刀らしく人らしく ◆mtws1YvfHQ


「…………とがめ」

 気付けば、呟いていた。
 意識せずにそう呟いていた。
 場所は良く分からない。
 ただ適当な建物の中に入った事だけは分かっている。
 そこに一人の男の死体があった。
 そんなのは如何でも良い。

「……はぁ……」

 人間らしさを削ぎ落とし、刀らしく。
 そう言う風に育った。
 ただ、研磨に研磨を重ねて刀として。
 そう言う風になった。
 はずなのに。
 気付けばそう呟いていた。
 それはまるで、人間のように。

「………………」

 既にないはずの人間らしい部分が揺れ動いていた。
 期間にしておおよそ十一カ月。
 己の所有していた持ち主だからだろうか。
 それとも目の前で殺された筈の存在だからか。
 いやはや父親が殺した男の娘だからか。
 分からない。
 そして多分分かる事はないだろうと思う。
 だが分からないとしても、それでも確かに揺れ動き、その証として死んだ女の名前が出ていた。

「……面倒だ」

 首を振る。
 面倒だ。
 これ以上考えるのは面倒だ。
 元から頭は良くないし、回る方じゃない。
 増して今は死んだはずの人間が生き返っていて何時の間にか死んでいる。
 訳が分からない。
 誰だって、とは言わないがなかなかややこしいと思うだろう。
 だから考えるのを止める。
 短い時を共に生き、別れた女の事を考えるのを止める。
 別の事を考える。

「あー……とがめがいたって事は否定姫もいるのか?」

 一先ず、否定姫の事を。
 とがめとは少なからず、どころか死の一端すら担った女。
 しかし今は共に旅をしている女を思い出す。
 目を閉じて昔を思い出す。
 過去に浸る。

「はぁ……面倒だ」

 だが思い出すのも面倒だ。
 足元に置いていたデイパックに手を伸ばす。

「あれ?」

 中身を見るが、あると言われていた名簿がない。
 首を傾げながら何度も見直してもない。

「……あぁ」

 そう言えば鳳凰が幾つか物を抜き取っていた。
 もしかしたらその中の一つが名簿だったのかも知れない。
 しかし困った。
 そうなると否定姫が居るのか居ないのかが分からない。
 いなければ楽だが、いれば見付けないと。
 金銭面に関して言えば、どう足掻こうと頼らざる負えないのだから。
 しかし考えれば考えるほど、

「面倒だ」

 とも言ってられないのが現実。
 まずは手始めに死体が何か、と言うよりも名簿を持ってないか調べるべきか。
 とりあえず服を脱がして、

「……面倒だ」

 調べるのは面倒だから服を手で斬る。
 眉の辺りが勝手に動いた。
 遠目に見て胸元に傷があるのは気付いていたが、体を貫通するほどの傷だとは思っていなかった。
 貫通させるのは相当な力か鋭い刃物のどちらかが必要だ。
 しかも傷は胸以外にはない。
 それはつまり、最初に当たった一撃で胸を貫いた事を意味している。
 不意打ちか、はたまた実力差か分からないが、

「面倒だな、こりゃ」

 相手にすれば厄介だろう。
 と、している内に当初の目的を思い出して辺りを探るけれども何もなかった。
 こうなると面倒だが、今一番良いのは適当に見付けた奴を殺して名簿を奪い取る事だろう。
 そうと決まれば動くに限る。
 元々考えるのは苦手だ。
 何も考えずに居られた方がずっと良い。
 そう、刀は刀らしく。
 人らしさなんてあって良い訳がない。
 そんな物があったらただ錆付く。

「錆……」

 昔、錆の名を持つ剣聖と戦った。
 その時、その少し前の事を思い出す。
 言っていた。

 ――拙者は錆にまみれた折れた刀でござる。

 錆びた刀。
 そうなればどうなるか。
 錆びた刀の末路は知っている。
 折れて、捨てられ、忘れられ、消える。

「俺は、刀だ」

 だけど錆びて、折れて、捨てられ、忘れられ、消えるのを潔しとするつもりはない。
 いや、何よりも錆付くつもりもない。
 ただ刀らしく。
 善悪問わず、男女問わず、老若問わず、ただ斬る。
 そう、刀は斬る相手は選ばない。
 振るわれるがままに斬り、殺す。
 それが刀と言う物だ。

 ――拙者にときめいてもらうでござる!

 思い出す錆との戦い。
 あの時は、ときめいた。
 そしてあの時は、こっちが勝った。
 偶然にも助けられて勝った。
 とがめと一緒に、勝った。

「…………」

 そもそも錆がいるのか分からないし、いてもこんな場所で出会うかも分からないし、出会っても戦う事になるかも分からない。
 それでも、いればいたできっと戦うだろう。
 斬り合うだけだろう。
 そう、お互い刀らしく斬るために。

「虚刀流、鑢七花」

 虚刀鑢。

「いざ、参る――」



【1日目/早朝/C-3クラッシュクラシック】
【鑢七花@刀語】
[状態]健康 、りすかの血が手、服に付いています
[装備]
[道具]食糧二人分、水、筆記用具、地図
[思考]
基本:優勝し、願いを叶える
 1:最初に見付けた奴を殺して名簿を手に入れる。
[備考]
 ※時系列は本編終了後です。
 ※りすかの血に魔力が残っているかは不明です。

[Cー3クラッシュクラシック内]
 ※零崎双識の眼鏡を掛けた零崎曲識が横たえられています。
  また、眼鏡にはかなり小さく「二度目の放送後ここ」と書かれています。
 ※零崎曲識の服は斬られています。


僐物語-ヒトモノガタリ- 時系列順 狐のきまぐれ
僐物語-ヒトモノガタリ- 投下順 狐のきまぐれ
時、虚刀、学園にて 鑢七花 LOST PARADE

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最終更新:2012年10月02日 15:28