狐の達観 ◆mtws1YvfHQ


 星空は遠く、海も遠く、されど雪山は近いそこは展望台。
 誰もいないそこは殺し合いの開催されている場所の一部とは思えないほど静かだった。
 しかし、そんな空間にも白い狐が一匹、ふらりと現れた。

「ふん…………まあまあ見栄えの良い場所じゃねえか。悪くはねえな」

 白い狐。
 真っ白い死に装束のような和服。それに狐の面。男は西東天である。
 右手にはフラグ製造機として名高きかの拡声器を持っていた。
 持っていたが、別に今使うために持っている訳ではない。
 何時でも使えるように持っているだけだった。
 もっともそれは本人に言わせれば、持っていようがいまいが同じ事、なのだろう。
 更に言ってしまえば、使おうが使わまいが同じ事、なのだろう。

「さぁて」

 そんな西東天であるが、迷っていた。
 十三階段の空段は十分にある。面白可笑しく怪奇な連中が寄って集っても良い段数はあるし、無ければ特別拘っている訳でも無しに増やせばいいだけの事。
 零崎人識に代わる代用品、世界を終わらせるための逸材を見付けられるだろうとも思っている。
 それでも迷っていたのは、

「…………どう転がる? 何が居る? 呪い名殺し名は揃い踏みか? それともそれ以上の逸材揃いか? ――理澄か出夢が……いや、木の実が居れば楽なんだが」

 一重に何が居るか。それに尽きる。
 西東天にとって、世界とは一個の物語である。
 それも例え途中経過が無限無間に分かれていようがいまいが終着点は決して変わる事のない唯一にして絶対の点に到る物語。
 物語に代役は付き物。己が死のうが代わりは出て来る。死ななかろうが結局はなるようになる。


 しかし、西東天にとって世界とは一個の物語である。それもとびきり楽しい物語。
 その物語を途中で読むのを辞めろと言うのは酷な話。
 読む事に執着しているのだから尚の事。
 もっとも、それも、

「まあどうだろうが同じ事だ」

 西東天にとって同じ事。
 拡声器のスイッチを付け、大声で誰かを呼び、誰かに殺されようと同じ事。殺されずとも同じ事。仲間になろうが同じ事。誰も来なかろうが同じ事。全て等しく同じ事。全て同じで全て等しい。
 しかし、それでも、

「…………今は、傍観とするか」

 下手手を打って後が見れなくなるより、見れるのならば見ていたいと思うのもまた人情。
 故に、普段は何も考えていない狐も考える。
 世界を読み終えられるかも知れない、機会。
 それも、その物語から追放されている身すら引き込むような物語の中。
 切っ掛けが充実していると見て申し分ないこれを、逃す手はない。

「まあ≪縁≫が合えば誰かしら来るだろうさ。誰かしらな――くっくっく」

 笑いながら足元に拡声器を置き、展望台から新しいおもちゃを見付けた子供のような目で下界を見下ろす。


 いつ面白い事が起きるだろうか?
 どこで可笑しな事が起こるだろうか?
 誰が不思議な事を起こすだろうか?

 起きないのなら、起こすのに一役買うのも面白い。
 しかし今は流されるに任せよう。時が来れば自ずと変わる。
 変わらなければ、十三階段を集めて掻き回させるのも良いかも知れない。
 それも所詮は状況次第。
 流されるままに身を任せ、全てを運命に委ねよう。そう、流されるは運命。それに尽きる。

 何をしても、何を足掻いても、何をもがいても、結末は変わらないのだから。終末は変わらないのだから。終局は変わらないのだから。結局は変わらないのだから。
 だからそう、

「――――面白きこともなき世を面白く」

 狐は呟き、小さく笑う。

「くっくっく」

 さも、犯しそうに。




【1日目/黎明/Bー6展望台】
【西東天@戯言シリーズ】
[状態]健康
[装備]拡声器(メガホン型)@現実
[道具]支給品一式、ランダム支給品(0~2)
[思考]
基本:しばし傍観
 1:面白そうなのが見えたら声を掛ける
 2:つまらなそうなら掻き回す
 3:気が向いたら十三階段を集める
[備考]
※零崎人識を探している頃~戯言遣いと出会う前からの参加です
※展望台からどこがどの程度見えるかは後の作者の方に任せます


破壊臣に墓石 時系列順 混沌は始まり、困頓はお終い
破壊臣に墓石 投下順 混沌は始まり、困頓はお終い
その男、取り扱い注意にして 西東天 狐のきまぐれ

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最終更新:2012年10月02日 08:18