偶然目が合ったので ◆mtws1YvfHQ


「はぁー、はぁー、はぁー」

 荒い息を貝木は整えていた。
 全力で無いとは言え長時間走り続けた結果である。
 場所も場所で、既に道が見える場所まで近付いているのでそれゆえの油断もあった。
 とりあえず一息付きたいと言う思いが合って、道端の茂みに隠れながら息を整えていた。
 座り込んだまま、時間は徐々に過ぎてゆく。
 五分か、十分か、二十分か、三十分か。少なくとも一時間は経っていないが、一先ず乱れていた息を整える事が出来るだけの時間は過ぎた。

「…………さて」

 立ち上がり、軽く身体に付いた草を落とす。
 足も軽く動かして十分走っていられるだろうと判断した所で、

「あまりあれを待たせるのも不味いだろうし、少しは急ぐとするか」

 と言いながら道に出た。向かうのは箱庭学園。
 早く行くのに越した事はないだろう、と身体を軽くひねった所で、

「ん?」

 貝木は顔を顰める。一瞬、目の端に光る物が見えた気がしたからだ。
 用心に越した事はない。早々に元の茂みの中に隠れ、息を殺す。
 そして光った気がした方を見ると、ズタズタの服を着た少女が闇の中から薄っすらと現れ始める所だった。
 ゆらゆらと危なっかしげに、何ともなしに足を止めながら、非常に遅いと言わざる負えない足取りでこちらの方へとゆっくりと。

「ふむ」

 と、その少女を観察しながら、

 ――手駒に出来ないか?

 貝木の頭にそんな事が渦巻いた。
 今の所は味方と言える味方はあれだけだ。増えるに越した事はない。
 そう思いながら声を掛けようと口を開き掛けたが、すぐ諦めた。
 まず一つ。
 少女の手に持っている禍々しい刀が何処となく不吉な物に見えたから。
 更にもう一つ。
 一瞬見えた目に隠しようもない狂気の色があったから。
 それにもう一つ。
 あれは言葉が通じる種類の人間ではない、と詐欺師の勘が囁いたからだ。
 以上の理由で声を掛けずに通り過ぎるのを待つ方針に決定。
 貝木は変わらず息を潜める。
 ゆっくりと時間を掛けながら、何処か虚ろで狂気な目の少女が貝木の前を通り過ぎて。

「――――――――」 
「ッ!?」


 行かない。
 突然、ぐるりと音でも出そうな具合に首を貝木の方に回したのだ。結果、少女と貝木の目が合った。
 目と目が合って一呼吸の間もなく既に貝木は逃走を開始していた。
 その後を愉しそうに口元に笑みを浮かべ、少女は刀を構えながら追い始める。



 なまじ足が速いばかりに貝木はミスを犯していた。
 相手が刀を持っているのだから隠れてやり過ごすよりも逃げ切る方が速い。
 そう思った。そう思ってしまった。

「くっ……!」

 幸い、後ろに振り向けど未だに距離は離れ、追い付かれていない。しかし離せてもいない。
 向こうは少女で刀を持っているにも関わらず、だ。
 そして段々と息が切れ始めていた。少し前に走っていた時の疲れが大した時間も休んで居られなかったために多かれ少なかれ残っていたのが理由である。
 ここで貝木は自問する。
 このままでは何時か追い付かれるかもしれない。そしてその時にはもう反抗する体力も残っていないだろう。
 ならば今からでも隠れてやり過ごすか?
 そう思いながら振り返る。答えはすぐ出た。
 無理だ、と。
 こちらは呼吸が乱れ始めているが、向こうはちっとも乱れていないし、最初に少女は追い掛けて来た時の目は、それこそ狂気に満ち溢れた異常な眼だった。
 それが今はどうだろう。
 猟犬のように相手を捉えて逃さない。そんな眼に変わっている。
 なまじ足が速いばかりに、手応えのある獲物として少女を本気にさせてしまった。そうとしか思えない。
 つまり、もう道は一つしかない。殺るか殺られるか。
 詐欺師にはあまりにも不似合いな選択肢しか残っていないのに貝木は苦笑を漏らすが仕方がない。
 道具を探る。
 そして、一本の無骨なナイフを掴み足を止めて振り返る。
 少女は既に足を止めていた。
 貝木はナイフを、少女は刀を、それぞれの武器を構えながら向かい合う。

「…………ん?」


 向かい合って数秒も経たずに貝木は奇妙な違和感を感じた。
 少女がこちらを見ていないで何か別の物を見ている。
 そんな違和感を感じて思わず少女の視線を追うとその視線は、貝木の持っている無骨なナイフに行き当たった。
 試しに左右に振って見る。
 少女の視線も左右に揺れた。

「……………………」
「……………………」

 試しに上下に振って見せると、少女の視線も上下に揺れた。
 貝木は逡巡してから決意を固め、可能な限りの力を込め、少女の後ろの方に向かって思いっ切りそのナイフを放り投げた。
 そしてそのまま少女は餌に釣られる動物のように、あまりにもあっさりと投げたナイフを追い掛けて行く。

「え?」

 一瞬あっさりと釣られて追い掛けて行く少女に、何か思い出の品だったのか、と首を傾げたが、投げたのとは正反対の方向に向けて全力で逃げる。
 この機会を逃したらもう逃げ切れる機会もないと思い逃げる。
 結局そのまま走り疲れて地面に倒れ込んでも少女が現れる事はなかった。



【1日目/黎明/A‐5】
【貝木泥舟@化物語】
[状態]疲労(大)
[装備]
[道具]支給品一式×2、ランダム支給品(1~5)
[思考]
基本:周囲を騙して生きのこる
1:しばらくの間は休む
2:箱庭学園に行き、江迎と合流できたら合流する




「うふふ」

 地面に突き刺さったナイフを拾い上げながら、少女は見た目相応の笑顔を浮かべていた。
 ナイフの名前はグリフォン・ハードカスタム。
 少女、西条玉藻の有する二つの獲物の内の片方。
 それに着いた土や草を払い落し、無骨な柄を愛おしそうに撫で、ぎらりと輝く刃を舐めるように眺め、

「うふふふふぅ」

 ついつい嬉しそうに笑顔を深めた。

「――ぁ」

 再び顔を、ぐるりと音でも立ちそうな具合に回し、小さく呻いた。
 先程まで追っていた獲物の事を思わず忘れていて、慌てて後ろに振り向いたけれど当然の如く居なかったのだ。
 つまらなそうに顔を歪める。しかし、

「……ゆらり」

 気持ちを切り替えたのか、元来た道を戻り始めた。
 新しい獲物を探す為。
 ズタズタにする物を捜す為。
 戦いに狂ったように。
 人斬りに毒されたように。
 バラバラに斬り裂くため。
 ズタズタに斬り捨てるため。
 禍々しい刀と無骨なナイフ。手に持つのは二本の凶器。しかし内にあるのは二個の狂気。
 二本の凶器と二個の狂気、四つを携える狂戦士の行く末は戦死か狂死かはたまた毒死か。それとも案外勝ち残って生き残るのか。

「ゆらぁり」

 それは全て、一向に定まらぬ彼女の行く道次第なのだろう。



【1日目/黎明/C‐5】
【西条玉藻@戯言シリーズ】
[状態]疲労(小)、毒刀・鍍による発狂状態
[装備]毒刀・鍍、グリフォン・ハードカスタム
[道具]支給品一式×2、ランダム支給品(1~3)
[思考]
 あてもなく、ぷらぷらする。
[備考]
※「クビツリハイスクール」からの参戦です。

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最終更新:2012年10月02日 08:25