傷害罪、傷害致死罪
傷害罪(しょうがいざい)傷害致死罪(しょうがいちしざい)は、人の身体を害する傷害行為を内容とする犯罪であり、広義には刑法第2編第27章に定める傷害の罪(刑法204条~刑法208条の2)を指し、狭義には刑法204条に規定されている傷害罪を指す。
傷害罪
法律・条文
刑法204条
保護法益
身体
主体
人
客体
人
実行行為
傷害行為
主観
故意犯
結果
結果犯、侵害犯
実行の着手
刑法204条
保護法益
身体
主体
人
客体
人
実行行為
傷害行為
主観
故意犯
結果
結果犯、侵害犯
実行の着手
既遂時期
傷害の結果が生じた時点
法定刑
15年以下の懲役又は50万円以下の罰金
未遂・予備
なし(暴行罪成立の可能性)
傷害の結果が生じた時点
法定刑
15年以下の懲役又は50万円以下の罰金
未遂・予備
なし(暴行罪成立の可能性)
保護法益
編集
本罪の保護法益は人の身体の安全である。
編集
本罪の保護法益は人の身体の安全である。
故意犯
編集
暴行とその結果の関係
編集
傷害罪は故意犯であり、傷害の結果を意図して暴行を加え、よって傷害の結果が発生した場合に傷害罪が適用されることは議論の余地はない。しかし、相手方に故意に暴行を加えたところ、意図しない結果として傷害の結果が発生した場合が問題になる。
編集
暴行とその結果の関係
編集
傷害罪は故意犯であり、傷害の結果を意図して暴行を加え、よって傷害の結果が発生した場合に傷害罪が適用されることは議論の余地はない。しかし、相手方に故意に暴行を加えたところ、意図しない結果として傷害の結果が発生した場合が問題になる。
詳細については「暴行罪#暴行とその結果の関係」を参照
傷害罪は故意犯であると同時に、暴行罪を基本犯とする結果的加重犯も含む。このような解釈は条文の文言上からはあきらかではないため、「明文なき過失犯」と呼ばれる。
傷害罪は故意犯であると同時に、暴行罪を基本犯とする結果的加重犯も含む。このような解釈は条文の文言上からはあきらかではないため、「明文なき過失犯」と呼ばれる。
このことから、暴行の故意で傷害結果を発生させ、さらに人を死亡させた場合には、後述の傷害致死罪に該当することになる。
傷害罪の未遂の問題
編集
傷害罪の未遂を処罰する規定はない。しかし有形力の行使ではある。従って、傷害の故意で傷害の結果が発生しなかった場合、犯罪不成立と考えられなくもないが、判例・通説は、暴行や脅迫を手段として用いた場合には暴行罪や脅迫罪が成立するとしている(大判昭和4年2月4日刑集8巻41頁)。一方、それらの行為によらず、無形力の行使である場合には、傷害の故意があっても犯罪不成立となる。
編集
傷害罪の未遂を処罰する規定はない。しかし有形力の行使ではある。従って、傷害の故意で傷害の結果が発生しなかった場合、犯罪不成立と考えられなくもないが、判例・通説は、暴行や脅迫を手段として用いた場合には暴行罪や脅迫罪が成立するとしている(大判昭和4年2月4日刑集8巻41頁)。一方、それらの行為によらず、無形力の行使である場合には、傷害の故意があっても犯罪不成立となる。
法定刑の引き上げ
編集
刑法等の一部を改正する法律(平成一六年一二月八日法律第一五六号)により、従来の法定刑が次のように改められた。改正法は平成17年1月1日に施行。
編集
刑法等の一部を改正する法律(平成一六年一二月八日法律第一五六号)により、従来の法定刑が次のように改められた。改正法は平成17年1月1日に施行。
傷害罪(204条)
「十年以下の懲役又は三十万円以下の罰金若しくは科料」が「十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金」に。
傷害致死罪(205条)
「二年以上の有期懲役」が「三年以上の有期懲役」に。
危険運転致死傷罪(208条の2第1項)
「十年以下の懲役」が「十五年以下の懲役」に。
なお、傷害致死罪および危険運転致死罪は裁判員の参加する裁判の対象である。
「十年以下の懲役又は三十万円以下の罰金若しくは科料」が「十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金」に。
傷害致死罪(205条)
「二年以上の有期懲役」が「三年以上の有期懲役」に。
危険運転致死傷罪(208条の2第1項)
「十年以下の懲役」が「十五年以下の懲役」に。
なお、傷害致死罪および危険運転致死罪は裁判員の参加する裁判の対象である。
律に処罰されないのか、という点が問題となる。
学説は、行為の社会的相当性によって判断する説、同意があれば基本的に違法ではないが生命に危険を生じるような傷害については違法とする説、同意傷害の場合には一律に違法性を欠くとする説などに分かれる。 判例は、保険金を詐取する目的で仲間と共謀して交通事故を起こし仲間に傷害を与えた事件で、保険金を詐取するという違法な目的のための同意は社会的に相当とはいえないので、傷害罪が成立するとした(最決昭和55年11月13日刑集34巻6号396頁)。
胎児傷害
編集
本罪の客体に関連して胎児に対する傷害をどう考えるかという問題がある。 胎児に対する傷害は堕胎罪には該当しないし、さらに傷害罪の客体でもないとすると、胎児の身体が保護されないことになるからである。
編集
本罪の客体に関連して胎児に対する傷害をどう考えるかという問題がある。 胎児に対する傷害は堕胎罪には該当しないし、さらに傷害罪の客体でもないとすると、胎児の身体が保護されないことになるからである。
これに似た問題が裁判で争われた胎児性水俣病の事件で最高裁は、胎児を母体の一部と捉え、「人」(母親)の身体の一部に危害を加えることによって、生まれてきた「人」(胎児が生まれてきた後の人)を死亡させたのだから、業務上過失致死罪が成立するとした(最決昭和63年2月29日刑集42巻2号314頁)。 これは胎児を母体の一部とした上で、母親と生まれてきた子供をともに「人」として符合させるという捉え方であるが(錯誤における法定的符合説を参照)、このような構成には批判も多く、こういったケースでは胎児に対する傷害ではなく、母親に対する傷害罪を考えればよいと主張する学説や、胎児が生まれてきた後の人についての傷害罪を考えればよいと主張する学説、法改正しない場合には不可罰であるとする学説などがある。
法定刑
編集
法定刑は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金。平成17年の刑法改正により法定刑が引き上げられた(後述)。
編集
法定刑は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金。平成17年の刑法改正により法定刑が引き上げられた(後述)。
銃や刀剣を用いて傷害を行った場合などには暴力行為等処罰ニ関スル法律によって重く処罰されるとされているが、平成17年刑法改正時にこの法律は改正されておらず、傷害罪の加重類型は長期が15年と、長期については実質に加重されない状況となっている。
傷害致死罪
編集
身体を傷害し、よって人を死亡させた場合には傷害致死罪となる(刑法205条)。法定刑は3年以上の有期懲役。 死の結果について故意がない点で殺人罪と異なり、傷害の故意(前述のように暴行の故意を含む)がある点で過失致死罪と異なる。
編集
身体を傷害し、よって人を死亡させた場合には傷害致死罪となる(刑法205条)。法定刑は3年以上の有期懲役。 死の結果について故意がない点で殺人罪と異なり、傷害の故意(前述のように暴行の故意を含む)がある点で過失致死罪と異なる。