LOST PARADE ◆0UUfE9LPAQ



後ろを向いたまま、前には進めない。
進むということは、後ろに背を向けるということだ。



クラッシュクラシックを出た鑢七花は西に向かったところで一人の女と遭遇した。

「箱庭学園生徒会長黒神めだかだ」

七花が何かを言う前に先手を取るかのように黒神めだかは名乗りを上げる。
背筋を伸ばし、凜とした姿勢は七花にどこか王刀・鋸の元所有者、汽口慚愧を連想させた。

「貴様はまさかこの殺し合いに乗ってはおるまいな?」

……いや、汽口はそんな高飛車な物言いはしなかった、と七花はめだかに対する印象を訂正。
尤も、どんな印象だったところでこれから殺してしまうのだから意味はないが。

「なあ、あんた名簿は持っているよな?」

めだかの質問を無視し、現在のところの一番の目的である名簿の有無を確認する。
七花としては相手に質問する隙も与えず殺してしまいたかったのだが、今となってはかなわぬ相談だ。

「ふむ」

と短く返しためだかは七花をじっくりと、品定めするような目で見た上で、

「一応持ってはいるがなぜ貴様は持っていない?荷物を奪われたというなら話はわかるが――」
「別にいいだろ、そんなこと」

質問を更に質問で返され、ぶっきらぼうに打ち切る。
不承島を出て嘘をつくことを覚えた七花だが適当な話をでっち上げられるほどコミュニケーション能力は高くない。
かといってそのまま経緯を話してしまえば一悶着あることぐらいは予想できる。
もう会話も面倒になってきたし殺してしまおう――そう思ったそのとき、

「やはり貴様、殺し合いに乗っているな?」

疑問形の形をとってはいるが実質的には肯定形。
反論の余地を与えない、断言だった。



「まず気になったのがその袖についた血だな。自分のものならそんな位置にあるのはおかしいし返り血にしては少ない。他者を襲ったはいいが逃げられたというのが妥当だろう。
 それとやけに軽そうなデイパックだ。たまたま軽いものだけが入っていたとしても名簿だけを紛失するというのは不可解だ。
 大方、誰かと同盟を組むなり取引するなりして道具を渡し、そのとき手違いで白紙だった名簿も一緒に渡してしまった、と。奪うとするならデイパックごと奪うはずだしな。
 そして、それらの道具を渡してしまっても問題ないということはかなり腕に覚えがあり、武器を使う必要がないのだろうな。おそらく、貴様は拳士ではないか?」

どこからか取り出した、七花には見覚えのある鉄扇をばんっ!と広げ『観察』して得た結果を元に推察するめだか。
二言三言言葉を交わしただけで十中八九事実を引き当てたことに若干の驚きを覚える七花だったが、最後まで言い当てられなかったことで動揺は見せずに済んだ。

「残念ながらおれは拳士じゃねえ、剣士だ。あんたがどういうつもりでいるかは知らないが邪魔をするならたたっきるだけだ」
「その様子からして手当たり次第に殺そうと思っている戦闘狂というわけではなさそうだな、さしずめ優勝の賞品狙いといったところか?」
「だとしたらどうする?」

七花に人を殺すことに対する抵抗は一切無い。
刀として育てられたのだから、人を殺すことに躊躇するようであれば刀失格だ。
だから、「そんなことをしても無駄だ」みたいなことを言われても自分には関係ない、と受け流せると思っていた。
けれど、

哀れなことだ(......)

まさか憐憫の情をかけられるなんて思ってもみなかった。

貴様もかつてはバトルロワイアル打倒に燃える正義感の強い人間だったに決まっている(.......................................)

でも、最初は意外な反応をするものだと聞いていたが、言っていることはてんで的外れ。

想像を絶する程の重度のトラウマを負い殺し合いに乗らざるを得なくなったとしか考えられん(..........................................)

七花は汽口よりも尾張城で殺した雑魚(名前忘れた)の方に似ているんじゃないかと思い始めていた。
中身はあるのに聞いていてむかつくとはどういうことだ。
が、

「親に見捨てられたか?
「よき師に出会えなかったか?
「恋人に裏切られたか?

七花の頭の中が真っ白になる。

「安心しろ。私が更正させてや――
「ふざけるな!」

刀集めの旅の途中でもここまで激昂したことはないのではないかというほど七花は怒っていた。
三途神社での敦賀迷彩との戦いでも虚刀流を否定されて怒りはしたがこれほどではなかった。


「親に見捨てられたか?」


――まさか、親父は島流しの憂き目にあってもおれと姉ちゃんをちゃんと育ててくれた。


「よき師に出会えなかったか?」


――とんでもない、親父から教わった虚刀流は今でもおれの誇りだ。


「恋人に裏切られたか?」


――そんなことがあるわけない、とがめは今際の際におれに惚れてもいいかと聞いてくれた。


「おれのこともとがめもことも知らないおまえに更正される筋合いはねえ!」

そう、めだかは間違えたのだ。
感情が乏しい七花の数少ない大切な部分を悉く否定してしまった。
平和的解決が望めるはずもなく、戦闘――いざ尋常に、始め




「虚刀流――『薔薇』!」

二人の距離は5m程。
まずはその距離を詰めるように体重を乗せた跳び蹴りを放つ。
一方でめだかは動かない。
空手・柔道・合気道・日本拳法・ジークンドー骨法・ムエタイ――ありとあらゆる格闘技の指南を受けためだかであるが、虚刀流は初見の剣法である。
だからこそ、『反応』よりも『反射』よりも先に『観察』をしてしまう。
蹴りが自分に届きそうになったところでようやくいなす。

「なら――虚刀流『百合』!」

今度は腰の回転を加えた回し蹴り。
これもギリギリまで引きつけた上で跳んでよける。

「なるほど、手刀や足刀を刀に見立てるというわけか、無刀の剣士というのもおもしろい」
「そう言っていられるのも今のうちだ――虚刀流『石榴』から『菖蒲』まで打撃技混成接続!」

足技から手技主体に切り替えて数を使って攻撃する。
さすがに『観察』する余裕がなくなったようなので防御をすることが増えていく。

「しかし困ったな。私はいつまでもここにいるわけにはいかんのだ」
「じゃあとっとと終わらせてやるよ――虚刀流『桔梗』!」

めだかの右腕を捻り上げ、肩と肘を極めて奥義をたたき込む、はずだった。
瞬間、腕に軽い刺激が走る。

「……? ………………っ!」

めだかの右手の爪が異常とも言える程伸びていた。
疑問の後に、驚愕。
掴んでいためだかの腕を放さざるを得ない。
四肢が痛みで動かない。
頭が痛い。
目の奥にも痛みを感じる。
そして何より。
身体が――火照る。
熱い。
燃えるように。
火のように熱い。
炎の中に身を投げたような気分だ。
どさり、と地面に体をぶつける。

「ふむ、初めてで不安だったがうまくいったか」
「……おれに――何をした」
「何、デング熱に罹ってもらっただけだ。貴様のような頑強な者でも高熱・頭痛・筋肉痛・関節痛になれば動きは制限されるだろうからな」
「天狗熱……?」
「否、デング熱だ。高貴から聞いた通りだったな。病気を自在に操れるスキルというのは制圧には中々便利だ」

めだかが使ったのは本来箱庭学園保険委員長赤青黄が悪平等安心院なじみから貸し出されているスキル『五本の病爪』
オリエンテーションで球磨川禊から阿久根高貴に伝聞されたものを更に聞くだけで完成させた今のめだかの異常度を表すと言ってもいいスキル。

「見れるかどうかわからんが私には不要だから名簿は貴様にやろう。私はここにいる全ての人間を救わねばならんからな」

七花のデイパックに自分の名簿を押し込み七花に背を向ける。

「デングウイルスは蚊によって媒介されるからな、潜伏期間の問題もあるし他の者に移るということはないだろう。全て終わったら治してやるから安心するがいい」

最後にそう言い残して。
朦朧とする意識の中何も言うことができずそれを見ていた七花は恨めしげにめだかの後ろ姿を見送ることしかできず、やがて視界が真っ暗になった。



黒神めだかは振り返らない。

「余計な時間を食ってしまった。早く戦場ヶ原上級生を追いかけねばならんと言うのに」

七花のことは「ただの障害」としか感じてないかのような物言い。

「しかし他にも殺し合いに乗った者がいるかもしれんし急がねばならぬ」

東に歩みを進めてまだ見ぬ参加者に対し、説得か勧誘か制圧かどう対処すべきか考えながら。
おそらく、めだかの対応は正しいのだろう。
ただ、一つ見落としがある。
正しさを知っているだけでは正しい人間とは言い切れない。
独りぼっちの行進は続く。


【1日目/昼/C-4】
【黒神めだか@めだかボックス】
[状態]『不死身性(弱体化)』
[装備]「庶務」の腕章@めだかボックス
[道具]支給品一式×3(名簿のみ2枚)、ランダム支給品(1~7)、心渡@物語シリーズ、絶刀『鉋』@刀語、否定姫の鉄扇@刀語、シャベル@現実、アンモニア一瓶@現実
[思考]
基本:もう、狂わない
 1:戦場ヶ原ひたぎ上級生と再会し、更生させる
 2:話しても通じそうにない相手は動けない状態になってもらい、バトルロワイアルを止めることを優先
[備考]
※参戦時期は、少なくとも善吉が『敵』である間からです。
※『完成』については制限がついています。程度については後続の書き手様にお任せします。
※『不死身性』は結構弱体化しました。(少なくとも、左右田右衛門左衛門から受けた攻撃には耐えられない程度には)
ただあくまで不死身性での回復であり、素で骨折が九十秒前後で回復することはありません、少し強い一般人レベルです。
※都城王土の『人心支配』は使えるようです。
宗像形の暗器は不明です。
※黒神くじらの『凍る火柱』は「炎や氷」が具現化しない程度には使えるようです。
※戦場ヶ原ひたぎの名前、容姿、声などほとんど記憶しています。
※『五本の病爪』は症状と時間が反比例しています(程度は後続の書き手にお任せします)。また、『五本の病爪』の制限についてめだかは気付いていません。
※軽傷ならば『五本の病爪』で治せるようです。



七花の体感では数時間、実際の時間は十分足らずで意識が戻る。
めだかも気付かなかった制限――症状の持続時間。
夏風邪のような軽い症状なら数時間から一日持続するのに対し、致死率の高い病気は二分程度で自動的に治ってしまう。
ただし、治るのは症状だけでその過程で発生した出血が治ることはないし消耗した体力は戻らない。
だるさを覚える体で立ち上がる。
周りに人影は見当たらない。
めだかが去った方向は覚えているが今から追いかけたところで無駄だろう。

「くそっ!」

憤慨する。
完膚無きまでに負けた。
向こうから受けた攻撃らしい攻撃と言えばやたら長い爪で引っ掻かれただけ。
しかし、こちらの攻撃がまともに当たったかと言えばそうでもない。
手加減されていた。
はっきりとわかってしまう。
父を、虚刀流を、とがめを否定されて許せなかった、のに。

「……とりあえず欲しかった名簿は手に入ったんだから見てみるか」

怒りを一旦落ち着けて名簿を確認する。
ここに来る前の同行者、否定姫がいるか確認しなくてはならない。

「やっぱ否定姫もいるのか……探さなきゃなんねえよなぁ」

名簿に目を走らせる。
宇練や真庭忍軍などの死者がいることについてはもう疑問にすら思っていない。

「ああ、面倒だ――ん?」

名簿に鑢の文字が二つ並んでることに気付く。
そうだ、死んだはずのとがめも放送で呼ばれていたのだ。
実際に殺した真庭鳳凰はこの会場で最初に出遭って同盟を結んだ。
ならばいないと決めつけていいはずがない。
むしろ、どうして今まで気付かなかった。

「姉ちゃん……?」

紛れもなく自身が殺したはずの姉の名前が名簿にあった。

【1日目/昼/C-3】
【鑢七花@刀語】
[状態]疲労(中)、倦怠感、黒神めだかに対する怒り、七実がいることに困惑、りすかの血が手、服に付いています
[装備]
[道具]支給品一式(食料のみ二人分)
[思考]
基本:優勝し、願いを叶える
 1:否定姫もここにいるのか……面倒だ。でもそんなことより……
 2:姉ちゃんがここに……?
[備考]
 ※時系列は本編終了後です。
 ※りすかの血に魔力が残っているかは不明です。


marshmallow justice 時系列順 それは縁々と
marshmallow justice 投下順 それは縁々と
ローリンガールなロンリ―ガール 黒神めだか 不忍と不完全の再会
刀らしく人らしく 鑢七花 自己愛(事故遭)

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最終更新:2013年10月01日 09:33