「鬼」そして《鬼》 ◆mtws1YvfHQ
「殺したい」
気付けば、そんな言葉が口から漏れ出していた。
少し慌てて周りを見渡したけど、幸い火憐さんは居ないみたいだ。
危ない危ない。殺したい。
二手に分かれてるからって、油断し過ぎだ。
何も見付からないからって、暢気が過ぎる。
殺したい。
無意識とは言え、あんな事呟くなんて、火憐さんに聞かれてたらどうなってたか。
考えたくもない。殺したい。
それはそれとしても、
「……だけど本当に多いな」
本の数が多過ぎる。
閉架だから難解な物が多いだろう程度にしか思ってなかったのに、無駄に多い。殺したい。
難解な事ばかり書かれた研究書から、持っただけで崩れそうな古書と何から何まで、
「無駄に多いと言うか……殺したいと言うか……」
また言ってしまった。
周りを見渡すけど、やっぱり火憐さんはいないみたいだ。
大丈夫、か。殺したい。
さて、止めていた手を動かさないと。
「…………こんな所に僕を連れ込んだ理由は殺し合いの促進で間違いないだろう。だけど、火憐さんが連れて来られた理由が分からない」
適当に持った本は古書だった。
いらないな。殺したい。
「特別でもない、異常でもない、ただの普通の、ただの一般人を巻き込む理由が、分からない」
それこそ学園の特別や異常を集めて殺し合いをさせれば良いのに、なんで、よりにもよって一般人を連れ込んだのか。
験体名「枯れた樹海」。
異常は「殺人衝動」。
全ての道がローマに通じるように、全ての思考が殺人に通じる。殺したい。
そんな僕が衝動を堪え切れなくなれば、待っているのは屍の山。
は、流石に無いだろう。
僕より強い人間はいくらかいるだろうし。殺したい。
だけど誰も殺さずに済む事はない、と思う。
「……ん?」
一応裏の情報がなさそうだから適当に、本を選んで取ったつもりだったけど、違う。
これは、ファイルだ。
表紙を見てみよう。
「――――」
適当に引いたのに、予想以上の大当たりが出た。
参加者名簿と書かれたファイルだ。
開ける前にその辺りの本を引き抜いて中身を軽く確認する。
けど、特に何も書かれていない。殺したい。
他も引き抜いては中身を見て戻すけど、なにもなかった。
「さてと」
結局、重要そうな物はは参加者名簿以外は見付からなかった。殺したい。
近くを軽く見渡してみても、何かあると言う事はなさそうだし、
「何が書いてあるのか」
ページを開く。
最初に書かれていた名前は、
「…………誰?」
知らない人だった。
最初は都城王土か
黒神めだかのページだと思ったのに。殺したい。
念の為に次のページを見ても違う人。
ページをざっと流してようやく都城王土、ではなく黒神めだかと書かれたページに出た。
まあ、居るのは予想通りだ。
フラスコ計画。
新しい候補。
その彼女が居ない方に違和感を感じるぐらいだ。
と言うか、彼女の『異常』が何かもう分かっているみたいだ。
『異常』の名前は「完成」。
他人の『異常』を完成させる『異常』。
なるほど。殺したい。
『完全な人間』の創造と、「完成」の『異常』。
無関係ではなさそうだ。
これに彼女が乗るかどうかは完全に別問題だけど。殺したい。
「次は」
人吉善吉。
言っては何だけど、予想通りだ。
黒神めだかが居ればまずいると思った。
速い内に会いたい。殺したい。
次は、
球磨川禊。
次。
「……僕のページもあるのか」
次には丁度、僕自身の姿があった。
あるのに一瞬驚いたけど、参加してるんだから当然の事か。
詳しく見ると当然の事ながら「枯れた樹海」の異常の事も載っていた。
あまり、普段ならいざ知らず今の状況下で、知られたい事じゃない。
特に火憐さんには知られたくない。殺したい。
「――――――」
周りを確認してから、コッソリとそのページの根元から引き千切り、ポケットに仕舞う。
何時の間にか随分と後ろのページまで来ていた。
少し前に戻る途中、阿良々木の文字が目に付いた。
ただし下の名前は火燐では暦だった。
名前の横にある写真を見るけど、どう見ても男。
ファイヤーシスターズなのに男とは如何に。
と、思いきや、この人には妹が二人居るみたいだ。殺したい。
妹の一人が火燐さんと言う事か。
そのままの調子で目を下に向ける。
「――ッ!」
と、あった。
明らかに、『普通』ではありえない、『特別』か『異常』に類するだろう単語がそこに、しっかりと書かれていた。殺したい。
火憐さんに何か『特別』か『異常』の類があると思えないとすると、
「そう言う事か」
火憐さんは巻き込まれただけだ。殺したい。
そう理解する。
「吸血鬼」の名を冠する『異常』。
まさか本物の「吸血鬼」ではないだろうから、その名を冠するに足る『異常』を持った男なんだろう。殺したい。
兄に『異常』があるから、妹にも何かしらあるかも知れないと巻き込まれた。
そう考えるのが自然か。
だけど念には念を入れた方が良い。
次のページを捲る、けど違う人だった。
名前の欄に阿良々木の文字があるページを探せばいいのだから楽な事だ。殺したい。
適当にめくっただけで、あっさりと見付けた。
名前は、阿良々木火憐。
心の中で勝手に個人情報を見るのを謝りながら、見る。
けど、
「良かった……いや、この場合は彼女が生き残るために役に立つ『特別』も『異常』も無い事を嘆きべきなのか?」
『異常』な単語は何一つなかった。殺したい。
精々がファイヤーシスターズ。
良かった。
ページを捲る。
「あれ?」
けど、阿良々木の文字はなかった。
妹が居るんだから次の所に書かれてると思ったのに、予想が外れて何とも虚しい気分に襲われる。殺したい。
念のためのさっきと同じ手順で阿良々木の名前を探すけれど、ない。
もう一度探すけれど、二つしかなかった。
何度探しても同じだった。
「……どう言う事だ?」
何で一番下の妹が居ないんだろう。殺したい。
何かしら今回の事に関わっている、と言う事はないと思うけど、
「もしかして……」
その妹が今回の事に関わっているとか。
次いで、と言うよりも本命で、名前がなかったから都城王土の関わりもあるかも知れない。
いや、最悪の場合は僕以外の十三組の十二人、つまり裏の六人すらも、関わってる可能性もある。
少し考え過ぎかも知れない。
だけど、頭の片隅ぐらいには入れて置こう。殺したい。
それはそれとして、流し見た時に見付けた気になる名字の人達を見る。
零崎。
零崎人識。
零崎双識。
零崎軋識。
零崎曲識。
その中の僕を、零崎に似ていると言った、零崎軋識の詳細を見させて貰う。
探すまでもなく、当然の事のように『異常』な文字は書かれていた。殺したい。
《零崎一賊》。
忌み嫌われた殺人鬼。
『殺し名』順列3番目。
血の繋がりではなく、流血で繋がっている一族。
家族に仇なすものを老若男女人間動物植物区別なく容赦なく皆殺し。
そんなことはどうでも良い。殺したい。
それよりも、重要なことは別だ。
理由なく殺す《殺人鬼》。
零崎軋識が僕が零崎に似ていると言った意味が分かった。殺したい。
確かにこれは、似ている。
「殺人衝動」を持つ僕と、意味なく殺す《殺人鬼》の一賊。
もしかしたら、似ていると言うよりも同じなのかも知れない。
だけど違う。
唯一つだけ違いがある。
僕がまだ人を殺していない。
まだ、《殺人鬼》になってはいない。
殺したら同じになるかも知れないけど。
だけど、だからこそ、一つの希望もある。殺したい。
殺す為に生きる一賊。
殺す事で活きる殺人鬼。
殺す者に尽きる殺す者達。
それはつまり、もしかしたら、もしかしたら、もしかしたら、僕に似た衝動を抱えている人達なら、
「だから」
普段を人間生活に生きているのなら、衝動を抑えて生きて行く方法を知っているんじゃないか。
蛇の道は蛇。殺したい。
殺人鬼なら、《殺人鬼》だからこそ、衝動を何とかするコツのような物を知っている人の一人や二人居るんじゃないか。
「殺す方法」に長けていれば、「殺さない方法」に精通するように、「意味なく殺す」のならば、「意味なく殺さない」でいる方法があるんじゃないか。
意味なく殺すと言っても、堪えなければならない時もあるはずだ。
だからきっと、可能性は、なしではない。
「殺す」
会いたい。
「だから」
聞きたい。
「殺す」
話したい。
「だけど」
教えて貰いたい。
「死なせたくない」
殺したい。だけど、死なせたくない。
この矛盾を抑える方法を。
この矛盾に生きる方法を。
軋識みたいな人ばかりかも知れないけど。
話を聞いてくれる人が居ないかも知れないけど。
それでも、この矛盾の答えを、この矛盾の果てを、この矛盾の終わりを、知っている人が居るかも知れない。
僕は、殺したい。
だけど。
僕は、死なせたくない。
だけど、何時かは如何にかなるかも知れない。殺したい。
死なせたくなければ、殺さずにいられるのか。
殺したくなくとも、死なせなければならなくなるのか。
どうか、教えて下さい。
どうか、知っていて下さい。
どうか、どうか。殺したい。
零崎の名字を持った四人の個人情報をしっかりと見終わった後で、その辺りのページを見ていたら、
「――あ」
名前の欄に書かれているのは零崎ではなかったけど、女の子の詳細に零崎の事が書かれていた。
本名は、
無桐伊織。
零崎としての名前は、零崎舞織で、最も新しい零崎と言う事らしい。
覚えておこう。殺したい。
時計に目を向ける。
「あれ?」
まだまだ時間があると思ったら、もうあと十五分足らず約束の時間になりそうだった。
あんまり内容を見れなかったけど、少し早目に待ってないと心配だし仕方がないか。殺したい。
「よいしょっ、と」
立ち上がったは良いけど、参加者名簿をどうするか。
少し悩んだけど、刀と一緒に仕舞う。
これは、火憐さんには見せない方が良いかな。
軽く中身を見た段階なのに、奇声を上げて手当たり次第に火憐さんの言う正義を実行しに行きそうな相手しか居ないし、その相手が全部口だけじゃない事は、嘘が書かれてさえなければだけど、軽く見ただけで分かる時点でもう尋常じゃない。殺したい。
別の場所に移動するならしばらく見れないけど、また此処で調べる事になったらゆっくりと見る時間もあるし。
「さてと」
行かないと。殺したい。
何と無く時計を見ると、約束の時間まであと十三分だと示していた。
【1日目/早朝/F-7図書館閉架1階】
【
宗像形@めだかボックス】
[状態]健康
[装備]千刀・?(ツルギ)×872
[道具]支給品一式、ランダム支給品(0~2)、参加者詳細名簿×1、宗像形のページ×1
[思考]
基本:殺したいけど、死なせたくない
1:火憐さんと合流、そして守る
2:誰も殺さない。そのために手段は選ばない
3:殺人衝動は隠しておく
4:機会があれば教わったことを試したい
5:とりあえず、殺し合いに関する裏の情報が欲しい
6:零崎一賊の誰かと話がしたい
7:火憐さんに参加者詳細名簿は見せない
[備考]
※生徒会視察以降から
※
阿良々木暦の情報はあまり見ていないので「吸血鬼」の名を冠する『異常』持ちだと思っています
※無桐伊織を除いた零崎四人の詳細な情報を把握しています
※参加者全員の顔と名前などの簡単な情報は把握しています
最終更新:2012年10月02日 08:49