トリガーハッピー・ブレードランナー ◆wUZst.K6uE




 「ふぁああ……」

 小さな建物の中、宇練銀閣はあくびをする。
 六畳ほどの、ほとんど何もないと言っていいような簡素な空間だった。下には畳が敷かれ、低めの天井には電灯すらついていない。
 扉はふたつあり、片方は出入り口、もう片方は壁一枚で区切られた小部屋に入るための扉で、何かが小さく書かれた札が貼られている。扉以外には窓がひとつあり、そこから差し込む光が唯一の照明だった。
 畳の上、あぐらをかいた状態で座っている宇練の顔は、寝ているのか起きているのかどうかも判然としない。ただ、時折ごそごそと姿勢を直したり眠そうにあくびをする様子を見る限り、どうやら起きてはいるようだった。
 傍らには、鞘に納まったままの日本刀が一振り、無造作に置かれている。
 寝ているときでも常に刀を身の傍に携えておくというのは彼が剣士であることを考えれば当然の所作と言えたが、その刀を見て、それが護身のために置かれている武器であると認識することは難しいかもしれない。
 なぜならその刀は、鞘に納められた状態でもわかるくらいに汚れており、長時間手入れをされていないことが容易にうかがえる状態だったからだ。
 個室の中、畳に座して刀を携えているというのは、宇練にとっては休眠の姿勢であると同時に臨戦態勢でもある。その状態からでも彼は、最高速度と謳われる必殺の居合い抜きを放つことができるのだから。
 しかし彼の傍に置かれているその刀は、とても居合い抜きの剣士が所有しているとは思えないくらい雑に、まるで不要物のように打ち捨てられている。
 おそらく今、何者かが武器を持って彼を急襲したとしても、刀に手を伸ばすどころか身じろぎひとつすることなく、そのまま討たれ死にしてしまうことだろう。
 いや、仮に素手で近づき、その手で首を締め上げたとしても、大人しく絞め殺されてしまうかもしれない。
 何の反応もせず。何の抵抗もせず。
 眠るようにして、死んでいってしまうかもしれない。
 そう思えてしまうほどに、今の宇練には覇気というものがなかった――より遠慮のない言い方をするなら、生気というものがなかった。
 生きようとする意志そのものが、一切感じられない。
 起きているかどうかわからないというより、生きているかどうかわからない。そんな様子だった。
 そもそも宇練にとっては、刀を腰に差したまま眠るというのが通常なのだ――その彼が今のように刀をその身から外し、畳の上に置いているというのが大いに不自然であると言えた。

 「……ふぁあ」

 宇練はまた、大きなあくびをする。
 普通ならば「やる気がない」と判じられてしまうようなそんな所作でさえ、今の彼にとっては、身体が呼吸することを諦めていない、つまりは生きている証拠として見えてしまうほどだった。
 哀川潤と別れたのち、宇練は結局因幡砂漠を目指すことにした。斬刀・鈍を探すという目的を別にしても、自分にとって関わりの深い場所である因幡砂漠に戻ることは無意味なことではないと、そう考えた末の結論だった。
 地図の示すとおりまっすぐ南へ向かって歩き、再び因幡砂漠に戻ってきた彼が最初に目にしたものは、一軒の箱のような形をした小屋だった(宇練の知らない言葉を用いるならそれは「プレハブ小屋」である)。
 砂漠とこちら側の境界線上に建っているようなその小屋の中に入り、その真ん中に腰掛けたとたん、宇練は急にすべてがどうでもよくなった。
 斬刀を取り戻すという目的も、因幡を元通りにするという悲願も、この戦いを生き残ろうという気概でさえも。
 すべてが霧散し、どこかへと消えた。
 きっかけはおそらく、哀川潤に敗北したことだろう――宇練はそう自己分析する。
 あの圧倒的な強さは、見るものによってはおそらく憧憬や尊敬の対象になり得るのだろう。理屈が通用しないとすら思わせるような、「強さ」を体現したようなあの存在は。
 しかし、宇練が哀川潤に打倒された結果として感じたものは「あそこまで強い存在がいるなら、自分ごときが何をやっても無駄だ」という、劣等感にも似た無力感だけだった。
 斬刀なしに二人の人間を真っ二つにしてみせた自分が、傷のひとつも負わせられなかったあの女。
 こちらは本気で殺しにかかったにも関わらず、結果として手心まで加えられてしまった。向こうがその気だったなら、自分はもう生きてはいなかっただろう。
 仮に自分が斬刀を手にしたとしても、あの女の足元にも及ぶまい。敵どころか、味方としても力不足だろう。あのあと仲間としてついていったとしても、足手まといの汚名は免れなかったはずだ――そう宇練は考える。
 その考えは、実際には自身に対する過小評価と言わざるを得ない――彼の実力を考えれば、哀川潤に負けた敗因は、彼が斬刀を持っていなかったからといっても過言ではないのだから。
 斬刀を装備し、最高速度の零閃を得た宇練銀閣ならば、大げさでなく哀川潤にすら引けを取らないに違いない。
 人殺しの能力という一点においてのみ、ではあるが。

 「……こんな様じゃあ、ご先祖様にも申し訳が立たねえなあ――――」

 彼を一本の刀と喩えるなら、哀川潤に敗れたことで、彼は折れてしまったのだろう。
 哀川潤の前にいたときにはかろうじて気丈に振舞ってはいたが、彼女と別れ、この小屋にたどり着いた瞬間、彼を支えていた何かがぷつりと切れた。
 己の強さを認めることができないくらいに、彼は弱くなってしまっている。

 「…………」

 いっそ自害してやろうかと、宇練は思う。
 もとより自分は、望んでこんな場所に来たわけではないのだ。虚刀流に敗れ、ぐっすり眠れると思っていたら、いつの間にかこんな所にいた。
 宇練からすれば、安眠を妨げられたのと同義である。
 斬刀もないままに、これ以上足掻いてどうなるというのか。自分など、死んでも生き残ってもどうせ誰かの手のひらの上で踊っているようなものだろう。
 踊らされたまま見ず知らずの誰かに殺されるくらいなら、潔く自らの手で舞台を降りてしまおうか。

 そうすれば今度こそ、ゆっくり眠れるだろう。
 誰にも妨げられぬ場所で、永遠に。

 「……そうと決まれば、善は急げだ」

 呟いて、刀と同じく無造作に置いてあったデイパックを手元に引き寄せる。
 刀のほうは、すでにこびりついた血が固まりきって鈍と化している(言うまでもなくこの場合は「切れ味の悪い刀」という意味での「鈍」である)。自害するには向かないだろう。

 ――刀が使い物にならなくなったってのに、何も感じないんだな、おれは。

 自分の腑抜け具合に苦笑しながら、荷物の中身をあらためる。すでに確認していたことではあったが、地図や食料品以外の持ち物は哀川潤の手に渡っている。自害するのに役立ちそうな道具はひとつも見当たらなかった。
 仕方なく、宇練は重い腰を上げて家捜しを始める。家捜しとはいっても、調度の類ひとつない畳ばかりの部屋だ。首をぐるりと回すだけで、何もないことは明白だった。

 「……とすると、あとはこの部屋か――」

 出入り口とは反対側の壁にある、もうひとつの扉の前に立つ。扉につけられた札には小さく「武器庫」と書かれていた。
 ここを調べて目ぼしいものが見つからなかったら、自害するのは諦めよう。またあてもなく適当に、砂漠の中を散歩でもしていよう――と、
 自分の生き死にに関する問題にもかかわらず、宇練はあくまで軽薄に構える。
 鍵はかかっていない。開けて中に入ると、金属と油がないまぜになったような異臭が鼻をついた。
 中はいかにも物置用の部屋といった感じの、人が住むには手狭すぎる空間だった。箱や筒、また宇練には見慣れない何かしらが雑然と積まれたり並べられたりしている。
 手狭という点では、自分が下酷城にいたときにいつも寝ていた部屋と変わりはないが。
 さすがにここは、自分でさえ寝るのには不自由するだろうな――と、至極どうでもいい感想を宇練は持った。

 「――お、あったあった」

 ほどなくしてひとつの刃物を見つけ、手に取る。宇練にとっては見慣れない、西洋風の造りをした短刀だった(これまた彼の知らない言葉で言うならそれは「サバイバルナイフ」である)。
 自分の手になじむ代物ではないが、自害するのに手になじむもなじまないもあるまい。これで十分と、宇練はその雑然とした空間から立ち去ろうとする。

 「…………ん?」

 そのとき、宇練は目の端にあるものを捉えた。
 部屋の隅に窮屈そうに立てかけてある「それ」に、宇練は近づいていく。

 「何だ、こりゃあ……?」

 宇練にとって「それ」は、いま手に持っている西洋の短刀と同じく目になじみのない、どころかどういう用途を持っているのかすらわからない物だった。
 だが宇練は、どういう理由でかその見慣れぬ物体に強く目を惹かれた。
 さながら、彼が始めて斬刀を目にしたときのように。
 言いようのない何かを、宇練はその物体から感じていた。

 「…………」

 宇練はそっと、持っていた短刀から手を離し。
 目の前のそれを、無言のままに手に取った。



  ◆   ◆   ◆



 『カレーが食べたいなあ』

 七実が目を覚ましてから数十分後、薬局付近から骨董アパートへと向かう道中。
 球磨川禊は誰にともなくといった調子で、唐突にそんなことを言う。

 「……鰈、ですか?」

 その後ろを歩いていた鑢七実が、その独り言のような言葉に反応して答える。
 七実にとっては無視してもよかったのだが、相手が球磨川である場合、無視するよりも適当に受け答えておいたほうが面倒な会話にならないということをすでに学んでいた。

 「鰈が食べたいのですか? 禊さん」
 『うん、カレー。七実ちゃんはカレーは好き?』
 「……まあ、嫌いではないですけど」
 『だよねえ』
 うんうんと、わが身を得たりという風にうなずく球磨川。
 『カレーが嫌いな人なんて、この世に存在するわけがないよねえ――僕なんて三食毎食、一年通してカレーが続いても平気なくらいだよ』

 嬉々として言う球磨川だったが、おそらく彼はカレーが二食続いた時点で文句を言う人間だろう。

 「それは……よほど好きなんですね」

 適当に答える七実だったが、内心では鰈が嫌いな人なんていくらでもいるだろうと思っていたし、鰈が毎食続いたら食の細い自分でなくとも飽きるだろうと思っていた。

 『七実ちゃんはどういうカレーが好き? 僕はスタンダードに、じっくり煮込んだカレーが好きなんだけど』
 「……まあ、煮て食べるのもいいですけど――悪くはないですけど、わたしはどちらかといえば焼いて食べるほうですかね」
 『焼きカレー?』
 七実としては当たり障りのない返答をしたつもりだったが、球磨川はやたらと意外そうな顔をする。
 『へー、七実ちゃんって古風そうに見えるけど、割と新しいもの好きなところもあるんだなあ……意外っていうか、なんかちょっと新鮮だよ』

 焼き鰈のどこがどう新しいのか全くわからなかったが、七実は「そうですか」と至極どうでもよさげに返す。
 実際、至極どうでもいいのだ。

 『あー、なんか本当にカレー食べたくなってきちゃったよ。こんなことなら、さっきスーパーマーケットに寄ったときに材料調達しておけばよかったなあ……レトルトでもいいんだけど、やっぱりカレーは手作りのほうがいいよね』
 「はあ……でも確かわたしたちが寄ったときには、魚介の類が置かれている場所はもう全滅していたんじゃなかったかしら」
 『え? シーフードカレーが食べたいの? あ、そっか、七実ちゃん肉は食べないんだっけ。でも僕としてはどっちかというと――』

 食い違った会話がさらに食い違おうとしていた、そのタイミングを見計らったかのように。
 一人の男が、球磨川と七実の前に姿を現した。

 「……………………」

 黒い着流しに、伸ばしっぱなしの黒髪。片手には球磨川たちと同じデイパックを提げている。
 どことなくうらぶれた様子のその男は、半眼でこちらをじっと見つめてくる。

 『…………えっと』
 探り合うような沈黙を切ったのは球磨川だった。
 『僕は球磨川禊、こっちは鑢七実ちゃんっていうんだけど、僕らに何か用?』

 明らかに偶然鉢合わせた相手に「何か用」もないだろうと思ったが、七実はとりあえず無言を貫く。
 相手の動作をひとつでも見逃さぬよう、その両目で相手を捉え、そして『視る』。

 「…………鑢?」
 男が声を発する。その視線は球磨川を通り越して、後ろの七実へと向けられていた。
 「おれは宇練銀閣という――後ろのあんた、虚刀流の身内か何かかい。鑢なんて姓、そうそうあるもんじゃねえしな」
 「……七花をご存知なのですか?」

 問いかけながら七実は、目の前の男の素性をおぼろげに察する。七花のことを知っていて、なおかつ「虚刀流」と呼称する人間はそう多くはない。

 「まあな――ちょっとばかし、刀を取り合って一戦交えた程度の仲だが」

 やはりと七実は思う。この男はおそらく、七花ととがめが蒐集しようとしていた変体刀の持ち主のうちのひとりだろう。
 どんな故あってこの場に連れて来られているのかはわからないが、自分も元は悪刀・鐚という変体刀を所有していた人間だ。共通項がある以上、この場にいることが不自然であるという道理はない。

 『七実ちゃん、この人と知り合いなの?』

 不思議そうに球磨川が訊く。まさか接点のある人間だとは思わなかったのだろう。

 「いえ、わたしは直接は知りませんが、おそらく弟の知り合いでしょうね。おおかた七花との戦いに敗れて、一度死んだところを生き返させられたのではないでしょうか」

 つまりは自分と同じに――だ。
 とがめに聞いていた十二本の変体刀のうちどの刀を所有していた剣士なのかは、目の前の本人に聞くしか知る術はないだろうが――それを知ることにたいした意味はないだろうと七実は思った。
 七花に敗れた相手、それだけわかれば相手の実力もある程度は知れる。
 そのうえ七実の『診る』限り、どうやら身体のどこかに怪我を負っているようだった。
 すでに他の誰かと対戦し、おそらくは敗北した後なのだろう。動きもどことなく緩慢で、こちらを警戒する様子すら見られない。
 余裕と見て取れないこともないだろうが、腑抜けているといったほうがしっくりくる。
 本当に変体刀の所有者だったのか疑いたくなるほどのうらぶれようだった。

 『ふぅん、七実ちゃんの弟さんに負けた人ってことは、あんまり強い人じゃないね』

 七実が言わずにおいたことをあけすけに、しかもかなり雑に言う球磨川。
 おそらくは「七実と比べてあまり強くない」という意味合いで言ったつもりなのだろうし、先刻出会った橙色の子供せいで比較対象がおかしくなっているのだろうが――それにしたって言いようはあるだろう。

 『えっと、宇練さんだっけ? 僕たち今、その七花って人と黒神めだかって女の子を探してる最中なんだけど、何か知らないかな? あ、黒神めだかってのは宇練さんみたいな長い黒髪で、たぶん黒っぽい服を着てる女の子ね。
 それと宇練さん今、骨董アパートがある方向から歩いてきたよね? 実は僕らも今からそこに向かおうとしていたところなんだけど、宇練さんはそこには寄ってきた? もしそうならどんな様子だったか教えてほしいんだけど』

 今度は立て続けに質問を投げかける。こちらが訊きたいことだけさっさと訊いてしまおうという腹積もりが透けて見えるようだった。
 人にものを尋ねる態度としては「かなり悪い」と言わざるを得ない。
 質問者が球磨川であるがゆえに、おおよそいつも通りとも言えたが。

 「……あいにくだが、探し人に関しては何も知らねえな。虚刀流にはまだ会っていないし、おれが会ったのは男二人と、哀川って言う髪も服も真っ赤な女だけだ」
 失礼な態度にも嫌な顔ひとつせず淡々と答える宇練。
 それは親切というよりも、やはり腑抜けた態度として映ってしまう。
 「――それと、『骨董あぱーと』だったか? その場所には確かに行ったが、ほとんど瓦礫しか残っちゃいなかったぜ。誰がやったのかは知らんが、おれが来る前にぶち壊されていたようだな」
 『……壊されてた?』
 「おれの見解ではないがね。少し前まで一緒にいた哀川って女が言うには、単純な暴力による徹底した破壊だって話だ。人間の所業とは考えにくい破壊模様だったが」
 『へえ……』

 球磨川が軽く七実を見やる。おそらく七実と同じく『単純な暴力による徹底的な破壊』という言葉から、あの橙色の子供を連想したのだろう。
 実際それは正解なのだが、それを確信するための術は今のところ二人にはなかった。

 「…………うん? 黒神……めだか?」

 宇練は急に黙り込むと、何かを思い出すように視線を宙に泳がせる。
 その様子を見ながら七実は、その哀川という女が宇練に手傷を負わせた相手なのではないだろうかと予想していた。
 根拠というには乏しいが、哀川の名を口にした瞬間、宇練の表情に畏怖のようなものがよぎったような気がしたのだ。

 橙色の次は、赤色の女か――。

 七実はなんとなく、その哀川という名を心に留めておくことにした。気にし過ぎかもしれないが(むしろそうであることを切に望むが)、その女は自分にとって危険な相手であるような、そんな直感が働いた。

 「……あんた、球磨川だっけか?」
 思考を終えたのか、視線をこちらに戻した宇練が今度は球磨川に向けて問う。
 「黒神めだかって女を探してるって言ってたが――善吉とか喜界島、とかいう名に聞き覚えはねえかな」
 『…………知ってるよ』
 その名前が出てくるのは予想外だったのか、球磨川は少しだけ驚愕を声ににじませる。
 『どっちも、僕の知り合いの名前だね。それがどうかした?』
 「あー、じゃああんたもあいつの知り合いなのか? 球磨川なんて名は、あいつは口にしちゃあいなかったが……まあ善吉ってやつはもう死んじまったみたいだし、一応あんたにも伝えておくか」

 そして宇練銀閣は口にする。
 己が殺した、ひとりの男の名を。

 「阿久根高貴ってやつの遺言だ――『僕はここまでだ。だけど今までの生活は楽しかった。生徒会の絆は終わらない。僕たちはいつまでも仲間だよ』――だとさ」



  ◆   ◆   ◆



 『……………………』

 宇練の伝えた言葉に、球磨川は何の反応も示さない。表情ひとつ変えず、聞いた言葉の意味を考えているかのように、ただじっと虚空を見つめている。

 「めだかか善吉か喜界島ってやつに伝えてほしいって言われてたんだが、どうにも見つからなくてな。あいつを知ってるやつに会ったのは、あんたで始めてだ」
 『…………高貴ちゃんは、あなたが殺したの? 宇練さん』

 そう問う声にも、動揺のようなものは混じっていない。明日の天気を尋ねるような、さほど興味のないことをわざわざ尋ねるような口調だった。

 「ああ、いきなり後ろから襲い掛かってきたもんだからな。その上すでに満身創痍って感じの有様だったから、一思いに叩き斬ってやった。知り合いだったなら悪かったな」
 『ふーん……』

 どうでもいいといった風に、間延びした声で答える球磨川。
 聞き流したと思われても仕方ないくらいの反応である。

 『――まあ、高貴ちゃんは確かに知り合いだったけど、別に気にしなくていいよ。知り合いってだけで、友達ってわけでもなかったし、今はどっちかというと敵同士って感じだったしね。
 先に襲い掛かったのが高貴ちゃんだったって言うなら正当防衛だろうし、どうせめだかちゃんのためとか言って、勝手に暴走した挙句勝手に死んだんでしょ。
 その遺言だって、明らかに僕に向けてのものじゃないし。わざわざ伝えてもらって申し訳ないけど、今すぐ忘れてもらっていいよ、そんな遺言』
 「そうかい、まあおれにも一応、殺した奴に対する礼儀みたいなもんがあるんでね。せっかくの遺言だし、その黒神ってやつに会ったら伝えておいてくれや」
 『わかった、そうするよ』

 言いながら球磨川は、おもむろに大螺子を取り出す。
 あまりにも自然に、まるでそうするのが当たり前といったような動作で取り出したため、すぐ後ろにいた七実でさえ、その行動に一瞬反応し損ねてしまった。
 あからさまに武器を手にする球磨川に対し、宇練はやはり身構えることもなく、ただその場にたたずんでいる。

 『ああ、勘違いしないでね。別に高貴ちゃんの敵をとってやろうとか、高貴ちゃんの遺志を受け継いで戦おうとか、そんなことを考えているわけじゃあないから』

 その言葉が七実に向けられたものなのか、宇練に向けられたものなのかはわからなかった。もしかすると独り言で、単に自分に言い聞かせているだけだったのかもしれない。

 『たださあ、正当防衛とはいえ高貴ちゃんを殺しちゃってるのは事実なわけだから、結局のところ宇練さんが人殺しであることには違いないよね。
 人殺しが目の前にいるってわかっちゃうと、僕としてはどうしても警戒せざるを得ないんだよね。マイナス十三組のリーダーとして、七実ちゃんも守らなきゃいけないわけだし?
 だからその結果、「勢いあまって」殺しちゃったとしても――』

 ゆっくりと、大螺子の切っ先が宇練へと向けられる。
 まるでそれが、宣戦布告であるかのように。

 『僕は悪くない――よね』

 「…………」

 七実は少し驚いていた。今まで七実が誰かを殺しかけるたびにそれを止めてきた球磨川が、こうも明確に他人へ殺意を向けるというのが意外に思えたからだ。
 適当そうに見えるこの男にも、適当ではいられない領域があるということだろうか。
 七実のその考え通り、阿久根高貴の死は球磨川にとって軽く流せる問題ではなかった。
 彼が『仲間思い』であるということは、これまでにも散々述べたとおりである。かろうじて抑えていたとはいえ、彼が放送で高貴の名前を聞いたときに見せた狼狽がそれを物語っている。
 かつて、自分の指揮する生徒会のメンバーだった阿久根高貴。その死はこれまでずっと意識の外に置こうと努めていながらも、心のどこかに引っかかっていた出来事。
 誰かに触れられれば、即座に弾けてしまうほどに。
 三度、宇練の知らない言葉を用いて喩えるとするなら、彼は地雷というものを踏んだのである。
 球磨川禊という、これ以上なく強力無比な、地雷を。

 「……なあ、あんたら、この世で最も強い武器って何だと思う?」

 突然、宇練は何の脈絡もない問いかけをする。
 武器が自分に向けられているというのに、それを無視するように。

 「おれはずっと、刀こそが最強の武器であると信じていたんだよな――正確には斬刀を手にしたときから、そう思っていたんだろうが。斬刀・鈍こそが最強の武器であると、このおれは心の底からずっとそう信じていた」

 七実たちの返答を待たず、独り言のように語る宇練。
 どうやらこの男は斬刀・鈍の所有者だったらしいことを、七実はその言葉から把握する。

 「おれのご先祖様は刀一本で一万人斬りなんていう離れ業を演じてみせたらしいが、実際に斬刀をこの手で振ってみて納得いったね。こりゃあ一万人だって優に斬り殺せる武器だってな。
 これこそが最強の兵器と呼ぶべきものだと、今までのおれなら信じて疑わなかったね――まあ自画自賛を承知で言うなら、零閃あっての最強だろうが」

 そこでふと、七実はあることに気付く。
 宇練は先ほど、阿久根という男を「叩き斬った」と言っていたが、今の彼を見る限り刀剣の類を帯びている様子はない。七実の観察眼をもってして、それは断言できる。
 哀川という女と対戦したときに破壊されたか、あるいは奪い取られたのだろうか?
 それならば、今の彼のうらぶれようも納得がいくというものだ。剣士から刀を奪うというのは、魂を抜くことと同義であるのだから。
 もちろんそれは、虚刀流を除いた剣士の話だが。

 「だけどよ――どうやらおれは、とんだ思い違いをしていたようだ」

 語り続ける宇練に対し、球磨川は相手の意図を計りかねているように、螺子を構えた状態のまま動かない。
 相手が隙だらけであることに、逆に警戒心を抱いているようだった。

 「斬刀は確かに、名刀を超えた完成形と言うにふさわしい刀だった。だが『兵器』というには少々おこがましかったな……ついさっきだが、おれはようやく理解したぜ。最強の武器ってのは――」

 ゆらりと、宇練の右手が動く。
 刀を持っていないことに気付いた時点で、少なくとも七実はそれに気付くべきだったのかもしれない。
 宇練の左手に提げられていたデイパックが、あたかも居合い斬りの剣士が持つ刀のように、いつでもその中身が取り出せるような配置についているということに――!


 「『兵器』ってのは、こういうもののことを言うんだってなぁ――――!!」


 一転、それまでの緩慢な動作からは想像もつかない、目にも止まらぬほどの速さで。
 宇練は左手のデイパックから、七実の身長ほどもある大きな物体を引き抜き、両手に構える。

 「…………!?」
 「…………!!」

 それを見て、七実と球磨川は同時に固まる。
 七実はそれが、今までに見たこともない、どころかどんな用途を持った物なのかすらわからなかったがゆえに。
 球磨川はそれが、どれほどの殺傷能力を持った『兵器』であるのかを、その見た目だけで理解できたがゆえに。

 硬直した二人に対し、宇練の左右の手からまっすぐに向けられている『それ』。
 それは本来、戦車や装甲車に搭載されているか、地面に据え置きの状態で使用されるのが通常であろうというような武器。
 少なくとも普通の人間が素手で、しかも単独で扱うことができるような武器ではあるまい――ましてや左右両手にひとつずつ、ふたつ同時に使用するなど論外であるというような、書いて字のごとくの重火器。


 50口径重機関銃――ブラウニングM2マシンガン×2!! 掟破りの二丁機関銃!!




 「ひゃっっっっっっっ――――――はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああ―――――――――――――――――――――――――――――――――――っっ!!!!」




 連射。
 乱射。
 斉射。
 宇練の雄叫びとともに、ふたつの銃口が同時に火を噴く。
 右が七実、左が球磨川などといった気の利いた狙い方ができるような火器ではない。
 縦横無尽に、自由自在に、四方八方に、ただ銃口の向くままに、無数の弾丸が辺り一面に、圧倒的なまでの無差別さを持って放射される。
 毎分500発以上を発射するという性能を持つその火器は、あっという間に周りの地面を抉り取る。舞い上がった砂や石の残骸が煙幕となって辺りを埋め尽くし、響き渡る轟音だけが、乱射が続いていることを知らせる。
 轟音が、白煙が、衝撃が、弾丸が。
 石が、岩が、草木が、地面が、空気が。
 そのすべてが飛び散り、跳ね上がり、荒れ狂い、砕け散り、巻き上がり、そして爆ぜる――!


 「はははははははははは!! あははははははははははははははははははははは!!」


 狂喜乱舞。
 それはまさに、そう呼ぶに相応しい光景だった。
 それ自身の反動で、暴れまわるように方向を変え続けるその銃身はまさに乱舞、それをまるで制御しようとしない宇練の浮かべる表情はまさに狂喜。
 宇練の高笑いが、銃の発する轟音と入り混じって辺りに木霊する。
 振り回すようにしてふたつの機関銃を扱う宇練のその姿は、まるで本当に舞を踊っているようにすら見えた。
 心底喜んでいるというように、芯から楽しんでいるというように。
 狂ったように笑い。
 狂ったように乱射する。
 狂い、喜び、乱れ舞い。
 すべてを破壊し、すべてを打ち抜く!
 宇練銀閣の二丁機関銃!


 ――――――――カチンッ!


 装填されていた銃弾を撃ち尽くすまで、時間にしてみればわずか十数秒。
 110発と110発、左右合わせて220発の弾丸を撃ち切り、ようやくその凶悪な重火器は唸り声を止める。
 宇練の周囲は、見事なまでに破壊の跡で埋め尽くされていた。木々も岩も地面も、銃弾の射程に入ったもののうち、無傷で済んだものはおそらくひとつもないと思えてしまうような光景。
 硝煙と巻き上げられた砂煙とで辺り一帯が濃霧に包まれたように煙り、一寸先すら満足に見ることができない状態だった。

 「ははははははははは! 素晴らしいじゃねえか、おい――」

 満足そうに笑い、宇練は熱のこもった銃身を高々と掲げてみせる。
 肋骨がへし折れた状態で機関銃を連射するという常識外の無茶をやらかしたにもかかわらず、その表情は無垢なる子供を思わせるほどに生き生きとしていた。
 先ほどまでのうらぶれた様子とは、まるで別人である。

 「こいつさえあれば、もう斬刀なんざ必要ねえ――あの哀川って女も、いや虚刀流でさえ! 誰が相手だろうが十把一絡げに、全員木っ端微塵に吹き飛ばしてやれるぜ!」

 彼が斬刀を守り続けていたのは、その「強さ」を失うことを恐れていたからである。
 彼が斬刀を追い求めていたのは、それが己にとって最強の武器であると信じていたからである。
 しかしその認識と目的は、彼の中では今や過去のものと成り果てていた。
 「最強」の定義を覆された今の宇練にとっては、剣士という肩書きでさえ、もはや執着するに値しないものへと成り下がっていた。

 「まだまだ撃ち足りねえが、本命の標的が現れるまではまあ我慢だ――弾も無限ってわけじゃねえし、使うべきときに備えてできるだけ節約しておかねえとな」

 そう言って宇練は、両手の機関銃を一瞬にしてデイパックに納める。
 それはまるで『暗器』を扱うがごとき極小の動作で、注意深く見ていなければおそらく消えたようにしか見えなかっただろう。
 そんなことをわざわざ言ったところで、彼にとっては褒め言葉にすらならないだろうが。
 光の速さすら超越すると謂われる究極の居合い抜き、零閃の使い手である宇練銀閣にとっては。

 「さあて、善は急げだ。虚刀流と哀川潤、それから適当な『的』を探しに行かねえとな」

 ああ、早く撃ちたいなあ――と。
 少し前の彼ならば、天地が逆さになっても口にしなかったであろう言葉を発しながら、砂塵に紛れるようにして足早にその場を後にする。
 視界が晴れる頃には、すでに宇練の姿はそこから消えていた。凶弾の嵐による、破壊の爪痕だけをその一帯に残して。


 かつて、剣士と名の付く者が持てば例外なくその心を狂わせると言われていた四季崎記紀の完成形変体刀、そのうち一振りを所有し続けていたにも関わらず、刀の毒による影響を受けなかった剣士、宇練銀閣。
 彼は今、刀の毒などよりよっぽど厄介なものに、その心身を余すところなく侵されていた。
 もし今の彼を、たとえば四季崎記紀あたりが目にしたとしたら、おそらくこう評するに違いない。

 生粋のトリガーハッピー、宇練銀閣。
 生まれる時代をある意味で間違え、ある意味で間違えなかった男。



【1日目/真昼/H‐6 】
【宇練銀閣@刀語シリーズ】
[状態]肋骨数本骨折
[装備]なし
[道具]支給品一式、トランシーバー@現実 、「ブラウニングM2マシンガン×2@めだかボックス、マシンガンの弾丸@めだかボックス、H-6のプレハブ小屋で調達した物」
[思考]
基本:出会った人間を手当たり次第撃ち殺す
 1:虚刀流と哀川潤を探し出して撃ち殺す
 2:斬刀? 下酷城? そんなもん知るかぁ!
 3:哀川潤との約束? そんなの関係ねぇ!
 4:骨折? 知ったこっちゃねえ!
[備考]
 ※刀はH-6のプレハブ小屋に置いてきました
 ※トランシーバーの相手は哀川潤ですが、使い方がわからない可能性があります
 ※道具のうち「」で区切られたものは現地調達品です。プレハブ小屋から他に何を持って行ったかは後の書き手様方にお任せします





  ◆   ◆   ◆



 『…………行ったみたいだね』

 宇練が去った後の、銃弾によりあちこちが無残に抉れて荒地のようになった地面。そこにひとつだけ、不自然にぽっかりと大きな穴が空いていた。
 そこからひょっこりと顔を出した球磨川禊は、辺りに誰もいないことを確かめたうえで穴から這い上がり、制服に付いた土を両手で払い落とす。

 『あーびっくりした。全然ぱっとしない雰囲気の人だったから完全に油断してたなあ……まさかいきなりあんな重火器にものを言わせてくるなんて思いもしなかったよ。反則でしょ、いくらなんでも』

 ぶつくさと呟きながら、自分が出てきた穴に手を差し伸べる。

 『大丈夫だった? 七実ちゃん』
 「ええ、おかげさまで」

 球磨川に引っ張り上げられる形で、その穴から這い出る七実。
 その着物は球磨川の制服と同じくあちこち土で汚れていたが、球磨川が手を離した次の瞬間には、まるでそれが『なかったこと』にされたかのように、汚れひとつない綺麗な着物に戻っていた。

 「恥ずかしながらわたしもちょっと戸惑ってしまっていたので……禊さんの機転のおかげで無事で済みました、ありがとうございます」
 『おいおい、水臭いなぁ七実ちゃん。僕は一応マイナス十三組のリーダーなんだから助けるのは当たり前じゃないか。いちいちお礼なんて、そんな他人行儀なことはやめてよね』

 取り澄ました表情で球磨川は言う。
 しかし実際、七実の言う「機転」がなければおそらく二人とも凶弾の餌食になっていたに違いない。
 球磨川からすれば、『大嘘憑き』によって自分たちの足元、その地面の一部を『なかったこと』にし、即席の塹壕を作り上げたというだけのことだったが、結果的に言えばこれ以上ないくらいの「機転」だっただろう。
 ありとあらゆるものが破壊の限りを尽くされたこの一帯において、地中に逃げるほど安全で確実な方法もなかっただろうから。

 『まったく、あんな危険な人がまだいたなんてねえ……あんな無茶苦茶な火器の使い方する人がいるってだけで十分驚きなのに――ねえ、あの人本当に七実ちゃんの弟さんの知り合いなの?』
 「いえ、正直わたしもあそこまでとは…………せいぜいが腕の立つ剣士、くらいだと思っていたのですけれど」
 『全然剣士じゃなかったじゃない……銃士っていうか、とんだターミネーターだよ。 ――しかし参ったなあ、あの人、僕たちが生きてるって知ったらまた狙ってくるだろうね。どうしようか』
 「次に会ったときは初見ではありませんし、不意打ちでなければ対処のしようはあるかと思いますが……しかしあそこまで砂煙を巻き上げられると、わたしとしては少々厄介ですね」

 辺り一面を埋め尽くすほどの砂煙。
 目を戦闘の要とする七実にとっては、弾幕と同じくらいに煙幕もまた厄介な要素として数えられるのだろう。宇練が弾丸を撃ち終えた後になっても穴に隠れ続けていた理由がそれだった。

 『……まあ、こっちから近づかなければいいだけの話だろうし、とりあえずあの人はスルーしておこうか。僕の『大嘘憑き』がいまいち使えない状態だから、めだかちゃんと対決するまではなるべく温存しておきたいんだよね』
 「あら、いいのですか放っておいて。禊さんのお仲間を殺した相手ではなかったのですか?」
 『…………』

 意地の悪い七実の問いに、少しだけ沈黙した様子の球磨川だったが――、

 『……いいよ、我慢する』

 意外にも素直に、暗に阿久根高貴が自分の仲間だと認めたうえで、そう答えた。

 『それも一緒に、めだかちゃんにぶつければいいだけの話だし。高貴ちゃんだって、どうせ僕に敵を討ってもらいたいなんて、これっぽっちも思っちゃいないだろうしさ』
 「…………そうですか」

 拗ねたような球磨川の態度を見ながら、七実はなぜ自分がこの男に惹かれているのか、ほんの少しだけわかったような気がした。
 才能だけを言うなら、七実は誰よりも強い。この世に存在するすべての「強さ」を呑み込む天才性こそが、七実の持つ強さなのだから。
 しかし同時に、七実は誰よりも弱い。彼女の身体を蝕む一億の病魔は、七実に戦うことは許しても、戦い続けることは許さない。
 勝つことはできても、勝ち続けることができない。それが鑢七実の弱さ。
 一方球磨川は、ある意味七実以上に弱い。彼の持つ過負荷(マイナス)『大嘘憑き』は、掛け値なしに厄介で強力なスキルと言える。すべてを『なかったこと』にする能力など、これを厄介と呼ばずして何を厄介と呼ぶのだろう。
 しかしそんなスキルを所有しておきながら、彼が勝負に勝つということはない。
 勝ちに価値を認めているにもかかわらず、まるで負けることを宿命付けられているかのように、球磨川は誰にも勝つことができない。
 失敗を前提にしてしか物事を考えられず。
 負けを前提にしてしか勝負事を考えられない。
 思考がマイナスの方向に振り切れているがゆえに、虚しい勝利すら手にすることができない。
 宇練銀閣との勝負にも、本当は勝ちたかったに違いない。自分の仲間を殺したとわかっている相手を何もできないまま見送ってしまったのだから、彼にしてみれば無念だろう。
 死ななかったというだけで、負けたも同然の結果である。
 ただし球磨川は、その負けから決して逃げない。どれだけ惨めに負けようが、どれだけ無様に失敗しようが、彼はへらへらと笑い、また次の勝負に挑む。
 また勝てなかったと嘯きながら。
 まだ見ぬ勝利を得るために、何度も何度も繰り返し負け続ける。
 一年通して負け続きでも飽きることなく、飽くなき挑戦を続ける。それこそが球磨川禊の強さ。
 勝つために勝ち続けることを放棄した七実にとって、勝つために負け続けることをよしとする球磨川の姿勢は、ある意味で未知のものだった。
 その未知ゆえに、自分はこの球磨川という男に惹かれたのではないか――なんとなくではあるが、七実はそんなことを考えた。

 『あー、そういえば骨董アパートはもう破壊されてるんだったっけ? 行ってみてもいいけど、なんか無駄足になりそうな気がするなあ……ていうか破壊したのってやっぱりあの橙ちゃんだったりする?
 さっきの人が言ってた哀川って人も、なんとなく普通の人じゃない予感がするし――あーあ』

 ひとりごちる球磨川を、七実はただ見つめる。彼がどんな表情をしているのか、後ろを歩く七実からでは窺い知ることはできない。
 それでも彼は、たぶんまたいつも通りに卑屈な笑みを浮かべているのだろうと、そう七実は思っていた。

 『本当どいつもこいつも、煮ても焼いても食えない人たちばっかりだなあ――鰈と違ってさ』




【1日目/真昼/H‐6 】
【鑢七実@刀語】
[状態]健康、身体的疲労(中)
[装備]無し
[道具]支給品一式×2、錠開け専門鉄具、ランダム支給品(2~6)
[思考]
基本:弟である鑢七花を探す。
 1:七花以外は、殺しておく。
 2:このまま骨董アパートに向かうかどうか、球磨川さんと相談しましょう。
 3:球磨川さんといるのも悪くないですね。
 4:宇練さんは、次に会った時にはそれなりの対処をしましょう。
[備考]
※支配の操想術、解放の操想術を不完全ですが見取りました。
※日之影空洞を覚えていられるか、次いで何時まで覚えていられるかは後続の書き手様方にお任せします。
※真心の使った《一喰い》を不完全ですが見取りました
※宇練の「暗器術的なもの」(素早く物を取り出す技術)を不完全ですが見取りました。


【球磨川禊@めだかボックス】
[状態]『健康だよ。お腹は満腹で、疲れは結構和らいだね』
[装備]『大螺子が2個あるね』
[道具]『支給品一式が2つ分とランダム支給品が3個あるよ。後は食料品がいっぱいと洗剤のボトルが何本か』
[思考]
『基本は疑似13組を作って理事長を抹殺しよう♪』
『1番はやっぱメンバー集めだよね』
『2番は七実ちゃんについていこう! 彼女は知らないことがいっぱいあるみたいだし僕がサポートしてあげないとね』
『3番は骨董アパートに向かおうかと思ってたけど――どうしようかな』
『4番は――――まぁ彼についてかな』
『5番は善吉ちゃんの無念をめだかちゃんにぶつけてあげよう』
『6番は宇練さんについてだけど、まあ保留かな』
[備考]
※『大嘘憑き』に規制があります。
存在、能力をなかった事には出来ない。
自分の生命にかかわる『大嘘憑き』:残り1回。
他人の生命にかかわる『大嘘憑き』:残り2回。
怪我を消す能力は再使用のために1時間のインターバルが必要。(現在使用可能)
物質全般を消すための『大嘘憑き』はこれ以降の書き手さんにお任せします。
※日之影空洞を覚えていられるか、次いで何時まで覚えていられるかは後続の書き手様方にお任せします。
戯言遣いとの会話の内容は後続の書き手様方にお任せします。



虚構推理 時系列順 神隠し(神欠し)
虚構推理 投下順 神隠し(神欠し)
崩壊を受け追う(抱懐を請け負う) 宇練銀閣 忍者装束と機関銃
哲学思考(欠落思想) 球磨川禊 鏡に問う
哲学思考(欠落思想) 鑢七実 鏡に問う

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最終更新:2013年05月07日 16:53