ローリンガールなロンリ―ガール ◆xR8DbSLW.w
□
「問題ない。」と呟いて
□
改めて言うと、彼は普通だった。
普通だった。
さながら空気の如く、当たり前のように
黒神めだかの隣にいた少年。
普通に弱くて。
普通に怖がりで。
普通に頑張って。
普通に悔しがり。
普通に優しくて。
普通に怒って。
普通に抗って。
普通に戦って。
普通に努力して。
普通に強くなって。
普通に人を好きになり。
普通に誰かを守りたいと思い。
だからこそ、普通に格好いい彼は――――死んだ。
いつだって挫けなかった彼は。
いつだって諦めなかった彼は。
いつだって屈しなかった彼は。
確かに目的を成し遂げた。
けれど、死んだ。
普通に勝って。
普通に負けた。
ゲームに勝って、勝負に負けた。
めだかを救うというミッションは成功した。
生きて主催者を打倒するというミッションは失敗した。
勝ったり負けたり。
何処にでもあり触れていた少年はやはり普通であり。
普通に終わる。
彼、人吉善吉の人生はそんなものであった。
□
意外なことに。
彼女、黒神めだかの激情の鎮まりは早かった。
ぺたり、といった具合に沈んでいた重い腰をあげ。
彼女はそのグルグル巻きの包帯を整えて、検分する。
彼女は瞳から流れる涙を手で乱暴に拭い、傍観する。
彼女は傍らにある親しき仲であるものを、観望する。
思い返せば、十三年間。
色々なことがあったと思う。
特に彼女の通う学校、箱庭学園に通ってからは色鮮やかな生活を送れていた。
波瀾万丈、波瀾曲折。
意気揚々、意気衝天。
果敢へと勇んでゆくその主人公の物語は褪せを見せない。
日頃常にいつだってその主人公の物語は鮮やかに魅せた。
まるで週刊少年ジャンプの如く、飽きを見せない華麗なるストーリー構成は確かに主人公の貫録だろう。
そんな彼女は、今。
視線を現実へと向ける。
決意の意思を瞳に宿して。
意識を現実へと向ける。
視線と意識を向けられた現実は、やはり変わらず殺し合い。
「バトルロワイアル」と称された馬鹿げた実験。
フラスコ計画の延長線上なのか、はたは全く違う実験なのか。
今の彼女には分からない。
分からない故に、全貌がつかめない故に、手の施しようがない。
彼女は毅然とした態度でそんな現実を、眺める。
眺めて、嘆息。そして心のうちでは燃えあがる。
「―――――さて」
さて、そんな具合で。
彼女は言葉を漏らす。
彼女は泣き喚いた後の第一声を、感慨もなく呟いた。
目の前の死体――――――――人吉善吉の死体を一瞥。
丁度肺の辺りにポッカリと開くその傷口からは、未だに生の証であった真紅の血液を惜しげなく垂れ流す。
本人の意思なんて無視して、否。この場合既に彼の意思などこの世には無いのだが。
彼女は一瞥をくれた後、一旦瞳を閉じて視界から光を失くす。
視界に広がるのは、無限の闇。
「―――――さて」
再度、退屈そうに同じことを呟き、瞳を開ける。
一度空を仰いで、薄らと浮かび上がってきている朝日へと目をやった。
そして指を、唇へと持ってきてなぞる。
「………ふ、これは善吉にしてやられたな」
思い返すは、彼。
人吉善吉の死の直前に起きた光景。
彼は決死の思いで最期の言葉を紡いだ。
彼は必至の想いで最期の行動へ移した。
その思いは、今にして振り返れば行橋未造の『異常性』をもってするまでもなく、理解出来た。
彼の思いを、彼の愛を、彼の直向きさを。
奥歯で噛みしめる、この苦痛を。
「―――――ふむ」
半ば放心にも似た心境で彼女は零す。
視線は相変わらず人吉善吉に向いており、
感動の再会にはあまりにも程遠い再会を前にして、彼女の心は確かに揺れた。
だが。
これで、乱心―――乱神したままで終わる程。
この黒神めだかは甘い存在ではなかったということだ。
彼女は無意識に思い返していた。
かの夏の日。
生徒会戦挙、書記戦。黒神くじら対志布志飛沫の戦いを。
正確に言うと、黒神くじらが発生させた『凍る火柱』という過負荷を。
体温を操る過負荷。
熱くも、寒くも、自由自在。
生憎のところ。
今の彼女にとっては、その全ての力を吸収するには叶わなかったが、
頭を冷やすことぐらいなら体現できた。
だから、彼女は徐々に落ち着き始めるに至れた。
だから、彼女は普段通りに元に戻ることに成功する。
だからこそ。
だからこそ彼女は、悲しんだ。
その人の死に。
その人の喪失に。
冷静に眼前に広がる対応して、
熱く感情は燃えあがり、その末に出でた言葉は――――。
「さすがに…………きついな」
やはりもなにも。
彼、人吉善吉の死の憂いだった。
綺麗な顔で死んでいる。
某野球漫画を揶揄するような、その端麗な死に顔に死に際は今でも彼女の脳内では再生可能なほど。
印象的で、強烈で、インパクトがあり、鮮烈で、感動的だ。
誰が何と言おうとも、彼女の心内では、絶望的な結果だろう。背徳的な結末だろう。
たとえばこれが赤の他人であればまた違っただろう。
たとえばこれが無関係者であればまた異なっただろう。
けれど生憎ながら。残念ながらそうはいかなかった。
このバトルロワイアルの台本に置いて、このイベントはそうはいかなかった。
この台本に置いての、このイベントの役割は。
『準主人公の華麗でいて感動的な幕引きと、主人公の覚醒と哀哭』
そんな一行と各々のアドリブ。
絶対的に揺るがないその結末に置いて、彼女はやはり抗う術はない。
なにも彼女は、どこぞの天才占術士じゃあるまいし、未来を読むことなど不可能だ。
彼女は彼女なりに生きた。
彼女は彼女なりに最善を尽くした。
―――それでも。
運命の前に屈した。
負けてはいないが、膝を付く。
故に、先ほどまでの泣く結果に至る。
壊れの兆しを、堂々と見せつけた。
誰に構う訳でもなく。
誰に慰めを貰う訳でもなく。
一人でに、一人の為に、ただただ泣いた。
まあそれも今では大分収まり、静かに佇んでいるのだが。
ともあれ、彼女は言葉を紡ぐ。
彼女は一人の女性の名前を発する。
先ほどまでの混乱ではそのまま殺していたかもしれない女。
遠慮、容赦、分け隔てなく、無残に貪るように殺そうとしていた女。
紫がかった長髪を振り乱し、唐突に現れて、何をしだすかと思ったら殺人を犯した。
さながら刀のように冷たく。まるで刀のように無情に。刺し殺す。
よりにもよって、目の前で。
よりにもよって、人吉善吉を。
と、彼女はそんなことを思い出していると同時に、もう一つの事柄を思い返していた。
黒神めだか(改)の時の行動を。
彼女はよりにもよって殺人を犯していた。
一人の男と、一人の女を。
一人は
阿良々木暦といったのを覚えている。
瞳を閉じれば、今でもその男の死に際を、思い返せる。
―――以下阿良々木暦之回想場面。
○
僕、阿良々木暦の人生に置いて例えば危機的状況というのは幾つも体験してきた。もしくは目撃してきた。
地獄の様な春休みの一件を筆頭に。
悪夢の如き黄金週間の件だってそうだった。
戦場ヶ原の蟹だって。
八九寺の蝸牛だって。
神原の猿だって。
千石の蛇だって。
羽川の猫の上乗せだって。
火憐ちゃんの蜂だって。
月火ちゃんの件だって。
どれも危機的状況だった。
危機的状況で絶体絶命にも似た状況だってある。
けれど、今回の話はあまりにも――――。
「………馬鹿らしいだろ」
素直にそう思った。
殺し合い? なんだそりゃ。
意味が分からん。
例えば、この件をお約束の怪異の仕業だと考えよう。
だが考えても見よう。
怪異は人の思いから成るものだ。
たとえこれが、怪異が一端を追っていたところで、根源がいるには違いないという話だ。
なんなんだよ、そりゃ。
誰がこんな悪趣味な催しを企んでんだよ。
と、程好く憤慨し、思案に暮れていると、気配を感じた。
影から、スッと。
言わずもがな僕の相棒、忍野忍だったわけなのだが。
見たところ、僕の首にも嵌っている首輪はしていないようだ。
「………どうみる、我が主様よ」
「そんな事言われも僕は困る、全然意味が分からん」
大体こんなもんアニメ化できるかよ。
ようやく僕たちの知名度もそこそこの盤石なものに成りあがったって言うのに。
深夜枠だとしても保護できないぞ。
そんなことで言い争っていると、またもや一つの気配を背後から感じた。
忍は途端として影に潜る、さっき打ち合わせた結果だ。
さすがにいきなり首輪もしていない忍を会わせるわけにはいかんだろう。
さて、そんなわけで振り返る。
そこにいたのは――――包帯ぐるぐるの女の子だった。
意味が分からなかった。
どんな時代を先駆けたファッションだよ。
けれど、僕としてもここで逃げていては流石に話にならない。
流石にそうやすやすと殺し合いを乗る訳もないだろう。
ていうか最悪どんな奴であろうと、僕は―――死なないからな。
そんな希望に満ちた能力ではないんだけど、ここまであり難いと思った機会は未だかつて、そしてこれからもないだろう。
なんてわけで
僕は歩みだし、彼女に話を掛ける。
「………よお、出会って早々悪いけど僕の名前は阿良々木暦だ」
「成程、私は黒神めだか(改)です」
改?
……ま、よく分かんないけどなんか僕には予期もしない何かがあるんだろう。
ていうか会って早々名前について突っ込めるほど僕に適応能力はない。
少なからずこんな目に遭って身心ともに結構疲れてんだよ。
でもやっぱり、やることだけはやらなきゃな。
「で、だ。黒神さん。会って早々だけど戦場ヶ原って人見なかったか?
そりゃいないに越したことはないんだけど―――――どうしても、な」
やはりこればかりは。
こればかりは無視はできないよ。
僕がいる以上………そう言う可能性だって否めない。
「いえ、私は貴方に初めて遭いました」
だが、返ってきた答えはあんまりにも当然で。
至極納得のゆくものだった。まあそりゃこんな始まって数分だ。
そもそも出会っていたら近くにいない理由も特にないだろう。
だから僕は、当たり障りの無い答えを返したつもりだった。
つもりだった。
だった。
「そうか、そりゃあ変なことき……………い、て?」
―――――――結果的に言うのであれば、つもりで終わった。
終わった。終わった?
何で。
何で。
ナンデナンデナンデ。
「な………ん…… ……?」
見れば、僕の心臓にはポッカリと穴が開いていた。
手刀。
それが見事に僕の心臓を貫く。
?
あれ………。
意識が遠のいていく。
僕が“この程度”で意識が遠くなる?
んなアホな。
けれど確かに、僕の力は徐々に抜けていき。
終いには僕の体は乱暴に背後から地面へと沈んでいく。その音はやけに小さく聞こえる。
そこで僕はようやくにして理解した―――――受け入れた。
成程。僕は―――――終わるんだ、と。
はあ、と吐けない溜息を内心で吐きながら。
僕は視線を黒神めだか(改)とやらから離し、空を仰いだ。
星がキラキラと輝き。
月光が綺麗に僕の身体を照らす。
今日は、綺麗な星空だ。
――――――月の綺麗な夜だった。
○
―――以上阿良々木暦之回想場面。
ともあれ。
確かに彼女、黒神めだかは戦場ヶ原ひたぎの名前を知っていた。
少なからず名簿で見る限りの「戦場ヶ原」は彼女しかいない。
ならば、彼女の身の周りにいた者どもが固まって参加したように、
既に亡き阿良々木暦の周辺から人を拾ったというのも頷ける話である。とりあえず黒神めだかはその様な結論に至った。
そんな風に。
考え到り、思い至り、歯軋りを鳴らす。
終いに、悶えて憤慨――――そして。
「……これは一生物の失態だな」
阿良々木暦の殺害を悔やみ、責任に潰される。
思えば、なんで彼女は洗脳されていたのか。
思えば、なんで彼女は殺人をしていたのか。
分からない、覚えていない。
けれど。それでも。
殺人を行使したのは覚えている。
そして―――――殺人した相手が人吉善吉を殺害した相手の親しき仲だったというのは目に見えていた。
知った時には既に遅い。
気付いた時には既に虚しい。
「………ッッ」
感情に任せて、近くに遇った物を殴る。そして壊す。
迸る感情は、どこまでも引き返せずに。
流されて、流されて。
漂流した先は、何処までも広がる無限の自責。
「―――はぁはぁ」
考えてみれば、阿良々木暦が死んだのは自分の意思の弱さの所為だ。
考えてみれば、戦場ヶ原ひたぎが狂ったのは自分の行いの所為だ。
考えてみれば、人吉善吉が死んだ結果になったのも自分の所為だ。
よくよく考えてみれば。
自らしっかりさえしていれば、回避できたイベントばかりだ。
なのに―――起こった。
起こったものは起こった。
「………不甲斐ないばかりだな、善吉がいなかったらどうなったことか」
と、再度。
再度大好きで、大好きな人吉善吉の死体に目をやる。
相も変わらず綺麗な死に顔。
自らを救って死んだ。
自らを庇って死んだ。
自らの失態を拭ってくれた。
自らの不覚を除いてくれた。
だからこそ。
遅くなったが、言うべきなのだろう。
言うべきなのだ。
丹精をこめて。
真心をこめて。
温かく、お別れを言う場面なのだから。
「ありがとう、善吉」
そして。
彼女は宣言するのであった。
「安心しろ、善吉。私はもう誰にも負けない。挫けない。
勿論残り私の不始末は私が拭う――――――先あたっては戦場ヶ原上級生を正してやる」
力強く、堂々と。
威風堂々。英姿颯爽。
凛っ!! として、立ちあがる。
そして、刀を拾う。
善吉を殺した凶器となったその刀を。
ついでに彼の背負っていたディパックを。
そして、彼女は。
善吉の腕から、血汚れた腕章を貰う。
『庶務』と、書かれたその緑の腕章を左腕に装着する。
いわば「一人生徒会」と呼べし時代の再構築。
庶務は死んだ。
書記は死んだ。
会計はいない。
副会長は分からない。
生徒会長は――――失格だ。
故に彼女は一から歩みだす。
故に彼女は一から立て直す。
「さあ、善吉。しばしの間――――お別れだな」
彼女は言いながら踵を返す。
そして、「主人公」黒神めだかは目覚めの時。
と、歩みに踏み切ろうと足を出した時。
彼女ははっ、と言った具合に何かを思い出したかのような表情を浮かべ、振り向かずに、善吉に告げる。
最後に。
最後に彼女……黒神めだかが、人吉善吉にかけた言葉は――――。
「善吉、貴様はよくやってくれたよ。この私に。私でもどうにもできなかったことを成し遂げてくれた」
一息。
長い長い、一息。
そして吐きだす。
特になにを思っている訳でもなく、ただ思っていたことを。
感慨もなく、平坦に、呟いた。
「ただ、『敵』に情けをかけること自体は、どうかと思うぞ」
その主人公は、正しすぎる。
正しすぎて、なにも知らない。
教えなければなにも知らない。
人吉善吉がどれだけの覚悟で戦場ヶ原ひたぎに刃を向けたのか。
人吉善吉がどれだけの気力で黒神めだかに愛を授け逝ったのか。
理解はしていても感じることはできないのだ。
ついでに言うならそれを正す者は既にいない。
人吉善吉は―――既に死んだ。
故に彼女に―――――――救いはない。
最後の別れは、余りにも、あんまりだった。
静かに二人の出会いと別れは幕を閉じる。
彼女たちの十三年間は、今ここに休載とする。
続きがあるかは、運命次第。
仲間という名の枷を解き放った彼女はどのように動くのか。
幼馴染という名の敵を喪失した彼女がどのように働くのか。
人の心を理解できるようになるのか。
はたは直ぐ様消し去られてしまうのか。
それはまだ、分からない。
「それでは、この場に置いて」
だから彼女は歩くのだ。
自らハッピーエンドを掴みとるために。
「生徒会を執行するっ!!」
【1日目/朝/C-3】
【黒神めだか@めだかボックス】
[状態]『不死身性(弱体化)』
[装備]「庶務」の腕章@めだかボックス
[道具]支給品一式×3、ランダム支給品(2~8)、心渡@物語シリーズ、絶刀『鉋』@刀語、シャベル@現実、アンモニア一瓶@現実
[思考]
基本:もう、狂わない
1:戦場ヶ原ひたぎ上級生と再会し、更生させる
[備考]
※参戦時期は、少なくとも善吉が『敵』である間からです。
※『完成』については制限がついています。程度については後続の書き手様にお任せします。
※『不死身性』は結構弱体化しました。(少なくとも、左右田右衛門左衛門から受けた攻撃には耐えられない程度には)
ただあくまで不死身性での回復であり、素で骨折が九十秒前後で回復することはありません、少し強い一般人レベルです。
※都城王土の『人心支配』は使えるようです。
※
宗像形の暗器は不明です。
※黒神くじらの『凍る火柱』は「炎や氷」が具現化しない程度には使えるようです。
※めだかちゃん(改)は解けました、それに伴いめだかちゃん(改)の思考が消えています(次回SS以降消してもらって構いません)。
※戦場ヶ原ひたぎの名前、容姿、声などほとんど記憶しています
最終更新:2013年01月21日 13:18