それを知る機会に出会わないのよ。もったいないじゃない・・・」
「・・・そんな。・・・いいんですよ、別に。」
「悔しいじゃない!アンタのことを誤解させたままにするなんて!」
「・・・・マルローネさん。」
 泣きそうな顔を隠すようにそっと俯くマリーを、クライスは自分の胸に抱き寄せた。
「だから、この機会に、アンタのことを少しでも知ってもらおうと思ったのよ。・・・ねぇ、本当に駄目?」
「本当にかまわないんですよ・・・?誤解とは言い切れない部分もありますし。私は今更この性格を変えるつもりもないんです。・・・それでも?」
「あたしがイヤなの・・・。ねぇ、お願い・・・だめ?」
泣くのを我慢しているのだろう。無理をしたように震える声を出すマリーの背を、クライスはそっと何度も撫でる。
マリーの震えが収まってくるまでそれを繰り返した。
「・・・・・・・・・・・・・・・・。ふぅ。わかりました。貴方がただ面白い、というだけでやったのかと思っていましたが、そういう理由なら。負けましたよ。やってもかまいませんよ。」
「・・・本当?」
「ええ。」
 
 
 
「やったーーーーー!」
泣いていたはずのマリーが顔を上げた。
満面の笑顔だ。
慌ててクライスはマリーから身を離した。
「・・・・・・・マルローネさん!!貴方という人は、諮ったんですか!?」
「諮ってないわよ、掛け値なしの本音だもの!」
「殺し文句を・・・!」
 
 
怒るに怒れない、というやり場のない気持ちがクライスの顔に浮かんでいる。
その表情にマリーが安堵した様子で、
「じゃあ、よろしくね~♪当日楽しみにしているわよ。私も一応助手として入るから。手助けが必要なら言ってね~♪」
クライスの腕にぶら下がるように自分の腕を絡ませた。
 
 
 
 
「ほう。そうおっしゃいますか。・・・・・・・・・・・・・ところで、お聞きしたいのですが。この豪華商品の項目ですが。」
いきなり落ち着いた声を出すクライスにマリーが警戒した声で応じる。
絡めていた手をさっとクライスの腕から抜いた。
「な、なによ?」
 
 
「この豪華商品の項目、エリキシル剤、時の石版、コメート・・・その他多数。そうかいてあるのに間違いはありませんか?」
「そ、そうよ?それが何か・・・?」
「ええ。これは、もう既に用意はなさっているのでしょうか?いえ、もちろん私に今まで話していなかったことを見ると、もう当然用意も万端、当日を迎えるだけということで間違いないのですよね?ええ、勿論。」
「え、え~と。その・・・あはは~。じ、実はまだコメートと時の石版が出来てなくて・・・エリキシルは漸く昨日完成したんだけどね。」
| 笑って誤魔化そうとするマリーに、クライスは追及の手を緩めなかった。
「どなたか他に依頼なさっているんですよね?学園祭までもう間がないってわかってますよね、当然。」
「う・・・うう・・・・・」
「この期に及んで、私の手を借りないとできないなんておっしゃいませんよね?」
「その・・・ご、ごめんなさい、クライス!」
「やっぱりですか!?もう、何度言えば貴女はわかるんですか!苦しいときの私頼みなんてことはいい加減に止めてくださいと!」
「わかった、わかりました~。だから、今回は助けてよ~!コメートも時の石版も時間かかるのよ~。クイズ大会の商品の目玉なのに!」
「・・・・・・後で、お説教とおしおきは覚悟なさっていてくださいね、マルローネさん。本当に、今回だけですよ。」
「は・・はぁい・・・・。お手柔らかに~。」
 
 
 
 
 
実は、笑顔で「やった」と飛び上がったマリーの目が赤く、目の端に光るものがあったことに気づいていたクライスは、マリーに聞こえない小さな声で呟いた。
「貴女がそんなんだから、私はいつも振り回されるんですよ」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
そして、学園祭までの数日間。
二人はマリーの工房にこもった。
そして、鬼のような形相のクライスが風のような速度で奮闘し、時にマリーを追いたて、時に妖精達が音を上げるまで酷使し、時に自らが人間の限界を超えそうなスピードで調合をしていたのは、工房の住人たちの悲鳴と、怒鳴り声によって近隣の住人の知ることになったという。
途中、差し入れをしたシアが、目を丸くして
「クライスさんが早すぎて目で追えないわ!・・・マリー、がんばってね」
と、小さな激励を送ったがその効果の程はわからなかった。
ただ、学園祭当日、なんとか間に合ったらしい二人が、「世界に笑顔を」と「栄養剤」と「ミスティカティ」の多重ドーピングによって何とか無事クイズ大会を終えたことと、そのクイズ大会は好評を博し、クライスと、そしてマリーの講座をとる学生が増えたこと。そしてマリーとクライスは相変わらず口喧嘩をしていることは、歴史に刻むほどのことでもない、ザールブルグの小さな出来事として記しておくとしよう。







5.詩




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コメント:
  • こんばんわ。コメントありがとうございます!
    嘘なき・・・といいつつ、半分は本気で泣いてます。
    でも、そこを嘘泣きだったことにごまかしちゃうのが、私の中のクラマリだったり。

    クイズ問題間違いなく難しそうですよね・・・(笑) -- むさかりく (2006-10-28 01:10:42)
  • 「アンタ本当は優しいじゃない!」から続くマリーさんの台詞にキュンキュンきました。なのにウソ泣きだったのね(笑)
    楽しい学園教師生活の一場面、ときめかせて頂きました!(このクイズ大会、難しい問題多そうです) -- 名無しさん (2006-10-21 19:38:40)




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