障り猫逆怨み ◆mtws1YvfHQ


豪華客船の一室の扉が蹴り開かれた。

「いにゃい!」

そこには、半ば叫ぶように言いながら、血眼で船内の扉を手当たり次第に開けている女が居た。
羽川翼と言う少女で、黒い髪をした知的な少女。
の筈だったが、今はとある怪異に影響によって髪は白に染まり、猫耳など生えた、目付きの悪いコスプレ少女と化していた。あと激しい動きで胸が凄い事にもなっていた。
本人もとい、本猫は全く気にしてはいないが。

「居にゃい居にゃい居にゃい居にゃい居にゃい! 何処にも居にゃーいにゃ!」

目が覚めてから延々と、ただひたすら船内の扉を開ける事に勤めていた羽川翼――今はブラック羽川なのだが――は、最後の一つっぽい扉を開けた所でそう叫んだ。
今のブラック羽川の頭にあるのは復讐心のみ。
自分を殴り飛ばした人間への、大男への、復讐心のみで動いていた。
頭の中はそれ一つで、船の外に出たんじゃないかと言う考えは隅にも端にもありはせず、

「くっ、一体何処に…………みゃっ、みゃさか何処かから見てるんじゃにゃいだろうにゃ!?」

頭から抜け落ちていた、姿を消した能力を思い出した事で見られているんじゃなかろうかと言う疑心暗鬼を発生。
左右に顔を向けては身体を揺らして何かを避ける動作をするなど非常に怪しい光景を繰り広げ始めていた。
誰かが見たら笑いそうだが、本人はいたって真面目。それが更に笑いを誘いそうでもあった。
しかも疑心暗鬼を余所にその大男は既に砂漠を歩き回っている頃合い。
否、もしかしたら砂漠を越えて居るかも知れないような時間は過ぎていた。
それからしばらくして、ようやく居ないらしいと言う事に気付いたのか怪しい行動を辞めた。
しかし未だに居るんじゃないかという不安は抜け切らずに視線は彷徨い続けているが、

「みゃ、みゃあいい。俺は本来の目的に移るとするにゃ。だから邪魔すんじゃにゃいぞ?」

居ない相手にそう言った。
ブラック羽川本来の目的。それは、羽川翼本人のストレスを取り除く事にある。
どんな邪魔があろうと、どんな障害があろうと、どんな妨害があろうと、どんな困難があろうと、どんな混乱があろうと、どんな災害があろうと、どんな物体があろうと、手段を問わずに。
どんな友人が居ようと、どんな強敵がいようと、どんな親友が居ようと、どんな宿敵が居ようと、どんな相手が居ようと、どんな怪異が居ようと、どんな天敵が居ようと、全てを厭わずに。
何を使おうが、何を壊そうが、誰を傷付けようが、誰を殺そうが。
どんな過程だろうと、どんな方法だろうと、どんな経過だろうと、どんな結果だろうと。
ストレスさえ取り除ければそれで良いのだ。
そして、今、羽川翼のストレスの大本はただ一人。

阿良々木暦を殺す邪魔だけはするんじゃにゃいぞ!」

そう叫び、走り出す。
不意打ちされては堪らないと。
廊下を駆け抜け、ホールを駆け抜け、船内を駆け抜け、デッキを駆け抜け、

「にゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃっ……」

そこから外に向かって、

「にゃーはっはっはっはっはっはっはぁ!」

高々と、笑いながら高々と、跳び出した。
宙を浮く。
しかし忘れてはいけない。ここは豪華客船なのだ。
そしてブラック羽川は忘れていた。ここが船の上だったと言う事に。

「…………にゃ?」

デッキを駆け抜け飛び出した先に陸などない。
いや、反対側は砂漠なので陸はあると言えたが、ブラック羽川が飛び出した方は砂漠のある方向ではない。
あるのは、遠くまで水。果てなく水。つまり、海のある方に飛び出してしまったのだった。

「にゃあぁあぁーーーーーーーー!」

悲鳴を上げ、慌てて戻ろうとしても意味はない。
ただ重力に従って落ちて行き、派手な水飛沫と音を上げた。
沈み事しばらく、慌てて陸の方へと泳ぎ始めるブラック羽川だが、服が身体に張り付き動き難くなかなか陸まで行けない。
上がるまでの数分間。ただ海でバチャバチャと音を立てているだけとなった。
そして陸に上がった所で、

「はっ、はっ、はっ、はっ……はっ……はっ…………はっ…………二人とも、絶対にぶち殺してやるにゃ!」

自業自得で生まれた怨みの方向は何故か、阿良々木暦と、ブラック羽川は生憎名前は知らない大男こと、日之影空洞へと向かう事になっていた。
しかし生憎。
阿良々木暦は既に殺され、日之影空洞はアンノウン。
二人の、いやもう一人になっている相手でのストレス発散は絶望的だった。
のだが、ブラック羽川はそんな事知るよしもない。
知った所で重要でもない。
身体の主、羽川翼のストレス発散こそが至上目的なのだから。
それさえ出来れば些細な問題でしかない。

「全速全身にゃ!」

自分自身に気合を入れると、砂漠へ向けて走り始めた。
猫のように俊敏で、猫のように滑らかに。
しかし地図すら碌に見ていないブラック羽川の行く先は、誰にも分からない。



【1日目/早朝/G-2海岸付近】
【羽川翼@物語シリーズ】
[状態]ブラック羽川、体に軽度の打撲、顔に殴られた痕、ずぶ濡れ
[装備]なし
[道具]支給品一式、ランダム支給品(1~3)
[思考]
基本:ストレス発散あるのみ。
 1:絶対に阿良々木暦とあの男(日之影空洞)をぶち殺す。
 2:砂漠を越える。
[備考]
 ※化物語本編のつばさキャット内のどこかからの参戦です。
 ※全身も道具も全て海水に浸かりました。
 ※阿良々木暦が居る上、生きている前提で動き始めて居ます。



[備考]
 ※G-2の豪華客船内の扉の大半は開けたままにされています


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最終更新:2012年10月02日 08:34