今は不忍と未だ不完全 ◆mtws1YvfHQ
不忍の仮面を被った男が一人歩いていた。
彼の名前は不忍の左右田右衛門左衛門。
彼は現在歩きながら思う。何が悲しくて殺し合うつもりが穴の中に落とされなければならないのか、と気分は最悪に近い物だった。
それ故に足取りは重かった。
「はぁ…………」
と、彼は溜息を付きながら歩いて行く。
彼の今の所の予定では、回れるだけ地図に書いてある施設を回り、その周辺の情報を得て否定姫が、いないに超した事がないが、いれば手となり足となる。
それだけだった。
そして今はまず一番手近な場所にある一戸建てに向かっている所だった。
そんな右衛門左衛門はふと足を止める。
目的地である一戸建てが見える所まで近付いた所で、反対側の道から一人の女の姿がぼんやりと見えた。
ふむ、と右衛門左衛門は最初に考え付いたのは、
――――隠れて様子を見るか。
そう言う考えだった。
しかし、その女の目が良かったのか、極自然に一戸建ての前を通り過ぎ、右衛門左衛門に近付いて来る。
今更隠れても意味はない。そう判断を下した右衛門左衛門の方も女へと近付く。
お互いに何を言うでもなく殆ど同時に足を止め、静まり返った闇夜の中で睥睨し合う。
まずは女の方が口を開き、言った。
「こんばんわ」
と。僅かな間、沈黙が過ぎる。
そして右衛門左衛門は思わず呟いていた。
「――――不解」
「はい?」
「これから殺し合う相手に暢気に挨拶する暇があるとは、全く持って解せぬな」
そう言いながら短めの刀を鍔鳴りと共に抜き払う。
これは
球磨川禊に消された大きい物と二本でセットになっていた刀で、消された長い方は本差、今持っている方は脇差と言える。
その様を女は冷静とも冷徹とも冷酷とも言えない目でその様子をじっと見つめ、ところで、と口を開いた。
「あなたは『異常』ですか?」
見た所そう言う雰囲気ではありませんが、と続けたが、その前に右衛門左衛門の手は微かに動かしてしまっていた。
女の口から出た言葉、『異常』は、つい先程――と言っても、もうそれなりに時間は過ぎてしまっているが――聞いた物である。
右衛門左衛門の脳裏に過ぎるのは言っている全てがまるで嘘か真かハッキリしない、思考の何も読めなかったあの男、球磨川禊。
――――もしやあの男の関係者か?
思わず仮面の下で顔を微かに歪めたが、女は気付いた様子はない。
気付かれていないのなら気付かせないままの方が良い、と強引に話を進める。
「……ああそうだ、一応聞いておくが貴様の名は?」
「
黒神めだかです。あなたは? それとなぜ?」
「名は、左右田右衛門左衛門だ。それと後の質問は――不言――言うまでもない事だ。死ぬ者の名を聞いておいてやろうと言うだけの事だ」
あなたも暢気じゃないですか、と聞く黒神めだかを無視して右衛門左衛門はただ実行する。
右衛門左衛門の思考は単純明快。
何かされる前に殺す。
先の男のような落とし穴などと言う罠を二度は通じるつもりは毛頭もない。
早々に殺す。と。
「相生拳法」
「っ」
「背弄拳――!」
右衛門左衛門が言い終えた時には既にめだかの後ろに回り込み、その細首に突き刺し、横に振り払う事で血管を薙ぎ斬った。
赤い血が噴き出す。刀に付いた血を振り払いながら、少し離れる。
単に首を半分近く斬ったからと言って本当に死ぬかどうかの確認の為だ。
先の異能の男と、過去に不死身の忍びと戦った事がある右衛門左衛門ならではの経験から来た行動である。
そしてその懸念は現実となった。
めだかの首から吹き出していた血が徐々に収まり始め、少しすると完全に止まった。肉の方は蠢きながら徐々に傷を埋めて行く。
「……不死身の類か」
右衛門左衛門が小さく呟き、もう一度後ろから、今度はその背を袈裟掛けに斬る。
肉が割れ、血が噴き出すも、止まるまで然程の時間も掛からなかった。
その間もめだかは右衛門左衛門を視界に捉えようと身体と顔を動かしていたが、一向に捉えられず仕舞い。
「これは……」
「厄介だろう。それでこその背弄拳。常に後ろを取られ続けると言うのはな……しかしこちらも実に厄介だ。不死身かそれに類する者が相手ではな」
「――それでは如何しますか?」
「不心許――死ぬまで殺し切ると言う手もある。が、今は手持ちに心許ない」
「だったら?」
「逃げる」
堂々と、ちょうど黒神めだかがC-1の方を向いた時に言い放ち、右衛門左衛門はA-1の方に向かって駈け出していた。
慌ててめだかは振り返る。
逃げて行く右衛門左衛門の後ろ姿を睨み、大きく息を吸い込む。
そして、
「 跪 き な が ッ ――!」
跪きなさい、とめだかは完成された『言葉の重み』を使おうとした。言おうとした。
しかし、たった一言を言い切るよりも速く、その喉に一本の黒い棒手裏剣が突き刺さり妨げた。
それは何か不吉な物を感じ取った右衛門左衛門が予め投げていた物で、辺りの闇夜に紛れた為にめだかに突き刺さったのだ。
その手裏剣を掴み、めだかは引き抜く。
そしてもう一度、跪きなさい、と言おうと口を開くが、出るのは言葉ではなく己の血ばかりでしかない。
「ガボ……」
不機嫌そうに、もう随分と離れた場所に居る右衛門左衛門に向けて引き抜いたまま持っていた棒手裏剣を真っ直ぐ投げた。
だがそれは、何の事もないように振り返った右衛門左衛門にあっさりと受け止められただけで終わり、右衛門左衛門はそのまま暗闇の中に消えて行った。
めだかは顔を軽く顰めながらも苦々しそうに、口に溜まっていた血を道端に吐き出した。
「…………ふむ」
と呟く顔を顰めたままだが、当然の事のように喉の傷はもうない。
しばらく憮然とした表情でいたが、
「まあ、良いでしょう」
それだけ言って右衛門左衛門の行った方向には目もくれず、一戸建てに目を向けた。
めだかの頭の隅に右衛門左衛門の言った、死ぬまで殺し続けると言う手もあるが、と言う言葉が引っ掛かった故。
まるで不死身の相手を殺した事のあるような言い草だった。だから警戒しても損はない。その程度の考えでしかなかった。
めだかにとってあんな男に執着する理由はない。
目的はあくまで、自分と言う人間を完全に完璧に『完成』させる。
殺すのはあくまでついで。
わざわざ追って殺し合う意味もなければ必要もないのだから。
【1日目/黎明/B-1】
【黒神めだか@めだかボックス】
[状態]健康、めだかちゃん(改)、吸血鬼の不死性を『完成』
[装備]なし
[道具]支給品一式×2、ランダム支給品(2~6)
[思考]
基本:自分という人間を完成させる
1:色々な異能の持ち主と戦い、その能力を自分のものとする。
2:ついでに殺しておく。
3:真黒を見つけたら次は殺す。
4:左右田右衛門左衛門には警戒しておく。
5:とりあえず一戸建ての中を探索する。
[備考]
※めだかちゃん(改)ですが、時系列的には「十三組の十三人」編の終了後です。
※吸血鬼のスキルは制限により不死性以外は使用不可。
もう何度目になるか分からないが、左右田右衛門左衛門は振り返った。
一戸建てから随分と離れた所で、追い掛けて来る様子はないが念には念を入れ過ぎる事もないと。
「不来――来る様子はない、か」
とりあえず一安心といった様子で刀を鞘に仕舞いながら右衛門左衛門は呟く。
そしてもう先程まで黒神めだかから逃げ出していた事など忘れ去ったかのように、病院の続いているだろう道を向く。
もう少しで十字路に到り、そこを左に曲がって真っ直ぐ行けば病院に着くだろう。
「一戸建てを見る時間がなかった分、病院とやらで何か役に立つ物は見付かると良いが」
どうやら一戸建てを見れなかった分を病院で補おうと言う腹積もりのようだ。
もう忍ではない男は、不忍らしく堂々とした面持ちで向かう。
全ては主の為に。
そう、全ては否定姫の為に。
「…………しかし」
と、呟きながら、
「あの男と言いあの痴女と言い、変わった服を着ていたが……異国の者、と言う訳ではなさそうだし……うむ……」
右衛門左衛門は一人、首を傾げていた。
【1日目/黎明/A-2】
【左右田右衛門左衛門@刀語】
[状態]健康
[装備]「不忍」のお面@刀語、脇差@不明、真庭忍軍の棒手裏剣×10@刀語
[道具]支給品一式
[思考]
基本:参加者は命が無い限り殺すが、七花など勝てない相手とは戦わない
1:いたら姫さまを探そう。
2:近くの施設を順に見て回る。
3:殺したと思っても気を付けておく。
[備考]
※死亡後からの参加です。
最終更新:2012年10月02日 08:28