いのじキャット ◆xzYb/YHTdI


 0

青春に、戯言は憑きモノだ。

 1

古びた学習塾前。
ぼくたちは、そこを目指し歩いている。
初めはどうなるかと思ったけど、何とか無事に乗り越えて行けそうだ。
油断はできないけどね。
そう言う訳で、どういう訳か安心できるのも少しの間だけで、何とも言えない災難が降りかかっていた。
不思議なことに、味方のはずの人から。

「………戯言さん。…………いえ、何でもないです」

その真宵ちゃんの目には、それこそ目に見えて分かる程の戸惑い……軽蔑の色が窺えてしまう。
ぼくの姿を見て。上半身裸のぼくを見て。ついでにいうと、
ぼくの着ていた上着を着ている以外衣服という衣服を着用していないツナギちゃんも見て。

「何だよ、真宵ちゃん。言いたいことがあるなら言った方がいいよ。今後の信頼関係に影響するよ」
「やっぱり男の人ってみんな野獣(ろりこん)だったんですね。って言おうとしてました。今まで言えずにいて申し訳なかったです」
「ははっ!いーくんも嫌われたものねぇ」
「お前の所為だろ」
「私の言った野獣についてはスルーなんですね………」
「あぁはいはい、ぼくはロリコンです。そうなんです。(棒読み)」
「なんかやけくそね」
「戯言さ」

――――――――戯言、だよ。
ついでに、そんな面白おかしく笑っていてもツナギちゃんの所為ってのは変わらないよ。
つーか、変えないでほしい。
結構切実な願いなんだけど。

「――――はぁ、まぁ私が気絶している間に何かあったのでしょうけど………」
「そんな事は無いわよ。いーくんが私を喰っただけよ」
「変なこと真宵ちゃんに吹き込むな。食ったのはツナギちゃんだろ―――――――――て何か意味合い違くない?」

一人ボケツッコミ。
何回やっても三人いる中そんなことやるのは哀しい以外何者でも無かった。
それに、ぼくって何故だか舐められてる?
そりゃ舐められるのは仕方ないけどさ。

「――――?まぁ、よく分かりませんが、よくよく考えれば、同じとはいっても、
阿良々木さんとは変態の度合いが違うから安心してくださっていいですよ。それぐらいでは私は動じません」
「え?ええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇ!」

それこそ雷でも落ちてくるのではないかというぐらいツナギちゃんは驚いていた。
…………暦くんはマジで何なんだろうね。
きっと暦くんを知った人物なら誰でも思っていいんじゃないかな。
哀川さんとは別のベクトルの驚きだ。

「何ていうか阿良々木さんは、それでいてハーレムを結成されているようですから困ります」
「―――――――――鬼畜王ね」
「確かに鬼ですけれでも」
「――?どういう意味?」

………それは何ていうジャンルだろうか。
エロカッコいい?
変態カッコいい?
なんにしても、ぼくの周りではあんまりいなかったな。
―――――――――ここで春日井さんを思い出したぼくはどうすればいいのだろう。
まぁいいか。考えても仕方ないし。


「吸血鬼。阿良々木暦さんは正にそれです。それ以外の描写が上手く出来ません。といいますか私からはそれ以上言う気は無いです」


ギャグの中にあまりに唐突な告白。
きっとあまりにいきなりすぎて驚くのも忘れている。
ちなみにツナギちゃんの反応はというと……

「ふぅん、そっ」

呆気ねぇ。
驚くほどに呆気にない。
『魔法』使いは伊達じゃないって感じなのか?
―――――それにしても吸血鬼ねぇ。

「それにしても……………疲れました………」

結構長い間真宵ちゃんとは共に行動していたが、この話題の転換さには惚れ惚れする。
何故だかぼくは流されるまま流されて、結局よく分からない雑談に講じることがあるからな。
でも今の流れでそれはあまりにも不自然だった。
けど、気にすることでも無いのか。誰でも知人の秘密を堂々と話すには抵抗があるのだろう。
今回は特別。
こんな殺し合いという中では仕方がなかったということか。

「まぁ、そうね。なんだかんだいって結構歩いたわね。私が会った場所からでも」
「なんだかんだいってほぼ5時間近く歩いているからね。仕方ないんじゃないかな。ここらへんで休憩でもするかい?」

日は徐々に明けてきて、太陽の光がぼく達を照らす。
きっと、日常系漫画やアニメなんかだったら、チュンチュンと小鳥が囀いている、なんて表現がされるのだろうか。
それが嫌というほど、皮肉なまでに似合ってしまう清々しい朝だった。

――――別にそれが嫌というわけではないけれど。
でも、休息をとるならば丁度よく節目ではあった、という感じか。

「う~ん、でも阿良々木さんがいるかもしれませんし………」
「そうは言うけどね、真宵ちゃん。いなければいないし、ここで邁進しすぎて
後でつっかえるようなら休憩した方が得策よ。というわけで私は賛成ね。―――――――そんなに気になるんだったらいーくんに学習塾行かせたら?」
「―――――――――――――へっ?」

どうしてそうなった。
そんなぼくの怪訝な視線に気がついたのか、その『理由』とやらを語り始めた。

「いや、ほら男なんだしぃ。こういうところで肉体労働しないとね!」
「…………」
「…………」
「…………」

それだけらしい。
結果的にぼくは、え?何?どういうこと?――っていう気持ちでいっぱいだった。
つまるところ、ただ楽したいだけらしい。

「けど、そういうのってツナギちゃんが行った方がいいんじゃない?」
「ん?何で?」
「いや、だからその頼もしい口でばく―――――――――」

ここで何故かツナギちゃんに口を防がれた。
そしてぼくはツナギちゃんの背丈の合わせてしゃがみこみ、ツナギちゃんは耳元でこう言ってきた。

(いーくん。ここは真宵ちゃんに口の事を言うのはあまりおすすめしないわね)
(いやでも、初めて会った時見せているじゃないか)
(あの程度ならいいけど、もしあの時のボロが出た時、後処理が大変でしょ?)
(う~ん?なんかもうばれてる気がするけど)
(気のせいよ)
(――――ふぅん)

それはともかくとして。
まぁ―――――別にいいけどね。
学習塾に行くこと自体は。
元からそんな予定だったんだし。
例えそれが先ほど考えた死亡フラグの一因になろうがぼくはいい。
そんなお約束の展開なんて、何回も起こる程神も怠慢ではないだろう。
死にたくないから、あえて豪快に。
生きていたいから、あえて傲慢に。
それでいてこそ、戯言遣い
戯言を遣い、戯言に遣われる。
自分に嘘をつき、自分を信じない。
だからこその、嫌なことは起きないという幻想にへと現実逃避。
―――――本当に戯言なんだよ、さっきから。

「うん、じゃあまぁ行ってくるよ。すぐ帰ってくると思うけど」
「―――――――――すいません」
「じゃあ私と真宵ちゃんはここで待っとくね。ここにいなかったら、『ナニカ』あったってことでよろしくね」
「はいはい、じゃあ適当な頃あいになってもぼくが帰ってこなかったらその時はよろしく」

と、ぼくが踵を学習塾跡に向けたところで、すっかり座り込んでいた真宵ちゃんが、
思い出したように急に顔をあげ、ぼくにこう言った。

「―――――――――ぁあ。ちょっと待ってください、一つ言っておくことがあります戯言さん」
「――――何?」
「先ほどは口を滑らしたせいで、話す羽目となってしまいましたが……」


「怪異にはご注意くださいね」


怪異を知ったのなら、と。
真宵ちゃんは言った。
その目はあまりに真摯で少しおかしかったのは黙っておいた方がいいだろうな、と思った。

 2

というのが、少し前の話で、今はここ。
学習塾でぼくは佇んでいる。
いや別に理由は無いけど。
なんとなく。そう、なんとなく。
けれど、時間が沢山あるわけではないので、さっさと残り言っていないところを探そうか。


札があった。
…………。
いや説明を求めているのなら本当に申し訳ないのだけど、それ以外何とも言えないのだからしょうがない。
何の変哲もなく、何の捻りもなく、何の面白みもないほどに。
あっさり、くっきり、ちゃっかり、はっきり、さっぱり、うっかり、
………こんなこと言ってると春日井さんのパクリだと思われるからこれ以上の表現はしないでおこう。
というか自重しろ、春日井さん。
閑話休題。
札自体の描写をするならば、赤い墨で何かが書かれた札。――――としか残念ながら言えない。
置いてあった場所はとある部屋の机の上。
……。
情報が足りなさすぎる。
強いて言うのであれば、怪異関係の何か。というぐらいしか思いつかない。
ここにいたという、忍野メメ。
先ほどの真宵ちゃんの警告。
たったこれだけだから、何とも云えないけど。
そう言う可能性が今のところ一番高いかな。
うん、まぁそういうことで。

ざっ、ざっ、ざっ

という走る音がしたから一回このことは忘れよう。
少なくとも、真宵ちゃんたちではないだろう。
そもそも、彼女たちがここに来る理由がない。
誰かに襲われない限りは。
なら誰だ。
好き好んでこんな廃墟に来るやつなんかいるのだろうか。
ぼくが考える中で考えられる可能性は二つ。
一つに、暦君の関係者のだれか。まぁハーレムを結成するぐらいだから、信頼はあるのだろう。ここに来てもおかしくは無い。
二つに、ただ単に偶然。走る理由は、分からない。誰かを探しているのだろうか?
そんな中、出会いは唐突に始まった。

バタンッ

おそらくぼくが閉めたドアが勢い良く開かれた。

「―――――――――へ?」
「にゃああああああああああああああああああああああああ―――――あぁ?おめぇだれにゃ」

黒い下着姿の猫が現れた。
………訂正。
黒い下着姿の白髪の猫娘が、ぼくの目の前に現れた。


 3

場面展開。
とはいっても、何も状況は変わらない。
目の前には、さっきの真庭鳳凰並にいきすぎて、ぼくには需要が理解できないコスプレ姿の女の子の姿があった。
まずは首輪。参加者の証。
微妙に髪には湿り気を感じさせ、同じく羞恥がないのか、露出狂なのか、堂々と見せる黒い下着も少し湿っている。
何故だか乾いたところは固まっているけど。そこはあまりにも関係がないので追及しないでおこう。
靴も靴下もはかないその姿は異様としか表現できなかった。

「もう一回聞くけどにゃ、にん………おめぇはだれにゃ」

そうは聞くけど、聞く気全くは無いようだ。
既に戦闘態勢。既に戦闘体勢。
だけど、ぼくにも意地というか維持というか。
とにかくさっさと退場してはいけないのだから。
先ほどと同じく、戯言を遣うのが得策………なのかな?

「まぁ、別にぼくがなんだっていいじゃないか」
「みゃあ、そうだにゃ。どうせ、すぐに死ぬからにゃ」
「だからちょっと待ってくれよ。それを決めるのはこれからさ」
「にゃんにゃ。にゃんか、はにゃすのにゃら3行いにゃいでたのむにゃ」

にゃ、しつこ過ぎる。
まぁ、いいや。
まずは先ほど鳳凰さんに話したことでも伝えておくか?
いや、それはやめた方がいいだろう。
仮にだが、鳳凰さんとこの子が合流したとなると、
ぼく、という人物が再び話題に上がってもおかしくはない。
そうなると、ぼくの戯言が戯言だってばれることが多いにあるから。
ぼくの言葉はあくまで戯言。
その場限りの、その時限定の大嘘。
そうとわかれば、ごまかされたなんてすぐに気付くだろう。
それは避けたいところだった。
だから別の話題を。
別の考えを植えつけろ。

「まず聞きたいんだけどさ。君って暦君のお知り合い?」
「――――まぁ、そうにゃるにゃ。だけど人間は殺すにゃ」

じゃあ、ぼくの考えは当たっていたということか。前半分だけだけど。
ならば話は進めやすい。

「だとしたら、いまここにいるのも暦君のことを探していたってことでOK?」
「にゃ、みゃあここに来たのは偶然にゃんだけどにゃ」

にゃ。って何だ。
たぶん声の調子的には肯定の方だろうけど。
さてと、――――――――ここからが本番だ。

「だったとしたらさ、ぼくは考えるに暦君はここにはいないはずだよ」
「にゃあぁ!?そんにゃわけにゃい!ご主人様がいて人間がいにゃいわけにゃいにゃ」
「どうしてそう言い切れるんだい?それは先入観以外何者でもないんだよ?
だってそうじゃないか。彼の特別に特殊な秘密があるじゃないか」
「にゃんだ。不死身性ってやつにゃ?」
「そうそれだよ」
「けどにゃあ。あれって意外と頼りにゃいものにゃ。このエニャジ―ドレインで殺せるにゃ」

えにゃ…エナジードレインかな?
何だろうか。頭の片隅にでも入れておこう。

「そのエナジードレイン。君以外でも使えるのかい?」
「そういう怪異にゃらにゃ」

ふむ。ようするにこの子は怪異ということか。
真宵ちゃんと同じく。
だったら、さっきの札。役に立つのか?

「だったら話は簡単だ。君以外殺せない。そんな奴を連れてきたところで意味がないじゃないか」
「―――――にゃ?」
「だって、例え心臓をナイフで刺されても、例え頭を銃火器で撃たれても、例え首が爆発しても。
死なないんじゃ意味がない。意味がなさすぎるんだよ。そんなの、主催が面白いとは思えない」

不死身だから死なない。
そんなのは間違っている。
そんな事は知っている。知ってしまっている。
あの『狐』と深く関わることになってしまったあの事件があったから。
円朽葉。
死なない少女。不死身。
そんな彼女も、確かに死んだ。
だから、阿良々木暦君だけがその例外に当てはまるなんて都合のいいことはないだろう。
だからこそ、これは正真正銘の戯言だ。

「――――――にゃあ………」
「改めて聞くけど、暦君がここにいるって確定しても言いの?」
「………」

この子は静まる。

「そもそもさ、こうやって暦君を殺そうとする動きが主催の狙いなんじゃないかな?」
「………」

この子は動かない。

「そうやってさ、誰か特定の人物を殺そうとする。そうすると必然的に邪魔する奴は出てくるよね」
「………」

この子は止まる。

「そいつを殺そうと目論むのなんて、当然だよね」
「………」

既にこの子は鎮まっている。

「なんで参加者名簿を初めから渡さないのかはぼくには不明だけどさ、そこにはしっかりと『阿良々木暦』と書いてあるはずだ」
「………」

既にこの子は動じてない。

「それは君みたいな子を動かす為にね。だけどもみんな、そんなところでウソついてるとは思わないでしょ?だから会わなくても不思議に感じる訳もない」
「………」

既にこの子は留まっている。


「それはあまりに滑稽だ
「だからぼくは君の為に言う
「殺し合い何か乗ったところで意味がない
「意味がないどころか主催に翻弄されているだけだ
「そんなのでいいのかい
「いいんだったら、それで構わない
「だけどさ、考えてみてよ、君
「君の言うとこのご主人様が何を望んでいるのかは知らない
「けれどさ、よくよく考えてみてよ
「それってさ、君に責任を転嫁させているだけなんでしょ
「そんなのご主人様が納得するとは思えない
「だって、その責任の重みを身体に預けられる人間なんでしょ
「そんな真面目な人間が人に責任なすりつけてそれで終わりでいいだなんて思えないよ
「自分の手で解決させなきゃ意味がない
「それを君は台無しにするところだったんだよ
「台無しどころか終焉だ
「もう二度と『ご主人様』が返ってくるとは思えない
「それで君は満足するのかい
「それが君の自己満足なのかい
「それが君の役目なのかい
「それが君の役割なのかい
「それが君の目的なのかい
「それが君の目標なのかい
「それが君の望むものなのかい
「それが君の臨むものなのかい
「それならそうでそれには君には決意が足りていない
「君が本気で暦君を殺そうとするのだったら、ぼくなんてさっさと殺してしまうべきだったんだ
「だってそうだろ
「ぼくが拳銃何かを隠し持っていたらどうするつもりだったんだい
「そりゃ上半身は裸だけど、できないことではないよ
「それでズガンなんてなってたらどうするつもりだったの
「ぼくが善良なる一市民で良かったね
「それはさておいて
「で、現に今、君はぼくの話を聞いて少しは疑心暗鬼になっているはずだ
「本当にこれでいいのかって
「もうこの話は3行以上話しているからね
「もはやぼくの声なんて君の耳には届いていないのかもしれないけど
「だけど、ぼくは話を続けてもらうよ
「戯言だけどね
「さて、ということで迷える子羊の君には、今までの選択肢の中に一つの選択肢をぼくからあげる
「それはね
「この殺し合いから暦君を守るという選択肢さ
「意外なのかい
「ちなみにさっきぼくの言った暦君がいないとは矛盾しているようでしてないよ
「それこそ、人は命だけじゃないんだぜ
「守るべきものは
「彼女だってそうだろう
「妹だってそうだろう
「奴隷―――だっけか、その人だってそうだろう
「後他数人の友人
「先にいうけど、この中の誰かはこの殺し合いに参加している
「だからこそぼくは少し知った風に暦君や怪異について話している訳なんだけど
「人って言うものはね、命単体よりも、精神の方が傷ついた時は致命的なんだよ
「彼女を失う、大きいよね
「大きすぎるね
「いきなり知らないところで彼女が死んでいた
「なんてさ
「そんなのは死と同義だ
「そしてそれは赤の他人が暦君を殺したと同義となるんだ
「ぼくとしてもそれだけは人ごとじゃないからよくわかる
「そう言う意味ではね
「よくよく考えればまず一番に思いつかなければいけない行動なんだよ
「だって、『ご主人様』に暦君を殺してもらわなきゃ意味無いじゃないか
「甘えるのと頼むは違うんだよ
「君が甘えさせてちゃあ意味がない
「そのことに君が不満やストレスを抱えようがそんなの知ったこっちゃないよ
「それこそ君は従者だ
「主人の願いを横取りしようだなんて論外だ
「主人の成長と立ち会うのは必然だ
「それだというのに
「君はそんな無情なことをするのかい
「君は主人を裏切るなんて事するのかい
「いいや
「君にはそんなことはできない
「できるわけがないんだよ
「現に君は見ず知らずのぼくの話を無償で聞いてくれた
「それはね
「普通ならしないよ
「せめて、銃かなんかを見せつけなければできないね
「ぼくだったらしない
「だって、いつ殺されるか分からないんだぜ
「それが君の自信だろうが、何だろうが
「結果的に君はぼくを守ったのさ
「否応なしにね
「けれどね、それは君の本質的な性格からきたんだ
「少なくてもぼくはそう考えるよ
「そう言う人間しか、こういうことはできない
「こういう、いわいる極限状態って奴の中ではそれが最も深くあらわれる
「その中君はぼくを助けた
「称賛に値する行為だ
「君に拍手を称えよう
「おおっと
「話がずれてきてしまったね
「――――――で、そうそう
「だから、そんな君だから
「無情なる行為
「よりにもよって『ご主人様』に向かってそんな事が出来るわけがないのさ
「裏切るなんて行為は、ね
「ぼくの言葉をどう捉えようが君の自由だ
「君の自由、『ご主人様』は関係ない
「君の考え方の問題だ
「別に、ぼく他参加者全員殺すのだったらそれで構わない
「別に、阿良々木くんしか殺さないんだったらそれで構わない
「別に、何もする気にならないんだったらそれで構わない
「別に、暦君を守るだけに動くのだったらそれで構わない
「好きにすればいい
「君にはまだ時間がある
「ありまくりだ
「君は希望なんだ
「だけどもね、君は阿良々木暦の唯一の希望だ
「そして何より君はご主人様の唯一の光でもある


「だから、頑張れよ」


ぼくの言葉が終わる。
それと入れ替わり、沈黙が場を支配する。
無言のやり取り。
何も起こらない
何も起こさない。
ぼくは、ここからどうなるのだろうか。
分からない、分からない、分からない。
でも、もう手玉はない。
言葉の弾丸はこの子を撃ち抜けたのだろうか。


「―――――――――――にゃ」


久しぶり――――というにはあまりにも短すぎるこの声。
永遠と言っても過言ではないほど長い間聞けなかった声。
その声は、確かにぼくの許に届いた。

「にゃにゃにゃ」

「よくわかんにゃかったにゃ」

正直すぎる感想だった。
けれど、それが狙いでもあったりなかったり。
茶は濁してこそに意味がある。
混乱しているならばそれはそれでやりやすい。

「けれどにゃんとにゃくにゃらわかったにゃ」
「わかったのかよ」

「つまりあれだにゃ」
「御主人様の為に動けってことだにゃん」
「そういうことだね」
「その為には人間……阿良々木暦を守れってことにゃ」
「そういうことだね」
「だけどにゃあ、おめぇ――――いい加減名前を知りたいにゃ」
「いーさんで構わないよ」
「偽名にゃのか?」
「そう、これは戯言だ。で、君の名前は?」
「さぁあにゃ。羽川翼ってのが俺のご主人にゃ」
「ふぅん。じゃあ君のことは翼ちゃんと呼ぼう」
「ちゃん付けにゃん。――――でにゃ、それははっきり言って的外れの推論にゃ」
「はったりかい?」
「馬鹿だにゃあ、いーさん。俺にそんなはったり噛ませる脳があると思うのか?」

ねぇよなぁ。
噛ませるとしてももっとくだらないことを言うと思う。

「俺のにゃ、ご主人は人間の事が好きにゃんだ。異性的な意味でにゃ」
「ふぅん」
「だから、その彼女ってのにはにゃ。嫉妬しているんだにゃ」
「へぇ」
「だけど、それに人間は気づかにゃいせいでご主人はストレスがたまるんだ」
「ほぉ」
「だから、その根源にある人間を殺さにゃきゃ永遠にご主人は帰ってこにゃいにゃ」
「――――」
「別にいーさんのにゃ、意見は間違ってるにゃんて言わにゃいにゃ。ていうか分からない」
「…………」
「けどにゃ、阿良々木暦は俺が殺さにゃきゃいけにゃい人物にゃんだ!!」

それは叫び。
それは響く。
部屋に、建物に、会場に、世界に、そしてぼくの心に。
なんてね、戯言だ。

「ふぅん。けどさ、話をひっくり返すようで悪いんだけどさ」
「―――にゃんだ」

あきらかに、イラつきが混じってるね。
ぼくって嫌われてるのかな。

「それってさ、翼ちゃんに甘えてさ、勝手に負けてるだけだよね。そのご主人様、『翼ちゃん』てさ」
「にゃあぁ!?」
「だってさ、ようやく翼ちゃんがさどういう怪異か、って理解でき始めたころだけどさ。
『翼ちゃん』は、ストレスを解放したいが為に翼ちゃんを呼んだ。違うかい?あとさっきも言ったけど甘えると頼るは違うよ」
「――――そうだにゃ」
「別にさ、ぼくが色恋沙汰事情に強いかっていったらそうでもないけど。むしろ疎いって言われるけどさ。
でもさ、これだけは分かるし、言わせてもらうよ。『翼ちゃん』は負け犬だ」
「にゃぁあぁっ!」

喧嘩口調。
こえぇよ。
けど、ここでひいたらDEADENDだ。

「だってそうだろ。恋ってのは、自分で掴みとらなければ意味がない。似たようなことは良く言うと思うよ」
「…」
「なのに現に『翼ちゃん』は翼ちゃんに自分のストレスを拭わせている。これは弱いよ。弱すぎる」
「……」
「だけど、さっきも言ったんだけどさ、『翼ちゃん』自体はとても強い子なんだ」
「………」
「責任を抱えられるのだから」
「…………」
「それなのに、いや、それ故に君、翼ちゃんっていう存在に甘えてしまうんだよ」
「……………」
「だけども、君は従者だ。それに従わなきゃいけない」
「………………」
「それを快く引き受ける君も君だけどさ、それってやっぱり弱いんじゃないかな」
「…………………」
「自分で解決しないことには、恋愛ってのは成り立たない」
「……………………」
「別に彼女をどこかに誘拐するでもよし、親友を無茶苦茶にしてあげるもよし、奴隷を自分のものにするもよし」
「………………………」
「方法ならあるんだ。それをしてなお甘えているのなら、それはもう仕方ないと思う」
「…………………………」
「思う存分暦君を殺せばいい」
「……………………………」
「けどきっとそんなことしてないよね。できるわけがないよね」
「………………………………」
「ならしてみろよ。させてやれよ。それでこそ恋の醍醐味だ」

ぼくでもできることなのだから。


ぼくは今、砂場にいる。
砂場で一人の青い少年を見つけた。
それが始まり。
始まりは復讐だった。
復讐だったと思う。
贖罪だったと思う。
恨みだったと思う。
逆恨みだったと思う。
八つ当たりだったと思う。
けれど、それは全部違って。
そんなのは所詮、ただの理屈で。
ただぼくは、何かをしたかっただけだ。
何かしていなければ、死んでしまいそうだった。
だから。

だからぼくは青い少年と出会った。


ぼくは今、城咲のマンションの屋上の、落下防止用のフェンスの上に座っている。
隣には、青い少女がいた。
それが終わり。
始まりは復讐だった。
復讐だったと思う。
贖罪だったと思う。
恨みだったと思う。
逆恨みだったと思う。
八つ当たりだったと思う。
けれど、それは全部違って。
そんなのは所詮、ただの理屈で。
ただぼくは、何かをしたかっただけだ。
何かしていなければ、死んでしまいそうだった。
だから。

だからぼくは青い少女と出遭った。

そこでぼくは愛の告白をしたはずだ。
そして。

そしてぼくは誓ったのだ。

いや、そんなのは本来とっくの前に終わっていて。
そんなのは確認するまでもなかったのに。
ぼく達は不器用だから。
不器用なりに、もう一度誓ったんだ。


彼女と共にあろうと。


「―――――――――――――――にゃあ」

不意に、というのも変な話だ。
今まで勝手にぼくが話していたというのに。

「確かに、それはいーさんの戯言かもしれにゃい。それはいーさんの大嘘かもしれにゃい」
「だけどにゃ。その通りだと思っちゃたにゃ」

「そうだにゃ。恋ってのはそんなものじゃにゃいはずにゃ」

「小説かにゃんか思い返すとそんな感じだったにゃん」

ご主人様は間違えてるにゃ。と翼ちゃんは言った。
全くもってはなから戯言なのにね。

「そうだにゃ。ここから全員無事に脱出させてやるにゃ。そして元の世界で、正々堂々、正真正銘告白させてやるにゃ」

これぞまさしく飴と鞭だにゃ。と翼ちゃんは言う。
彼女もまた誓ったのだ。
自分自身に。

「それはいいことだ」
「―――でもにゃあ、これじゃあいけない」
「なにかあったのかい」
「いーさんはストレスを溜めさせすぎた。はにゃしが長すぎるにゃ」

それは、朝の校長の話と似たような現象なのだろうか。
体験したことないけどあれほどきついものはあるのだろうか。

「だからさ、いーさん。ちょっと手を貸してほしいにゃ」
「どうするつもりだい」
「精力を奪わせてもらうにゃ。おはにゃしの対価として十分だとおもうんだけどにゃ」

エナジードレインと奴だろうか。
ならば、ぼくのすることは決まっている。

「どうぞ」

手を差し出した。
人の恋路を邪魔する訳にはいかないな。
哀川さんたちにそうしてもらったように。
それにここで変に反抗して殺されるようなのは遠慮したい。
まだ眠っている分ならましだと思う。

「みゃあ、潔くて助かるにゃ。―――――――でもその前に、さっき言ってた人間の仲間ってやつがどこにいるのか教えとけ」
「さぁね。案外近くにいるかもね。ヒントはここから東だ。それ以上は教えないよ。まだ君に心を許した訳じゃない」
「にゃあ………。許しとけよ、そこはにゃあ」
「そんなことできるわけがないじゃないか」



「だってぼくはロリコンだ。豊満な君のボディにはときめかない」



「だから、君には話せないな」
「……………いーさんは人間と似てるにゃ」

さきほどの真宵ちゃんと違い、そこまでショックを受けない。
これが変態の境地って奴なのかな。
嫌な境地だ。全く。

そしてぼくたちは手をつないだ。
それはまるで、喧嘩をした不良が最後にかわす握手の様に爽やかだった。
――――そんな事全くなかったが。


―――――――――――。


……………………………。


そこでぼくの意識は途切れた。
唐突な終わり方だった。
あぁあせめて一時間以内には目を覚ましたいな。
それができるかなんてぼくの知った話じゃないけどさ。
まぁいいや。とぼくは仰向けで倒れる。
一回休憩したかったところなんだ。
全くツナギちゃんは人使い荒いんだから。
そう言う訳で。どういう訳で。
意味が分からないけど。
ひんやりとして気持ちがいいし。
朦朧として気持ちよく眠れそうだし。



だから、お休みなさい。



一瞬なのか。
永遠なのか。
わからないけどぼくは眠りに就いた。

友は無事だと、いいなぁ。

そんな事を思って。


【一日目/早朝/E-3 学習塾跡の廃墟4階】
【戯言遣い@戯言シリーズ】
[状態]健康、上半身裸、就寝中、エナジードレインによる疲労(中)
[装備]
[道具]支給品一式、ランダム支給品(1~3)、お菓子多数、缶詰数個、赤墨で何か書かれた札@物語シリーズ
[思考]
基本:殺し合いをする気はないし、あの爺さんをどうにかする気もない。
 1:疲れた……
 2:友はどうしているかな
 3:翼ちゃん……まぁいいか
[備考]
※ネコソギラジカルで西東天と決着をつけた後からの参戦です。
※エナジードレインによる疲労は時間の経過とともに回復していきます。

【赤墨で何か書かれた札@物語シリーズ】
現地調達品。
なでこスネイク、直接ではないがまよいキョンシーで登場。
怪異としての霊的エネルギーをまとまらせず散らすことができるらしい。


 ☆

倒れた戯言遣いを見て、ブラック羽川は言う。

「全くみゃあ、えらく考えさせられたにゃあ」
「けどみゃあ、どうせにゃら、ご主人様も人間なんかよりもいーさんみたいなのに惚れてくれるとありがたいんだけどみゃあ」

けもみゃあ、仕方ないのかにゃ。と。
これはどういう意味での発言かは分からない。
けれども、ここに確固たる光が宿った。

皮肉なことにおそらく闇に部類するはずの戯言遣いから。

それは言い訳だった。
それは逃げ道の一つだった。
それは的を射ることのない話だった。
それは自分本位の作り話だった。
それは所詮戯言だった。

しかしだ、それはブラック羽川の行動指針に影響を犯したのだ。

そして彼女は猫特有の忍び合いでここから出る。
戯言遣いが起きないよう気遣ってのことだった。

その後彼女はひたすらに東に進んだ。

誰とも知らない阿良々木ハーレムの一員を探す旅に出かけていった。

本当の羽川はまだ目覚めない。


【1日目/早朝/E-3】
【羽川翼@物語シリーズ】
[状態]ブラック羽川、体に軽度の打撲、顔に殴られた痕、下着姿
[装備]なし
[道具]支給品一式、ランダム支給品(1~3)
[思考]
基本:阿良々木ハーレムは守る。あとはストレス発散ために使う
 1:絶対にあの男(日之影空洞)をぶち殺す。
 2:東に向かう
[備考]
 ※化物語本編のつばさキャット内のどこかからの参戦です。
 ※全身も道具も全て海水に浸かりました。
 ※阿良々木暦がいないこととされました。


 ○□

「戯言さん遅いですね」
「まぁもう少ししたら来ると思うわよ。来なかったら探せばいいだけだしね」

八九寺真宵とツナギは座り込んで休憩の真っ最中。
八九寺真宵はスーパーマーケットで漁ってきたお菓子をほうばりながら。
ツナギはそんな八九寺を愛でながら。

「しかし、お菓子と言うのはいい言葉だ。いい言葉は決してなくならない」
「誰の真似ですかツナギさん」
「いや、何でもないわよ」
「ですが何故、主催はお菓子なんて用意したんでしょうかね」
「さぁね。テンションが上がるからじゃない」
「とても特定的な理由ですね……」
「まぁでもさぁ。真宵ちゃんの知ってる場所ってあるんでしょ。なのに何で私たちには無いのかしら」
「そういえば、戯言さんと初めて会ったのは戯言さんの住居だったところらしいですよ」
「だった?」
「崩壊したらしいです」
「…………まぁ、そりゃ」
「ですが、そう思うとつくづくツナギさんのなじみがある場所がないのはおかしいですね」

どうでもいい話題に興じる二人組。
暢気であった。
既に戯言遣いは眠りについて、ブラック羽川はこちらに向かっている頃間と言うのに。
そして二人がこの後どう動くのかは、まだ分からない。



【一日目/早朝/F-4】
【八九寺真宵@物語シリーズ】
[状態]健康
[装備]
[道具]支給品一式、ランダム支給品(1~3)
[思考]
基本:殺し合いはしない
 1:休憩する
 2:ツナギさんと行動。戯言さん……
 3:ここにいたら阿良々木さんを探す
 4:あれは夢だったんでしょうか
[備考]
※傾物語終了後からの参戦です。
※真庭鳳凰の存在とツナギの全身に口が出来るには夢だったと言う事にしています。

【ツナギ@りすかシリーズ】
[状態]健康、満腹、下半身裸
[装備]
[道具]支給品一式、ランダム支給品(1~3)、お菓子多数
[思考]
基本:襲ってくる奴は食らう
 1:休憩する
 2:面白そうなので真宵ちゃんと行動
 3:真宵ちゃんとの親睦を深める
 4:タカくんとりすかちゃんがいたらそっちと合流する
 5:なんか食欲が落ちてる気がする
[備考]
※九州ツアーの最中からの参加です
※魔法の制限に気づいています(どのくらいかは、これ以降の書き手さんにお任せします) 
※処理能力の限度についてもこれ以降の書き手さんにお任せします


人は変わる、ただし一部を除く 時系列順 属性は「肉」、種類は「変態」
人は変わる、ただし一部を除く 投下順 属性は「肉」、種類は「変態」
障り猫逆怨み 羽川翼 騙物語
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最終更新:2012年10月02日 08:38