不問題 ◆mtws1YvfHQ


 バトルロワイヤル会場四隅の一端。
 A-1の病院。
 そこの屋上の扉が開き、ゆっくりと踏み出した男は、軽く周りを見渡した。

「――――ここで終わりか」

 半分以上を呆れで締められた口調で、男は言う。
 不忍の面を被った男。
 つまり、左右田右衛門左衛門である。

「不分――ここまで広い理由が全く分からないぞ……どれだけ時間が掛かった事か……」

 呆れたような口調の理由を小さくぼやき、右衛門左衛門は周囲に一応の警戒をしながら良く分からない柵――フェンスなのだが――の上に一息で飛び乗った。
 病院の元からの高さもあって、周辺を見渡すには十分。
 しかも地図上で言えば端の端にある病院。
 おおよそどこに何があるかを見るのは、中央の方にさえ目を向ければある程度は見渡せる。

「…………」

 しかし見渡せると言う事は見られる可能性もあるのだが、右衛門左衛門は気にしない。
 今の所の至上命題は、居るかも知れない否定姫を探す事。
 丹念に調べ回り過ぎたために時間が掛かり過ぎたが、それは仕方がないと言う事で。
 と言う訳で周囲を見渡し続ける右衛門左衛門だが、

「…………不居」

 右衛門左衛門は知らない。
 件の否定姫は実は位置的には殆ど真反対の場所に居るなど、知る筈もない。
 つまり危険を侵してまで探しても見付けられる筈がないのだ。

「居ないに越した事はない。が――」

 しかし生憎そんな事を知る余地もない右衛門左衛門は、一瞬口元を歪め、フェンスの上から降りた。
 念のため言っておくが内側の方に、である。
 外側に跳んでも恐らく大丈夫だろうが、右衛門左衛門にはまだ安全そうな場所でやりたい事があるのだ。
 第一目的は放送待ち。
 第二目的は物品検査。
 病院の中を念入りに調べ、その結果集めた使えそうな物の再検査。

「――さて」

 座った右衛門左衛門がまず取り出したのは一つの透明な小瓶。
 赤い液体の入った小瓶。
 中身が出る事を恐れているかのように思うほど厳重に封をされた小瓶。
 瓶の表面に張られた紙には、ただ、「浴びた者を不幸にする血」とだけ書かれた小瓶。
 ハッキリ言ってしまえば眉唾ものだ。
 だが右衛門左衛門が手に掛けた人物の中には、たったの一歩分だろうがそれが遠距離からの物であれば決して当たる事のない並々外れた幸運の持ち主がいるのだから、一概に嘘とも言えない。
 だから見付けた時、そのまま持って来たのだ。
 もっとも、誰かしらに浴びせなければ本当に効果があるか分からないのが欠点で、つまり取り出した所で本当に効果があるか何て分からないのだが。
 つまり出しても意味なんてない。
 しばらくは中に入っている血らしい液体を瓶ごと揺らしたりしながら見ていたが、仕舞った。

「次だ」

 誰に言うでもなく呟いた右衛門左衛門が次に取り出したのは、銀色に輝く小さな刃物。
 メスである。
 右衛門左衛門はメスの用途を知らない。
 だが、それでも、軽く鋭い刃物と言う事実さえあれば十分だった。
 棒手裏剣は十本あるにはあるけれども、武器が多いに越した事は無いと言う考え。
 もっとも、残念ながらメスでは肉を斬るには足りようが骨を断つには物足りない、牽制程度にしかならないだろう。
 しかしそれでも、怯ませれば良い程度の考え。
 その結果が、総数五十本にも及ぶ数のメス。
 それだけの数のメスの刃の部分に欠けや錆がないか見始めた。
 多いと思うだろう。
 だがこれは病院にある全メスの一部に過ぎない。
 病院とは時と場合によっては一回の手術でさまざまな種類のメスを使う場合があるのだから、それを考えれば驚くほどの数でもない。
 もっとも、数え切れないほどあるメスの中から使い易そうなメスを選んだので、そう言う意味では多少は限定されているとも言えるかも知れないが、それでも未だに病院内には結構な量は残っている。

「――不問題――――不問題――――不問題――――不問題――――不問題――」

 そんなメスを、軽く見るだけなので一本に十秒も掛けず、右衛門左衛門は放送を待つ。

「――不問題――――不問題――――不問題――――不問題――」

 姿を隠さずに、如何にも堂々と。
 他を気にする様子もなく、淡々と。

「――不問題――――不問題――――不問題――」

 着けた仮面の通りに忍ばず、黙々と。
 左右田右衛門左衛門はただ放送を待つ。

「――不問題――――不問題――」

 問題あらずと己に聞かせるように呟いて。
 病院の屋上で、間もなく始まる放送を待つ。

「――不問題――」

 憑かれたようにひたすら、それだけを言って。
 屋上で堂々と、メスを淡々と、呟きつつ黙々と。

「――」

 左右田右衛門左衛門は、メスを片手に顔を上げる。
 確認は途中だが、待っていた放送が、始まったのだ。



【1日目/早朝/A-1病院屋上】
【左右田右衛門左衛門@刀語】
[状態]健康
[装備]「不忍」のお面@刀語、脇差@不明、真庭忍軍の棒手裏剣×10@刀語、メス×50@現実
[道具]支給品一式、浴びると不幸になる血(真偽不明)一瓶@不明
[思考]
基本:参加者は命が無い限り殺すが、七花など勝てない相手とは戦わない。
 1:いたら姫さまを探そう。
 2:放送を聞く。
 3:近くの施設を順に見て回る。
 4:殺したと思っても気を付けておく。
[備考]
 ※死亡後からの参加です。
 ※病院は一応調べ終えています。


あの人ならきっと 時系列順 第一回放送
オオウソツキ 投下順 第一回放送
今は不忍と未だ不完全 左右田右衛門左衛門 合縁奇縁(哀縁忌縁)

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最終更新:2012年10月02日 08:52