正義の味方 ◆0UUfE9LPAQ


変わらずファイルを見つけた棚の前、約束の時間まで後13分。
火憐さんのところまで行かないと。
あれ…そういえば

「火憐さんには見せないつもりだけど」

万が一このファイルを見られたらどうしよう。
僕のページは別に保存してある。だからそれを見られる心配は無い…けど。

「僕一人だけのページが無かったら疑うよな…」

あえて確認してなかった僕のランダム支給品ということにしようか。
それなら僕のページが無くてもそこまで言われないだろう。

「でも僕以外にも見せちゃいけない…というか見せられない人がいっぱいいるし、いっそのこと危険人物のページは全部取ってしまおうか…」

さっき見た零崎一賊のページと他にも危険そうな人が載っているページを丁寧に引き千切る。殺したくなってっくるな…
さすがに何枚もポケットに入らないな…出てくる心配はあるけどデイパックの中に入れよう。
いっそのこと棚から適当なファイルを引っ張り出して中身を入れ替えようか、間違えないように違う色のものの方がいいな。
これでいいかな…中身は「怪異の王 キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード研究レポート」どれどれ、ページを捲る。
へぇ、吸血鬼のことなのか…火憐さんのお兄さんのこともあるし、ついでに中身も持って行こうか。
…よし、作業は全部済んだ、後は火憐さんのところに行こう。

 ~~~~~

「やあ火憐さん。とりあえず戻ってきたよ」
「お、お帰り。宗像さん」

時間は6時5分前。何もせず待つには微妙に長いので簡単にお互いの成果を報告し合う。

「私はこれとこれかな。宗像さんはどうだった?」

火憐さんが持ってきたのはDVDと一冊の本。DVDは後で見るとして、本は「よく分かる現代怪異」…怪異か。
さっきのファイルの中身を持っててよかった。ここであの参加者名簿を見せるわけにはいかないし何の成果も無しというのは言いづらいからね。

「僕はこれしか見つけられなかったよ」

そう言ってファイルを見せる。

「ふーん、そうか。じゃ早速DVDを確認するか」

そう言ってDVDコーナーへ向かおうとする火憐さん。
放送が間もなく始まることを分かっているのだろうか。殺したくなるじゃないか。

「もう1分もしないうちに放送が始まるんだから、待った方がいいと思うよ」
「あ、あちゃ、そうだった。私としたことがすっかり忘れてたよ。教えてくれてサンキューな」

わかっていなかった。というか忘れていたようだった。まったく…殺したい。
そして放送が始まる。



 ~~~~~

―実験の最中だが、放送を始める。

放送が始まった。理事長とは違う老人の声、聞いたことがない声だな…殺したい。
名簿が解禁されるが、ファイルを見てしまった僕にはほとんど意味が無い。
まずは死亡者から発表するようだ、順々に読み上げられていく。


ファイルで見た零崎一賊の一人、死んでしまったのか。
彼は限定条件付きの殺人鬼と書いてあった。
もし彼が殺人衝動を抑える方法を知っていたのなら、僕はそれを知る機会を永久に失くしてしまったことになる…

―とがめ

僕がこの会場で出会って一番に刺した彼女。
致命傷は避けたし出血も少なくなるようにしたはずだから僕の刀とは別の要因で死んだのだろうか…
火憐さんはとがめさんの名前を知らないんだっけ、特別な反応はない。

「くそっ!こんなに人が死んでるなんて!」

7人目が読み上げられた時点で火憐さんが怒鳴った。
まさか僕も6時間でこんなに死人がいるとは思わなかった。それに、まだ死亡者の読み上げは続くようだ。

阿良々木暦
―阿久根高貴

「「え」」

僕と火憐さんの声が重なった。
阿久根高貴。箱庭学園生徒会書記。
僕とはほとんど直接の関わりがなかったけど、彼も死んだのか。
それよりも―
阿良々木暦。吸血鬼。そして火憐さんのお兄さん。

「嘘…嘘だよな…」

横で火憐さんがショックを受けている。当然だろう、自分の兄が呼ばれたんだから。
返事をしてあげたいけど、ここで返事をすると禁止エリアを聞き逃す可能性がある。
殺したい…っていけないいけない、我慢しなきゃ…

―俺からも以上だ。

放送が終了した。
幸い禁止エリアはどれもここから遠い、地図に記入するだけでいいだろう。
それより今は―



「なぁ…宗像さん、兄ちゃんが死んだなんて嘘だよな?」

いつの間にか火憐さんが床に座り込んでいた。
救いを求めるような目で聞いてくる。殺したい。
だけど―

「残念だけど、放送に嘘は無いと思うよ」

僕は残酷な答えを返す。

「例えばの話、僕か火憐さんの名前が読み上げられればすぐに嘘とわかるだろう。
 逆に、目の前に誰かの死体があったとして、それが誰なのかわかっているのに、
 読み上げられなかったらそれも嘘だとわかる。
 それにこれは『実験』だ。
 どの学問の研究者にしろ、どの分野の研究者にしろ『実験』において嘘をつく
 理由も必要もどこにも無いんだよ。
 不知火理事長なら尚更だ。
 だから本当に残念だけど、君のお兄さんは
 死んでしまった…誰かに殺されてしまったんだよ」
「そ、そんな…」

火憐さんの声がどんどん小さくなっていく。殺したい。
だけどこのままにしておくわけにもいかない。

「火憐さんの持ってきたDVDを見れば、君のお兄さんや他の人を殺した人を確認できると思うけど…火憐さんは犯人をどうするつもりなんだい?」
「……ちょっとだけ考えさせてくれないか…」

そりゃそうだろう。自分の兄を殺した犯人の処遇をすぐに決められるわけがない。

「僕はDVDを見れるように準備をしてくるから、そこのソファーに座って考えるといいよ。くれぐれも建物から出ていったりしないようにね」
「いや、その心配は無いよ。結論は出した」

もう決めてしまったようだ。本当にちょっとだけだった。

「私は『正義の味方』だ!
 殺し合いなんか絶対に乗らない!
 兄ちゃんを殺した奴は許せないけど、だからといって殺しはしない!
 兄ちゃんの前まで連れてって謝らせてやる!
 他の奴らもそうだ!
 そいつらが殺した奴の前まで引っ張って謝らせる!
 そして殺し合いに乗るようなやつも!
 こんな馬鹿げたこと考えたじーさんに協力する奴ら全員!
 一人残らず私がぶっ飛ばしてハッピーエンドを迎えてやる!」

『正義の味方』なんだから!と火憐さんが所信表明を終える。
最初と変わらない正義のあり方だった。
奇麗なあり方だった。
そうだ。だから僕は彼女を守ろうと決めたんだ。
もっと彼女の正義の味方ごっこを見ていたいから―

 ~~~~~

「なぁ、宗像さん。これも電源入らないよ」

場面変わってDVDコーナー。
さっきのDVDを再生しようとしているのだが…

「僕のところもだめみたいだ…他のをあたってみよう」

今のところ二人で10台試したがどれも電源が入らない。
故障とは違うみたいだから理事長がわざとそうしたのだろう。

「あ、電源入った」

火憐さんの声がする。殺したい。
僕が使おうとしたプレーヤーは使えない。
どうやら使えるのは1台だけみたいだった、でも1台使えれば十分だ。
火憐さんのところに行く。

「使えそうかい?」
「うーん、電源が入ったはいいけど使えるようにならないんだよなー」

画面が青くはなったはいいけどそこから一向に進展しない。

「叩いたら調子よくなるかな?」

お婆ちゃんの知恵袋的なことを言ってディスプレイをバシバシ叩く火憐さん。
叩くならプレーヤーを叩けばいいのに…しかも結構音が大きい。殺したくなるなぁ…

「宗像さん、ちょっと離れてくれるか?」
「…?わかったよ」

火憐さんに言われて離れる僕。殺し…

「あちょーーーー!!」

途端、火憐さんの声と共にディスプレイがプレーヤーの上から消えた。
代わりにプレーヤーの上には火憐さんの足…が通り過ぎて行った。
そしてディスプレイが床に落ちた音。

「…は?」

火憐さんはローリングソバットを決めていた。
いやだから、なんでローリングソバット…
あまりの衝撃で殺人衝動が一時的に引っ込んでしまったみたいだ。

「あちゃ、強すぎちまった」

強すぎる、なんてものじゃないと思う。
じゃなかったらあんな重いディスプレイが5m以上先まで吹っ飛ぶものか。
それにディスプレイはプレーヤーの上に固定されてたはずだし。

「…DVD再生できなくなったけどどうするんだい?」

プレーヤーは全部調べたけど使えそうなのはこれしかなかった。
そして唯一使えそうだったプレーヤーはたった今火憐さんが破壊した。

「他あたれば使えそうなとこあるだろ!」

あっけらかんと火憐さんが言う。
誰のせいでこうなったと思ってるんだろう。
とは言っても火憐さんを責めても始まらないので地図を広げる。
DVDプレーヤーが無くてもパソコンがあれば再生できるだろう。
パソコンを置いてそうなところは…

「じゃあネットカフェか斜道郷壱郎研究施設に向かおうか」

何を研究しているかはわからないけど研究施設なんだ。
パソコンを置いていないわけがない。

「おう!早速行こうぜ!」

蹴り飛ばしたディスプレイには目もくれず出入り口へ向かう火憐さん。
少しくらい気にしたらどうなんだろう…
と、火憐さんが出入り口に入った瞬間

――ビィィィィィィィィィィィィィ

防犯ゲートがあったのだろう、けたたましい音が鳴り響く。
原因は多分あれだ、火憐さんが手に持ったままのDVD。
確かDVDは貸出用じゃなかったはず、防犯タグがついていてもおかしくない。
となるとまずい、近くに殺し合いに乗った人がいたら見つかる恐れがある。
早くここから離れた方がいいな。
走って火憐さんに追いつく。

「火憐さん、今の音で人が来るかもしれないから急いでここから離れようか」
「え?別に急ぐ必要なんてないだろ」
「だから、今の音でもし近くに殺し合いに乗った人がいたら困るだろう?」
「んなもん、私が一人残らずぶっ飛ばすから心配無いよ」
「だから一旦態勢を整えるんだよ」
「そっか、んじゃ走るぞー!」

凄いスピードで走りだす火憐さん。
結局名簿をしっかり読めなかった…後で余裕ができたら読むしかないな。
それにしてもさすがだな、僕も千刀を全部捨てないと追い越せないや。
だからといって遅れるわけにはいかない。
だって、僕は彼女を守らないといけないんだから。


【1日目/朝/F-7】
宗像形@めだかボックス】
[状態]健康 走行中
[装備]千刀・?(ツルギ)×872
[道具]支給品一式、ランダム支給品(0~2)、「参加者詳細名簿×1、危険参加者詳細名簿×1、ハートアンダーブレード研究レポート×1」
[思考]
基本:殺したいけど、死なせたくない
 0:ネットカフェか斜道郷壱郎研究施設へ向かう
 1:火憐さんを守る
 2:誰も殺さない。そのために手段は選ばない
 3:殺人衝動は隠しておく
 4:機会があれば教わったことを試したい
 5:とりあえず、殺し合いに関する裏の情報が欲しい
 6:零崎一賊の誰かと話がしたい
 7:火憐さんに参加者詳細名簿は見せない
 8:DVDを確認したい

[備考]
※生徒会視察以降から
※阿良々木暦の情報はあまり見ていないので「吸血鬼」の名を冠する『異常』持ちだと思っています
無桐伊織を除いた零崎四人の詳細な情報を把握しています
※参加者全員の顔と名前などの簡単な情報は把握しています
※危険参加者詳細名簿には少なくとも宗像形、零崎一賊、匂宮出夢のページが入っています
※上記以外の参加者の内、誰を危険人物と判断したかは後の書き手さんにおまかせします

【阿良々木火憐@物語シリーズ】
[状態]健康 走行中
[装備]
[道具]支給品一式、ランダム支給品(1~3) 、「よくわかる現代怪異@不明、バトルロワイアル死亡者DVD(1~10)@不明」
[思考]
基本:この実験をぶっ壊す。悪人はぶっ飛ばす。絶対に殺し合いには乗らない。
 0:ネットカフェか斜道郷壱郎研究施設へ向かう
 1:兄ちゃんを殺した人を見つけて兄ちゃんに謝らせる
 2:DVDを再生して、【悪】が分かれば、そいつをぶん殴る
 3:そんでもって殺した人に謝らせる
 4:白髪の女の子と合流したい
 5:本も読みてえな

※辺りに防犯ゲートのブザー音が鳴り響きました。が、そこまで大きくないため同じエリア内にいても聞こえていない可能性があります


怪異の王 キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード研究レポート@オリジナル
文字通り怪異の王にして鉄血にして熱血にして冷血の吸血鬼、キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードについての研究レポート
あくまでもハートアンダーブレードについてのことなので忍野忍になってからのことは記載されておらず、
そのため二代目の眷属である阿良々木暦についてのことは詳しく記載されていない


狐のきまぐれ 時系列順 疑心暗鬼(偽信案忌)
狐のきまぐれ 投下順 疑心暗鬼(偽信案忌)
図書館での静かな一時 阿良々木火憐 紆余曲折、あるいは猪突猛進
「鬼」そして《鬼》 宗像形 紆余曲折、あるいは猪突猛進

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2012年10月02日 15:30