崩壊を受け追う(抱懐を請け負う) ◆0UUfE9LPAQ
午前6時――放送直後のことである、見渡す限り一面の砂の世界の中で
哀川潤はどこへともなく呟いた。
「あっれー?曲識って私の目の前で死んだよな。出夢君も然りだったはずよなー」
その言葉を聞いても答える者はいない。
いるとするならば――彼女が肩に担いでいる手負いの剣士、宇練銀閣。
しかし、目下気絶中である(さらに肋骨も骨折している)。
もちろん彼女も返事など期待しているはずもなく、独り言を続ける。
「呼ばれた知り合いが二人とも死人ってのはできすぎだよな…でもまだ名簿に死人はいるし」
放送で呼ばれた十人のうち、彼女が直接知っている人は二人――
匂宮出夢
零崎曲識
いずれも既にこの世の住人ではなく(出夢のときは直接視認してこそいないが)、彼女と同じ空間で落命した人間。
「あのじーさんどもが本気なら死人をわざと呼んで数水増ししたと考えるよりも生き返らせたけどまた死んだって考える方が自然だよな」
名簿や放送に疑念を持った参加者は何人かいたが、彼女はあっさりと肯定しその先へ考察を進める。
「あたしが知ってんのは二人だけってとこか。いや、阿久根ってのがいたな」
直接知っている人間ではないが――阿久根高貴
この会場で最初に出会った日之影空洞から「いてもおかしくは無い」と言われた人間。
「後日之影クンが教えてくれたのは人吉に喜界島だったか?結局喜界島ってやつはいなかったけど」
ちなみに名簿はもうしまっている。
解禁直後に一瞥し「覚えた」とのこと。
「つーかなんであのクソ親父が参加者なんだよ。あいつなら絶対主催者側だろ」
奇しくもこの数時間後に
戯言遣いが考えたことと全く同じことを考えながら――
「やっぱりいーたんも玖渚ちんも真心ちゃんもいたしそいつら探すの優先ってとこかな、とりあえずは骨董アパート向かってみるか」
そして5分も経たずに止めていた足を再び進め始めたのだった。
◆
程なくして二人は地図では骨董アパートと表示されている座標に到着した、が――
戯言遣い、浅野みいこ、闇口崩子、隼荒唐丸、七々見奈波、そして今は亡き石凪萌太と紫木一姫が暮らしていた三階建てのアパートはただただ崩壊していた。
「…………えぇーなにこれ」
さすがの人類最強も予想しえなかった光景に脱力し肩からデイパックと一緒に銀閣が滑り落ちる。
「――――ぐっ、ごほっごほっ」
1m以上の高さからアスファルトに落とされた衝撃で目覚めるも先の戦い(というよりも心臓マッサージ)のダメージで思わず咳き込む銀閣。
それに気付いた彼女は目をやると――
「ん、目覚めたのか。ちょっとそこで待ってろ」
「一体何を…?」
ぶっきらぼうに声をかけ、瓦礫の山にずんずんと向かっていく。
訝しむ銀閣をよそに、木材を、掘り起こすようにする。
窓ガラスの破片が、手に刺さった。
気にしない。
木材のささくれも、皮膚を刺す。
気にしない。
――どうやら下敷きになった人間はいないことを確認し銀閣の元へ戻る。
しかし用があったのは銀閣ではなく横のデイパックの方だったようで中からペットボトルを一本取り出した。
瓦礫を掘り起こそうとしたときに血まみれになった両手を洗うためだ。
血を洗った後は器具も使わず器用に刺さったガラスを抜いていく。
本来なら目に見えない細かい破片なども取り除いた上で消毒しなければならないが彼女はそんなことも気にしない。
そして、現状を把握できず未だ呆然としている銀閣を見下ろして言った。
「お前さ、こんなことをできる奴――名前だけでもいい、知っているか?」
「……何が言いたい、哀川潤」
「この瓦礫の中には、何一つ――原形をとどめているものがない。これがどういう意味かわかるか?」
「……どういう意味だ」
「こいつはただ単純な暴力による破壊じゃない、ただ単純な暴力による、徹底した破壊だ。こんな芸当できる奴――知らないか?」
彼女の言う通り、破壊現場には何一つ無事なものなど無い。
調度も。
本も。
音楽のCDも。
段ボール箱も。
ベッドも。
小瓶も。
印鑑も。
大きなものから小さなものまで――完膚なきまでに二つ以上のカタチに分解されている。
ねじれていたり、ゆがんでいたり。
とにかく――徹底している。
病的なまでに。
だからこそ、彼女は、これがただ単純な暴力による破壊なのではなく、ただ単純な暴力による、徹底した破壊だと判じた。
恐るべき――破壊衝動。
不均衡なほど偏執した、破壊衝動。
何もかもが――
リサイクル不可能な状態にあった。
それを聞いた上で銀閣は――
「やろうと思えばできないこともない」
「……へえ」
「ただし、俺はただ斬るだけだ」
「斬る、ねえ。じゃああんた侍のコスプレでもしてたのか?」
「こす…ぷれ?」
銀閣のいた時代にコスプレなどという大層な言葉は存在しない。
強いて近い言葉を挙げるなら仮装――か。
言葉の意味を聞いたところで時間の無駄になりそうだと判断し、聞き取れた単語から質問を推測して答える。
「俺は侍ではなく剣士だ。剣士が斬ることに何か問題があるか?」
「ないね。人間を斬っていなければの――話だけど」
「………………」
「さっきは聞きそびれたからな。何人斬ったんだ?」
「二人、だ」
「五分の一があんたの仕業か…名前は聞いているんだろ?」
「確か浮義待秋と阿久根高貴だったな」
「ん?阿久根って言ったか今?」
「それがどうした」
「ここで最初に会った日之影クンから聞いててな、となると……3人に加えて
黒神めだかと
人吉善吉も捜索対象に追加だな」
「めだかに善吉…」
「知ってんのか?」
「阿久根の遺言を伝える相手だ。お前が捜すというのならお前が伝えた方が早い」
「ああ、わかった。請け負うよ。ただし条件付きな」
「条件?」
「これから人殺しは無し、それだけ」
「それは――」
銀閣にとってその条件は重い。
別にどこかの殺人鬼の一賊や男子高校生のように殺人衝動を持っているわけではないので殺人を我慢すること自体は簡単だ。
しかしそれでは――斬刀を取り返せなくなるかもしれない。
あれは、そういうものだ。
それだけのことをする価値がある。
そもそもなんでたかが遺言を伝えてもらうだけでそんなことを強制されなければいけないのか。
答えに詰まっていると――
「何黙ってんだボケ」
頭をはたかれた。
「話逸れちまったじゃねーかよ、戻すぞ。お前はこんな芸当やろうと思えばできるんだな?」
「そもそも哀川、お前が逸らしたんじゃ…」
今度はグーで殴られた。
「私のことを名字で呼ぶのは敵だけだって言っただろーが。で、できるのか?できないのか?」
「……あくまでもやろうと思えば――な。実際やれるかは別だ」
「まあ、妥当なところだろうな。ところでさ、あんた何を取り返したいんだ?」
「………………」
これだけ時間が経てば自分が気絶している間に連れてこられたことぐらいは把握できる。
場所がどこだかはわからないが因幡砂漠でないということだけわかれば十分だ。
早く斬刀を探したい――だから当たり障りのない質問にはすらすら答えてきたがここに来て連続で核心を突かれた。
しかも、取り返したい、と具体的な動詞まで持ち出して。
「だから何回も黙るなっての。次は腹行くぞ」
見ると彼女は親指を内側に握りこんだ拳を作って構えていた。
ご丁寧に力がしっかり伝わるように腰の高さをまだ立ち上がっていない銀閣に合わせて。
まるでヤンキーがガンをつけるような体勢だった。
「……斬刀・鈍という刀だ。おそらく奇策士のとがめと言う女が持っているはずだ」
「そいつなら死んだよ、放送で名前を呼ばれてたからな」
「な――」
「一応聞くけど取り返したいってことは元はお前のもんだったってことだろ?さっきの条件を守るってんならそっちも請け負ってやるよ」
銀閣にとっては好都合ではある。
斬刀さえ手に入ればそれでいいのだから。
だが、自分より強い相手だからと言って、それが好意のような形だからと言って、甘えてもいいのだろうか。
剣士としての気位が――許すのだろうか。
覚悟を決め、口を開く。
「勝負に負けた以上条件は守ってやる。が、請け負うのは遺言の件だけでいい」
それを聞いた彼女はニヒルな笑みで――
「お、言うねえ」
と返したのだった。
「あれは俺のものだ。奪われたから俺が奪い返すまでだ」
「だからと言って殺すなよ?」
「守ってやると言っただろう」
「ならいいか。探してるのは斬刀っつったよな…じゃこの薄刀ってのは名前が似てるだけかね」
そう言って彼女が立ち上がる。
おもむろに取り出したのは一本の日本刀。
もちろん、銀閣が持っていたものとは違うものだ。
向こう側が透けて見え、刀身自体も目をこらさないと見えないほどに薄く、それ故に美しい刀。
完成形変体刀十二本が一つ――薄刀・針
銀閣も名前ぐらいは聞いたことがあったが実際目にするのは初めてだ。
「剣筋をずらさずに完全な軌跡を描いて斬りつけなければ攻撃すら出来ない、脆弱な刀って説明書にはあったけどあんたが探してる斬刀ってのはまた違うんだろ?」
「斬刀は何でも斬れる一刀両断専用の刀というだけだ。他は普通の刀と変わりない」
「何でも斬れる、ねえ。こいつも確かに脆そうだけどその分軽くて扱いやすいじゃねーか」
そう言いながら片手でぶんぶんと振り回していた。
しかも完成形変体刀の中でも最も扱いにくく、壊れやすいとされている刀を「扱いやすい」と言い切って。
「ま、完全な軌跡を描いて斬りつけないといけないってことは相手に身体の筋ずらされてもアウトってことだろーからな。一定レベル以上の実力の奴には通用しないだろ」
私には徒手空拳が一番だわ――そう言って薄刀をデイパックにしまう。
「で、これからどうするんだ?もう殺さないって言ってる以上私はあんたをもうぼこらなくてもいいし。それに探すと言ってもどこ向かうかってのもあるだろ」
「因幡砂漠のどこかに下酷城があるはずだからな、そこに行く」
「ここまで来る途中には城は見当たらなかったよ。でも、いいのか?」
「何をだ」
「あんたはその斬刀を持ってる奴に心当たりあるみたいだけどそいつがそんな砂漠のど真ん中にいるとは思えないぜ」
「――――っ!」
言われるまで気付かなかったがその通りだ。
斬刀を探すことと下酷城を探すことは斬刀が下酷城に無い限り矛盾している。
「ま、それもお前の好きにすればいいさ。私はもう行くからな……って肝心の遺言聞いてなかった」
「内容は――」
阿久根の遺言を銀閣から又聞きし、今度こそ用は済んだとばかりに荷物を二つに分け始めた。
三つあったデイパックのうちの一つを銀閣に投げてよこすと、
「刀はそろそろ洗っておかないと使えなくなると思うぜ?それと禁止エリアとか呼ばれた奴とかはメモっといたからさ。何かあったらトランシーバー使って呼んでくれよ」
銀閣の反応をよそに言いたいだけ言って哀川潤は去っていった。
ちゃっかり一人分のデイパックの中身をいただいた上で。
◆
哀川潤は一人歩く。
「さてと、誰があれをやってのけたのかねえ。出夢君か真心ちゃんか…」
銀閣は目覚めたがもう真剣勝負をできる相手ではない。
だから最低限の後始末だけして骨董アパートを発った。
人を殺すためではなく『骨董アパート』という座標を完膚無きまでに壊した人間が破壊する目標を人間にシフトしたらどうなるか――想像に余りある。
それだけの暴力を持ち合わせた人間を止められる実力を持つものは自分を含めても極少数しかいないだろう。
「こりゃ最悪の可能性も考えといた方がいいかもしれねえな。死者の蘇生だけでなく時系列の違いもやってのけるかもしれねえし」
例えば、
想影真心がまだ時宮の繰想術にかけられていたなら。
例えば、哀川潤以上の実力を持つものがいたなら。
例えば、例えば――
「そういや荷物適当に分けちゃったけどこれって首輪…だよな」
そんな折に見つけたのが浮義待秋の首輪である。
血で汚れてはいるがそれ以外は自身についてるものと大きさぐらいしか違いはない。
「なら玖渚ちんとこ持ってくのが一番だな。研究施設が山ん中あること考えるとネットカフェが妥当ってとこだろ」
そうして行き先を北西に設定した。
もちろん、殺し合いに乗った人間に対し、容赦するつもりは、ない。
【1日目/午前/H‐6】
【哀川潤@戯言シリーズ】
[状態]健康、腕に傷(もう塞がった)
[装備]
[道具]支給品一式×2(水一本消費)、ランダム支給品(0~4)、首輪、薄刀・針@刀語、トランシーバー@現実
[思考]
基本:バトルロワイアルを潰す
1:とりあえずバトルロワイヤルをぶち壊す
2:いーたん、
玖渚友、想影真心らを探す(今は玖渚を優先)
3:積極的な参加者は行動不能に、消極的な参加者は説得して仲間に
4:ネットカフェに向かう
5:阿久根の遺言を伝える
6:傷?んなもん知るか
[備考]
※基本3の積極的はマーダー、消極的は対主催みたいな感じです
※トランシーバーの相手は宇練銀閣です
※想影真心との戦闘後、しばらくしてからの参戦です
◆
「鑢、七花…」
銀閣が見つめる名簿の先にある名前は虚刀流七代目当主、鑢七花。
自分を殺し斬刀を奪っていった人間。
現時点でおそらく斬刀を持っている可能性が一番高い人間。
だが、もしもあの死んだらしい奇策士が斬刀を持っていたとしたら――
死体と共に放置されているならまだいい。
殺害者や通りかかった参加者に剥ぎ取られていたら、この会場にいる人間全てを疑わなければならない。
覚悟を決めた手前、人を殺すつもりはもう無いが傷つけてはいけないとは言われてない。
相手が抵抗するというのなら腕を切り落とせばいいだけの話だ。
ならば、これからどうする?
下酷城は近寄らなければ認識できない自然の要塞だ。
先程哀川潤は見当たらなかったと述べていたが、当然と言えば当然。
そして視線を地図に移す。
禁止エリアのF-1エリア――
大半が海だがわずかに砂漠も入っている。
もしもこの狭い部分に下酷城があったなら――
哀川潤はご丁寧に禁止される時間まで書いていった。
今から行けばまだ間に合うかもしれない。
選択肢は三つ――
一つは因幡砂漠に戻り下酷城を探す
一つは哀川潤を追いかける
一つはそのどちらでもなく斬刀を持っているかもしれない他の参加者を探しに北東へ向かう
今まではなるようになる、と特に深く考えずにここまで来た。
しかし、こればっかりは自身が選択しなければならない。
何もしなくても時間はただ過ぎていく。
これから俺はどうするべきだ?
【1日目/午前/H‐6 骨董アパート】
【宇練銀閣@刀語シリーズ】
[状態]肋骨数本骨折
[装備]血濡れの刀@不明
[道具]支給品一式、トランシーバー@現実
[思考]
基本:因幡砂漠を歩き、下酷城を探す 人を殺すつもりはない
1:流れに身を任せるつもりだったがこれからどう動く?
2:斬刀を探す
3:なんだか胸が痛むな…
4:この黒いものは何だ?
[備考]
※まだギリギリ刀は使える状態です(血を洗わなければそろそろ使えなくなります)
※トランシーバーの相手は哀川潤です、が使い方がわからない可能性があります
最終更新:2013年03月07日 17:26