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#center(){&big(){&color(lightyellow,dodgerblue){詩歌藩国-夜のたのしみ-}}} #right(){文・画:18-00346-01:花陵:詩歌藩国} ---- 【夏の夜】  詩歌藩国の夏は短い。そして夜も。真夜中でも、明るい白夜が続くから。  気温12度。  今夜は、みな一緒に一晩歩いてすごす。一年に一度の学校行事、ナイトハイクだ。白夜が続くので、残念ながらオーロラは観測できないが、野山を歩くにはいい季節だ。  イヌクシュクとイヌクシュクの間を歩き渡り、先人に感謝をし知恵を学ぶのが目的なのだが、実際には親睦会となんら変らない。 「真夜中でも明るい、白夜のシラカバの森で~。  探してみよう~。ほのかに甘い、甘い香りの野バラ。  シダやブルーベリーに囲まれてたたずむ、北の地の野バラ~♪」  ごきげんに、歌う女生徒たち。彼女達のお目当ては、野バラを見つけること。  普通のバラは、極寒の詩歌藩国では育ちにくいのだが、「北極バラ」とも「フィンローズ」とも呼ばれるその原生種の野バラは藩国内に自生地もあり、夏になればシラカバの森の中に薄紅色の花弁をひろげた。  道すがら、友達とおしゃべりをし笑いあう。建前はあれ、友達と一晩中すごす機会などめったにあるものではない。ただ、楽しい行事だ。  引率の教師や大人もそれはわかっていて、自分達がすごした昔を思い出しつつ目を細めるのだ。事故や怪我がなく、「みなが今夜は楽しかったね。」と、眠りにつけばいいのだと。  小腹が空いたら、イヌクシュクで一休み。  持ってきた、バラの実のスープと、オープンサンドでお腹を満たす。オープンサンドを交換して食べれば、いままで以上に友達と仲良くなれた気がして、ますます楽しくなってくるだろう。 【冬の夜】  かじかんだ風が、山脈から吹き降ろす。鋭い音が耳にこだまする。氷河が裂ける音が、ピシピシと鳴る。子守唄代わりに続く。  それが、詩歌藩国の冬。長い長い、夜だ。  昔からからの習慣もあり、詩歌藩国では集団で夜を過ごすことが多い。地下のホールには人が集まり、それぞれゆったりとした時間を過ごす。 「ねぇ。ねぇ。また、ごほんを読んでくださ~い。」 母親の裾にまとわりついて、絵本を読んでとねだる子供たち。子供達のお願いにこたえて、母親は刺繍をする手を休め絵本を手に取った。刺繍は、健康祈願や邪気を払うおまじないとして、よく詩歌藩国では用いられる。絵本も、手作りのものだ。  子供の間でよく読まれているのは、神話を題材にした「へびとカメのおはなし」だ。 「へび神さま、こわーい。」とか、「へび神さま、いじわる~。」などと言いつつも、へび神さまが人気があるのは、この絵本とボン・ダンスフェスティバルのお陰なのだろう。最近、かめ神さまは子供達の間では、へび神さまに人気で押され気味だ。  私も、仕事帰りにホールによく寄る。たいていは、みなと談笑しつつお茶係りをやっている。ホールにはセルフ式ではあるが、ちょっとした軽食も販売されている。 「はーい。蜂蜜酒とホットレモネードですよー。みなさん、お茶にしましょう。  でも、子供たちはこれを飲んだら、歯を磨いてねる時間ですからねー。」 そう言って、私は用意した飲み物をロビーに集まったみなに配って歩いた。 「え~。もうちょっと~。」とか、「もう、一回よんで~。」とか、子供たちは口々に声を上げるがもういい時間なのだ。母親たちは、子供たちを寝かしつける為にそれぞれの家路に向かう。  私は、こんな時間が大切だ。  子供たちが寝静まった後は、大人たちの時間になる。&ref(sake.jpg)  リュートなど、楽器を奏でるもの。また、その演奏に聴き入るもの。または、談笑しつつカードに興ずる数人のグループなどなど。様々だ。片隅では、昨今の政治情勢について熱い意見を交わすものがいる。もっとも、蜂蜜酒やビール片手にではあるが。  みな、それぞれ長い夜を楽しんでいる。長く厳しい冬を、こうして人いきれで暖めてきたのである。  詩歌藩国の一年。 繰り返えされる、たくさんの夜。ささやかで誰もが慈しむ楽しみは、そう、いつだってみなの傍らにある。  忘れないで欲しい。
#center(){&big(){&color(lightyellow,dodgerblue){詩歌藩国-夜の楽しみ-}}} #right(){文・画:18-00346-01:花陵:詩歌藩国} ---- 【夏の夜】  詩歌藩国の夏は短い。そして夜も。真夜中でも、明るい白夜が続くから。  気温12度。  今夜は、みな一緒に一晩歩いてすごす。一年に一度の学校行事、ナイトハイクだ。白夜が続くので、残念ながらオーロラは観測できないが、野山を歩くにはいい季節だ。  イヌクシュクとイヌクシュクの間を歩き渡り、先人に感謝をし知恵を学ぶのが目的なのだが、実際には親睦会となんら変らない。 「真夜中でも明るい、白夜のシラカバの森で~。  探してみよう~。ほのかに甘い、甘い香りの野バラ。  シダやブルーベリーに囲まれてたたずむ、北の地の野バラ~♪」  ごきげんに、歌う女生徒たち。彼女達のお目当ては、野バラを見つけること。  普通のバラは、極寒の詩歌藩国では育ちにくいのだが、「北極バラ」とも「フィンローズ」とも呼ばれるその原生種の野バラは藩国内に自生地もあり、夏になればシラカバの森の中に薄紅色の花弁をひろげた。  道すがら、友達とおしゃべりをし笑いあう。建前はあれ、友達と一晩中すごす機会などめったにあるものではない。ただ、楽しい行事だ。  引率の教師や大人もそれはわかっていて、自分達がすごした昔を思い出しつつ目を細めるのだ。事故や怪我がなく、「みなが今夜は楽しかったね。」と、眠りにつけばいいのだと。  小腹が空いたら、イヌクシュクで一休み。  持ってきた、バラの実のスープと、オープンサンドでお腹を満たす。オープンサンドを交換して食べれば、いままで以上に友達と仲良くなれた気がして、ますます楽しくなってくるだろう。 【冬の夜】  かじかんだ風が、山脈から吹き降ろす。鋭い音が耳にこだまする。氷河が裂ける音が、ピシピシと鳴る。子守唄代わりに続く。  それが、詩歌藩国の冬。長い長い、夜だ。  昔からからの習慣もあり、詩歌藩国では集団で夜を過ごすことが多い。地下のホールには人が集まり、それぞれゆったりとした時間を過ごす。 「ねぇ。ねぇ。また、ごほんを読んでくださ~い。」 母親の裾にまとわりついて、絵本を読んでとねだる子供たち。子供達のお願いにこたえて、母親は刺繍をする手を休め絵本を手に取った。刺繍は、健康祈願や邪気を払うおまじないとして、よく詩歌藩国では用いられる。絵本も、手作りのものだ。  子供の間でよく読まれているのは、神話を題材にした「へびとカメのおはなし」だ。 「へび神さま、こわーい。」とか、「へび神さま、いじわる~。」などと言いつつも、へび神さまが人気があるのは、この絵本とボン・ダンスフェスティバルのお陰なのだろう。最近、かめ神さまは子供達の間では、へび神さまに人気で押され気味だ。  私も、仕事帰りにホールによく寄る。たいていは、みなと談笑しつつお茶係りをやっている。ホールにはセルフ式ではあるが、ちょっとした軽食も販売されている。 「はーい。蜂蜜酒とホットレモネードですよー。みなさん、お茶にしましょう。  でも、子供たちはこれを飲んだら、歯を磨いてねる時間ですからねー。」 そう言って、私は用意した飲み物をロビーに集まったみなに配って歩いた。 「え~。もうちょっと~。」とか、「もう、一回よんで~。」とか、子供たちは口々に声を上げるがもういい時間なのだ。母親たちは、子供たちを寝かしつける為にそれぞれの家路に向かう。  私は、こんな時間が大切だ。  子供たちが寝静まった後は、大人たちの時間になる。&ref(sake.jpg)  リュートなど、楽器を奏でるもの。また、その演奏に聴き入るもの。または、談笑しつつカードに興ずる数人のグループなどなど。様々だ。片隅では、昨今の政治情勢について熱い意見を交わすものがいる。もっとも、蜂蜜酒やビール片手にではあるが。  みな、それぞれ長い夜を楽しんでいる。長く厳しい冬を、こうして人いきれで暖めてきたのである。  詩歌藩国の一年。 繰り返えされる、たくさんの夜。ささやかで誰もが慈しむ楽しみは、そう、いつだってみなの傍らにある。  忘れないで欲しい。

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